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第10話 女帝現る

『そっかー。やっぱり松陰(まつかげ)くんに頼っちゃうことになりそうだね』


 その日の夜。俺は胡桃沢(くるみざわ)里仲(さとなか)先生との会話内容について報告の電話を入れていた。

 協力すると決めているため、このように連絡を取り合うようにしているのだ。


「まぁ、出来る限りのことはやるよ。とにかく清瀬(きよせ)と胡桃沢が話せる状態に持って行けるようにしないとな」


『そうだね。いっぱい迷惑掛けちゃうだろうけど、何卒よろしくおねがいします!』


「おう。それじゃ、報告は終わり。他になんかあるか?」


『はいはい、あります!』


 胡桃沢が食い気味に言った。子犬のような勢いである。相変わらず尻尾をぶんぶん振っているような絵が浮かぶな。


「はい胡桃沢さん」


『実は松陰くんに会いたいって言ってる子がいるんだけど』


「……はい?」


 それは予想外の言葉だった。なんか最近予想外の言葉多いな。


『えっと、弘子(ひろこ)なんだけど』


「弘子って……あの早藤(はやふじ)弘子か?」


『そそ。その弘子』


「……マジかよ」


 それは予想外の向こう側、まさかまさかの女帝の名前だった。


 早藤弘子は文之木(ふみのぎ)高校二学年の中でもカリスマ的存在として君臨している女生徒である。俺は廊下を歩いているところくらいしか見たことが無いが、一目見ただけでも彼女にはとてつもない存在感があることはわかった。


 そんな女が一体俺になんの用だというのか。まさかグループの一員である胡桃沢に近づいたことによって怒りを買ってしまったのだろうか。


 もしそうであるならば是非ともお断りしたいものである。駅前の美味しいプリン屋にあるプリンでどうか許して欲しい。二個あげるから見逃して欲しい。


 あれ、プリン屋ってそもそもあるのか? プリンだけで商売が成り立つかどうかというところだが……まぁそれはどうでもいい。とりあえずそんな感じのやつだ。


「プリンをあげるからお引き取り願いたい、と伝えてくれ」


『え? プリン? 何急に』


「プリンと言えばプリンしかないだろう! コードネームプリンにプリンを渡せと言っている! オペレーションプリン発動だ!」


『なにひとつ意味がわからないうえに逆ギレされた!? どしたの松陰くん、壊れちゃったの!?』


「いやすまん、ちょっと取り乱した」


『取り乱したで済ませちゃうんだ!?』


 胡桃沢の声が混乱している俺の頭に反響した。胡桃沢は清瀬と違って素直にツッコミを入れてくれるのでボケる甲斐がある。それにしたってさっきの俺はクレイジー過ぎるが……。自分でもぜんっぜん意味がわからない。なんだよオペレーションプリンって。全滅しそうな作戦名だな。


「その……どうしても会わないとだめか?」


『んーどうしてもってことは無いと思うけど。あたしは会ってみた方がいいんじゃないかなって思うよ』


「その心は?」


『弘子はいい子だから、会って欲しいというか……そんな感じ』


「いい子ねぇ……」


 確かに悪い噂は聞かないが……かと言ってあまり気乗りしないのも事実である。

 しかし、胡桃沢との繋がりがある以上無下にも出来ないわけで。


「わかった。会ってみるよ」


『ありがと! 弘子に連絡しとくね!』


 嬉しそうな胡桃沢の声。あ、なんか急に緊張してきた。

 俺は無事生きて帰れるのだろうか。とりあえずプリンは標準装備である。もちろん二個持って行く。



   # # #



 翌日金曜日の放課後。俺は駅前のプリン屋ではなく駅前のファミレスへと連行されていた。

 右隣には胡桃沢、右前方には早藤ファミリーのひとりである笹川(ささかわ)未奈(みな)が座っている。

 そして俺の正面には、早藤の姿があった。


 ちなみにプリンを買う暇は無かった。

 丸腰である。 


「わたしは早藤弘子。こっちの子は笹川未奈ね」


「未奈でーす! よろしくね、かげっちー!」


「ああ……よろしく」


 テンション高ぇな。かげっち? まつかげのかげか?

 そしてそれとは対照的に早藤はクールだった。ウエーブのかかった暗めの茶髪ロングに切れ長の目元がその雰囲気をさらに印象的なものにしている。


「今日は来てくれてありがとう。一度あんたと話してみたかったんだよね。ここ数日で姫と仲良くなったみたいだから気になってたんだ」


「ひめ……って、胡桃沢のことか?」


 胡桃沢の方を見ると、「そだよ」と頷いて見せた。姫乃(ひめの)だから姫か。


「で、こうして姫に呼んでもらったってわけ。別に怒ったりするわけじゃないから、そんなに肩肘張らなくていいよ?」


「そうなの? てっきり締められるのかと思ったわ」


「けっこう酷いこと言うねぇ。あんたの中のわたしのイメージって、一体どうなってんの?」


「言っても怒らないなら言うけど」


「単純に気になるだけだから、言ってみて?」


「おしゃれ怪獣」


「怒るか微妙なラインだなぁ」


「なっ」


 嘘ついたんか。あんた俺に嘘ついたんかっ。

 俺の素直過ぎる言葉に胡桃沢は「女の子に言う言葉じゃない……」と言って苦笑い。笹川はツボに入ったのか笑いをこらえている。

 背筋が冷えて行くのを感じたが、どうやら早藤は寛大な心をお持ちらしい。


「あはは、別に怒らないから。あんた面白いね」


「そ、そっすか。はは」


 早藤は感じの良い笑顔を浮かべた。クールな印象しか無かったが、意外に笑うこともあるらしい。対する俺は顔がヒクついているのを感じるが。

 何はともあれ締められることは無さそうである。


「それで、松陰君と姫はどういう関係なの? って聞いてもいいのかな」


「えーっと……」


 ちらりと胡桃沢にアイコンタクトを取る。胡桃沢はこくりと頷いて真剣な目を早藤に向けた。


「その前にまず弘子と未奈に聞いて欲しい話があるの。……あたしの幼馴染の話、なんだけど」


「幼馴染?」


「うん。二年三組にいる清瀬さんのことは知ってるよね?」


「学年トップの成績でしかもめっちゃ可愛い子でしょ? もちろん知ってるよー」


 笹川が答えると、早藤も首肯した。


「わたしも知ってるけど……もしかして、その清瀬さんが姫の幼馴染ってこと?」


「実は……そう、なんだよね」


「まっ、マジで!? え、でも全然そんな感じなくない?」


 驚いたように笹川がガタッと身を乗り出す。早藤は考え込むように腕を組んだ。

 これが普通の反応だろうな。俺の場合はみーちゃん呼びの方に意識を持って行かれてしまったので驚くタイミングを逃したが。いやだって明らかにみーちゃんって柄じゃないから。

 早藤は腕を組むのをやめると、真剣な面持ちで胡桃沢に向き直った。


「その話を敢えてわたしたちにするってことは、何かあるんだよね? 今までこの話をしてこなかったわけだし」


「さすが、弘子は鋭いね」


 それには俺も同感だった。早藤弘子は見てくれが良いだけじゃないらしいことは少し話してすぐにわかったが、どうも頭の方も切れるらしい。スクールカーストトップに君臨する女帝たる所以がそこにはあるのだろう。


 さすがはおしゃれ怪獣である。インテリジェントオシャンティーガオガオに命名し直すとするか。


「あたしと清瀬さんが知り合ったのは小学生の頃で、それから中学卒業までずっと仲が良かったんだ。中学生の頃のあたしは友達もあんまりいなくて、清瀬さんとばっかり遊んでたの」


「へぇ。今の姫からするとイメージし辛いね」


「あはは、そうだよね。だから高校ではもっと友達作るぞっ! って思って、雑誌いっぱい読んでメイクとか服とかの勉強をして、地味だった見た目をイメチェンしたの。それで、弘子とか未奈とも仲良くなれた」


「そっか。頑張ったんだね」


「うん、頑張った! ……頑張ったん、だけどね。それが原因で、清瀬さんとは話さなくなっちゃった」


 そこまで言うと、胡桃沢は俯いた。その様子を見ながら笹川がうーんと唸りつつ、合点したように口を開く。


「そっか、清瀬さんはそれで嫉妬しちゃったってわけだ。清瀬さんの方は今でも友達いなさそうだもんね」


「そうだね……。一年の頃からあたしたちは同じクラスだったけど、清瀬さんとは別のクラスだったでしょ? でもあたし、清瀬さんとも変わらず仲良くしたいと思ってたんだ。……だけど、クラスの違いで話すタイミングもなくて、すれ違っちゃった」


「あるよねーそういうの。クラスが変わった途端距離感が変わっちゃうやつ」


 うんうんとしきりに笹川は頷いた。その言葉を早藤が引き継ぐ。


「確かにそういうことはあるね。……姫は今でも仲直りしたいと思ってるの?」


「うん。清瀬さんのこと……みーちゃんのこと大好きだから」


 そう言って胡桃沢は口をつぐむ。次の言葉が無いことを確認すると、早藤は俺に視線を寄越して来た。


「で、松陰君はそれに関わってるってことか」


「ああ、まぁ一枚どころか三枚くらい噛んでるな」


「ずぶずぶの関係だね。……でも、ありがとうとは言っておくよ。姫を助けてくれたこと」


 早藤は微笑んだ。その様子にどこか気恥ずかしさを感じた俺は、駅前のプリン屋に視線を動かした。

 本当にプリン専門店って看板に書いてるよ。マジであるんだな、専門店。


「助けたなんて大袈裟なことはしてねーよ。まだまだこれからって感じだ」


「謙虚だなぁ。……でもよかった。それってわたしたちもまだ手伝えるってことだよね」


「それは確かによかったよね!」


「え……?」


 早藤と笹川が頷き合う。その様子に驚いたように胡桃沢は顔を上げた。


「友達なんだから、手伝わせてよ。それにこの問題はわたしたちも無関係ってわけじゃなさそうだしね」


「そーそー。ひめがひとりで抱え込む必要なんてないんだよ?」


 笹川は胡桃沢の手を取った。優しい眼差しでその手を両手に包み込む。


「弘子……未奈ぁ……」


 胡桃沢は感極まったような面持ちで唇を震わせた。


「仲直り出来るといいね」


「うん……うんっ……」


 早藤がもう一方の手を取って、三人は仲睦まじく笑い合った。


 どうやらお仲間が増えたようである。まさかこんな大物とお近づきになるとは思いもしなかったが、果たしてこれが吉と出るか凶と出るか。清瀬がこの中に加われば最強の美少女軍団となる訳だが、それは実現するのだろうか。


 ……とりあえず、俺のアウェー感が半端ないのでどうにかして欲しいです。

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