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第12話「リリウム、ベラドンナ、マグノリア。最後に、ポインセチア」

 その後の展開は早かった。

 警察は救急車を呼んでくれたため、水景と七夏は一旦搬送される運びとなった。次いで入教会の地下室に捜査が入り、碧の遺体も見つかった。

 暗所に閉じ込められていたれおなと初瀬は病院にて点滴を受けることになったが、即日退院できるだろうということだった。


 ジュリと淑乃は待合室にてれおなを待っていた。今日予定が立て込んでいたはずの淑乃を迎えに来ていた使用人たちは、非常事態ということで各所に連絡を行い、淑乃の傍で控えていた。早めに店じまいをしてきたれおなの両親も駆けつけ、そこへ合流した。


「川嶋さん、白砂さん、本当にありがとう。れおなが無事に戻ってこれたのは二人のおかげです」


 れおなの母親は深々と頭を下げた。


「とんでもないです。れおな先輩、怪我も体調不良もなくて本当によかった」


 ジュリも同じように丁重な調子で返す。

 水景と七夏の処置が行われている間、彼らはれおなと初瀬が点滴を受けている部屋へ通され、警察から事情聴取を受けた。

 れおなと初瀬は廃教会の地下室で城ケ崎碧のものと思われる遺体を発見し、夜半月七夏によって閉じ込められたことを話した。淑乃とジュリからは、廃教会での水景と七夏を交えた攻防について順を追って説明した。


「情報提供ありがとうございます。波止場水景と夜半月七夏からも、意識が回復し次第取り調べを行います。事件に関する正確な情報は後ほどお伝えしますね。磐井さんと喜多川さんに関しましては、医師の指示に従っていただければと」

「分かりました。ありがとうございます」


 れおなが答えると、隣の初瀬も頭を下げる。

 重苦しい事情聴取から解放されると、れおなの両親のスマホに着信が入る。常連客からいつもより早い店じまいに関するお小言が来たらしい。


「れおな、ちょっと電話してくるね」

「はーい」


 両親たちは部屋を出て通話可能エリアへ向かっていった。その様子を見送り、使用人が淑乃に耳打ちをする。


「お嬢様、そろそろお戻りにならないと」

「ええ、そうですわね。……磐井さんと少しお話がしたいのですが。五分だけでいいのです」

「かしこまりました」


 席を外すように促され、淑乃以外の全員が一旦部屋を出る。樹里亜の姿をしたジュリは、少し不安げな顔をしつつも空気を読んだ。初瀬はというと、体力の限界が来ていたのか既に眠ってしまっている。淑乃はれおなのベッドを囲う白いカーテンを引いて椅子に座りなおした。


「本当はもっと情緒を大切にしたかったのですが、時間がありませんので」


 れおなは無言で頷いて続きを促す。淑乃の顔は、夕陽に照らされて赤く見えた。


「磐井さん。わたくし、あなたをお慕いしておりますわ」


 それは、れおなもいつかは告げられるだろうと予期していた愛の言葉だった。れおなは初瀬の助言と、ジュリの顔を思い浮かべる。しかし、返事に躊躇っているうちに、淑乃は話の続きを口に出した。


「でも、今日でお別れなんです」

「えっ」


 予想外の話に、れおなの反応も遅れる。もう時間がない淑乃は口を挟ませず、一気に事情を打ち明けた。


「わたくし、クリスマスミサの学内演劇の主演に選ばれなかったら、許嫁と結婚する決まりになっていたんですの。本当は今日の午後にはお相手の方と会う約束でしたけれど……。でも、そんなことを言っていられる状況ではありませんでしたから。欲を言えば、嫁ぐ前に磐井さんと最初で最後のデートをしてみたかったですわ」

「ごめん……」


 れおなは何に謝ればいいのか分からなくなっていた。クリスマスミサの主演を奪ってしまったこと? デートの約束を果たせなかったこと? そのどちらも、決してれおなのせいではない。それでも、大切な友人の未来を奪うきっかけになってしまったこと、得られたはずの思い出を贈りそこねてしまったことを悔やんだ。


「磐井さんが謝ることではないのです。もう話せる機会もなくなってしまうでしょうから、お伝えしたかっただけなのですわ」

「……お相手との結婚はいつなの?」

「明日にでも、と伝えられております」

「結婚したら、もう会えないの?」

「ええ。清花は退学して、家庭教師から家事や伴侶の仕事について学ぶことになるそうですわ」

「電話とかは……」

「磐井さんへの未練は、無理にでも断たれることになるでしょう。人の妻になるわけですから」


 まるで昔のドラマか漫画のような展開だ、と思った。現代を生きるれおなにとって、およそ現実味のない話のように感じた。


「そんな……許嫁だなんて。上流階級ってそういうものなの? それに川嶋さんはまだ16歳でしょ? 法律上は結婚できるからって、早すぎるよ……」


 れおなの反論を聞いて、淑乃はぎゅっと太腿を覆うスカートを握りしめる。


「……わたくしだってそう思いますわ! けれど……わたくしがそう思っているからといって、周りの人たちを変えられるわけじゃないんですのよ……」


 れおなには返す言葉もない。淑乃は両の目から溢れ出した涙をぬぐい、顔を上げる。


「……ごめんなさい。こんな別れ方をするつもりじゃなかったんですけれど、もう行かなきゃ」


 淑乃は立ち上がって微笑みを作る。


「川嶋さん、待っ……」

「磐井さん。――さようなら」


 引き留めようとするれおなの腕を、点滴の管が阻む。淑乃はミモザ色のフレアスカートを翻し、病室を去った。白いベッドの上、ぽつんと取り残されて呆然とするれおなの耳に、再びドアが開く音が届く。


「かわ――」

「れおな先輩、俺。ジュリだよ」


 カーテンを開けて入ってきたのはジュリだった。ジュリは気恥ずかしそうにツーサイドアップを束ねるリボンの髪留めを解きつつ淑乃が座っていた椅子に着席する。


「あー、こんな格好でれおな先輩と話すつもりじゃなかったのに。趣味じゃねぇんだよな、この服装」


 いつにも増して飄々とした調子のジュリは、きっと気を遣ってくれているのだろうとれおなには察することができた。


「……れおな先輩、元気?」

「あ、うん。今日中には退院できるって……」

「それは聞いた。……身体より、心が元気じゃなさそうだなって思って……」

「……分かっちゃう?」

「さすがにな。なんか、俺にできることない?」

「……分かんないや……」


 れおなは俯いて、それ以上答えない。ジュリはそんなれおなの手を握って、両手で包み込んだ。


「寒かったり、暗かったりすると余計なこと考えて落ち込むんだってさ。こうしていれば、ちょっとはあったかいだろ?」

「……うん」

「眠かったら少し寝るといいよ」

「うん。ありがと、ジュリくん」


 れおなは目を閉じ、仮初の眠りに落ちていった。


***


 夜の帳は下り、慌ただしかった一日が終わろうとしていた。

 淑乃はひとり、屋敷の自室から夜空を見上げていた。


(明日には……わたくしは、望まぬ結婚を受け入れなければならないのですわね……)


 自分では引いたことのない大きなキャリーケースへ視線を向ける。その中には、帰宅後に使用人たちが綺麗に詰めてくれた私物が入っていた。嫁入り道具と称された品物たちの中の大きなものは既に相手方の屋敷に届けるよう手配済みらしい。


(……寂しくなりますわね)


 家族や使用人の前では咎められるだろうと、敢えて手に取らなかったノートを猫足のデスクの引き出しから取り出した。そのノートには、紅茶部での活動に関する日記や、学園祭にて撮影した写真などがまとめられていた。


(磐井さん……)


 淑乃は、笑顔で写っているれおなの頭を指先でそっと撫でる。


(薄いノートですし、こっそり持っていってしまいましょう)


 キャリーケースを開き、内ポケットに思い出のノートを差し込んだ。そしてキャリーケースを元通り閉じようとしたのだが、重さに耐えられるよう頑丈に作られた鍵を閉めるのに手こずってしまった。


(もう! 開くのは難しくなかったのに、どうして閉め方が分からないのかしら! 明日の朝まで鍵が開きっぱなしになっていたらノートを入れたのがバレてしまいますわ……!)


 しばらく鍵との格闘が続いた。焦る淑乃の背中を照らす月光は、不意に遮られる。


「えっ?」


 やわらかな髪を揺らして窓のほうへと振り返る。そこには、夢かと思うような光景があった。

 ――窓の外には、月の光を背中に受けた磐井れおなが立っていた。

 淑乃と目が合うと、れおなは人懐っこい笑顔で手を振る。淑乃が呆然としていると、れおなは窓の錠をとんとんと指して開けるように伝えてくる。淑乃はすぐさま窓際まで駆け寄り、施錠を外した。身軽なれおなはするりと音もなく部屋の中へ降り立つ。


「こんばんは、川嶋さん」

「こ……こんばんはじゃありませんわよ。どういうことなんですの……?」


 密やかな囁き声で言葉を交わしつつ、れおなはキャリーケースの前まで足を進めた。


「これ、閉じられなくなっちゃったの?」

「え? ええ、そうなんです……」

「そうなんだ。まだ中身は余裕ありそうだね。持ってる下着は全部入れた?」

「なっ⁉ なな、なぜ下着……」

「服より替えがきかないから持っておいたほうがいいよ~。お気に入りの服があるならそれも入れてね」

「お気に入りの服はもう入れましたわ……」

「さすがにそうか。じゃあ、もし現金を持ってたらお財布に全部詰めて。入りきらなかったら別の袋に入れて手持ちのバッグにね」

「……? お金は口座から下ろせばいいのではなくて?」

「タイミングがあればね? あと、パスポートって持ってる?」


 その質問に、淑乃はようやく意図を察した。半分は願望だったかもしれない。けれど、その予想には既に確信めいた感触があった。


「磐井さん、あなたもしかして……」


 れおなは淑乃の両手を握った。二人の目と目が見つめ合う。


「駆け落ちしちゃおっか」


 夢でも見ているのではないか、と淑乃は思った。一瞬の静寂があり、時の流れを忘れさせた。次の瞬間には、淑乃の瞳に熱い涙が滲んでいた。


「……本当に?」

「本当に。嘘つくために、不法侵入する必要ある?」

「それはないでしょうけれど……でも、どうして? わたくし、磐井さんからその……あの、いわゆる脈があるなって感じられたことがなかったのですけれど……」

「気が変わっちゃったの」

「ええ……?」


 れおなの軽い返しに、淑乃は喜べばいいのか困惑するべきなのか分からない。対するれおなはぱっと手を離し、上着のポケットから包みを出した。


「これ。渡してなかったなって思って」

「……開けても?」


 れおなは無言で頷く。包みを開くと、中にはハンカチが入っていた。白いレースで縁取られたハンカチには、清廉な白い花の刺繡とYのイニシャルが入っている。


「これ……以前、お願いしていたものですわよね? きれい……」

「待たせちゃってごめんね? そのお花は白木蓮だよ。花言葉は『高潔な心』、英名は『|Yulanユラン magnoliaマグノリア』。淑乃ちゃんの名前のイニシャルと同じYから始まるお花がいいかなって思って……」


 れおなの蘊蓄うんちくが終わる前に、淑乃は抱きついていた。れおなはそんな彼女の背中に腕を回し、ぽんぽんと宥めてから抱き返した。


「嬉しいですわ……とても……」

「うん。喜んでくれたなら、頑張った甲斐があったよ」

「素敵な仕上がりもそうですけれど……磐井さんが、わたくしのことを考えて作ってくださったことが、なによりの贈り物ですわ」

「……へへ。なんだか照れるね……」


 いつも余裕のあるれおなが照れていることが彼女の赤い耳で分かって、淑乃はより一層愛おしく感じた。


「そうだ、お代を渡さなければ」

「お代は淑乃ちゃんの人生ってことで?」

「まあ、気障なことを言いますのね」

「たまにはね。さあ準備を始めよう、時間がないよ」


 二人は荷物の中身を高飛び用に入れ替え、念入りに忘れ物がないかチェックした。


「これで大丈夫そうだね。淑乃ちゃん、一番歩きやすい靴に履き替えて。通用門をよじ登るのにヒールが高いと難しいよ」

「そんな方法で入ってきたんですの? お転婆さんですこと」


 茶化しながらも淑乃は踵のフラットなオックスフォードシューズに履き替える。


「行こう、淑乃ちゃん」


 先に窓の外へ出たれおなが手を差し伸べる。淑乃はその手を取りながら答えた。


「はい。磐……れおなさん」




***




終幕エピローグ


 廃教会の地下をめぐる一連の事件は、その後の報道によって世間に知れ渡った。殺人事件の犯人である夜半月七夏は最初、未成年としてプライバシーに配慮されていたが、元芸能人という経歴のせいで週刊誌に特集を組まれ、あっという間に広まっていった。一般人であり傷害事件に留まった波止場水景の知名度は七夏ほどではなかったものの、私立山手清花女子学院の中では誰もが知ることとなった。行方不明だった城ケ崎碧の遺体が確認され、親しかった生徒たちは少しの悪口と深い哀悼の意を示した。学内の高嶺の花たちの事件は少女らに多大なるショックを与え、憤る者、落胆する者、悲嘆に暮れる者など様々な様相を呈していた。

 それでも季節は移り変わってゆき、11月は瞬く間に通り過ぎた。12月の半ば、デートスポットとして有名な横浜の街はイルミネーションに彩られ、浮かれた人々が行き交う様子が至るところで見られた。それは山手清花のほど近く、元町商店街でも同じだった。昼どきで客足の緩やかになった磐井洋品店の中、れおなの母親は街行く人を眺めていた。


「れおな、どこに行っちゃったのかしらね」


 レジスターの前で備品の準備をする父親が返事をする。


「心配だな」


 それは既に幾度も繰り返された会話だった。愛娘であるれおなは、廃教会の事件の後に姿を消してしまっていた。


「当たり前よ。どこかで事件に巻き込まれていないといいんだけど……」

「困ったら連絡してくるだろう。あの子は助けてって言える子だから」

「……そうだといいんだけど……」


 家族のグループメッセージには、11月3日の朝、れおなから送られてきたメッセージが残っていた。


『突然いなくなる親不幸な娘でごめんなさい。どうしても助けたい人がいるので、私は日本を離れます。また落ち着いたら、或いは困ってどうしようもなくなったら連絡します。冬は冷えるから、あったかくして過ごしてね。大好きなお父さんとお母さんへ。れおなより』




 緞帳どんちょうの内側で、彼は佇んでいた。ここは私立山手清花女子学院の講堂で、今日の日付は12月24日だった。客席側からは期待に胸を躍らせる少女たちの話し声が聞こえてくる。


「この主演の白砂さんって知ってる?」

「知らない。高一なんだっけ?」

「高等部からの受験組なんだって。それで主演なんてすごいよね」

「まあ、今年は色々と……ね?」

「本当に色々あったよねぇ……ねえ、やっちゃん?」


 噂話の輪の中、れおなの友人である少女は自分に話を振られたことで流れを察した。


「れおなちゃんのこと?」

「そう。磐井さんって誰かの恨みを買うような人じゃなかったよね? 城ケ崎先輩と違って」

「廃教会はあの事件を期に取り壊されたから、れおなちゃんが城ケ崎先輩みたいな目に遭ってるとは思わないけどなー?」

「まあね? やっちゃんは心配じゃないの?」

「れおなちゃんは……きっと大丈夫でしょ。しっかりしてるからね。今もどこかで元気にしてるんじゃないかな?」


 厚い緞帳を隔てた彼の耳に、彼女らの話す内容までは届かない。


「緊張してる?」


 脇役の演者である生徒が彼に声をかけてきた。そちらへ顔を向け、彼は――主演の衣装を身に纏ったジュリは、微笑みを浮かべた。


「多少はね?」

「でも、みんな白砂さんのこと楽しみにしてるから! 今まで練習一緒にやってきた私から見ても素敵だったし! 自信もってやれば大丈夫!」

「ありがと。頑張るよ」

「……私さ、白砂さんって大人しい人なのかな? って思ってたんだけどね。話してみたら明るいし、楽しいし、この劇が白砂さんと話すきっかけになってよかったって思ってるよ!」

「……」

「一緒に頑張ろうね!」

「うん」


 脇役の彼女は所定の位置まで戻る。客席の照明も落ち、開演のブザーが鳴った。


『ご来場いただき、誠にありがとうございます。これより学内演劇『クリスマスの奇跡』を上演いたします。携帯電話などお持ちの方は、マナーモードにするか、電源をお切りいただくようお願いいたします』


 ジュリはすう、と深呼吸をする。心臓の高鳴りはだんだんと落ち着いてくる。ジュリは今、全身で人生の息吹を感じている。その身体の元の持ち主は――彼の内側で、眠ったままだった。


 廃教会での事件以来、樹里亜は表に出てこなくなってしまった。連絡ノートにどうして出てこないのかと書き込んで数日、ようやく来た返事は「もう外に出たくない」といった簡潔な一文だった。その後ろにはなぜ外に出てきて生活したくないのか、その理由を書こうとした痕跡が見られたが、樹里亜自身が消しゴムで消したらしく、詳しいことは分からなかった。それ以降、樹里亜からノートに伝言を残されることはなかった。ところどころ判読できる箇所を繋ぎ合わせて推測したところ、彼女が人生を放棄した理由は――「理想と現実の乖離、そして失望」といった様子だった。


(お前がまた出てきたくなるまでは、俺が保守しといてあげますかね)


 ジュリは引きこもってしまった樹里亜に対する心配と、自分が表舞台に立っていられる喜びの両方を抱いていた。

 緞帳はゆっくりと上がる。男物の靴を履いたつま先から現れる主役の姿に、観客たちの期待は最高潮に達する。ジュリは朗々と最初の台詞を唱えた。


「どうしたんだいお嬢さん、そんな浮かない顔をして。街はこんなに煌めいているというのに……今宵の君の時間、俺にもらえるかな?」


 着け慣れたウィッグのいたずらっぽく跳ねた黒髪、着こなしたスーツの男装。危うさと純真さを併せ持つ瞳の魔力に、観客はたちまち虜になった。期待は歓喜に変わり、黄色い声援が上がる。講堂の座席は満員御礼、誰もがジュリに心を奪われている。ずっと日陰に隠されていた彼にとって、これ以上の幸福はあるのだろうか? ――それでも、彼は孤独だった。


(れおな先輩が居なくなったから、俺はこの舞台の上に立っている。みんなから歓迎されている。それでも――れおな先輩と、ずっと一緒に居たかったよ)


 彼が愛した人は、ジュリを残して消えてしまった。恐らく、大切な友人を守るために。ジュリには何も告げることなく……。

 ジュリはちらりと最前列の生徒の方を見た。慣例となった赤いポインセチアとクリスマスローズの大きな花束を抱えた生徒が座っている。彼女もまた、ジュリに釘付けだ。


(あの花束を両手いっぱいに抱きしめても、俺の空虚な心が満たされることはないんだろうな)


 彼が最後の台詞まで演じ切っても、拍手喝采はいつまでも続いていた――。




挿絵(By みてみん)












『男装喫茶ベラドンナの親密な関係』


END

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