6話
アレックスが透の名前を叫んで駆け寄る。僕も少し遅れて駆け寄った。
透の傷口はふさがっていた。それを見て僕らは確信する。
透は寄生された。もう助からない。
「バカ野郎。何でこんな事になった?」
「奇怪虫が二匹いてね。一匹は倒したが、美崎がやられそうになって庇ったらこの様さ……」
僕は自分の判断を悔やんだ。あの時すぐに晴臣を追いかける必要はなかった。人質の状態を確認することを怠った僕のミス。
それこそ僕かアレックス、どちらかが残っていればもしかしたらこうはならなかたかもしれない。
だが悔やんでも仕方がない。変えようのない結果は、もう出てしまっているのだから。
今から僕たちは透を殺す。
「美崎は無事だよ。気を失っているだけだ」
「あぁ」
アレックスが下を向いたまま答える。
「アレックス、頼めるか? シユウ君にこういうことを任せるのは酷だ」
僕が悔やんでいることを察してか、それとも僕がまだ若いからかそのどちらもか、透は僕を気遣うように言う。
「わかっている。これは俺の仕事だ」
アレックスはまだ顔を上げない。その代わりに透の頭に銃をを向ける。
「最後に言い残したことはあるか?」
「どうだろうね。悔やむことはたくさんあるが、言い切れないからやめておくよ」
「すまなかった……」
「別に君が気に病むことじゃないさ。美崎を庇うことを優先した僕のミスだ。僕は最後まで誰かを守ることを捨てられなかった」
「それがお前だ。悔やむことは無い」
僕の言葉に透は少しビックリしたような顔をする。
「珍しいな、君が僕を褒めるなんて」
「別に褒めたつもりはないけどな」
褒めたつもりは確かになかったけれど、その言葉に嘘はない。この仕事を英雄的だと誤認する彼を僕は気に入らなかったが、それでも周りを守ろうとする姿は嫌いではなかった。
「僕は褒め言葉と取っておくよ」
「好きにしろ」
「ありがとう。じゃあ、頼むよ。なるべく痛くしないでくれるとうれしいな」
「笑えねぇな……」
アレックスの言う通りだ。本当に、笑えない。
「そうだな。悪かった」
その言葉の後、アレックスが引き金をゆっくりと引く。バンッという破裂音と共に透の体が地面に倒れる。もう、透の体は動かない。死んだのだ。
僕らと共に戦い、言葉を交わした彼はもういない。そこにあるのは彼の骸だけ。
「本当、クソッタレの職場だよ……」
アレックスの呟きが静かに夜の港の空に響いて消えた。