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1000文字小説

かくれんぼ

作者: 池田瑛

「このランタナって、世界の侵略的外来種ワースト100に指定されている植物なのよ。おじいちゃん、なんだかんだ言ってまだ元気なのだから運動だと思って庭の雑草くらい抜いたら」と孫が庭の手入れをしながら声を上げた。

 曾孫2人は、家の中でかくれんぼをしているらしい。直ぐに見つかるだろうと思うのに、胡座を書いていた私と、両手で広げていた新聞の間に、割り込んできた。

「おや、ここに隠れるのかい?」

「たんめーもする?」と聞かれた。

「もうかくれんぼはこりごりだよ。ほれ、おとなしく隠れなさいな」と私は言った。



 深い闇の先に光芒が生まれるのをが見えた。

「あの光に刺されたら、次の瞬間、体に穴が空くよ」と節子は静かな声で云った。節子の体は、剣山のように尖った草むらの中に沈んでいく。僕も同じように体を沈めた。運が悪いことに、ランタナの茎が頬を擦ったようで、棘の痛みを感じた。


「よし、行ったよ」と節子はむくりと起き上がる。そして、金網を握りしめた。

「ここに抜け道がある。帰る時は元通りにして、見つからないようにするのを忘れちゃいけないよ」

 僕は黙って頷いた。


 節子は静かに金網を少しだけひっぱり、中に体をねじ込ませていった。そして商品が一杯に詰まった風呂敷も中に引っ張り込む。


「早く入りな。早く来ないとまた巡回が来るよ」と節子は言う。僕も体を起こし、隙間に体をねじ込ませる。

 節子は両手で風呂敷の結び目を抱えながら、宿舎に向かう。カーテンが開かれている窓が見えた。節子のお得意様がいるらしい。節子は遠巻きに部屋を眺め、そして近づき、ガラスを軽くノックする。

 節子は、泡盛が入っていると思われる壺を片手に、「つーだらー、つーだらー」と呪文のような言葉を発する。どうやら客は、野菜はいらないようだった。

 ちょっとしたやり取りの末、皺くちゃの紙と壺を交換した。


「今日はこれで退散するよ」と言って、金網の方へと節子は腰を曲げ、頭を低くしながらネズミのように走る。僕もそれを追いかける。


 金網の外に出たところで、節子は「こんな感じさ」と言って笑った。僕も緊張の中、口を震えさせながらはにかんで見せた。

 節子の笑顔を見たのはこの時が最後だった。



「みーつけた」という声がきこえた。見つけた曾孫も、見つかった曾孫も、笑顔だった。

「今度は私が隠れる」と言って、縁側を走っていく。

 空には白い絹のような飛行機雲が三筋見えた。


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