二箱目 シラギマシロ
一週間と一日前。変わらない日常が変わろうとした日に、僕等は出会った。
綺麗な顔立ちだった。スタイルも気品も。そんな学年のアイドルの卵が隣の席に座って来たのだから、男としては勘違いせざるを得ない。はずだが、僕には興味が無かった。といっても断じて男色ではない。
「白城真白です」
「えっ…」
突然の自己紹介に驚いた。自己紹介と同時に突きつけられたのは一通の手紙。まさか。
「放課後待ってます…」
ありがとう。僕に春が来ました。それから放課後のことを考えると、僕は浮き足立っていて、入校式初日だというのに、人前でニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべていたのかもしれない。だが、その笑みが消えたのは、手紙を開いた時だった。
本日、あなたの寿命が尽きます。
ただの紙切れに一文、そうとだけ書かれていた。
「ええっ!?」
あまりにも唐突な内容に思わず声が漏れてしまう。
しかし、隣にいる白城は平然とした顔でいる。
「これは新しい脅迫文か?」
「いえ、忠告よ。一般人最後の日を楽しんでね」
「どういうことだ…?」
白城との会話を続けたいが、やはり美少女。周りの男子の視線がひどく熱い。
「放課後って…どこに?」
「決まっているわ。屋上よ」
「殺されるのか?」
「そうだとしても、犯人は私ではないわ」
「行かなかったら…」
「犯人が私になるわ」
わからない。意味がわからない。この女は何が言いたいんだ。
「お前…」
「ちょっと君。真白にベタつき過ぎなんだけど」
僕が真相を問う前に、横槍が入る。
「神奈、べつにいいの。彼は…」
「いいわけない。真白はすぐにそうやって誰でも話すから誤解されんの!」
大きな声だった。元々あった注目がさらに強まる。だが、彼女のもの凄い剣幕が、周囲の視線を逸らしていった。
「君…誰?」
突然現れた彼女へ僕は問う。
「はぁ?私は幕上神奈さん。いえ、様よ」
お嬢様、いえ、女王様かお前は。
「幕上さんには悪いけど、僕達大事な話してるんだ。邪魔しないで…」
「大事な?あぁ…」
女王様は僕の耳元で囁いた。
「君が死ぬ話か」
僕の表情を読み取ってだろうか、白城は幕上の肩を掴んで自分に引き寄せる。
「神奈、それ以上は…」
簡単に出てきてしまった「死」という言葉。彼女達はその意味を理解しているのだろうか。
「……」
彼女達は何かが違う。空気というか、存在というか、何かが違う。
「助けてくれないのか?」
こんな意味不明な状況を、僕は本気で受け止めていた。受け止めようと必死だった。
「やーっと理解したわけね。いいわ、君、見込みあるね」
そう言って幕上は僕の方を見てニヤリと笑みを浮かべた。
「ははっ…」
笑えない冗談だ。それでも、必死に笑ってみせる。
「御伽君、そう落胆しないで。私が助けてあげる」
「えっ…」
白城真白は僕を見た。平然としていたさっきとは違う、強い瞳で。
「真白は優しいね~。わたしはパース」
僕に微笑んでそう言った幕上神奈は、ひらひらと手を振り去って行った。