第18話 清瀬の言葉
土曜日、俺は悶々とした気持ちで外に繰り出していた。
最近悩み事ばかりだ。清瀬のことも、胡桃沢のことも、小倉のことも、解決するどころかまた新たな問題が発生する。
ただ、結局はどれも清瀬の問題として集約できるものだ。清瀬の問題さえ解決すれば連鎖的にすべて丸く収まるはず。
まぁ、あいつが一番難易度高いんだけどね。最近やっと隠していた感情を見せ始めたと思えばかなり拗らせているみたいだし。
そんなことを考えていたからであろうか、俺は清瀬と偶然にもばったり会ってしまった。
「あら、松陰君じゃない。偶然ね」
「お、おう、そうだな」
予想外のエンカウントに俺は狼狽えてしまう。
昨日の一件も相まって、清瀬にどう声を掛けてよいのかわからなかった。
「松陰君、時間はあるかしら?」
「え?」
驚いて清瀬の顔を見る。
そこにはいつものような俺を小馬鹿にした笑みなどなく、ただただ真剣な表情があった。
桜色の艶を帯びた唇が、躊躇いがちに開く。
「あなたに話したいことが……聞いて欲しいことがあって」
「聞いて欲しいこと……?」
「ええ。だから、私に時間をくれないかしら」
「それは……別にいいけど」
俺の言葉を聞くや否や、「ありがとう」と呟いて清瀬は身を翻した。
「付いて来て。喫茶店で話しましょう」
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閑静な住宅街にある、木製を基調とした落ち着いた雰囲気の喫茶店。清瀬はそこに俺を案内した。
どうやら普段から利用しているらしい。なかなかにおしゃれな奴である。
「それで……話って?」
俺は清瀬が奢ってくれたアイスコーヒーを机に置くと、そう切り出した。
アイスティーが注がれたカップに視線を落としていた清瀬がゆっくりと顔を上げる。
清瀬は俺の目を一度真っ直ぐに見ると、長い睫毛を瞬かせつつ窓の外に視線を移した。
「……最初は些細なことだったのよ。本当に些細なことだった」
俺は何も言わずに清瀬の話を聞く。
「話は聞いているでしょう? 胡桃沢さんから。私は彼女と中学卒業まで親友関係にあった」
やはり胡桃沢についての話か。とうとう俺に本心を話しす気になったようである。
「ただ、高校に上がってから関係が変わってしまった。……胡桃沢さんは雰囲気を変え、早藤さんたちと仲良くするようになった。今までは私としか遊ばなかったような子だったのに。それが私にとってはどうしても許せなかった。胡桃沢さんのことを早藤さんたちに取られたような気がして。……そこから醜い嫉妬心が私の中に芽生えた」
清瀬は自嘲気味に笑みを浮かべ、力なく溜め息をつく。
「自分でも嫌になるわ。本当に、醜かったと思う。……きっと、ちゃんと話せばこんなことにはならなかったはずなのに」
清瀬は隠していた感情を俺に吐露する。
弱々しいその姿は見ていられなかった。
普段の清瀬の方が何倍もマシだと思ってしまう程に。
「……清瀬はどうしたいんだ?」
俺が問うと、清瀬は深く息を吐きだした後、揺れる黒い瞳で俺を見た。
「戻りたい。あの頃みたいに、胡桃沢さんと一緒に居たい。……そのために、松陰君に力を貸して欲しいの」
「俺?」
「ええ。自分勝手なことを言ってるのはわかっているわ。それでも……もう、あなたに頼る以外方法が見つからないの。どうか、お願いします」
清瀬は懇願するように頭を下げた。
その表情と声にはどこか焦りの色が滲んでいる。相当追い詰められているのだろう。
普段はいけ好かない奴で、何故か俺に好意を持っている変態で……。色々と思う所はあるが、少なくとも今目の前に居る清瀬は心から俺に助けを求めている。
ならば、断る理由もないだろう。それに、胡桃沢に協力するという意味でも俺が清瀬に力を貸すことは矛盾していない。
「わかった。胡桃沢と話す機会を作るよ」
俺の言葉に清瀬は顔を上げる。
「ほ、本当に……?」
「ああ。約束する」
強く頷いて見せると、清瀬は震える声で
「ありがとう……」
と呟いた。
いよいよ大詰めだ。胡桃沢との仲違いを解消するという当初の目的が果たされる日は近い。
まさかあの放課後からこんなことに巻き込まれるとは思いもしなかったが……いずれお前をデレさせて見せる。
それが俺の本当の目的だからな。




