ここにあり、ここにない世界
「・・・・・・大丈夫か?」
先に口を開いたのは相手だった。声は何かしらで変えているのか中性的な声であった。
「え・・・・・・あ、ありがとうございました。」
言葉が咄嗟に出ず、少しみっともない礼になってしまった。
「ところで、ここはどこなんですか?」
俺が最初に質問したかった一言。その人はそれを聞き、こう返した。
「ここに来るときにテロップを見なかったのか?」
「確かサーバー01とか書いてありましたけど・・・・・・」
「そう、それが答えだ。」
その人はそう言った。
「え?」
「まぁ、確かにそれだけだと分からないか。」
その人は一人で納得したようだ。
「ここはサーバー01空間。詳しく言えば、高位世界だ。」
・・・・・・詳しく何を言っているんだ、この人。
「あの・・・・・・よくわからないのですが。」
その人は少しの沈黙の後、話しだした。
「感覚的に話しても説明しにくいのだが話してみようか。君はどの色、いや波長まで、人が見れるかを知っているか?」
波長・・・・・・その中の可視光はえっと・・・・・・。
「赤から紫のことですよね?」
「ああ、正確には750THzから400THzのことを指す。」
だからなんだよ? と思う気持ちが顔に出たのか、その人は説明を再びし始める。
「ではその波長の外は何がある?」
「赤外線とか紫外線ですよね。」
「ああ、その通りだ。では、人類の持ちうる機械でも観測できないほどの波長があったらどうする?」
「それって波長が0より下みたいなものですよね。ありえないと思いますけど。」
「波長0の基準自体人が勝手に決めたことであるから、なんとでもなる。さて、話を戻そう。」
「つまり機械でも測れない・・・・・・未知の領域ってことを言いたいんですか?」
この時、隠れてた仮面から少し笑みが漏れた気がした。
「話が通じやすい人でこちらとしては助かる。」
なんとなくモヤモヤした感触で理解できるようなする。だが、この話は滅茶苦茶だ。
「でも、そんなの屁理屈じゃないかですか。」
その人は地に刺した刀を引き上げる。
「君はこの世界が5分前に作られたと言って信じるか?」
・・・・・・質問に答えてくれないのか。
「突然話を変えないでください。」
そして、その人は刀を仕舞い込むかのように虚空に刺した。
「いや、話の軸は変わっていない。それで、どう思う?」
信じられないことに、刀は虚空に吸いこまれる。
「信じていませんけど。」
「ならば、それをどう証明する。」
「そんなのできる訳がない! ・・・・・・あっ。」
俺は相手の真意を掴んだ。
「自分で気が付いたようだな。つまりそういうことだ。」
掴んだだけで、俺は納得をしていない。
「そんなの言葉遊びじゃないか!」
口調が荒くなるのを感じる。
「そうだ、言葉遊びだ! しかし、そうでなくてはここは説明できない。」
その人は言葉を繋いだ。
「高位世界といったのも自作の名称にすぎない。名称が確かなのはここがサーバー01と言われていること。現象として確かなのは、ここは現実世界とは違う現実世界であるということぐらいだ。」
「違う現実世界?」
訳がわからず反復してしまう。
「そう、現実では観測できない世界。本来具体性のあるものが抽象性に、本来抽象性のものが具体性を持つ世界だと考えれる。」
具体と抽象の逆転。全くもって不思議な話だ。
「しかしそれでは問題が発生する。それは、触れるかということだ!」
その人は枝を使って地面に図面を描いていく。まず、丸を2つ書く。
そして、丸の中に三角をそれぞれ描く。
「見えなくても物質として平行世界にあるのならば触ることができる。しかしそれを触れる人はいない。触れるのはこの世界に来てからのみ。」
三角同士を矢印で繋ぐ。
「それで・・・・・・」
「つまり、ここは一種の精神世界だと私は仮説を立てた。」
「・・・・・・・・・・・・」
思はず言葉が詰まる。だって信じられないだろ、精神世界とか。
「その仮説に従えば、話が通る。人が視覚的認識ができる物質はこちらでは触れず、人が認識できないもの、例えば精神や時と言ったもの、はこちらでは物体として存在できる。つまり今の我々は精神という存在で成り立っていることになる。」
「でも、このブランコは向こうではあるのに、ここにもありますよ。これはどう説明するのですか?」
「古来から日本には物にも霊が宿る伝承がある。九十九神とすればどうだ?」
「つまりこのブランコもここで形が成せるのは九十九神の精神があるからと?」
「私自身言ったことは仮説にすぎない。しかしそんな所だとは思っている。」
違う現実世界。一種の精神世界。今まで何かのコンテンツでしか触れられないような世界がここにはあった。