幕間
暗い部屋。
ごく一般的な、日本の住宅の一室。
部屋の持ち主でないベリアルは、同じく自らが持ち主でない椅子にゆったりと腰かけながら、考える。
自身の口の達者さは、能力の一端に過ぎない。ベリアルの持つ真の識能は、主人を高い役職へ仕立て上げること。
現在進行形で、契約を果たすまでの準備はしている。
だが《レメゲトン》が自分たちを追い詰めるのもまた、時間の問題である。
極東という欧州の魔術師にとって面倒な土地は、嗅ぎ付けられるまでの時間を稼ぎはしたものの、仕込みの遅延が相殺してしまった。
結果として、計画は日ごとに赤字を更新している。
「何か……手を打たなければな」
一転攻勢へ回る策。
契約者も上手くやってはいるが、やはり限界は近いだろう。
ふと、ハルファスとマルファスを見る。
二人は魔力消費を極力抑えた子どもの姿で、アロンガスをいじめている。
アロンガスは魔神使役のため、心身ともに使い潰して、用があるとき以外はぐったりと倒れ込み、死んでいるようなありさまだ。今もうつ伏せのまま、殺人現場みたいになっている。
そこを、ハルファスとマルファスはナイフでつついたり鎖で締め上げたり、スタンガンを当てたりして遊んでいる。たまにうめき声を出したり、反射で体が飛び跳ねているところを見ると、まだ一抹の元気さは残っているらしい。
その光景は無邪気な子どもが道端で捕まえたトンボだのカエルだのを、おもちゃにして弄ぶのに似ていた。
ただ、人間は存外丈夫である。内から腐らせる魔神の呪いなどでなく、単に物理的にいたぶるだけならなかなか死んだりはしない。
「だが……そうだな」
ボロボロになりながらも生きながらえるアロンガスを見て、ふと思いつく。
「どうせなら使い尽くしてやるのも良いな。ご主人様?」
のろまな亀をひっくり返すように、2体の子どもモドキの手でひっくり返されたアロンガスは、その眼の奥をベリアルに覗きこまれる。
「お前はどうなりたい? どうしたい?」
「はや、く……おわり、を……」
その言葉が聞きたかった、と。
ベリアルは芝居がかったしぐさでポンと膝を打って、立ち上がった。