27話
螺旋の番人の本部には作戦室などのある主要区画とそれとは別に、宿舎区画が存在する。僕の自室もその中にあり、僕は自室に向かうため宿舎区画の廊下を歩いていた。
「あれ? シユウ君?」
僕の背後で声がする。声の下方向を振り向くと第三班、班長天道結衣がいた。
「結衣か、どうしたんだ、こんなところで?」
「今お風呂あがったところ。共同入浴場って時間限られてるから……」
そう言われて見て見ると服も薄着でつやつやとした肌は先程風呂に入っていたのだろうことを感じさせていた。
「シユウ君も早くしないと時間、過ぎちゃうよ?」
「別に、僕は自室のシャワーで十分だけどね。結衣もよく面倒なのに行くね」
自室から共同浴場は少し遠い。だから僕はあまりそこを利用したことがない。
「女の子はそういうわけにはいかないの」
「そう言うもんなのか?」
「そういうものです」
結衣はそう言ってクスッと笑う。その顔はとてもかわいらしい。彼女にしろ、美崎にしろ、螺旋の番人には不釣り合いな容姿をしている。
普通の暮らし、普通の人生が送れていれば彼女達はどれだけ幸せだっただろう……そう思うと胸が苦しくなる。
自分のように罪を背負ってここに来たのならいざ知らず、結衣はコハクとの驚異的な適合率のせいで、半ば強引に螺旋の番人に入ることを余儀なくされた彼女ならばなおさらだ。
「そういえば、前回かなりあぶなかったと聞きました」
結衣は心配そうに僕の顔を見た。
「別に、あれくらいはどうってことないよ。そもそも僕は過去にそれ以上の力を使ったこともあるんだから」
「でも、あの時は三日間目を覚まさなかったじゃないですか。私を助けようとして、本当に感謝しても仕切れないほどです」
そう言われて思い出されるのは五年前の任務。公式には特殊任務一六七と呼ばれる任務だ。その任務あたった時の第三班は壊滅的打撃を受けた。
それを当時僕が所属し、鬼島率いていた第一班が救援に向かった任務。特殊と名付けられるだけにその任務は難航し、僕も力を極限まで解放せざるを得なかった。
「それでも、雄祐を助けることはできなかった……」
雄祐、結衣の前の三班の班長の名前。あの戦いで僕は彼を助けることは出来なかった。
そう、極限まで力を解放してもなお、助けることができなかった。それでも幸いか、結衣達だけは助ける事が出来た。それだけがあの時の唯一の救い。
「そんな事はありません! シュウ君はよく頑張ってくれました。私の命の恩人です。私のヒーローなんですから、胸を張って下さい!」
「ヒーローか、僕はそんな大層なものじゃないよ。僕には罪人がお似合いだ」
僕の言葉に結衣は寂しそうな顔をする。彼女にとっては僕がそう言う言葉で自分を自虐することをうれしく思っていないのだろう。直ぐに「ごめん」と言って謝る。
「いいですよ。ただ、自分の命は大切にして下さいね。同年代のメンバーはここじゃ貴重な存在なんですから」
「そうだな……って、なんか暗い話になったな……」
暗い話などするつもりはなかったが、なぜかそんな方向に向かってしまっていた。
「そうですね。この話はやめましょう。では、私は自室に戻ります」
「ああ」
そう言って結衣と別れる。
結衣が見えなくなってから僕は口を開く。
「で、そろそろ出てきたらどうだ?」
その言葉で、物陰から美崎が出てくる。
「あれ? バレてました?」
美崎はバツの悪そうな顔でこちらを見ている。
「当たり前だ。まぁ、結衣は気づいて無かったみたいだけど……で、どこまで聞いてた?」
「ほとんど、話の始まり全部です」
はぁ、僕は呆れてため息を吐く。隠れているのは解っていたがまさか全部聞いていたとは、まったく。
「その……ごめんなさい」
美崎が素直に謝る。
「いいさ、別にそこまで聞かれて困る内容でもなかったしな」
「そうなんですか?」
意外そうな美崎の問いに頷く。確かにプライベートな内容だし、聞かれて良いないようだったかは怪しいが、それでも少し調べれば直ぐに見つかるような話だっただけにそこまで隠すようなことでもない。
「そういえば、その袋どうしたんですか?」
美崎が僕の右手に握られた紙袋を指さして言う。
「あ? これか、これはちょっとな変なのに絡まれた女の子を助けたらお礼にって……まぁなんだ、別にお前が気にするようなもじゃないな」
僕はそう説明する。すると美崎はなぜか怒ったように僕の方に寄ってきて……
「女の子を助けた? そのお礼? なんです、そのかわいくラッピングした紙袋は! こんなの……こんなの……」
みるみるうちに美崎の顔が不機嫌そうな顔に変わっていく。
「なんで美崎が怒るんだ? 別に変な話でもないだろう?」
「なにが、変な話でもないだろうでですか! そうですね、シュウさんってそいうところがありますよね。さっきも親しげでしたし」
「だからなんなんだ?」
「はーぁ。シュウさんにこんな素質があるなんて思いませんでした」
美崎はそう自分で話を自己解決してその場を去ろうとする。なんなんだ、本当に訳がわからない……
「いや、何なんだよ。お前?」
「べ・つ・に!」
美崎はそう言い放つと走ってその場を後にした。
「面倒事、また一つ追加」
僕は一人、廊下で呟いた。




