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第17話 友達?

 めでたく清瀬(きよせ)と友達になれた小倉(おぐら)は、早速友達らしいことがしたいと金曜日の放課後に映画館へ行くことを提案した。


 何故か俺も同伴で。清瀬と二人きりはまだ緊張するらしい。


「そっか。みーちゃん、友達出来たんだね」


 翌日木曜日の放課後、俺は胡桃沢(くるみざわ)早藤(はやふじ)に学校近くの公園で事の顛末を話した。胡桃沢は木製のベンチの背もたれに背中を預けながら、感慨深そうに赤とも紫ともつかない夕焼けを仰ぎ見る。


「それにしても、映画かぁ……。中学生の頃、一回だけみーちゃんと一緒に観に行ったっけ」


「へぇ。なんの映画を観たの?」


 早藤が興味深そうにして言った。


「恋愛ものだったよ。よくある高校生の青春ものみたいなやつ! みーちゃん今はあんなだけどほんとは結構乙女でさー。映画終わったあと可愛いくらいにときめいてたなぁ……」


 その時の清瀬を思い出したのか、胡桃沢がクスッと笑みを零す。俺に言わせてみればお前も相当の乙女だと思うけどな。


「また映画行けるといいね」


「うん……そうだね」


 優しい声音で寄り添うように言った早藤に、胡桃沢はゆっくりと頷いた。


 明日の放課後は一体どうなることやら。小倉が空回りしないか心配だ。



   # # #



 映画館。金曜の夕方頃ということで人出はまずまずと言ったところである。今の時期は評判が良いという新作の恋愛映画が上映されているらしく、それ目当てのお客が多いようだ。


 しかし、俺たちが観るのは小倉の発案でアクション映画ということになっている。既にチケットを自動発券機で三人分購入し、小倉と二人で売店に並んでいた。


「ほんとにアクション映画で良かったのかしら?」


 小倉が遠くに居る清瀬を見ながら心配そうな声で言う。清瀬は休憩スペースに居ると言っていたので一緒に列に並んではいないのだ。


「別にいいんじゃねーの。あの清瀬が嫌とは言わなかったわけだし」


「そっか……そうよね!」


 俺の言葉に小倉は笑って見せた。清瀬は普段から言いたいことを言う性分の女なのだ、嫌ならば嫌とはっきり言うだろう。

 列が進んで俺たちが商品を選ぶ順番になった。小倉は先程とは打って変わって目を輝かせながらポップコーンだのホットドッグだのが載ったメニューに視線を走らせる。


「ねぇねぇ松陰、何食べる?」


「俺は飲み物だけでいいよ」


「ええ、なんで!?」


 信じられないとでも言いたげな顔で小倉は俺を見た。


「映画館ではポップコーンが常識でしょ!? わたしなんて毎回ポップコーンは絶対頼むわよ? おっきいやつ!」


「それは人によるだろ」


 しかもポップコーン食べたら音がめっちゃ立つからな。映画始まる前はぼりぼり食えても映画始まったらなんか周りの人に申し訳なくて食い辛いし。

 

 それで大体映画終わってから頑張って食うことになるんだよ。捨てるのも勿体なくて持ち運ぶのも大変だから、映画終わってるのにロビーでポップコーンを貪る変な人みたいになっちゃうから俺は自分ではほとんどポップコーンを買わない。


「じゃあわたしは清瀬さんと一緒にポップコーン食べよっ」


 俺の考えにそれ以上興味を示さず、嬉しそうに小倉は塩とキャラメルのハーフ(Lサイズ)を頼んだ。飲み物はコーラとジンジャーエール、アイスティーにした。ちなみに小倉がコーラで、他の二つは炭酸と炭酸でないものを選んだ結果である。


 コーラではなくジンジャーエールにしたのは清瀬がコーラを飲んでいる様子を想像できないから。どちらかと言うとコーラの方が俗っぽいイメージだからな。奴のイメージに反する。


「お待たせ、清瀬さん!」


 小倉はトレーにコーラとポップコーンを載せて、満足気な顔で清瀬の背に声を掛けた。恋愛映画のポスターを見ていた清瀬は小倉の声に振り返った。


「おかえりなさい」


「見てみて! おっきいポップコーン買ったの! 一緒に食べましょ!」


「え、ええ、そうね……」


 清瀬は驚き半分苦笑半分といった様子でポップコーンを見る。

 こいつは小倉に対して毒を吐いたことが無いんだよなぁ。それは間違いなく良いことなんだが、どうにも違和感がある。


「ジンジャーエールとアイスティー、どっちがいい?」


 俺は両手に持ったジンジャーエールとアイスティーを清瀬に突き出した。驚いたのか清瀬は目を丸くして少し高い位置にある俺の目を見た。


「貰ってもいいのかしら?」


「いいよ。これはあれだ、小倉と友達になったお祝いというか記念品みたいなやつだから。ほれ、気にせず選べ」


「……そう。じゃあ……こっちで」


 清瀬が選んだのはアイスティー。まぁ妥当というか飲んでいるイメージが湧きやすい無難な方を選んだな。


「それじゃあ行きましょ!」


 余程映画が楽しみなのだろう、息巻いて歩き始める小倉の背を俺たちは追った。



   # # #



 およそ二時間の映画が終わって午後四時。

 俺たちは喫茶店で映画の余韻に浸っていた。


「面白かったわねー! あそこでまさかジェームズが出て来るとは思わなかったわ!」


 ……まぁ、余韻に浸っているのは小倉だけなのであるが。


 興奮冷めやらぬといった様子で映画の感想を次々と口にする小倉とは対照的に、清瀬は心ここに在らずという顔で、頬杖を突きながら窓の外を眺めている。


「ねぇねぇ、松陰もそう思うでしょ!?」


「お、おう、そうだな」


 主人公のアイクが廃墟での死闘の末撃ったはずの元親友ジェームズが、実は生きており最後の戦いでアイクを助けに来るという展開は確かに胸が熱くなった。


 しかし今はそれよりも清瀬の表情の方が気になる。


「き、清瀬さんはどうだった?」


 小倉も空元気で話していたのか、恐る恐る清瀬に話を振った。清瀬は小倉の方を見ると、どこか寂し気な顔で微笑んで見せた。


「ええ、楽しかったわ。ジャックとアレックスの友情には涙しそうになったもの」


「誰だよそれっ」


 こいつマジでどうしたんだよ。そんなキャラ映画には出て来なかったんだけど。


「あ、ああ~ジャックとアレックスね。居た居た」


「いや居ねーよ」


 清瀬と話を合わせようとしているのか、否定することも無く頷く小倉に俺は突っ込んだ。

 居るのはアイクとジェームズである。紛らわしいが別人だ。


「……えっと、その」


 清瀬の様子に掛けるべき言葉を見つけられないのか、小倉は俯いてしまった。相変わらず清瀬は外の景色を見ているのか見ていないのかわからない目を窓に向けているままだ。


 どうにも居た堪れない。友達になろうと口では言っているが、本当に清瀬は小倉と友達になりたいのだろうか。

 

 現状では彼氏のことが好き過ぎる彼女と冷めている彼氏みたいな関係性にしか見えない。

 温度差が理由で別れ話を切り出される一歩手前みたいな雰囲気である。


 はぁ。仕方ねぇな……。


「……清瀬、一体どうしたんだよ? 今日のお前変だぞ?」


 俺の言葉に清瀬はその長い睫毛を伏せた。


「わからないのよ、私にも。捨てたはずの物がまだ手の中に残っているみたいな……そんな、変な感じがして」


「清瀬さん……」


 悲しそうな顔で小倉が清瀬を見る。

 当然だろう。清瀬は自分勝手なことを言っている。今日は小倉と遊びに来たのであって、昔のことを――恐らく胡桃沢のことを思い出しているのであろうが、そんな感情をこの場に持ち出してはいけない。それじゃあ小倉があまりにも不憫だ。


「……悪い、小倉。今日はこの辺で解散にしないか?」


「……え?」


 このままでは小倉にとっても清瀬にとってもよろしくない。そう判断した俺は、出来るだけ神妙な面持ちで小倉に切り出した。

 その甲斐あってか、小倉はこくりと小さく頷く。


「わかった。……また、遊べることを楽しみにしているわ」


 小倉が作り笑いを浮かべる。悲しい顔だ。笑顔のように見えて、限りなく泣き顔に近い、そんな顔だった。


 帰り道、小倉は一言も喋らなかった。

 その代わり俯いたままで、まるで迷子を恐れる幼子のように俺の袖がしわくちゃになるまでずっと握っていた。

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