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天文の時間

矢吹 仁。

現在小学6年生。

中学受験の真っ只中。毎日勉強、勉強。でも嫌々やってるわけじゃない。両親はほどよく期待してくれてる。それが俺にとっちゃすごく救いだ。

同じ受験生を見てると時々嫌になる。親からの過度な期待で子どもが萎縮してるんだ。

そういうやつらは本当の目的を見失ってると思う。

受験は通過点なんだ。落ちたからって全てが終わるわけじゃない。

まぁ、学ぶことをやめなければ、の話だけど。

あ、そういや今日は先生が来る日だ!さっさと今日の分の勉強終わらせなきゃ。




ダダダダッ


「父ちゃん!天文台つれてって!!」

「こら仁、階段は静かにおりなさい」

「はいは〜い。父ちゃんは?」

「返事は一度、まったく。お父さんならそろそろコンビニから帰ってくると思うけど」


時計を見るともうそろそろ19時だ。早く出発しなければ観望会に遅れてしまう。


「ただいま〜」

「父ちゃん!」


玄関へと駆け出す仁。そこにはジャ○プを手にした父がいた。


「ジャ○プかよ!」


思わずツッコむ小学6年。なかなか心得がある。そして帰ってきていきなりツッコまれた父、なぜだか対抗心が沸いた。


「ダメかよ!?ジャ○プは永遠に男のロマンだ!!」

「そんなの知らないよ!っていうか天文台連れてってよ!!」


父、はたと腕時計に目をやる。もうそろそろで19時をまわる。


「なっ、おま、早く言えよ!」

「あなた、はい鍵」


いつでも気が利く母。車の鍵を父に渡す。


「お、さっすが母ちゃん、気が利くぅ〜」

「気が利くぅ〜」


父の言葉を真似る仁。母は、はいはいと軽く流して二人を外まで見送った。




「父ちゃん父ちゃん、今日は先生も来るんだ!」

「そうなのか?よかったなぁ。お前先生大好きだもんな!」


先生の話で盛り上がる親子。道が混んでいないので観望会の時間には間に合いそうだ。


「うん!俺も大きくなったら先生みたいになるんだ!」

「でも先生はたしか物理学が専門じゃなかったか?」

「そういう意味じゃなくて!俺も先生みたいに優しくて何でも知ってる大人になるの!」


一ヶ月ぶりに先生と会えるからか、興奮して声も大きくなる仁。そんな我が子を楽しそうに見やる父。

目的地に着くと、息子の仁だけが車から降りた。


「じゃ!1時間後に!」

「おぅ!父ちゃんサンキュー!」


タタタッ


仁はさっさと受付をすませて講義室へと向かった。

今日は天気もいいし土曜日ということで、いつもより人が来ていた。そしてキョロキョロと目的の人を探す。


「あ、仁君こんばんは。はいこれ、今日の資料ね」

「ありがとう南さん!先生来てる?」


ここではすっかり顔なじみの仁。院生の南さんに尋ねると、あっちにいるよ、と教えてくれた。再び駆け出す。


「先生!」

「わっ!?」


資料を見ていた先生。仁の突然の登場にびびったようだ。


「じ、仁君でしたか。はぁ、びっくりしました」

「あ、ごめんなさい!」


いえいえ、と先生は笑顔で仁に隣の席を勧めた。お礼を言って席に着く仁の顔はとても嬉しそうだ。

そして院生の人たちによる解説が始まる。15分ほどでそれは終わり、ようやく望遠鏡へと案内される。


「あ、今日は一段とはっきり見える!先生もみて見て!」


どれどれ、と望遠鏡を覗けば、普段目にすることが出来ない星の姿がそこにあった。


「わぁ、何度見てもすごいですね」


先生もいたく感動している。

仁と先生は一旦外にでて大きな星空を眺めることにした。


「綺麗ですねー」

「綺麗ですね」


何千何万という星達がキラキラと輝く夜空は仁を楽しませてくれる。


「俺もいつか宇宙に行ってみたいなぁ」

「じゃあ将来は宇宙飛行士ですね」

「ううん。宇宙は旅行で行くんです!」

「いいですね。私もぜひ宇宙旅行をしてみたいです」

「ホント!?じゃあ先生一緒に行こう!」

「のりました。是が非でも宇宙へ行きましょう」


仁と先生は楽しそうに笑いあった。


「あ、そうだ先生」

「はい?」


仁は躊躇いがちに、ずっと気になっていた事を質問した。


「その、多分あんまり簡単な質問かもしれなくて恥ずかしいんですけど、ブラックホールってどうやってわかるんですか?」


恥ずかしいというのは、当たり前の事を質問してしまっているかな、という思いからだった。しかしそんな仁の心配などよそに、先生はいつものように優しく、そして自分もその話を楽しんでいるように答えてくれた。


「X線でわかるんですよ。光さえ吸い込む強力な重力場ですから、私達が普段モノを認識するようにはわかりません。そこで、宇宙の激しい活動を表わすエネルギーの高い光、X線をキャッチする事でその存在を見つけるんです」


へぇ、と仁は目を輝かせた。今の彼には先生がヒーローのように見えているのだろう。そして仁の質問は続く。


「でもブラックホールって光も吸い込むんですよね?そしたらその『エネルギーの高い光』っていうX線は、ブラックホール自体から出てるものじゃないって事ですか?」


仁の質問に先生はひそかに感心した。


「その通りです。例えばはくちょう座では、超巨星から流れ出すガスがブラックホールに落下、つまり強い重力に引っ張られる時に加熱されて、X線を放射し、それがブラックホールの存在をあらわしています。ちなみに、ちりやガスを渦巻くように吸い込む落下時の様子は撮影されています」

「えぇっとつまり……その“場所”の“周りの様子”を観測する事が、ブラックホールを観測するっていうのと同じような事……なんですか?」


少し悩みながら、必死に仁は頭をフル回転させた。そしてそんな彼の頭を、先生は嬉しそうになでてあげた。


「そういう事です。素晴らしい理解力ですね、アインシュタインもビックリですよ!」


笑顔で褒めてくれる先生に、仁は嬉しさ半分、恥ずかしさ半分だった。






「先生、今日もありがとうございました!」


ブラックホールの話のあとも、宇宙のあれこれ一緒に語りあった仁と先生だが、楽しい時間は過ぎるのが早い。

迎えに来てくれた父の車の前で一礼する仁。父が、途中まで送っていきますよ、と申し出たが先生は、迎えが来るので、と答えた。


「またね、仁君」


笑顔で手を振り合い別れ、仁は早速今日知った事、先生と話した事を楽しそうに父に話し始めた。


「あとねあとね、実は俺達が見てる太陽って8分前の太陽なんだって!」

「え?!そうなのか??8分っていやぁ大きめカップヌードル二つ分だなぁ」

「そうそう!俺も同じ事言ったら、先生笑ってたよ!」


親子だなぁ、などと楽しく話している内に無事家に着く。家では母がお風呂の準備をして待っててくれていた。


「父ちゃん先入ってて!俺母ちゃんに色々教えてるから!」

「あらあら、仁先生の天文講座が始まったわ」


毎度のことだが、母は仁の話を真剣に聞いてあげている。それは父がお風呂からあがっても続いていたが、さっさとお風呂に入るよううながし、リビングで父と母、二人でゆっくりくつろいだ。


「仁ったらおおはしゃぎね」


父のお茶を用意しながら、そういう母も楽しそうだ。


「重力だX線だ、今日一日でどれだけ難しい言葉を覚えたんだろうなぁ。お、センキュー」


母の入れたお茶を美味しそうにすする。


「本当に。我が家自慢の天文学者ね」


フフッ、と母はまた楽しそうに笑った。


「あぁ、ありゃきっと将来ノーベル賞をとるな……なんてな!」


二人は楽しそうに息子の事を語り合った。

息子を誇りに思うと同時に、一つの事に熱中しているその姿がうれしかった。

別に本気で学者になってもらったり、ノーベル賞をもらったりする事を望んでいるわけではない。ただ、本当に夢中になれるものがあって、自分なりの目標をもって頑張っている、そんな息子が自慢でかわいいのだ。


タタタッ


茶の間に向かってくる足音を聞くと、仁がお風呂からあがったようだ。矢吹家の天文博士の話はまだ続きそうだ。





**************






「こら仁、中学生にもなってそんな好き嫌いしないの」

「だぁって俺ナスすっげー苦手だし!」

「父ちゃんも仁に一票〜」

「まぁ、お父さんまで」

「ねぇねぇそれよりさ、俺高校は○○○に行こうと思うんだ!」

「ぶっっ!!おまっ、それめちゃくちゃレベル高くなかったか??」

「大丈夫だって!中学だってこの通り、ちゃんと入れたんだし!」

「そうよね、仁ならやってくれそうだわ」

「でしょ?!そいで、俺オリンピックに出るんだ!!」

「「オリンピック?」」


「そ!国際科学オリンピックっての!」




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