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バケモノリスト  作者: Yamamoto Hiroki
1/1

過去

「リョウちゃんっ...痛ぃよ...助けて...」


学校の廊下。

誰もいない放課後。

目の前には、さっきまで明るく笑っていたとは思えないほど、苦悶に満ちた表情でこちらを見つめている女子がいた。

ロングヘアの髪を乱して、隙間から見える少女の目尻には涙が溢れていた。

 あるはずの右腕からは、その先がなく血が吹き出していた。

その奥には、血に塗れた腕を頬張っている得体の知れない生き物がいた。


 くちゃくちゃとあたりに音が響く。

「りょうちゃん...」

 かつて幼馴染だった少女は悲鳴をあげることもできず、だんだんと掠れ声になっていった。

「あ゛ぁ...」


 俺は動けなかった。

怖かったから。

 それだけだった。

足がすくんでいた。


その異形の何かは、次に少女の下半身に食いついた。

 骨の砕ける音がする。

 少女は大きな声をあげて、腕をこちらへと伸ばす。

 腕がフルフルと震えている。

「助け...」


「りょうちゃん。私、やっぱさ。」

「何?」

「りょうちゃん、好きだよ。」

「...」

 初めは何を言っているのかわからなかった。

 ボロボロの壁、欠けた電球。

 ここには俺のコンプレックスしかない。

 そんな場所に、突然穏やかで暖かな自信があった。

 橙灯が灯る部屋で、長髪の少女はこちらにゆっくりと顔を近づけてきた。

 少女の仄かな匂いが思考をぼやけさせる。

 少女の鼻息が顔にかかる。少し暖かくて、心地よかった。

 俺は思わず、少女に言った。

「どんなことが起きても、何があっても、俺がお前を助ける。」


 昨日「何が起きても俺が助ける」、とか言っていた自分の言葉が嘘みたいだった。

「好きだよ」、と言ってくれた幼馴染の言葉に舞い上がっていたんだ。

 そんな言い訳を考えていた時、ふと自分の頭の中に別の何かが語りかける。

「お前、やっぱ大したことないんだな。」

 誰だ。そんなことを言ったやつは。怒りで頭が沸騰してくる。

 だが、目の前で悲鳴をあげる幼馴染が目に入った瞬間、あることに気づいた。

(あ...これは俺が言っているんだ...)

その時、俺は失望した。

 部屋が汚いのも、俺が貧乏なのがコンプレックスだった。

 これが全部コンプレックスだったのは、全て俺が俺に失望していたからだ。


 口を血で濡らした四足の化け物は、ゆっくりとこちらに近づいてきた。

 俺はただ成り行きに身を任せた。

 化け物は顔を近づける。

 鼻息が俺にかかる。

 その後、目の前が真っ暗になった。


「サキ。ごめんな。」

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