39話
ガタンと言ういつもの音がして転送が完了する。転送装置から出るとそこはよく知る光景だった。
螺旋の番人がある町のすぐ隣の町。僕も何度か訪れたことのある町の中心地。
それなりの繁華街だ。人通りも多い。もっとも今ここにいるのは僕たちだけ。
「こんな街中で人がいないって、見ていて気持ち悪いですね」
美崎の言葉に僕も同意する。
普段の町並みを知っている分、隔離エリアの力とわかっていても、何とも言えない気持ち悪さを感じてしまう。
「しかし、町のど真ん中ってのは珍しいな」
アレックスが言う。
確かにそうだ、奇怪虫の現れるのは人気の少ないところが多かった。それは寄生されるような人間が、暗い場所を好んでいるというのもあるだろう。
人を殺したいなんて暗い感情を持ったまま白昼堂々歩くというのはやはり難しい。
当然。人の多いところで誰彼構わず殺したいなんて願望を持つものもいるだろうが、個人的な恨みなんかが溜まっているタイプがほとんどだ。
「相手の場所?」
ジンに問われ、手元のデバイスでチェックする。
「この先五百メートル地点。相変わらず動きはなしか」
「本当に気持ち悪いわね。今回の敵は」
サクヤだ。その気持ちはよくわかる。
「問題ないさ。戦力的には十二分だ」
まったく、ジンのその自信はどこから来るのかと疑問に思う。
「そうね。私達なら大丈夫ね」
サクヤがジンを見て言う。
なるほど、ジンの自身はサクヤと共にいるからこそのものらしい。この二人は互いを深く信頼しあっているようだ。
僕は二人の間に流れる雰囲気からそう感じた。
そう言えば事前に読んだ二人の資料で数年間同じ隊でコンビを組んでいたと書いてあったのを思い出した。
「作戦は最初に伝えたとおりだ。僕が陽動。アレックスと美崎は僕のバックアップ。ジンとサクヤは遊撃だ」
『了解』
一斉に返事が来る。戦いの始まりだ。
駆ける。僕は誰もいない町の中を全速力で駆け抜けた。
五百メートル先、交差点のど真ん中。情報通り、赤いコートが視界に映る。
「やるぞ、黒人」
刀から力が与えられる感覚。
そして消える。
「一瞬で死ね」
血の王の背後に回り込む、一撃で仕留めるその強い意志の元、刀を振るう。
だが、刀は届かない。躱される。
「ちっ」
刃が空振る感覚に僕は舌打ちをする。
今の躱し方、まるで僕たちがここに来ているのをはじめから知っていたようなだった。
だとしたらいつからだ? 転送した直後か、それとも僕がこいつに接近したときか?
「気色悪い」
「おい、仕留めそこなってるじゃないか」
ジンが言う。
「うるさい! 集中しろ!」
今のやりとりだけでわかる。こいつは普通の奇怪虫ではない。無駄な話をしている暇はない。
「あぁ、やっと来ましたか」
突然男がしゃべりだした。
「おいおい、こいつ奇怪虫のくせにしゃべるのか?」
ジンがビックリするのもわかる。言葉をしゃべる奇怪虫など聞いたことがない。そもそも、五年前の血の王だって言葉をしゃべることはなかった。
「奇怪虫? そんなものと一緒にしないでくれ。僕はそうだな……」
「そこにいる君らの班長さんに近い存在と言えばわかりやすいかな?」
「ふざけるな。お前の反応は奇怪虫のそれだった。僕と同じなわけがない」
「当然さ、だから近いと表現したんだ。君は奇怪虫に近い人間。そして僕は人間に近い奇怪虫」
なるほど、そういう意味なら合点がつく。しかし、こいつの話をどこまで信じていいのかわからない。
こちらが全く情報を掴めていないこの状況で向こうで、相手が一方的に情報を話すメリットはない。
そもそも、なぜこいつは僕のことを知っているのだ? わからないことだらけだ。
「疑ってるね」
フードの中で男が笑う。
「その顔は僕の言葉が本当かどうか疑っている顔だ」
「ならついでに自己紹介をしよう。そうすれば、もう少し僕の話を信じる気になるだろう。まぁ、そもそも自己紹介なんて必要のないものもここにはいるが……」
男が被っていたフードを脱ぐ。
「僕の名前はクリス・ミラー。久しぶりだね。アレックス」




