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インシエント大陸編  覇権と融和の選択 海賊対処編 

 日本郵船って、海上自衛隊を未だに目の敵にしているそうです。

 旧海軍が戦時中に艦隊決戦に傾倒してたせいで酷い被害を受けたからだとか

 ソマリアへの派遣で多少は改善したそうですが

 海を自由気ままに駆け巡り、敵対する者を力で捻じ伏せ、金目の物を手にする

 物語の題材にされる事も多い海賊は、主にロマン溢れる存在として取り上げられている。

 だがその実態は、海を活動領域とする盗賊、ないしは特定の海域を縄張りとするある種の独立勢力である。

 海賊と言えば、北欧のバイキングが良く知られている。

 高い航海時技術と戦闘力を持ち、地中海や北米大陸まで進出していた。

 日本では、毛利家と契約した村上水軍、織田家と契約した九鬼水軍等、海賊でありながらある種の軍事組織として様々な活躍を見せた。

 近世に入ると国家の公認を受けた私掠船が登場し、国の後ろ盾を得て堂々と海賊行為を行う例が出た。

 こうした行為は、敵対国の貿易を妨害する事で、経済面からの疲弊を狙った破壊工作の一種である。

 更に時が下ると、産業革命による技術革新から船舶も高性能となり、海上の治安維持も容易にこなせるようになった事で海賊は急速に姿を消した。

 だが現代では、再び政情不安な地域を起点に海賊行為が横行している。

 特に、自衛隊も派遣されたソマリアが良く知られている。

 しかし、より技術が進歩した現代では、本格的な対策が採られてしまえばあっという間に鎮静化されてしまい、ソマリア沖は既に平穏を取り戻しつつある。

 こうした海賊行為は、時代を問わずある問題を抱えている。

 それは、襲う相手が見付からなければ自身が困窮してしまうと言う事である。

 その為、どの時代であろうとも必ず商船の往来が活発な海域を選び、尚且つ取り締まりを逃れる工夫をする。

 海は広いが、効率の良い航路を採ろうとすれば通る海域は限られて来る。

 中でも狭い海峡はあらゆる航路が集中するエリアとなり、そうした場所はチョークポイントと呼ばれる。

 このチョークポイントこそ、海賊の出没地点となる。

 ソマリア沖で海賊が出没したのも、インド洋から地中海へ繋がる世界有数のチョークポイントだからである。

 この傾向は、ハーベストでも同様となっている。

 そしてインシエント大陸に巣食う海賊は、必然的に旧ハンカン王国周辺に集まっていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 昭南島



 クローネル帝国の要請によって暁帝国と開戦し、返り討ちに遭ってしまった国であるハンカン王国。

 この国を独立国のままとせず、併合を行ったのには理由がある。

 この時点での暁帝国の影響下にある領域は、本土 硫黄島 無名諸島 スマレースト大陸 昭南島 である。

 これ等を線で結び、その内側を暁帝国の国益上の核心とする。

 東部地域のインシエント大陸以東を、事実上暁帝国の内海とする戦略であり、<内海化戦略>と呼称している。

 昭南島はその戦略の最西端として選ばれる事となり、言わば暁帝国の核心的利益の一翼を担う存在と見做されたのである。

 この戦略は後に暁勢力圏の構築へと発展して行くが、その後も国防戦略の中で生き続ける事となる。

 ともあれ、この時点ではこの内海の治安の確保が最重要と認識されている。

 その中で最も不安定化しているのが、やはりと言うべきか昭南島周辺であった。

 戦時下から続く統制の乱れ、追い討ちを掛ける様に超短期間で決定的となった敗戦の末路。

 治安崩壊を起こすのも当然であった。

 終戦後の現地に於ける最初の仕事は、この崩壊した治安の早急な回復であった。



 サンカイ近郊



「ヒイィィィィィィィィ!!」

 昭南島東側の玄関口であるサンカイから程近い街道付近にて、複数の悲鳴が響き渡る。

「オラァ、大人しくしろ!」

「イヤァァ、離してーー!」

「コッチへ来い、ブチ殺すぞ!」

 馬車の周囲に群がる人と馬。

 武装した男達が、馬車の所有者である非武装の民間人を襲っていた。

 彼等は、元ハンカン王国の正規兵である。

 暁帝国軍の上陸戦の際にサンカイ周辺に陣取りつつ、その圧倒的な戦力に恐れをなして逃亡し、その後の集結命令にも対応出来ずに野盗へと身を落とす事でどうにか生き延びて来た一団である。

 敗戦国にはありがちな光景であり、他でも同様の事態が頻発している状況にある。

「さーて、災難だったなぁお前達」

 一ヶ所に集められた生存者に対し、野盗の一人が話し掛ける。

「近頃はこんな街の近くでも物騒になっちまって、お前達みたいなのはいい鴨になっちまってる。見ろよ」

 指差した先には、複数の死体が転がっている。

 それ等は武装しており、戦闘の跡が見受けられる。

「用心棒を雇うたぁ賢い選択だな。だが見る目が無かった。こんなモグリを雇っても意味なんてありゃしねぇな?ん?」

 個人での移動ならばともかく、それなりの規模であれば護衛を雇うのは平時より当たり前である。

 だが、そうした護衛が想定している相手は、通常であれば猛獣や体の低い盗賊程度であり、十分対処出来る筈であった。

 しかし、十分に訓練された元正規兵となれば話は変わる。

「こんな連中に引っ掛かっちまった上に、襲われて小さくなって震えてるお前等が哀れで仕方無ぇ。どうだ、これからは俺達が用心棒として守ってやろうか?」

「それは良いな。最近はホント物騒だからな、安全な俺達の隠れ家に来るといいぞ。」

「まぁ、用心棒としての報酬は用意して貰うがな。俺達は安く無ェが払えるかな?・・・おっと、そんな心配はするだけ野暮ってモンだな。何せ、お前達は揃いも揃っていいモン持ってるんだからな。」

 嫌らしい笑みを浮かべつつ、話を進める。

 それらしい言葉を使ってはいるが、何を目的にしているかは一目瞭然であった。

「さーて、そうと決まれば早速ゥ・・・?」

「オイ、どうした!?」

 野盗の一人が、何の前触れも無く崩れ落ちる。

「全く、何処で飲んだくれてやがったんだか・・・戻ったら厳罰に処・・・ヒッ!」

 酒の隠し飲みをして潰れただけだと判断した男が無理矢理起こそうとするが、顔を見て悲鳴を上げる。

 目は半分白目を剥いており、表情に生気は無く、肝試しで使いそうなお面の様であった。

 更に、額から止め処無く血が溢れ出ている。

「な・・・何が起きた!?」

「いい一体誰が!?いつの間に!?」

「刃物でやられた訳でも無ぇ、魔術の痕跡も無ぇ、矢が刺さった訳でも無ぇ・・・何だってんだ!?」

 あまりにも唐突な仲間の死に、そうした事態に慣れている筈の元軍人ですら大きく動揺を見せる。

 その直後、



 ドシュッ



「グアッ!」

 一人が唐突に声を上げる。

「何だ!?」



 バスッ



「グッ!」

 更に一人が声を上げ、そのまま倒れる。

「な、何が起きてるんだ!?いきなり血を吹いたぞ!?」



 ブシュッ



 最早、声を上げる事すら無い。

 更に一人が処理される。

「い、嫌だ・・・嫌だああああああああああ!」

 とうとう残り一人となった野盗がパニックを起こし、全速力で逃走する。



 バスッ



 しかし、謎の攻撃からは逃れられず、頭から血を吹き出し音も無く倒れた。

 この顛末に対し、被害者達は動く事も出来ずにただ震えていた。

 次は誰が犠牲となるのか?

 だが、待てど暮らせど誰かがやられる事は無く、そうこうしていると最近になって頻繁に耳にするようになった音が聞こえて来た。



 ブォォォォォォォォォォォ



 やって来たのは、暁帝国軍の輸送トラックである。

 目の前で停車すると、荷台から歩兵が降りて来る。

「生存者確認」

「野盗と思しき死体を確認」

「護衛と思しき死体を確認」

 直ちに現状を確認し、生き残った被害者の元へ歩み寄る。

「通報を受けて来ました。皆さんは商人で間違いありませんか?」

「は、はい、その通りで御座います!」

「災難でしたね。もう少し早く駆け付けるべきでした・・・」

「いえいえ、とんでも御座いません!私達は長年商売をやっておりますが、こんなに熱心に活動されている軍人様は初めて見ます!」

 実際、治安維持活動自体は旧ハンカン王国時代でもそれなりに行ってはいるものの、人里から離れた場所まで徹底的に行うのは無理があり、末端の平民の為にそこまでしようと思う者も皆無であったのが実情となっている。

「取り敢えず、サンカイまで同行願います。今回の件の詳しい話も聞く必要がありますので。」

「そ、そうですか。あの・・・私達はそのまま拘束されてしまうのでしょうか?」

「え?いえ、そんな事はありませんよ。詳しい経緯を把握して、今後も予想される同種の事件の教訓としたいだけです。」

「何と、そんな事まで・・・分かりました、喜んで協力致します。」

 一国の規模からすればほんの些細な出来事に過ぎない盗賊騒ぎ。

 しかし、そうした些細な出来事に本気で取り組む姿は全土で見受けられ、昭南島の治安は確実に回復へと向かうと同時に、現地住民の暁帝国に対する支持も良好な物へと変化を続けた。



 シーエン  総督府



 旧ハンカン王国に於いて最も巨大な建造物。

 国王ハンガンの居城であった王城を接収し、現在は総督府となっている。

 総督には、元ビンルギー公国副大使であった伊藤が任命された。

「ふーん・・・そのトライヌスとか言う奴が元凶で間違い無いと。」

「その通りだ。直接皇帝陛下からの命を受けた訳では無く、使者を通しての要請だがな。」

 伊藤の目の前にいるのは、元ハンカン王国国王ハンガンである。

 ハンカン王国が暁帝国に対して宣戦布告するに至った理由は、開戦前の時点で大使館を通して伝えられてはいたが、裏付けの為にハンガンから事情を聴いているのである。

「それにしても、こうもあっさりと敗北する事となるとはな・・・甘く見過ぎた様だ。」

「後悔先に立たずだよ。相手をよく知りもしないで喧嘩を売ると、往々にして碌な事にならない。」

 ハンガンは心底悔しげな表情をし、伊藤は特に気に掛ける様子も無く言い切る。

「それで、私はこの後どうなるのだ?」

「貴方の処遇は本国が決める事だから、僕からは何とも言えない。取り敢えず、収容施設の方に移って貰う事になるね。身の安全は保障するから安心してね。」

 流石の伊藤と言えども王族を相手にしている事もあり、多少は丁寧な言葉遣いが入り混じる。

「一国の主と言えども、敗北すればこうなるか・・・だが、呑気にしていると今度は貴様等が私の立場になるだろう。」

「クローネル帝国の事を言ってるのかな?」

「その通りだ。単なる負け惜しみに過ぎないが、彼の国は我が国とは文字通り桁が違う。せいぜい足搔く事だな。」

 そう言い残すと、扉の前で控えていた兵士の後に付いて退室した。

「失礼します」

 入れ替わりで、秘書がモウテンと共に入室した。

「総督、例の件で進展がありました。」

 そう言いつつ、資料を広げる。

「軍の無人偵察機を使用し、徹底的に追跡した結果、拠点の位置が割れました。」

 現状、島内の治安は投入された軍を充てる事によって急速に回復している。

 一方、あまり変化が見られないのが海上の治安である。

 周辺海域は大陸側の各国との対立関係から荒れ易かったが、その状況に乗じて海賊も活発に動いており、対立構造とは明らかに無関係な被害が一定数報告され続けて来た。

 戦後もその数は減る事は無く、総督府に行政が移ってから海賊の追跡を続けていたのである。

「それで?」

「カイトウ諸島です。」

「それって何処?」

「そ う と く ?」

「アッ、いやぁそのぉ・・・」

 昭南島の北東には、誰も近付かない小規模な諸島が存在する。

 それが、<カイトウ諸島>である。

 単に島が乱立しているだけでは無く、それよりも小さな島とも言えない岩場も多数存在しており、それ故に狭く海流も複雑で速い事から、船乗りに忌避されている場所である。

 また、平地が極端に少なく耕作にもあまり適さない為、無人島と認識されている。

「あそこはかなり危険です」

 伊藤と秘書のいつものやり取りを遮り、モウテンが口を開く。

「周辺の海賊共は、確かにこれまでもあそこを我々の追撃から逃れる為に何度も利用していました。経験者として言わせて頂きますと、近付くべきではありません。」

 クローネル帝国でも名が知れている程に優秀であるだけに、モウテンは多方面での活動実績を持つ。

 だが、その中で唯一上手く行かなかったのが、海賊対処である。

 無論、何隻かの排除には成功しており、それだけでも相当な功績ではあるのだが、いざ本格的な排除に乗り出すとなると挫折するしか無かった。

 追い詰められれば決まってカイトウ諸島へと逃げ出す海賊達。

 追撃すれば、その地形が何よりの敵となって襲い掛かり、敵を捕捉するなど夢のまた夢と言う有様であった。

 戦闘をする前に損傷艦だらけとなり、その隙に逆襲を受けて大損害を被る。

 モウテン主導によって二度に亘って行われたカイトウ諸島の追撃戦は、この様な顛末で幕を閉じた。

 以降、カイトウ諸島は軍でさえも接近禁止とされる禁断の地となり、海賊対処もそれ以外の海域に限定される事となった。

「・・・その結果、現在に至るまで抜本的な解決が出来ずにいると言う訳です。それにしても、単なる逃亡ルートに過ぎないと思っていたあの場所が拠点として機能しているとは予想外でした。」

「情報ありがとうございます」

 秘書の爆発に気を取られている伊藤を放置し、話は進む。

「本件は治安維持に関連する案件として扱われますので、海上保安庁が対処する事となります。」

「ま、待って下さい!まさか、本気であそこへ向かうおつもりなのですか!?」

「勿論です」

「確か、海上保安庁とは警察機構の一種でしたね?相手はならず者とは言え、本格的な武装と多くの実戦経験を積んでいます。決して甘く見てはなりません!」

 既に、暁帝国の実力を正確に把握しているモウテンだが、いくら優れた技術を保有していようとも、警察組織は軍事組織と比較して武力は大きく劣る。

 増して、本気で討伐を行ったモウテン以下を返り討ちにする相手である以上、この決断は流石に蛮勇に思われた

「甘く見ているつもりはありません。むしろ、そうした人種に対して適任と言える組織です。」

「何ですって?」

「ならず者が相手でしたら、警察の方がプロフェッショナルです。まぁ、見ていて下さい。」

 自信満々の秘書に対し、不安が拭えないモウテンであった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 カイトウ諸島沖



「何でだろーなー、何でこんな所にいるんだろーなー?」

 気の抜けた声が響き渡る。

「少しは口を閉じろ!」

 気を張った声が響き渡る。

「だってしょうがないじゃないですかー!こんなアブない場所に送られてるんですからー!」

 巡視船しきしまの船橋にて、船長と副長が言い合う。

『予定地点到達まで、残り30分 各員は速やかに準備完了せよ』

「ほら、さっさと配置に着かんか!」

「あーれー・・・」

 近海を荒らし回る海賊の所在が割れた事で、海上保安庁による制圧作戦が実施される運びとなった。

 この作戦にはしきしま以下、計4隻の巡視船が投入される。


 第五管区隊

  PLH しきしま  PLH きい  PLH のと  PL あかいし


 いずれも外洋での酷使に耐える大型船である。

「モウテンさん、如何ですか?」

「・・・・・・」

 船長の言葉に、視察の為に同行したモウテンは反応出来ない。

(こ・・・こ、ここ、これが警察組織だと・・・?)

 可能な限り凹凸を無くそうと腐心した結果としてスマートな見た目の軍艦と異なり、武骨な見た目の巡視船は威圧効果として格段の差があり、モウテンを畏怖させていた。

 そうで無くとも、8000トン級や7000トン級など巡視船としては巨大過ぎるのは確かである。

「モウテンさん、大丈夫ですか?」

「・・・ハッ!な、何でしょうか?」

「意識有り、バイタル異常、休息の要有りと認む」

「副長」

「罪の無いジョークなのに・・・」


 船橋で茶番が繰り広げられている頃、後部に設置されているヘリポートでは緊迫した空気が漂っていた。

 そこには、防弾ベストに身を包み、MP5を装備した隊員が集合していた。

 彼等は、違法船舶やテロ組織のアジト等への直接的な制圧を目的として設立された<機動遊撃隊>の隊員である。

 言わば、海上保安庁傘下の特殊部隊である。

 警察庁にも専門の特殊部隊が存在するが、そちらとの大きな違いとして、特に閉所の制圧に力を入れている点が挙げられる。

 海上での治安維持を前提としている関係上、陸上と異なり開けた場所での活動はほぼ想定されていないが為の姿勢である。

 その為、近接戦闘では中世の正規軍にも引けを取らないと言われる程の腕前を誇る。

「搭乗!」

 出撃準備を整えたヘリへ一斉に乗り込む。

『予定地点到達 只今より、制圧作戦の開始を宣言する』

 無線を通して作戦開始が下令され、ヘリのエンジンは一気に出力を増した。



 カイトウ諸島内  海賊のアジト



 諸島の中央にある最も大きな島

 周囲は切り立った崖になっているが、その根元にぽっかりと穴が開いている部分がある。

 長い年月を掛けて海水に削られて形成された天然のその洞窟こそが、この一帯を荒らし回っている海賊のアジトである。

 洞窟の入り口はウェルドックの様に浸水しており、奥へ入るとガレー船と粗末ながらも整備された桟橋が存在する。

 この場所へ入る瞬間さえ見られなければ、航空偵察でさえ発見は困難を極める。

 更に奥へ進むと、そこには数十人のガタイの良い男達が酒盛りに興じていた。

「ハッハッハッハッハッハッ、今回も大漁大漁~♪笑いが止まんねぇや!」

「これで暫くは食うに困んねえだろうな。」

「そんな先の事は後でまた考えりゃぁいいさ!さ、今日はひとまず飲もう!」

「かーッうめー!一仕事終えた後の酒は格別だなー!」

 飲めや食えやの騒ぎを続けている内に酒は回り、話題は移ろう。

「にしてもよぉ、頭と幹部達は今頃奥で何してるのかねぇ?」

「バッカ、そんな無粋な事を聞くもんじゃねぇよ!アレだよ、アレに決まってんだろぉ?」

「いいなぁ・・・俺もムチムチピチピチの姉ちゃんと楽しみたいぜ!」

「ガッハッハッハ、全く分かっちゃいねぇんだからよぉ」

「ああ?」

「そこは可愛らしい妹系を求めるべきだぜ!ふとした時に癒される控えめな愛らしさこそ尊い!」

「なぁに言ってやがるんだテメェは!?そこはロリっ子(以下略」

「病んでるヤツの意見なんざ聞きたかねぇ!」

「何だとコラ!」

 和気藹々としていた筈の場が一瞬で修羅場へと変わり、馬鹿騒ぎは続く。

 一方その頃、此処から更に奥には入念に整備された部屋があり、そこでは海賊の頭目とその部下が真剣な表情で顔を突き合わせていた。

「最近の状況ですが、明らかに厳しくなっています。いつもよりも早めに切り上げざるを得ず、今回の成果も少々心もとない結果に終わりました。」

「最近、帆の無い巨大船を見る様になりました。商戦のフリをして何とかやり過ごしてますが、他の所の同業者が一瞬で沈められた噂を聞きました。」

「ううむ・・・」

 末端の構成員は気楽に飲み食いしているが、彼等の実情は深刻さを徐々に増している。

 少し前と比較して明らかに警戒の目が厳しくなっており、活動が低調とならざるを得ない状況が続いている。

 当然、成果も思う様に出ず、備蓄が少しずつ減少を始めていた。

 また、そうなり始めた頃に複数の行方不明を出しており、船と構成員を大きく減らしていた。

「やはり、帆を持たない巨大船とやらが元凶らしいな。だが、何故急にそんな連中が現れた?」

 苦境が始まるのとほぼ同時に目撃証言が報告され始めた巨大船。

 当初は一笑に付した頭目だが、此処に至っては情報の選り好みなどしてはいられない。

 そして、その問いに一人が口を開く。

「頭、聞いた話では、ハンカン王国が敗けたそうです。」

 全員がざわつく。

「敗けた?敗けたって、確かあの国は最近どっかの国に喧嘩を売ったとか言う話だったな?」

「いや待て、いくら何でも早過ぎるぞ。普通は決着が着くまでにどんなに早くても半年は掛かる。だからいつも以上に活動したんだろうが。」

「一戦して負けたならまだ分かるが、国が丸ごと敗けたと言うのか?有り得ない。」

 効率的に活動する為、彼等も情報の重要さはよく理解している。

 そして、ハンカン王国が開戦したと知り治安維持に割く余力が当分は無くなると判断し、奇貨としてより積極的な活動を開始したのである。

 その結果、多くが帰らなかった。

 予想とは真逆の結果に大いに困惑し、漸く得た情報がこれであった。

「だが、それ以外に説明が付かない。他国と戦争しながら俺達に此処まで手傷を負わせる真似が出来ると思うか?」

「そう言われるとそうだが・・・何をどうしたらこうなる?」

「そんな事は後で考えればいい。問題なのは、これからどうするかだ」


 「頭ァ!」


 今後の対策を考えようとした矢先、大慌てで構成員の一人が飛び込んで来た。

「何だ!?今、大事な話をしてる所だ!」

「大変です!大変なんでさぁ!」

「分からん、何が大変なんだ!?何が起きた!?」

「変な形した飛竜が飛んで来て、仲間が大勢やられちまいました!」



 アジト入り口



『高度3 これ以上は無理だ』

『目標を照準に捉えた 攻撃する』



 タタタタタタタタタタタタタ



 ヘリの側面に備えられた機関銃が火を噴く。

 海面スレスレで飛んでいるヘリの窓からは、洞窟の奥に停泊している海賊船、さらに奥にいる構成員が見えている。

 次々と機関銃で蹴散らし、船を蜂の巣にする。

『装填』

 目に付く構成員を粗方掃討し、今度は船へ向けて徹底的に撃ち込む。

 木造船では鉛弾の雨には堪えられず、開けられた穴は瞬く間に大きくなり、マストが傾き、舷側が抉れ落ちる。

『撃ち方待て、これ以上はオーバーヒートする』

 フルバーストで撃ち続けた銃身は陽炎を生み出していた。

『ガンマン、そこから敵は確認出来るか?」

 銃身の冷却を待つ間、現状を確認する。

『・・・確認出来ず、生存者は奥へ逃亡した模様 船も全損している これ以上の攻撃の必要は認められず』

『了解、一旦離脱する 後は彼等の仕事だ』


 ヘリが去り、死体とボロボロの海賊船が横たわるアジトの入り口。

 海風の音のみが外から不気味に聞こえる中、水面から人の頭がいくつも生えて来た。

 何も言わず音も無く上陸すると、周囲を警戒する。

「クリア」

 一言だけ発すると、後はアイコンタクトで済ませる。

「前進」

 陣形を形成すると、また一言だけ発して進む。

 奥へ行くと、騒がしい声が聞こえて来た。

「化け物が来る!早く逃げなきゃ」

「何処へ逃げるってんだ!?こっから何処に逃げ場がある!?」

「そうだ、迎え撃つしか無ぇんだ!全員武器を持て!」

「見てねぇからそんな事が言えるんだ!アレは人間の手に負える代物じゃねぇんだぞ!」

 興奮しながら言い争っている彼等は、新たな異物の接近に気付かなかった。



 バスッ バスッ シュカカカカカカ



「ウッ」

「グアッ」

「ガッ」

「ぎゃあああ」

 一瞬だけ苦痛に呻き、直後に血を吹き出しながら絶命して行く。

 瞬時に20名を超える死体が形成された。

「装填」



 カシャ



「ヒッ」

 運良く第一波から逃れた生存者が声を上げる。

 そして、自身へ向けられる得体の知れない武器を認識し、すぐにでも命が失われる事を理解する。

「お、お願い・・・します、殺さないで」



 バシュッ



 願いは聞き届けられなかった。

「前進」

 この場の構成員は全員排除され、更に奥へ進む。

 最奥の部屋の前へ到達すると、全員が動きを止める。

 異常が起きている割には静か過ぎる。

 だが、彼等はその気配を察知していた。

 明らかに殺気を纏った複数の呼吸、微妙に聞こえて来る小さな金属音

(待ち伏せだ)

 アイコンタクトで合図を送り、手筈を整える。



 カラカラカラカラ



 金属塊が転がる音を立てると、部屋の中で停止する。



 バァァァァァァァァァン



 直後、巨大な爆発音と閃光が部屋を一瞬だけ覆う。

「あああああああああ!」

「ヌグッ・・・クアアアアア!」

「ウゴガアアアアア!」

 言語崩壊した叫びが聞こえ、同時に走り出す。



 シュカカカカカカカカカ



 待ち伏せしていた頭目以下全員が、自身の身に何が起きたのかを理解する事も出来ずに絶命した。

「クリア」

 その後、僅かに残っていた残敵を掃討し終え、機動遊撃隊初の実戦は成功裏に終わった。



 しきしま



『敵アジトの殲滅を完了 帰投する』

「終わったようです」

「何と、もう終わったのですか!?」

 船橋で通信を聞いた船長がモウテンへ語り、あまりの展開に驚愕する。

「これで全てと言う訳では無いでしょうが、この周辺の脅威は大幅に低減したでしょう。」

「何とも凄まじい・・・いや、素晴らしい。長年連中には悩まされて来ましたが、こうも簡単に制圧出来てしまうとは。」

「彼等が優秀なだけですよ。」

「何にせよ、感謝します」

 作戦を終えた彼等は、特に問題も無く昭南島へ帰投した。

 その後、再び総督府を訪れたモウテンは、現地民を代表して伊藤へ感謝の意を表した。

 後に判明した事だが、排除した海賊は昭南島周辺で最も大きな規模を誇っており、その影響で予想していたよりも大幅な治安の回復が見られた。

 その一方、暁帝国の存在は時間の経過と共に世界へ認知される事となり、海賊の発生件数の減少に反比例する様に、今度は国交を結んでいない国からの商船が多数訪れる事となり、海上保安庁は気の休まらない時を長く過ごす事となる。



 現代の海賊は経済的に困窮してやらざるを得ない程に追い詰められているから起こるみたいです

 陸も海も治安が悪化する理由は大して変わりませんね

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