22話
目覚めた先はが螺旋の番人の医務室だった。どうやら僕は戦いの後、眠ってしまっていたらしい。ゆっくりと身体を起こす。窓の外は真っ暗だ。僕は一体、何時間眠っていたんだろう?
「お目覚めのようだな」
声のした方に目を向けるとそこには鬼島が医務室に用意されたパイプイスに座って煙草を吸っていた。
螺旋の番人の医務室とは言えこんな場所で煙草を吸うのは間違いなく常識知らずだ。
「大分無茶をしたそうじゃないか。アレックスの報告だと三つ目まで使ったそうじゃないか」
鬼島が呆れたように言う。
「まぁ、どうせお前のことだ。自己犠牲のつもりだったんだろう」
そう言って鬼島はタバコに口をつけるとふう、と灰色の煙を吐く。
「だけど、結果的に誰も死なずに済んだ」
僕がそう言うと、鬼島はさらに呆れた表情をする。
「だからといってお前が自分の命をないがしろにする必要はない。救ってやった命を無駄にされては気分が悪い」
「そうだな、すまない」
螺旋の番人に入ってすぐの僕は自分の命に対してどこか投げやりな部分があった。化け物になった自分はただ戦うしかない。
父親を殺し、挙げ句の果てには母親も弟も殺してしまった自分には救われる必要なんてない。そんな考えを鬼島は変えてくれた。
あのまま戦い続けていれば僕は奇怪化細胞に簡単に飲まれてしまっていただろう。
その姿を知っているからこそ余計に心配なのだろう。
「とにかく、命は大切にしろってことだ。そこにいる仲間のためにもな」
鬼島の言葉に疑問を浮かべていると、自分の足下の方から微かな声と小さく身動きする気配に気づいた。
美崎だ。
イスに座った状態から、上半身を僕の寝ているベットにつっぷした状態で寝ている。
「おい……」
僕はそう言って美崎を起こそうとする。それを鬼島が止める。
「まぁ、そう言わずに寝させてやれ、さっきまで寝ずにお前の看病をしていたんだ。私は時間が経てば起きると何度も言ったんだけどな」
「そうか……」
僕はもう一度眠っている美崎の顔を見る。
「まったく、こいつがここまで僕を心配してくれるとは思ってなかったよ」
少なくとも出会って直ぐの頃では考えられなかった。
「そうか……このままだと風を引いてしまうかもしれない。早く毛布でもかけてやれ」
「僕は見ての通り動けないんだが?」
今僕が動けば美崎は起きてしまうかもしれない。
「わかった、私が持ってこよう」
鬼島はやれやれと肩を落としながら座っていたイスから立ち上がる。煙草を銜えたまま医務室をでていこうとする。
「あのさ、さっきからずっと思っていたんだけど……」
僕はそう言って鬼島をとめる。
「ここは禁煙だろ?」
僕がそう言うと鬼島は「知らないなルールだな」と言って笑って医務室から出ていった。




