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彼女の瞳に映るのは  作者: 虹色
第七章 彼女の瞳に映るのは
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84  落ち着かない時間


修学旅行3日目も、朝からよく晴れていた。

朝食の席では、体験ツアーとバーべ―キューランチ、午後の自由時間のことなど、今日の予定の話題に花が咲いた。


葵は夏休みに見た黄色い花柄のブラウスに白いカーディガンを羽織り、茶色の短いキュロットとサンダルという組み合わせ。

グラスボートに行くバスに向かうときには、それに麦わら帽子をかぶって、ますます可愛らしかった。

笑顔で俺に手を振った葵に思わずだらしない笑顔になったところを木村に見られて、思いっきり頭をはたかれた。


午前中の海遊びは最高に面白かった!

初めはあんまりはしゃいだら恥ずかしいような気がしていたけど、バナナボートに乗りながら、気付いたら小学生なみに騒いでいた。


一つだけ失敗したのは、日焼け止めを塗らなかったこと。

必死で日焼け止めを塗っている女子を笑っていたら、いつのまにか首の後ろや肩が真っ赤になっていて痛い。

太陽を軽く見ちゃいけなかった。




(いよいよだ……。)


ホテルの庭でのバーベキューの昼食が終わり、いよいよ自由時間。

俺の……いや、俺だけじゃなく、ほかの男もきっと、緊張と期待が高まっているはずだ。

たとえ見た目は、大騒ぎで波に戯れているだけだとしても。


今、ホテル前のビーチには男しかいない。

何故なら、女子はみんな、準備のために部屋に戻ってしまったから。


そう。

“準備” のため。

つまり、着替えだ。


俺たち男はほぼ全員が、バーベキューのあとにそのまま遊ぶつもりだった。

だからみんな、海パンか、濡れてもいい服でバーベキューをしていた。


でも、女子の思惑は違っていたようだった。

バーベキューはあくまでも “食事” 。それなりのドレスコードが自分たちの中にあったらしい。

水着姿の女子は、一人もいなかった。

葵も、朝と同じ服装だった。


もちろん可愛かったけど、はっきり言うと、ちょっとがっかりした。

でも、俺よりももっと落胆した男が大勢いたのは間違いない。

強制的にグループごとでやるバーベキューと違い、自由時間には女子に近寄れない男も少なくないから。

みんな何でもないような顔をしてるけど、男は結構……純情な生きものなんだ。

俺だって。


…とまあ、そんな具合にじらされる結果となり、俺たちは遊びながら、女子の登場を待っている。

誰も口に出さないけど、誰かと目が合うたびに、「そろそろか?」と訊いてるか、訊かれてるか。


でも、俺はだんだん不安になってきた。


本心はもちろん、葵の水着姿を見たい。

だって、これからずっと俺の彼女だとしても、17歳の葵の水着姿 ―― いや、まだ16歳だ、16歳! ―― は今しかないわけだし。

それに、間違いなく可愛いに決まってる。

夏休みに聞いた情報からしても、可愛くないわけがない!


でも、ほかの男には見せたくない。

葵がじろじろ見られるのは嫌だ。

特にこの、男たちの期待に満ちた目を見ると余計に。

それに、あまりの可愛らしさに、変な気を起こすヤツだっているかも知れない。


しかも、葵の水着はひもで結ぶタイプだという情報だ。

何か不幸な偶然が起こらないとも限らない。偶然を装った事故とか。

そんなことになったら……!


だからと言って、ほかの誰からも見えない場所に連れて行くことなんてできない。

怪し過ぎる。


そんなことなら、いっそのこと着ないでいてくれたら、残念だけど、諦めがつくというものだ……けど……。

それじゃあ、一生、水着姿は見られないかも!


……という具合に、思考の迷宮に陥っている。




「あ、来たぜ。」


どこからか声がした。


波で遊んでいた俺たちも、座ってのんびりしていたヤツも、期待を込めてホテルの出入り口の方に目を向ける。

中には聞こえないふりをしているヤツもいるけど。

女子たちはまるで打ち合わせていたように、ぞろぞろとつながって出てきた。


(来たか……。)


はやる気持ちを抑えて、落ち着いたふりをして顔を上げる。

ドキドキし始めた胸の中で、何があっても驚いた顔をしないようにと言い聞かせながら。


(あれ?)


賑やかに歩いて来る女子たちは、色とりどりだった。

黄色、青、ピンク、白、ストライプ。

そして、予想していたよりも色の付いた部分が多い。


そこで初めて気付いた。

みんな、水着の上に何かを着ているらしい。



(そりゃそうか……。)


都合のいい誤解をしていた自分を笑ってしまった。

でも、 “水着を着る” と聞いたら……、そういう姿を思い浮かべるのは当然じゃないだろうか。

しかも、葵があんなに嫌がっていたんだし。


「お、葵だぜ♪」


隣にいた須田が、ニヤニヤしながら俺を小突いた。

それを余裕の表情を作って受け流し、真剣になっていることを悟られないように彼女を探す。

楽しげな笑い声を上げながら走って来る女子の集団の奥に、葵の姿がちらりと見えた。

白いTシャツを着ている。


(よかった……。)


思った以上にほっとした。

見るとか見られるとかいうことよりも、そんなことで悩まなくて済むことになったから。


先に走って来た集団は、右手の方に遊びたい相手を見付けて向きを変えた。

ほかの女子たちも、それぞれに誰かを見付けるか女子同士で散って行く。


一方、男たちは、俺たちのような “待っている相手がいる” グループと “来るなら来れば” 的なグループ、そして “俺たちには関係ないぜ” という3種類にだいたい分けられる。

リクライニングの椅子で本を読んだり昼寝モードのヤツもいるけど、だからと言って、彼らが何も期待していないとは限らない。


「行矢く〜ん!」


葵の少し前にいた季坂が元気に手を振った。

そのまま隣にいた地葉と一緒に走って来る。

俺たちは、藁谷と地葉の彼氏である田鍋を小突いたり冷やかしのまなざしを送ったりしながら、二人の反応を見守る。

彼女ができたばかりの俺としては、彼女持ちの先輩として二人がどんな態度をとるのか勉強させてもらう気持ちで注目。


「お待たせ〜♪」


いかにもビーチ仕様といった風情のサンダルを履いた季坂と地葉が到着。

藁谷は隣に立った季坂に、いつものとおり、落ち着いた笑顔でうなずいただけ。


(うーん、さすがだ。)


と感心したとき、俺のすぐ前にいた田鍋の腕に笑顔で飛びついてきた地葉が目に入った。

いや、正確には “地葉が” というよりも、 “地葉の胸元が” だ。


(おいおいおい! パーカーの前、開け過ぎだろ!)


地葉は生成り色のパーカーを着ている。

でも、前側のファスナーが閉めてあるのはほんの10センチちょっとだ。

そこからV字型に肩に向かって大きく開いた中は健康的と言うような肌の色。

そして、赤白ストライプの水着は、左右の布をつないでいる部分が今にも切れてしまうんじゃないかと思うほど。

パーカーを羽織っている意味は、いったい何なんだろう?


田鍋を確認すると、胸元に目を向けないように気を遣っているのが分かった。

っていうか、どこを見てるんだか分からない。

それを見ている俺は、羨ましいのかどうだか分からない。


(葵は?)


少しはにかみながら到着した葵は、ピンクの花でハート形の模様が描いてある白のTシャツを着ていた。

下には紺のショートパンツ。

その清潔感あふれる姿に心底ほっとする。


彼女は俺のところまでは来てくれず、ほかの女子たちと一緒に、男たちから一歩離れたところで立ち止まった。

そして俺と目が合うと、恥ずかしそうに微笑んだ。


(ん〜〜〜〜〜、やっぱり葵はこうでなくちゃ!)


この控え目な可愛らしさはどうだ!

俺にとっては自慢の彼女だ!


動き出した集団の中を葵のところまで移動。

話しかけながら、彼女の背後で何かが動いた気がして背中側を見ると……。


(これは!)


ポニーテールの首の後ろで結んである白いリボン。

蝶々結びになった幅3センチくらいの布が、背中の半分くらいまで下がってヒラヒラと揺れている。


(これが例の……。)


思わずゴクリとつばを飲み込んでしまった。

覚悟はしていたものの、これほど引っ張ってみたくなるものだとは思わなかった。


「あ、これ、変かな……?」


葵は不安そうな顔をして、片手で首の後ろのリボンを触った。

そして、長く下がっていたひもを持って、半分振り向きながら引っ張って ――― 。


(そこを引っ張ったら結び目が解けちゃうだろ!?)


「いや、大丈夫。変じゃないよ。全然。」


焦りながら、早く手を放すようにと祈る。

ついでに、下心に気付かれませんように、と。


そこで、今こそ言うべきことを思い付いた。


「葵。」


「ん?」


歩きながら彼女が顔を上げる。


「それ、か ――― 」

「キャーーーーーーーーー!」

「あははははは!」


(なんだよ!?)


前方で上がった楽しげな悲鳴と笑い声。


(せっかく「可愛い」って褒めようと思ったのに!)


腹が立つままにそっちを睨み付けると、木村がどこかから持って来たバケツで、女子めがけて海水をかけまくっている。

おかげでおおいに盛り上がり、女子が濡れたTシャツをガンガン脱いでいる。

それを見て葵が立ち止まった。


「どうしよう……? 濡れる前に脱いじゃった方がいいのかな……?」


(え!?)


隣で聞こえた言葉に焦る。


俺しかいなければ、当然、「脱いじゃえよ。」って言う。

でも、ここにはほかの男もいるし!

それに、蝶々結びだし!


(ダメダメダメ! 絶対だめ!)


「き…、着てた方がいいよ。」


「そう……?」


彼女が困ったような、何か言いたそうな顔で俺を見上げる。

ほかの女子に何か言われるかも知れないと、心配しているのかも知れない。


(俺だって見たいけど!)


あんなに大騒ぎで遊んでいたら、結び目が解けるとか、緩むとか、誰かの手が引っ掛かるとか……とにかく危険過ぎる。


「結構日差しが強いんだよ。俺、午前中だけでこんなに焼けたぜ。」


そう言ってヒリヒリする肩を見せると、葵は微笑んで「うん。」とうなずいた。

それを見ながら、やっぱり「脱いじゃえよ。」って言っちゃえばよかったかな…、と後悔もした。







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