悲劇で黒歴史
そんなこんなでゲーム開始から1時間半、飲み物の飲みすぎか、尿意が襲い掛かる。
「次は部長の番だよ。早く~。」
「旭、柿本の言うとおりだぞ。早く回さねーと、これいつ終わるかわかんねーよ。」
そんなことを言われてもトイレに行きたい欲の方が上だ。
「俺、トイレに行くから俺を飛ばしてやっててくれよ。」
「おいおい。それだと、お前が帰ってくる時にはビリになってんぞ。」
「構わんよ。というかこのゲームは下手に進む方が危険だ。」
「早く帰ってきてね~、部長。」
その声を後にして、俺は部室を出た。
この元文化系統部活棟にはトイレが併設されていない。それは元々から部活のために作られた建物だからか予算という大人の事情だからだろう。
最短なのは特別校舎の1階にある。そこまで耐えれれば俺の勝ち、耐えれないと・・・・・・社会的に死亡決定だ。
「なん・・・・・・だ・・・・・・と。」
一人なのに声を出してしまう。俺もかなり限界なのかもしれない。
トイレの前の表札に絶望してしまう。
“只今水道が故障していて水が止まっています”
落ち着け・・・・・・落ち着け・・・・・・そして考えろ。
本校舎は既に施錠されている。俺の授業でこの校舎は使わないし、唯一使うのはここだけだ。
当然上の階にもトイレはあるはずだ!
そう考え、俺は上の階に駆けあがった。
階段を駆け上がり、奥に表札が見える。
この勝負、俺の勝ちだ。
「ここで何をしているの、旭君。」
なんでこの女は俺の邪魔に関してはプロなんだ。
「・・・・・・高崎、今はお前と話している場合じゃないんだ。」
「なにその扱い。というかこの先には倉庫代わりの教室しかないわよ。」
「トイレがあるだろ!」
高崎が一層怪しいやつを見るような目をする。
「なんだよ。とりあえず、じゃあな。」
「そこ女子トイレのみよ。」
「・・・・・・へ?」
「ここは元女子高なのだから、こういう個所もあるのよ。」
俺の中で入るか探すかの葛藤が始まる。
「・・・・・・」
高崎の眉間が険しくなる。
「改めて聞くわ。ここに何の用事なの、旭君?」
「スマン高崎! 勘弁してくれ!」
「え? ちょっとあなたどこに入る気なの?」
俺はその声を無視して、ユートピアへ向かった。入らない場合のリスクの方が入るリスクよりも重い。これが俺の出した結論だった。
「・・・・・・」
トイレを済まして戻った俺の前には仁王・・・・・・もとい高崎美里が立っていた。
「・・・・・・」
威圧に押され、俺も何も言えない。
「・・・・・・」
空気が重い。このままだと兎のように死にかねない。
「やあ、高崎。俺のことを待っててくれたのかい。」
「そうよ。万が一他の女の子が入ってきたら困るのはあなたでしょ。」
「時間的に誰も来ないのじゃないかな?」
高崎が仁王立ちから普通の立ち方に戻し、腕を組む。
「万が一よ、万が一。ない可能性はないわよ。」
「もしかして、俺が来る前にここに・・・・・・ウッ。」
「デリカシーって言葉を体験させてほしいの、旭君?」
俺が言う前に高崎が正拳突きを食らわす。
「させてほしいの前にもう体験してるし。」
「これは前段階よ。」
夕方の窓の光だろうか、高崎の顔が赤に染まっている。
「悪かったよ。ありがとな、高崎。」
「それよりも今日は活動していなかったけど、どうしてここにいるの?」
「今日はちゃんとした部活動だよ。」
「つまりゲームしていたのですね。」
「まぁ、そんなとこだ。」
「これは諦めた、と捉えてもいいのでしょうか。」
「お前が厳しくしてなければよかっただけじゃね?」
「言っておくけど、これは私が執行しているだけで、私の発案じゃないわよ。」
「そうなのか。」
意外で、少し驚く。
「前の代から既に計画してあってそれを執行したのが私というだけ。」
「結局計画されてもお蔵入りだったのを引きずり出したのはお前じゃん。」
「まぁ、そうね。でも規則にもあるから私は悪くないはずよ。」
高崎が自分の腕時計を見る。
「旭君に時間を割きすぎたわ。それじゃあ頑張ってくださいね、期待だけはしていますから。」
そう言って高崎は階段の方へ歩き出す。
・・・・・・ん? トイレの件を黙ってくれるのか聞いてない!
「ちょっと待ったーー!」
俺は高崎のもとに駆けだす。
「何?」
高崎が振り返って1歩進む。
この1歩が余計だった。
俺の脚が着地する場所に先に高崎の足が入り込む。
何故そこで進むんだよ!
俺の体が止まれず、前のめりになる。
「え、なんで迫ってくるのよ!」
「お前が前にく・・・・・・」
言い終わる前に体当たりの準備ができてしまう。
体当たりを避けるべく、体を捻って避けようとした。
・・・・・・・・・フニ
ん? 今何かを触ったような。
そう考えている最中に俺の体が廊下の壁にぶつかった。
「イテテ・・・・・・。なんとかぶつからずに済んだか。」
立ち上がり、尻についた埃を払う。そして相手の方を見た。
「・・・・・・・・・・・・」
どうみてもトイレ前と同じ殺気が飛んでいた。おかしいだろ、避けたのに。
高崎はさっきまでの腕組みよりも高いところで腕を組んで、睨んでいる。
高崎の腕の位置、このオーラ、そして避けた時の何とも言えない感触。
そうか、そうだったのか。
状況がわかり、俺は両手を挙げた。
「抵抗しません。」
清々しいまでに言い訳をしないことを選んだ。
すると、高崎が笑みを零す。やってみるだけのことはあったようだ。
「わかってくれ__」
首が強制的に曲げられ、顔の片側が熱くなった。
視界がブラインド状態になる。
音は階段の方に行き、小さくなっていった。
平日は主に改稿、休日は新規を書いています。