第20話 俺の青春っぽい何か
「そっか。上手く行ったみたいでよかったよ」
次の日、俺たちは早藤に事の顛末を話した。早藤は嬉しそうに微笑むと、清瀬に視線を向ける。
「じゃあ、これからはわたしとも仲良くしてくれるのかな?」
「ええ。努力しようと思っているわ」
「努力はしないといけないんだね」
清瀬の返答に早藤は苦笑する。次いで俺を見ると、切れ長の目を優しく細めた。
「松陰君もありがとう。姫を助けてくれて」
「あ、ありがとう松陰くんっ!」
早藤の言葉に胡桃沢も慌てて頭を下げる。
「どういたしまして。もう変な喧嘩するなよ」
マジで勘弁して欲しい。今考えると自分の人間関係がめちゃくちゃ狭いのに他人の仲直りを手伝うとか頭おかしいよな。適性ゼロって感じ。
まぁ、終わり良ければ総て良しってやつだが。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るぞ。もうお役御免だしな」
そう言って立ち上がりファミレスを出ようとすると、
「待ってっ」
と清瀬に呼び止められた。
きゅっと俺の制服の袖をつまんでいる。
「え? なに?」
俺は怪しむように清瀬を見た。お得意の毒舌でも披露するつもりなのだろうか?
――しかし、俺の予想とは正反対のことが起こる。
「その……ぁ……ありがとう……」
顔を真っ赤にして、ギリギリ聞こえるくらいのか細い声でそれだけ言うと、清瀬はぱたぱたと胡桃沢たちの所へ戻って行った。
「……へ?」
こうして、当初の目的は突然果たされたのだった。
青天の霹靂、急がば回れ、情けは人の為ならず。
人生何が起こるかわからない。
# # #
ゴールデンウイーク前のどこか舞い上がった雰囲気の食堂。そこで俺は薫と共にいつもと変わらず昼食を取っていた。
「そういえば、前言ってた女の子をデレさせるってやつ。上手く行ったん?」
「ああ、まぁ……一応」
「え、マジ?」
「マジ」
薫がほへーっと意外そうな顔を向けて来る。
その気持ちは俺も同じだった。結局あれ以降清瀬がデレることは無く、普段通り毒舌を浴びせて来る日々に戻っている。
遠くのテーブルで清瀬と胡桃沢たちが陣取って談笑しているのが見える。笹川が何やら胡桃沢に泣きついているようだ。
大方、自分が何も力になってないとかそんな感じのことを言っているのだろう。
「で、お前はどうしてここに居るんだよ」
俺の隣で当たり前のようにうどんをすする女に俺は声を掛けた。
無論リスっ子である。
「あんな空間にわたしが入っていったらぺしゃんこに潰れちゃうわよ」
「でもあれから清瀬とちゃんと友達になれたんだろ?」
リスっ子こと小倉は清瀬にもう一度ちゃんと話をしてもらったらしい。映画館でのお詫びと、今度こそ本当に友達になって欲しいと言われたそうだ。
「そうだけど。わたしが友達なのは清瀬さんであって、女帝じゃないわ。別に、あのグループに入って行かなくてもいいでしょ。それに……」
小倉はにまにまと笑い始める。
「ここから眺める清瀬さんもどこか背徳感があっていいじゃない。えへへ、えへ」
「お前っ……大丈夫かよ……」
こんな子だったっけ? ちょっと心配なんですけど。
溜め息をつきつつ、不意に視線を感じて俺は清瀬たちの方を見た。
すると、何故かこちらを見ていたらしい清瀬と胡桃沢と目が合ってしまう。俺の視線に気付くと二人は慌てて視線を逸らした。
その頬はほんのりと朱に染まっている。
え……。
「ほら、松陰うどん食べる? 一応お礼というかなんというか」
俺の肩を叩いて小倉が言う。見ると、うどんを一本だけ持ち上げた箸を俺の前に差し出して来ていた。
しかもやっぱり食べかけの麺。
「いや要らねーよ。森の掟かっ」
「森の掟? なんのこと?」
首を傾げる小倉を他所に、俺はラーメンをすすった。
なんか、これはあれだな。
限りなく青春っぽい何かだな。
ほんのりと身体が熱い。
きっとこれはラーメンのせいなんだろう。
そうに違いない。
そういうことにしておいた。




