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第四章

 戦場邸には母屋に一つ、そして道場へ繋がる廊下の反対側に別宅があり、其処にトイレが設置されている。つまり、二カ所便器が設置されているのだ。

で、二階の部屋から飛び出した俺は後者、つまり別宅側のトイレで吐瀉物を吐き出した。喉なかが胃に溜まった酸でヒリヒリと灼く。そして、体は空虚感を占める。

母屋の一室には“アレの子”が居る。

 そんな存在の前で、自分の弱い部分を見せつけてしまうのは格好が悪いし、なにより弱者にんげん天敵きゅうけつきに弱みを見せるなんて死活問題だ。

吐瀉により濁った水は汚らしく思えたので流す。それと共に、心中のアノ赤い光景と、気持ちが悪い黒い感情も流れないものかと思った。


「くそ! アルトは―――――あの時の、吸血鬼じゃないし、なにより女の子だぞ」


そうだ二階で絶対に困惑していると思う綺麗なあの子は――――――毎夜みる悪夢に出現する吸血鬼達とは全くの別人だ。別格なんだぞ!

例えば、妻を他人に殺された夫はその妻殺しの犯人を怨むのは正当な理由だけど、其れで人間全体を怨むなんて被害者の被害妄想だ。今の俺は正にそれだ。女々しいにもほどがあるじゃないか!

しかも親父の口癖、女の子には優しくがあったじゃないか!

自分の女々しさに嫌悪した。これじゃあまだまだ親父は遥か高みの存在だ。段々親父が神様みたいに思えてきた。身体能力でもそうだけど、精神面でも遥か彼方かよ。

それに――――――今、アルトから目を背ければこれ先の未来一生吸血鬼から目を背けそうだ。

「なら、行動するべしだ。其れに吸血鬼でも怪我人だ」

戦場心は正義の味方を目指す男だ。そうだ、戦場心という装置ニンゲンは傷付いたモノを助けるんだ。それが使命であり、生きながらえた自分の生きる糧、みたいな物だ。なら、どんな怪我人でも看病してやるのが普通だろ。

―――――――そう例えどんなモノでもだ。







「あら、お帰りなさい。顔色が優れないけど、先ほどの行動と何か関係――――あるのよね?」

「う、か、関係ない」

入室早々さっそくさっきの態度を突かれた。入室前に前もって予測していたけど、やぱり訊かれるよな。それに、よく考えたら自己紹介の最中に部屋を飛び出すのは失礼すぎるな。こういうのを、自己中心的な行動って言うのだろう。

とどめに、健気にもさっきと同じ姿勢で待っていた女の子に対してコンナ態度だ。幾らアルトが吸血鬼だからって酷いよな。

「そうかしら。私が吸血鬼であることを話題に出すと直ぐに出て行ってしまったのだけど」

「う、うう」

「なにかしらの悩みが有るのなら、相談に乗りますわ。其れで先ほどの助けた件を無くそうなんて考えていませんから、どうぞ悩み事を言ってみては如何かしら?」

優しく包み込むような雰囲気を醸し出しながら、そっと右手を俺に差し出した。鮮麗な印象を強烈に脳へとたたき込まれる感覚。そして薄いお姫様みたいな唇を小さく曲げて。しかも日本人みたく流暢に日本語を使って、だ。でも、こんな事で弱音を吐くなんて男じゃないと思った。

だから――――「いや、いい」

と、言ったんだ。

不満そうにアルトは口を僅かに膨らましているが、俺が申し出を完全に断ったから、俺の感情を読みとったのだろう。しかし本当に夢でみた吸血鬼なんかとは全然違う奴だな。お姫様みたく感じれたさっきの申し出を断った時、怒って膨れるなんて。まるで本当の子供みたいじゃないか。いや、そもそも、アルトは子供だ。其れが当然の行動だし、偏見だよな。吸血鬼だって幼年期があるのだろう。

「アルトは優しいんだな―――――まぁ俺のことより、さっき聞きそびれたけど怪我の方は大丈夫なのか?」

雰囲気を変えるためにそう訊く。

 最もここからみた感じ、あまり致死に至るような擦り傷や、重度の打撲の類は無さそうで、心配はないだろうけど、一応訊いてみて損は無いだろう。

「そうね、危機的状況ではないけれど、少しだけつらい状態ね」

苦虫を噛んだような表情をする。危機的状況とは森の時みたく危ない状況の事だろう。で、つらい状態とは今の状態の事か。

そして、やっぱり人間と違うんだなと感じた。明らかに説明がおかし過ぎるからな。でも、平常心だ。二度目のビックリ行動は犯さないように渇を入れた。

「俺で治せる箇所は治すけど、具体的にドコなんだ?」

で、お節介にそう聞いた。

「ええ! うう〜ん、どう説明すればいいのかしら」

癖みたいなもので訊いてみたんだけど、アルトは女の子で俺は男だ。男の俺に女の子であるアルトが肌を見せれるわけがないよな。しかも見てくれは年端もいかない女の子。恥ずかしがるよな。くっそ、こういうのを鈍感っていうのだろう。

「い、いや! スマン。今のは別にやましい気持ちでいった訳じゃないんだ! ただ癖みたいな物なんだ! うん、気にするな」

慌ててさっきの発言に訂正を加えた。そんな困惑する俺の姿をアルトはクスクスと可愛らしく笑う。まるで先輩女性にからかわれている気分だ。「シン、大丈夫よ。傷口はすべて塞がってあるわ。ただ――――少し魔力が足りないだけなの」

「・・・・・・へぇー傷口が塞がっているのか」「? どうかしたの」

「いや、何でもない」

アルトどうやらかなり魔術に長けた吸血鬼らしい。

 吸血鬼はその牙で生き血を吸う能力が一般的だが、優れた吸血鬼は体内に魔力を持ち魔術師同様、またそれ以上に魔術行使が可能な生物だ。

また魔術師から吸血鬼になる者は大抵が、不老不死である吸血鬼に憧れて吸血鬼化し、己の魔術研究に打ち込む事が一般的セオリーだと親父から聞いたことがある。

「・・・・・・」

「? あら、どうしたの?」

「いや、なんでもないんだ。気にするな」

なら、この子――――アルトは何なのだろうか。

漫画や映画、そしてテレビ中で登場する、アノ鋭い犬歯を剥き出しにして人を恐怖させるのにピッタリな怖ろしく野蛮な顔つきじゃない。むしろ全くの正反対だ。

人に鮮烈的な印象を与えるお姫様みたいな美貌。墨で塗りつぶしたみたいな黒真珠の髪には、枝毛がなくて女は嫉妬で苦い、男は虜で狂いになる。一瞬で艶のある肌だと看過できるミルクみたいな肌。

そんな自称吸血鬼だと断言するアルトは果たして本当に吸血鬼なのか、と疑いたくなるが、自分を紹介する際、自分が吸血鬼だと話す人間は居ないし、なによりアノ森での出来事が決定的な証拠だろう。

しかし―――――




「シン、貴方知っていて? この国ではもう狼は生殖していないらしいのよ。私、もう一度この国に来日する日が有れば狼を見たいと思っていたのですけど、残念だわ」

「ああ、ニホンオオカミの事か?」「ええ。かの動物は北欧神話で神々の敵と記されているのだけど、私には素敵に感じるわ。孤高にいきる様が素敵だわ、シンは如何かしら?」

嗚呼、さっきまでのシリアス極まる雰囲気は全くの皆無。軽快な会話の途中、今は狼の話でかなり盛り上がっている。確か日本の文化を教えてほしいと訊かれたから、俺が狼と答えて今に至るんだよな。

因みにアルトが言っている狼はフェンリルとい人物だったと思う。

狼は人間の家畜達を食べるから一匹殺すごとに懸賞金を掛けた。銃器を持った人間は一般人から狩人に変身して、バタバタと狼を殺したんだよな。

でも幾らなんでも狼達が可哀想に思えるな。彼等だって生きるために家畜たちを食べるのであって、それは自明の理だ。

「って、いかんいかん」

「あら? どうしたのシン?」

「ああ、いや別に其れよりも―――――いや、これもいい。気にしないでくれ」

不思議そうに先ほど同様可愛らしく首を少し曲げた仕草をした。その仕草のお陰でどうにか切り替えができた。

 心してかかれ、俺。この一言で大分状況が急変するだろうからな。でも、訊かなくてはいけないぞ。

今の時刻はもう午前10時を回ったところ。今朝の走り込みから今に至るまで、緊張しまくりだったから、気がつかなかったけど、頭の中で食べ物の事を考えていたから腹が減ったんだ。三食食べるのが戦場家の家訓だから毎回逃したことがない。

だが、自分だけ飯を食べるのは其れこそ自己中な行動だから、アルトにも食事を勧めようと思ったのだけど、アルトの―――――吸血鬼の食事――――それはやっぱり■だよな。

そう思い至って言いよどむのは普通の思考だ。「・・・・・・」

「あら、どうしたの? 急に黙ってしまって。それに、何だか顔が恐いわ。私、なにか会話に不備があった?」

そう指摘されて自分が結構眉間にしわを寄せていることに気がついた。慌てた素振りを見せずに、どうにかその場を対処することに成功したが、どうしよう。

正直、吸血鬼は嫌いだ。

俺が目指す、志す正義の味方の対極とも断言できる存在。 あらゆる意味や角度から吟味し、観察しても人間の対極。

でも、それでも、だけど、この子は。アルトは、怪我人だ。

何度も何度も幾ばくも、自分に言い聞かせた。まるで、自分に呪詛みたく繰り返し繰り返し、言い聞かせるように。

さあ、言え戦場心オレ





「アルト、飯いるか?」




言ってしまった。でも、訊くしかないじゃないか。訊いてやるのが当然じゃないか。

傷付いた者、傷つけられた者。怪我をした者、怪我を加えられた者。そんな彼らに救いの手を差し伸べること、助けてやることは、普遍の原理じゃないか。常識じゃないか。

大体こんな女の子を幾ら人外だからって無碍にするなんて、偏見だ。 俺がそう考え込んでいると、アルトが声を掛けてきた。不可解そうな、まるで其れこそ人外の者に話しかけるようにユックリと話しかける。

「貴方、私の話聞いてた?」

先ほどの丁寧さを感じさせない非常に怖い口調だった。

ああ、聞いていたさ。目の前の女の子だと言っていたし、其れは絶対確実。事、吸血鬼の嗅ぎ分けに俺が狂うはずがない。間違えるはずがない。ただ、今回の場合、アルトが通常の吸血鬼とは何か違った異質とくべつを放っていたため、彼女に紹介されるまで、気がつかなかったんだ。

「ああ、でも、アルトは怪我人だ。

怪我をしている際は栄養のある物を食べるべきだ。モチロン、飯は血じゃないからな」

やや表現や語彙が足りない気がするけど、しかし仕方ないさ。なんせ吸血鬼と会話するなんて人生で初めての経験なんだから。結構、声の震えがない事に自分でも驚いている。

アルトは数秒瞳を爛々とさせてまた、おかしな人ね、と囁いた。それが妙にまた、年下をあやす大人のような感じがして、またまた声が上がる。「む、何が可笑しいんだ。怪我人がいるんなら、助けてやるのが普通だろう」

「いえ、ごめんなさい。そうよね、それがある意味当然よね。貴方の心は非常に綺麗で透き通っているのね。なんだか、少しだけ羨ましく―――」

――――素敵で私は好きよ、とまた囁いた。

純粋な感想。その、嬉しいんだが、なんだか妙に照れくさい。心を優しく愛撫された感覚だ。なので俺は赤面した。だって自分の心が綺麗だなんて人生で一度も褒められたらことなんかないからな、普通。

「う、で! なんかいるか? とは言ってもオニギリ位しか作れないけど」

と二重の意味で恥ずかしくなり赤面した。

その赤い顔を見られるのがまた、恥ずかしくなりアルトに背を向けた。 後方から漏れる笑み。そして、紡がれた言葉。



「ええ、ご好意ありがたく頂きますわ」




俺は後ろを振り返らずに部屋を出た。

足取りは早く、心も速く。軋む木板は速度に比例して大きく。しかし、足に何か黒岩をぶら下げているような感覚。心は素手で握られたように苦しい。そんな変テコな感覚の正体は何であるかを追求しないで、俺は居間へと向かったんだ。

正義の味方を目指す俺が選んださっきの選択。あれは絶対に、間違いじゃない。


長い間、待たせてしまって申し訳ありません。 今回は、携帯からの投稿ですから、文章にかなりの不安があります。誤字や明らかに変な箇所があれば、そこはご了承下さい。

次回も、お読みになられるのなら私としては嬉しいです。

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