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彼女の瞳に映るのは  作者: 虹色
第三章 三角形? 四角形?
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37  一等賞は?


「よし、次は俺だな。」


藁谷が袋からタオルに包まれた入れ物を取り出しながら言う。


「いやあ、晶紀の冷凍食品で、俺も出しやすくなって助かったよ。」


ニヤニヤしながらタオルを開くと、保冷剤が何個も出て来た。

そして、透き通ったパックの中身は、黄色や赤の色とりどりのもの。


「あ、フルーツだ。」


「当たり〜。缶詰あけて来たぜ〜♪」


(なるほど……。)


この手もあったかと感心した。


「デザートもあるんだねー。」


「ねー?」


ウキウキと喜ぶ季坂と葵を見たら、なんだか藁谷に負けた気がしてきた。

手間は俺の方がかかっていると思うのに。


「次は俺か……。」


真面目な顔に戻った宇喜多がチェック柄のパックのフタを開けると、中は赤っぽい色が……?


「ウインナー……?」


長方形のパック一面、ウインナーだった。

しかも形が……。


「タコ、と、カニ……? 魚もあるのか?」


「いやーん、可愛い!」


「これ、宇喜多さんが作ったの?」


目を丸くして尋ねた葵に、無愛想な顔で宇喜多が頷く。


「なんか…、夕飯のときにこの弁当の話をしたら、一番上の姉が “教えるから絶対にこれにしろ” って…。」


「へえ、すごい。こんなにたくさん細かい作業するなんて、朝から頑張ったねえ。」


確かに細かい作業に違いない。

タコには脚があるし、カニは縦半分に割って左右に脚とハサミの切り込みがある。

魚にはウロコ部分に格子状の模様が入っている。


「いや、まあ、それほどでも…ないけど。」


感心された宇喜多が少し照れくさそうな顔をした。

その顔を見たら、なんとなく “おお!” と思った。


(こういうところが女子にはウケるのか?)


普段は見せない表情がどうとかって、この前、季坂が言っていた。

それに、宇喜多とタコのウインナーという組み合わせの意外性。

葵もすごく嬉しそうにしているし。


(強敵だ……。)


本人がまったく分かっていなさそうなのが、余計に手強いところだ。


「水族館だし、ちょうどいいなあ。」


「さっきまで見てたものを食うみたいじゃないか?」


「あ、でも、ときどき日本料理のお店で、魚が泳いでる水槽とかあるじゃない? 」


話が弾むという点でも、手間がかかっているという点でも、今回は俺の負けだ。

まあ、ちゃんと手間をかけて来たんだから仕方ないな。


「あ!」


葵が急に大きな声を出した。


「ねえねえ、次で最後だよね?」


「そうだよ〜。俺で終わり〜。」


慌てている葵に、尾野がへらへらと返事をした。


「ねえ、何持って来たの!? もしかしたら主食がないかも!」


葵が尾野の腕に手をかけている。

腕…というか、袖だけど……嫉妬。


(でも、そうか。)


さっきからおかずとデザートだけだ。

尾野が持って来たものがそのどちらかだとしたら……。


「いや〜、俺ってすごいな〜。先見の明があるって、俺みたいな人間のことを言うんじゃないのかなあ?」


もったいぶってトートバッグを覗きながら、尾野がくすくす笑う。

それを見て、一同が少しほっとした。


「尾野くん、もしかしてお握りとか?」


季坂が期待している顔で尋ねる。


「残念、違うよ〜♪」


その返事に俺たちが首をひねっている前で、尾野が自慢げに取り出したのは……。


(パン……?)


スーパーやコンビニのパンコーナーで見かける袋入りのパンだった。

拳くらいの大きさのロールパンが5、6個ずつ入った袋が次々と。


「結構かさばるんだよねー、これ。」


どう見ても買ったままのパンの袋が5つ、尾野の前に並んだ。

それを全員がじっと見つめる。


「これ……、今朝買って来たのか……?」


俺の “チン!” よりも、藁谷の缶詰よりも、絶対に手がかかっていないと思う。


「あ、でも、本当にちょうどいいんじゃない? これで主食も揃ったことだし。ねえ?」


葵のフォローも取り繕うように聞こえる。


(勝ったんじゃないか、俺?)


勝利感がじわっと湧いてくる。

まあ、自慢できるほど圧倒的な勝利じゃないけど。


「ちょっと待て。」


「え?」


「お前たち、これ買ったままだと思ってるわけ? 俺がそんな残念なことするわけないじゃん?」


「え? 違うのか?」


「違うよー。 “先見の明” って言っただろ?」


尾野が一つの袋を手にとって、プラスチック製の留め具をはずすと、袋の口が開けてあったことが分かった。

そこからロールパンを一つ取り出して、上の部分をパカッと開いて見せる。


「「あ。」」


「切って来たの?」


「そう!」


驚く俺たちを前に、尾野が得意気に胸を張った。


「葵ちゃんのポテトサラダも、相河のフライも、宇喜多のウインナーも、好きなもの挟んで食べられるぜ〜!」


「おお……。」


「尾野くん、すごい〜。」


男3人は感心して言葉を失くし、葵は嬉しそうに拍手した。


(尾野にも負けた気がする〜!)


ものすごく残念だ。

残念だけど、今は……。


「腹減った! 食おう!」


「「おー!」」


「「「いただきまーす!」」」


勢いよくあいさつ。

けれど、いざ、というところでみんなの手が止まる。

声も。


(あ、そういえば。)


「俺、割り箸持ってきたけど……?」


弁当を詰めながら最後に思い付いて、戸棚から持って来たんだった。

おかずのことばっかり考えていて、すっかり忘れていた。


「えらいぞ、晶紀!」


「相河くん、気が利くねえ。」


「よく気が付いたな。」


「さすが副部長!」


みんなに褒められると、逆に申し訳ないような気になってしまう。

たまたま思い付いただけのことだし。


「ありがとう。」


葵は箸を受け取るときに、ちゃんと俺を見てお礼を言ってくれた。

ほかはみんな、食べ物を見る方に忙しかったのに。


コクンと頷き返し、笑顔で季坂と話し始めた彼女を見ながら幸せな気分になる。


(ちゃんと役に立てた……。)


ほんの少しのことなのに、こんなに嬉しい。

みんなが持ち寄ったものを笑顔で選ぶことも、とても楽しい。

葵だけじゃなく、この仲間と一緒にいられることが、とても幸せだ。


「晶紀、これ、味は?」


「あ、その端っこにソースの袋が入れてある。」


「相河くん、完璧〜!」


「ほんとだね。わたしなんか、しょっちゅう調味料を忘れてるのに。」


(また褒められてる〜!)


予想外のところで褒められた。

少しは俺の評価をUPできたかな?


(俺にも何か自分で気付かないいいところがあるのかも。)


ふとそんなことを思ったら、少しだけ自分に自信が持てる気がした。







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