31話
「はぁ……私、嫌われちゃったのかなぁ……」
昼休みの教室、佐伯綾音は一人自分の席で考え事にふけっていた。考えているのは当然綾音を助けてくれた彼のことだ。この前、勇気を出して彼にお礼と称して声を掛けた。今までバレンタインデーの義理チョコですら買った物を配っていた自分がクッキーまで作って。
だけど、その日から彼が通学路の河川敷に現れることはなかった。もう三日もたっているのに一向に。もしかして避けられているのか。そんな風にさえ思ってしまう。
「私なにかしたかなぁ……」
と考えてみても何も思い浮かぶ物がない。彼は綾音を助けてくれたときのように淡々としてたし、なにか嫌そうな顔をしてはいなかった。
とは言え、うれしそうな顔をしてもいなかったわけだが、それでも嫌われるような身の覚えはない。ならばなぜ彼は河川敷に現れないのか?
結局、結論は出ない。
「もしかしてクッキーがおいしくなかったとか?」
それなら理由も簡単だ。
「えー、でも砂糖と塩を間違えたりもしてないし味見もしたいし……」
そんな事を呟いていたときだった。
「よっす、綾音。なにぶつぶつ言ってるの。気持ち悪いぞ?」
頭の上で声がした。綾音は声のした方に目を向ける。声の主は分かっている。活発な、
少し綾音を小馬鹿にしたような台詞。
「何よ、治樹。私が真剣に悩んでいるのに」
綾音は声の主、佐藤治樹に向かって睨みつける。今はあんたに構ってやる時間はないんだけど。
「こえーよ。せっかく幼なじみの俺が相談に乗ってやろうっていってんのに」
などと言って笑う治樹。本当にその気があるのか分かったもんじゃない。どうせおちょくりに来ているのだ。そうに決まっている。
「幼なじみじゃなくて腐れ縁よ。あんたと私は」
治樹とは幼稚園入学前からの付き合いだ。家が近所で、なおかつ母親どうしが元々知り間汰らしく小さい頃から自然と治樹とは一緒に遊んでいた。
小学校から中学校で計7年も同じクラスで、高校まで一緒の進路。本当に腐れ縁だ。このままだと治樹は大学まで綾音と一緒の大学に行きそうだとさえ思う。
「それって同じ意味じゃないの?」
そう言って治樹は首をしかめる。
「大違いよ。特に私の気分的に」
後者の方がもううんざりというニュアンスに聞こえる。そんなふうに思う。前者ではなんかいかにも仲の良い感じがして嫌だ。いや、別に治樹と仲が悪いわけではないのだが、なんとなく仲が良いと思われるとイライラする。
なんでイライラするのかは綾音にもわからないが……
「それで何悩んでるんだよ。もしかして恋か? ないよなー綾音が恋なんて」
「なっ、うるさい。悪かったわね!」
綾音は思わず叫んでしまった。教室にいるクラスメイトの視線が一瞬だけ綾音に向けられる。私は恥ずかしそうに照れ隠しに治樹を殴る。
「もう、あんたが無神経だから悪いのよ」
「なに? 図星なの?」
治樹が笑顔でこちらを見ている。しまった。私は思わず「あっ」っと声をこぼしてしまう
「マジかよ……あの綾音が恋なんてねー」
面白いものを見るような目で綾音を見てくる。私はみるみるうちに顔を真っ赤にして「うるさい! あんたには関係ないでしょう!」といって席を立とうとする。
「いや、まてまてって。俺はお前の恋を手伝おうと思ってたんだって!」
そう言って綾音を止める治樹。
「手伝う?」
「そうだよ。俺さ、お前の恋を手伝いたいんだよ」
そう言う治樹を綾音は「はいはい、また今度ね」と受け流す。
「そう言うなよ。俺、駅前にいい占いの店知ってるんだよ」
「それがどうしたのよ?」
「だから占って貰うんだよ。お前の恋の行方を」
お調子者の治樹の言う事だ、正直当てにはならない。しかし、占いはちょっと良いかもしれない。綾音の心が少しだけ揺れた。
「占いか……」
この手のオカルトは特に好きと言うわけではないが、この際なら一回行って見るのも良いかもしれない。
「いいかもね」
相手が現れてくれなくて途方にくれているよりはよっぽど良いかもしれない。
「よし、じゃぁ決まりな。今日の放課後行くぞ」
そう言って治樹は大きく宣言する。綾音はしょうが無いわねといいながら頷く。
そうだ、くよくよしていても始まらない。この恋を実らせるために行動あるのみだ。




