04話 暗談
真っ暗な部屋。
そこに研究施設で見るような子供一人が入れるような液体の入ったカプセルがいくつも並び、うっすらとした明かりを照らす。
カプセルの中にはサイズに見合わないゴマのように小さな黒い何かが中心に留まっており、それを一人の黒い影が手を添えて眺めていた。
すると何処からかカツ、カツと階段を降りる音が響いて聞えてくるとカプセルの傍にいるその人物の肩が震え、拳を握り締め横へ振り抜く。
それによりガラスが割れ、カプセルの中にあった液体が床へ巻き散る。
音が止むとまた一つまた一つ割っていき全てのカプセルを割り終えた頃に、階段を降りてきていた何者かがその部屋へと入ってくる。
「あららら、荒れてるねぇ」
入ってきた者はそれによってできた水溜まりを避けようとしながら歩くがぴちゃぴちゃと音がなり全く避ける事が出来ておらず結局途中で諦めて普通に歩き部屋の中を探索でもすうに歩き回る。
「何の用だ」
ギロりと睨みつけるように怒りの籠った声で問う。
「分かってるだろう。芽生え始まったようだよ」
「知っている」
「わざわざ壊さなくても良かったのに、そのカプセルは他にも使い道はあったのだから」
「芽が成らなかったのならば要らない、もう用済みだ」
「それにしても残念だったね。せっかく集め、すり替えまでも行い毎年こうやって手間暇かけて様子を見に来たと言うのに選ばれないとは」
「うるさいぞ、揶揄いに来たのならば失せろ」
「ごめんよ。揶揄いに来たのはそうだけど、ちゃんと君へ知らせることがあるのだから」
「…さっさと教えろ」
「まず一つ、種が選ばれ芽を出したのはあの少年の所のものだよ」
「やはりか…」
怒りが込み上げたのかそれを聞くなり歯を噛み締める。
「それでこちらの計画通り存在が顕現し衝突したよ」
「奴は戦えないようにしてある。何も問題は無かったのだろう」
「残念なことだけど、その逆で問題が起こったよ」
「何?」
「十二と同意の枷は外されたよ。上が干渉しすぎたからだろうね、存在が枷を無くしたんだろう。出来損ない故に身体能力で勝っていたものの、戦闘技術の差で返り討ちにあったよ」
「…そういう事か。だからあいつらはこれまで俺たちを見逃したのか。それで奴はどうなった」
「左肩から指先までの腕の損失に自身の技によって右腕の破裂、そこから先は観測できなかったけど、状態からしてあれ以上動けることは無いし出血多量で死んだかな」
「あ?なぜ最後まで観測しなかった」
「君が思ってたより優秀だっんだよ彼。気がついてたのか存在に植え付けておいた目ごと破壊されたよ」
「外から見ていればよかっただろう」
「勘弁してくれよ。僕の目は追跡には向いていないのは知ってるだろ。だから存在に植え付けるのが一番だったのさ」
「まぁいい。それで奴らには知らせたのか」
「ああ、知らせたよ。皆、この時を待っていたのだからね。やる気満々に今なお準備を進めているよ」
「ならいい」
「君はどうするんだい?」
「もちろんこちらも動く」
「傍観してればいいのに、どうせその時はまだ少し先なのだから」
「願望の器。それを奪い合う仲となるが、その前に奴の排除だけはしなくてはならない。あの女の存在はこの先、計画の邪魔になりえる。まあ、都合がいいことにそれも皆同じ目的だからな」
「そうだね」
「お前はどうするんだ」
「僕はいつも通り傍観させて貰うよ。やる事はやったから文句はないよね」
「ああ。そっちの役に立つがこれからの事には余り役立たないからな。構わない」
そう言って男はその者の横を通り部屋の外への階段を上がっていく。
「辛辣だなぁ。まぁ否定しないけどね」
残された者はゆっくりとしゃがみ床に撒き散った水の中から種を丁寧に回収していく。
「世界そのものを大きく動かす運命の聖戦。しっかりと僕を楽しませてくれたまえよ人間達」
そう笑みを浮かべながら呟くと、カプセルのライトが薄らと消え行き静寂の暗闇となる。