28話
夜の街、ビルの屋上にコートを着た男が一人。コートの色は赤。まるで血で染め上げられたようなそのコートは闇の中でもよく目立つ。
男はコートについているフードを深々と被り、その顔は夜の闇ではほとんど見る事が出来なかった。
突如、男の目の前で、闇がうごめく。うごめく闇は形をなし、その姿を少女のそれにする。ドレスを着た少女。
その色は漆黒。その黒さは異常だった。闇、一言で言い表すならそれが一番だろう。まるで夜の闇をそのまま取り込んだように黒いそのドレスに身を包み、少女は軽くニヤリと笑う。
「珍しい事もあるものね。貴男から私に会いに来るなんて」
そう言って男の方に近づく。まだ、あどけなさの残るその顔はその顔似合わない不適な笑みを浮かべていた。
「近々、派手に動こうとしているんだ。協力者には援助くらいして貰わなければ困る」
「あら? 私は貴男に興味はあるとは言ったけど、援助するなんて事は言ってないわよ。間違っても貴男から強力を申しいでで援助するなんてことはしないわ」
「別に援助は必要ない。可能ならして貰うにかぎるが、無ければないでそれでいい。お前はそういう類いの協力者だ」
「なーんだ。わかってるんじゃない」
少女は尚も笑顔だ。
「それで、あれを手に入れる算段は出来たのかしら?」
「無論だ。そもそも五年前のダメージさえなければ、直ぐにだって動けた」
無表情だった男が少しでけ、そのフードの下で悔しそうに舌を噛んだ。
「そうね。でもあちら側には五年前貴男にそのダメージを負わせた化け物がいる。貴男と同種の化け物が……」
「同種の化け物……か。それを言うなら、お前も同じだろう?」
「私を貴男達と一緒にしないで欲しいわ。あなたたちとはそもそもの純度が違う」
少女が笑顔をやめる。先程の言葉は少女の癇に障ったらしい。だが、男はあくまで無表情で、会話を続ける。
「純度でいうなら俺よりも奴の方が低いだろう。あれは不純物が混ざりすぎだ」
「そうね、確かにそう。だけどこれから手に入れようとしているあれはもっと色んな物が混ざってる」
「混ざっていれば取り除けば良い。あれはそもそも純度だけでいえば俺達に近い。幸い、奴らの混ぜた物は所詮直ぐに除去できる。除去さえ出来ればあとは元通りだ。」
「そうね、でも気を付けなさい。人間って以外と恐い生き物ですもの」
気づけば、いつの間にか少女の顔は笑顔に戻っていた。
「そうだな。だが、故に破滅する」
男はコートの懐から琥珀色の石を取り出す。
「ふふ、面白くなりそうね」
その石を見て少女はまた、楽しそうに笑う。彼女にはこれから起こる事が見えているようだ。そんなふうにも見える。
「とりあえず私は高みの見物といきましょうか」
少女はそう言うと霧散し、闇に溶けるように消えていく。
「楽しい、楽しい、破滅を進めましょう♪」
夜の闇に少女の声だけが響いた。




