熱にやられる
三題噺もどき―にひゃくきゅうじゅうろく。
先週は、毎日続いていたはずの雨が、今週に入って、パタリと止んだ。
それでも、梅雨明けの発表がされないのは、正直その辺のことはよくわからないが、理解ができない。この一週間、雨の気配すらないぐらいに、綺麗に晴れていたのに。これだけ夏日が続けば、梅雨明けと言ってもいいと個人的には思うんだけど。
あーでも、まだジメジメした感じはなくはないから、そのうち来週からまた雨続きになるのかもしれない。
「……」
しかし。
今日は、そんな雨の心配も、梅雨明け云々の事も、ジメジメした嫌な気分の事も忘れて。
―数年ぶりに開催された、夏祭りを素直に楽しみたい。
「……」
今週に入り止んだ雨。
その瞬間を待ち望んでいたかのように、大通りに祭りの提灯がぶら下げられていった。他にも様々な準備が進められ、週末の今日。
当日を迎えたということだ。
まるで、数年ぶりの祭りを開催できるように、お天道様が晴らしてくれたようだ―とか言ってみる。
「……」
まぁ、祭りの主催者でも、屋台などの参加者でも、踊り連とかでもない、ただのどこにでもいる一般客なので。
晴れて無事に開催出来て、よかったなぁ、ぐらいの感想ぐらいしかない。
ぶっちゃけ、ついさっき楽しもうとか言ったけど、もう正直きついぐらいである。
「……ぁっ」
なにせ、暑い。
うだるような暑さとは、まさにこのことかと思うぐらいに暑い。
ゆだる、もうむり。
久しぶりの祭りだからとか言って、調子に乗って浴衣とか着るんじゃなかった。
これ、毎年毎年、暑い暑い言いながら祭りに参加していたのを、今になって思いだした。
下駄の代わりにサンダルを履いている事だけが、救いだった。
これだって、若干ヒールが高いから、歩きづらさがなくはないのだけど。
「……」
気温も高い上に、湿度も高いのか、むしむししている。
そして、この町にはこんなに人が居たのかと、改めて思わせるほどに人が密集している。
セルフおしまんじゅうみたいになっている。この馬鹿みたいに暑い夏場にすることじゃない、絶対。てか。セルフおしまんじゅうってなんだ。あれって元々セルフでするもんじゃないのか……。
は?何を言っている……何…???ヤバイ……思考がろくに回っていない。
「……しんど……」
なんとか、この人混みを抜けなくては……暑すぎてまともに思考が働いていない……。
だから、はぐれたんだよ……。
やっと思いだした……。
暑すぎて、ホントにそれどころじゃなかったから、忘れていた。
人と来ていて、その人とはぐれて、さまよっていたのだ。
「……」
この人混みのなかじゃ、スマホを出すのも一苦労だし。
そもそも、こんな密集していて誰からも見ることができそうな状態で、スマホなんて開きたくない。
気にしすぎかもしれないが、万が一というのは、どこにでも潜んでいる。
用心に用心を重ねて、更に用心していて、悪いことはない。
―まぁ、今日はその用心が足りなくてはぐれたのかもしれないが・
「……」
この中から、何とか通れる隙間を見つけ、抜けていく。
こういう時、するすると、人にぶつからずに抜けることができる、この無駄スキルは持っていてよかったなぁと、思わなくもない。
ま、そもそも人混みは極力避けたい人間なので、たいして使いどころはなかったりする。
……こんなことばっかり得意だから、友達とふざけてキャラクターに例えたら何になるかなとか話していると、満場一致で暗殺者とかになるんだろうか。
「……」
まぁ、確かに、気配を消すのは得意というか……勝手に殺される。
それで、相手が勝手に驚いたりするだけだ。
今回は、そのせいで相方とはぐれた説があるのだが……。
「…しょ…」
そんなこんなで。
やっと抜けた……。
あっつい。あの中。ホントに、訳が分からないぐらいに暑い。
人混み抜けた瞬間分かった。
あそこ、異常だよ……。息がしやすい……。
よし。
れんらく――
「……は?」
と、そう思い。
スマホを取り出すため、鞄に手をかけた。
ついでに、というか無意識に。
ふ―と、周りに視線をやる。
と。
いた。
連れが。
しかも、片手にかき氷もって。
のんきに、あたまいたーみたいな顔しながら、ザクザク食べている。
探す様子もなし。1人でのんきに。ザクザクザクザクしている。
荒削りの、あたまにきんとくるかき氷を食べている。
ふわふわの、頭に害がないやつを食べようねと言っていたくせに。
こっちは、はぐれて、必死に探しているのに。
1人で。
のんきに。
たのしそうに。
かき氷を。
食べている。
「……」
暑い中探したのに。
空腹も割と我慢していたのに。
何だあれ。
キレていいやつか?
「……ふ」
まぁ。
連絡するめんどくささと、これ以上探す手間が省けたのは。
不幸中の幸いとしておこう。
息を殺し。
気配を殺し。
「……さて……」
さて。さて。
どうしてさしあげよう、かなぁ……。
せっかくの祭り気分を(そこまで上がってはいないが)、ほとんど台無しにされたような気分だ。
どうして、やろー、かな♪
お題:きんとくるかき氷・うだるような暑さ・祭りの提灯