file7 初デートはアイドルと
なんとか間に合った。
それから日曜日まで、友達と一緒に特に何もない日々を過ごした。俺の会話力じゃ、異性はおろか男子とも絡みずらいので実際はほとんどぼっちではある。
唯一あったことを述べるなら、
「紅、愛川先輩のことなんだが……」
「おお、デートするのか!チキンのお前がやるなぁ!」
「声がでかいって!あとさりげなくディスんないでくれ…」
「よし、じゃあこの私が『愛川先輩のどこをリサーチすればいいか』教えてやろう!耳かっぽじって聞けよ!」
てな感じで講義を10分程されたくらいだ。
時と言うものはたってしまえば早いもので、現在は日曜のあさ9時。変な緊張から朝は弱いはずなのに7時に目が覚めてしまい、1時間前に全ての準備を済ませてしまった。
することが何もないことがこんなにも辛いことだったのかと痛感する。
すると、
「わぁ~この子可愛い~!絶対モテるよこんなのぉ!」
我が家の一人娘、俺の妹の衣音がリビングのソファーで何やら雑誌を見ながら足をパタパタさせていた。
「ころ、行儀悪いから足を止めなさい」
「はーい。ねぇお兄、この子スッゴク可愛くない!?」
衣音が雑誌のとある見開きを俺に向けて渡してきた。
その有名なファッション雑誌の見開きを華やかに飾っていたのは………
「あ、愛川先輩!?」
「え、お兄この人と知り合い?」
「同じ学校の先輩だが……」
そこには今流行りの春物の服に身を包んだ愛川先輩が載っていた。頭の上に小さな帽子がチョコンと乗っていてとてもかわいらしい。
まさかモデルをやっているとは思わなかった。
「ええいいな~!お兄、この人にサインもらって来てー?」
「もらえたらな。ふぅ………早めにでるかなぁ……」
「どこいくの?」
「デート」
「っ………!!!」
衣音がとんでもない顔をして固まった。
思わず床に先程の雑誌を落としてしまっている。
「デート?…あのチキンなお兄が…?」
「どいつもこいつもチキン言うな!もういいや行ってきます!」
カチンとした俺は急いで家を飛び出した。
△▼△▼△▼△
「早く来すぎたかな………」
手元の腕時計でもまだ9時半をまわったところだ。まだ待ち合わせには30分近くある。
しばらく何して時間潰そうかな……スタバ行こうかな……とか考えていると、
「あ、勇吏君!お待たせー!」
タイミングを見計らったように愛川先輩が向こうから走ってきた。
制服のときとはまた違った雰囲気で、さらに華やかになった印象を受けた。
淡い桃色のワンピースの上から白いベルトをしめることでスタイルを抜群に引き出していて、そのうえから薄めのカーディガンを羽織っている。靴はベージュのローブーツで落ち着いた雰囲気をかもし出していた。
さすがモデル、と言いたいぐらいに決まっている。周囲の目線も輝く彼女に注がれていた。
「えへへ、遅くなってごめんね?待ったぁ?」
本当はあと30分あるが、理屈っぽいことを言うと気まずい空気になるのは目に見えている。
「いや、ちょうど今来た所ですよ。今日はお願いします」
「かしこまらなくていいよぉ。行こ行こ!時間が無くなっちゃう!せっかくのデートだもん、思いっきり楽しもー!」
「えぇ、ちょっと、腕引っ張らないで下さいよー!」
こうして、俺と愛川先輩との1日デートは始まった。
△▼△▼△▼△
「思ったより電車の中、混んでますね」
「そうだねぇ……みんなお出掛け行くんだよ、きっと」
電車に揺られ、約5分。予想より電車内は混雑していて、先輩との距離が近い。女の子特有のいい匂いが鼻孔をくすぐり、妙にドキドキする。
「どうしたの勇吏君?……私臭う?」
「いや、むしろ……いい匂いですよ」
「えっ、いい匂いってそんなぁ………勇吏君はお世辞が上手いねぇ。そうやって女の子を口説いて来たんでしょう?」
つい調子に乗って変なことを言ってしまった。先輩の誤解を解かなくてはこの先色々と大変だろう。
「口説くどころか会話すらろくに出来ませんよ。ましてや女子なんてそんな……」
「そうかなぁ?勇吏君はかっこいいのに、もったいない」
「あ、うぅ、ありがとう、ございます?」
「だからなんで疑問系なのよぉ!」
そんなたわいのない話をしていると、『まもなく、◇◆、◇◆。お出口は左側です』と車内アナウンスが流れた。
「あ、もう着くみたいですよ。最初はどこに行きますか?」
「最初はショッピングモールに行きたいなぁ。春物の服と今年の夏用の服、チェックしたいから」
なるほどモデルさんだな、と心の中で笑う。
少しして電車は◇◆駅に到着。左のドアが開き、人がぞろぞろと出ていく。その中に俺たちも紛れ、一緒に外へと飛び出して行った。
「よーし、行ってみよーー!!」
次回から本格的なデート回です!
お楽しみに!
こんなもので皆さんが楽しめたのなら幸いです。