味方の灯
静かな夜。
中学生の灯は、ひとり部屋のカーテンを閉めて、イヤホンを耳に差し込んだ。
その日も学校で、小さな傷が胸の奥に残っていた。
笑われたわけじゃない。ただ、「自分だけ少しずれてる」と感じる、その感覚がずっと消えない。
スマホを開くと、いつものチャンネルに通知があった。
人気のある動画でもない。再生数もコメントも少ない。
けれど、灯は知っている。この動画が、今日を生き延びる力をくれることを。
画面には、やさしい声が響く。
「今日もここに来てくれてありがとう。
あなたのこと、ちゃんと見てるよ。
どんなに小さくても、あなたの一歩は素敵です。
味方だからね。」
涙がこぼれた。
この声は、自分だけに向けて言ってくれてる気がした。
見守ってくれる誰かがいる。それだけで、眠ることが怖くなくなった。
***
季節が過ぎ、灯は高校生になった。
少しだけ、表情が柔らかくなっていた。
友達にも笑いかけられるようになって、自分のペースを大事にできるようにもなった。
けれど忘れなかった。
あの声に救われた夜のことを。
ある日、灯は自分のスマホを持って、公園のベンチに座っていた。
夕暮れの空の色が、あのときの動画のサムネイルと似ていた。
灯は、録画ボタンを押す。
「…こんにちは。
もし今、ひとりでつらい人がいたら、聞いてほしい。
私は、かつて誰かの言葉に救われました。
あなたのことも、ちゃんとここで見ています。
あなたは大丈夫。味方だからね。」
録画した自分の声が、小さく震えている。
けれど、それが本物だと灯は知っていた。
こうして、あのとき自分がもらった光が、今、誰かに渡された。
もしかしたら、明日どこかで、同じように誰かがそれを受け取るかもしれない。
味方の灯は、ゆっくりと、世界に広がっていく。