第三章
アルトと出会った戦場心は自宅に彼女を運び、衝撃的な事実を知る。
アルトという、いかにも人形のような顔付きの女の子を自宅まで背中にショッテ歩いて十分程で到着した。
なんだか、可笑しな表現かもしれないけど、この子かなり軽い。俺は男で、筋肉質な体質だけど、この子の体重は本当に、言葉上通り紙みたいに軽かった。だから、おぶる際、持ち上げようと勢い余って転びそうになった。
「うん、どうしようか」
とりあえず自宅に到着した俺は、自分の部屋は、何だか世間的に悪いように感じたし、何より黒ドレスを着用しているこの子に畳部屋は美感を損ねるというものだ。だから、二階の洋風ベッドが置いてる部屋のベッドに寝かしている。
少し荒く呼吸をしているが、命に別状はないだろう。――――いや
「そんな訳ないだろう。あんなのに追われていたんだ。アレってどうみても魔術だよな」
――――――魔術
体内に流れる、また貯蓄した魔力と呼ばれる秘密の力を“魔術線”で練り上げて、無形であった魔力を有形物に形成したモノを総じてそう呼応している。また、それら秘術の学問的に体系したモノだ。
つまり、車に例えるなら魔力がガソリンで、魔術線がエンジンの役割を果たしていて、操縦者である魔術師により操作される。
俺も魔術の一つや二つを拾得してるけど、おやじ曰く正義の味方を目指す俺には不向きらしい。
―――――――「君の魔術では誰も救えないよ。君は医療系向きじゃないからね」
わかっているさ。
誰かの傷を癒やしてあげられない人間は正義の味方に成れない。しかも俺の頭は頭が悪いから一般的な医療技術の習得をできるはずもないからな。
俺の魔術は誰かを痛める魔術だし、親父が俺を気遣ってくれたのか、大抵の魔術は人を助けるなんて方向性はナイと優しく微笑んでくれた。その笑みがどうしようもなく子供頃からズルイとも思っていた。
正義の味方である親父に羨望していたんだ――――――――――
「ああ、もう! 無い物ねだりなんか格好が悪い。とにかく、傷薬あったよな、家に」
頭を三回くらい振って廊下に出た。
旅館みたいに大き俺の家は一部屋、一部屋ごとに鍵が設置されていて、元々一人旅の観光で訪れた観光客用に設計されたので、部屋は旅館みたいと言っているが存外に狭い。
テレビは各部屋設置されていなくて、部屋は必要最低限の物しかない。ベッドや簡単な木製テーブルと椅子。そして、収納ケースだ。
ちなみに、この部屋は二階の光景で、一階は純和風。 床は畳で敷き布団でコレだけだ。
「でも、俺はどうもアノ洋風な感じが駄目なんだよな」
食堂と当初の設計上なっていたけど食堂、というよりも床が畳でテーブルが二脚あるから居間みたいな所に、確か――――――――
「お、あった」
消毒薬と湿布一式入ってる箱を見つけて、居間を離れた。
居間から母家に繋がる廊下を歩いていたら不意に学校の事を思い出した。時間は八時十五分。全力で走れば、ギリギリ間に合う時間帯だけど、あの子の事が気になるから後で学校に休む旨を電話で話そう。幹也、怒るだろうけど仕方がないな。 木で作られた階段を周期的に軋ませて、ようやく二階に上がり、あの子が寝ている部屋の前まで到着した。
俺の家はそうそう誰も訪れない。来る人はいつも坂東姉弟だし、たまに坂東関係の人が補強の為に着てくれるだけだ。それに殆どが夕方時だ。平日の朝にこの戦場宅にいる人間は俺だけだ。
だから、妙に緊張する。自分の家なのに他人の家に感じてきた。
「なに考えてるんだ、アホ」
自分に叱り、部屋に入室した。
すると、さっきまでベッドて寝ていたあの子が起きあがっていていた。
入ってきた俺に一瞬怪訝そうな視線を送ったが、それは霧散してくれ、今は申し訳なさそうな視線を送っている。
「起きてたのか。怪我は大丈夫か?」
なるたけ平然として態度で訊いたけど、内心はかなり驚いている。
森での騒動のせいであまりシッカリと見ていなかったけど、いや、ちゃんと観てたけどこうやって落ち着いて観察すると、人並みはずれた美人だ。
子供に対して誉める言葉じゃないけど、あまりにも綺麗すぎる風貌に少し見蕩れそうになった。
「え、ええ、大丈夫よ。アナタ確か森で助けてくれた――――」
と言って言いよどむ。
「ああ、戦場心だ」
「ええ、知っているわ。ただ、失礼なのだけど貴方のファミリーネームが、言いにくかったの。気分を悪くしたのなら、謝るわ」
ぺこりと寝たきりな状態だけど、こんな子にやらせている自分が何だか罪の意識を抱いた。
其れくらい気品に満ち満ちたお辞儀だった。
「いや、いいぞ。呼びにくいなら名前でいいぞ」
「そう―――なら、シン。ありがとう。貴方がいなかったら確実に殺されていたわ」
―――――――――――――――殺す。
こんな女の子をアノ黒いマントは殺そうとしたんだ。やっぱりあの光景は殺人光景だったのか、改めて被害者であるこの子から聞くとぞっとする。しかもあのマント野郎、こんな子供を殺すことに何の罪悪感を抱かないのかよ。おかしいだろう。
―――――この子の腹から血が噴出して死ぬんだぞ。
「だから、御礼がしたいのだけど、シン。貴方、なにか望みはあるかしら?」
右手首に顎をのせて、お返しが出来る事を妖艶な笑みだけど、なんとなく嬉しそうだった。その笑みからは先ほどの事なんて瑣末な出来事だと考えているように感じられた。
「おい、えーと、君、なにそんなに達観しているんだ。君は命を狙われているんだぞ」
「あら、そうね」
素っ気なく、他人のことみたく、話す女の子に少し癇癪を起こしてしまった。自分の命の危険なんて頭に入れていないこの子に起こっても仕方がないだろう。
だから、少し声が荒くては端から見たら怒鳴っているようにしか見えない。
「そうねって、お前な、危ないじゃないか! 自分の命だろう! それに御礼なんて要らない。大体、なんで御礼なんか貰わないといないんだ。困っている人を見つけたら助けるのが常識だろう」
「・・・・・・」
「ああ、ゴメンな。ちょっと怒鳴りすぎたな。でも君だって悪いぞ」
姫を想わせていた赤い瞳がランランと大きく開いている。つまり驚いていた。当たり前だ、大の大人にこんな小さな女の子が怒鳴りつけられたんだ。しかも全くの初対面の場でだ。
眼前の女の子は数秒後そんな表情を見せた後、一変して俺の目をジッと睨むように観察し始めた。年の離れた女の子に睨まれた所為か、少し気分が悪くなった。
そして数秒後、
「―――貴方、かわった人ね」
と面白そうに笑った。確かに俺は周りから変わった奴だと言われているけど、俺なんかよりもよっぽどこの子の方が変わっているよな。人外じみた神話に記載されていそうな美しい風貌、血を連想させる赤い瞳、そして白墨色の肌を包む鴉色のドレス。どれも変わった人間だ。
「君みたいな女の子に、言われたくない」
嫌味ぽく言ってみた。
「その、君と言うの、できたら止めていただきたいわ。私の名前は―――言ったかしら?」
急な話の転換だな。それにさっきの皮肉は軽くあしらわれた。
「ああ、確か―――」
と森での記憶を思い返すが、この子の名前が思い出せない。何だか記憶に曇りかかった感じだ。どんな名前だったかを思い出して悩んでいる俺に女の子は
「あら、やっぱり」
と何を考えているか読み取れない難しい顔をしてそう言った。妙に楽しそうだったのは悩む姿が面白かったからだろう。
「悪い、もう一回名前を聞いてもいいかな?」
「ええ―――」
薄い透き通った赤い唇を僅かに嬉しそうに歪めて、
「私の名前は、アルトセレーナ・ヴァンパイアルベよ。長いから、貴方が叫んだアルトでいいわ」
とキレイに笑った。
アルト、か――――――そう言えばそう言ってたな俺。なんで忘れていたんだ。
そして、続けてアルトは非常に度肝抜かす奇妙な単語を含めた。
「簡略ですけど、漆黒と銀の称号を持つ吸血鬼よ。先の助け、感謝するわ」
「!」
目が焼けそうな感覚に苛まれた。ぐらりと何かが後頭部に打つかって視界がフヤケタ。口から雄叫びの塊がこみ上げだけど、必死に抑えて気分が悪い。瞳が灼熱の焔に燃やされた鈍痛。膝から下がスパリと切り下ろされて、倒れこみそうになった。そして、髪は逆立ちそう。
―――吸血鬼
その言葉が連想させるのは過去の残酷な光景。最近みたアノ天と地のコントラストの実話を基にした悪夢だ。あの光景の隅。毎回毎回涙がでそうで、吐きそうな光景がある。
隅にいつも見る鮮明な生き物。そいつは荒々しく犬歯を剥き出しにして何かを食べているんだ。嬉しそうに咀嚼して食べているんだ。
そう、生き物の正体は三文字の鬼。人の生き血を啜って生きる鬼は夢の中では肉にカブリつく悪魔だった。そして、食事対象はモチロン、人間。
込み上げてきた何かを吐き出す為に、俺は部屋を飛び出した。
いかがでしたか?
稚拙な文ですいません。感想板を書いて下さると嬉しい限りで御座います。
では、今回のお題は、吸血鬼でお願いします。