21話
気がつくと、僕はまたあの薄暗い牢の前にいた。
「惜しかったね。もう少しだったのに」
檻の中の僕に似たそれが言う。薄着身悪い笑顔を浮かべて。
「言ったはずだ。そうはならない」
「そうだね。これのおかげがあるとはいえ流石にしぶとい」
腕に巻かれた鎖を見ながら言う。
「まぁでもいいさ。どうせまた君は僕を頼らざる負えなくなる。まだまだチャンスはいくらでもある」
わかっている。この螺旋の番人(この仕事)を続けている以上、力を求める場面は絶えず現れ続ける。
今はまだ黒人の力で抑え込んではいるがそれもいつまでもつかはわからない。
黒人と僕とこいつ。
このパワーバランスが崩れればたちまち僕は奇怪化細胞に飲まれてしまうだろう。
「僕は君の黒い部分。恨みや妬みとかそういう負の感情が僕は大好きだ。君の心が揺らげば僕はもっと強くなれる」
「それがどうした?」
そんなこと言われるまでもなくわかっている。僕はもう二度とあの時のような感情に支配されはしない。
「そんな強がりがいつまで続くだろうかなってね。君はもう一度失敗する。あの時のように」
檻の中の僕の周りで闇がうごめき出す。不気味で黒い、闇の奔流。
「僕は君の力だ。そして同時に君の闇、君の業。だから忘れるな、僕はいつだって君を取り込むために手薬煉を引いて待っていることを。闇からは決して逃れられない」
「無理だな。そんなものに僕はくっしない」
「口では何とでも言えるよ」
檻の中で笑みを浮かべ続ける。
「でもね、心なんてものは、意思なんてものは、案外簡単に折れてしまうものなんだよ。それを知らない君でもないでしょ?」
檻の中のそれは指先で漂う闇を操っている。まるで子供が玩具で遊ぶように、ドス黒い闇を操っている。
「さて、話はここまでだ。君は現実世界に戻る。なるべく早くまた会いに来なよ」
僕の意識はそこで現実世界に引き戻された。




