33話
いつもの河川敷。僕は久しぶりにそこに訪れていた。
なぜ久しぶりなのかというと佐伯綾音という少女と知り合ってしまったから。彼女のあの態度では二度、三度と僕に接近してくるだろう。だがそれは僕にとっても、彼女にとっても、好ましくはない。だから日にちを空けてここに来た。
今後もここに来る頻度は少なくなるだろう。
僕は今日もいつもと同じように、罪悪感を忘れないように目をつむって己の過去を振り返る。
しかし、そんな僕の前に一番恐れた人物が現れる。
「あの……お久しぶりです……」
目を開けるとそこにいたのは佐伯綾音、彼女だった。
クリスの占いは案外、早くに当たった。
恋のチャンスはすぐに訪れた。路地裏で占ってもらった後、治樹と別れた綾音はすぐにこの河川敷に足を運んだ。クリスに言われたからだろうか、なんだか彼、高木正太郎に会えるような気がしていた。そしてそれは叶った。
正太郎はいつもの河川敷のベンチに座っていた。
「あの……お久しぶりです……」
そう声を掛けて良いのか戸惑って、少しぎこちない感じの挨拶になってしまった。
「えっと……」
正太郎も戸惑うように返す。もしかして綾音の事を覚えていないのだろうか?
「私です、佐伯綾音です。この前助けて頂いた……」
そう言うと正太郎はふぅっと息を吐いて「すまないが……」何かを言おうとする。
だが正太郎の言葉が言い終わるよりも早く、綾音のポケットが光り始めて、綾音は驚いて自分のポケットの中に入っていた物、ポケットの中で光っていたそれを取り出す。
光っていた物、それはクリスから貰ったあのキーホルダーだった。
「えっ? 何?」
綾音は状況が理解できずにあたふたとする。その間にも手の中のキーホルダーは光を増していく。
「それを投げ捨てろ!」
正太郎が叫ぶ。綾音はどうして良いか分からず、言われた通りに手の中にあるそれを投げ捨てる。
宙を舞うキーホルダー。その放つ光が一段と強くなり地面に落ちる。綾音の投げる力ではそう遠くまで投げられない。それほど遠くない草むらの上で、キーホルダーはまだ光り続ける。
光り続けるキーホルダー光を放っているのは琥珀色をした石だ。さらに石が膨張し始める。みるみるうちに。どんどんと。
その光る石は人間と同じくらいの大きさまで膨れあがると、形を変える。
その形を化け物の様な、異形な姿へと変えた。
「ギィィィアァァァッ!」
石は咆哮を上げ、最早それは一匹の化け物と化していた。それと同時に、辺りの景色も一変する。
真っ暗になったのだ。一面黒の、まだ昼過ぎで、暗くなるのにはまだ早いというのに、星一つ見えないほど真っ暗に。
世界に光が失われるのとほぼ時を同じくして、綾音と正太郎以外の河川敷にいた人間達も消える。
「なにこれ!?」
何が起きたのかわからない。戸惑う綾音の前で正太郎が呟く。
「これは対奇怪虫用の隔離エリア?」
正太郎は驚きはしたようだが、この真っ暗な世界を知っているようだ。正太郎は尚も呟く。
「隔離エリアが展開されたと言う事はあいつは奇怪虫ということなのか?」
ぶつぶつとなにやら呟く正太郎。
綾音には正太郎が何を言っている言葉の意味が理解できない。綾音にはこの状況を一つでも理解することはできなかった。それでも正太郎は何かに納得したようにベンチから立つと、石の変化した化けものに向き合う。
「つまり、僕はこいつを倒せばいいわけだ」
正太郎はそう言い放った。




