スマレースト大陸編 中世と現代の齟齬 司法問題
司法問題と言いつつ、司法にあまり詳しくない問題が発生
現存する最古の法は、紀元前18世紀にバビロニアで編纂されたハンムラビ法典である。
「目には目を、歯には歯を」で有名なこの法典は、それまでの慣習法とは異なる文章によって明確化された体系的なものであり、その後の文明の発達にとって重要な一歩であると見做されている。
春秋時代の中国大陸では、弱肉強食の時代の中で富国強兵と中央集権化の必要性から、晋が厳格な法を必要として刑書を作成し、戦国時代に秦の商鞅が法家思想を唱えた事で儒学中心から法学中心への移行が始まった。
ローマ帝国では、専門的な法律家は存在しなかったものの平等な人物(裁判官)が選出されて個人間の紛争の調停に係わり、それ等の判決から今日に通じる判例的な一面を有していたとされる。
中世に於いては宗教の影響が強く、キリスト圏では教会法が、イスラム圏ではイスラム法がその歴史と共に近代に至るまで影響を与え続けた。
現代の主要国の法は、イギリス ドイツ フランス の影響が大きい。
ドイツ、フランスの成文法と、イギリスの判例法である。
近代以降とそれ以前での大きな違いは、政教分離が明確化しているか否かにある。
更に時が下ると、自由 人権 平等 教育 等々、前時代的な言い方をすれば平民の権利が急速に拡大した。
この様な経緯を、政教分離以前の特権階級が見ればどうなるか?
第一に感じるのは身の危険なのは間違い無い。
法に守られていると言っても良い特権階級は、身近で反乱でも起こされない限りは基本的に周囲を顎で使っても咎められない立場にある。
そんな中で、特権階級の権力抑制を目的とした現代法と出会ってしまうのは、果たして幸運と言うべきなのか不幸と言うべきなのか?
いずれにせよ、新たな法形態は大きな刺激となって大陸を駆け巡る。
・・・ ・・・ ・・・
サイズ共和国 ロート邸
「旦那様、議長閣下がお越しです。」
メイドがロートへ言う。
斎藤の囲い込みは、今尚続いていた。
相変わらず取り留めも無い話ばかりが続き、双方共に疲弊していた。
そんな中での突然の呼び出しである。
「分かった。斎藤殿、申し訳無いが少し席を外させて貰う。」
「いえいえ、仕事を優先するのは当然の事です。」
ちょっとした皮肉が籠っていたが、完全に無視される。
周囲の使用人が逃げられないよう囲っている事を入念に確認し、完全に部屋を出る。
「それで、議長閣下は何と?」
議長の待つ別室へと向かう傍ら、先導役のメイドに尋ねる。
「いえ、それが、ただ急いで旦那様を呼べと。少々焦っておられる御様子でした。」
「焦る・・・?」
議長自らが焦って動き出すのだから余程の案件があると考えるが、それなら何故個人的な面会の場で話そうとするかが理解出来ない。
(出来れば当事者になりたくないものだが・・・)
そんな事を思いながら、別室へと到着する。
コンコン
「閣下、旦那様をお連れ致しました。」
「入ってくれ」
ガチャッ
「おお、ロート!大変な事になったのだ!」
ソファに座っていた議長はロートを確認するや否や立ち上がり、狼狽した様子で話し掛ける。
「閣下、どうか冷静に。まずは、腰を落ち着けましょう。」
座るよう促し、メイドに冷たい飲み物を持って来させる。
「フゥーーーー・・・見苦しい所を見せたな。」
喉を潤して一息つき、冷静さを取り戻した議長は話し始める。
「いえ。それで、一体何が?」
「うむ、例の建設現場の監督の事なのだがな。」
「斎藤殿ですか?」
「そうだ。あれから随分と時間が経ったが、首尾はどうだ?」
それを聞き、ロートの表情が曇る。
「平行線です。突破口もまるで見出せず、このままでは互いに酔い潰れてお開きになるだけかと。」
斎藤懐柔作戦は、ロート以外にも複数の議員が噛んで実行されたものである。
議場での様子からそう簡単には行かない事は当初から予想されており、その間に爵位授与を断った噂を聞き付けたその他の有力者による余計な横槍が入る事を恐れ、スムーズに事を進める為にこうした体制を整えた。
尚、斎藤をもてなす為の物品の調達係が必要と言う事情も存在する。
「うむ、上手く行っていないのなら良かった。」
「はっ!?」
予想もしていなかった言葉に目を見開く。
流石に看過出来ずに口を開こうとするロートを手で制し、議長は語り始める。
「良いか、此処から先は心して聞け。」
緊張感を伴ったその口から出た説明は、早まった一部権力者に対する暁帝国の軍事行動の件であった。
その映像は、サイズ共和国首脳陣にも見せられており、議長も目にしていたのである。
「ジンマニー王国での演習を聞いた時には、強大な機械に頼るしか出来ん見掛け倒しの軍隊、付け入る隙はいくらでもあると考えておったが、そんなモノは無いと思い知らされた。連中は、生身であってもとんでも無く強大だ。」
そして、遠方での行動をリアルタイムで把握出来るシステムを保有する事で、高い情報能力も有する。
此処まで言われれば、議長が大いに焦る理由も理解出来た。
「つまり、我々の行動も暁帝国本国で把握されていると?」
「可能性は高い・・・いや、確実に把握しているだろう。このままでは、何人の議員が墓場送りにされるか分かったモノでは無い。」
冗談の様な言い種だが、冗談で言っている訳では無い事は顔を見れば理解出来る。
「とにかく、手遅れになる前に彼を開放するより他は無い。」
「それで収まるでしょうか?」
「少なくとも、イキナリ軍を出す事は無いだろう。今回排除された者共は、愚かにも彼等の民を捕える、或いは攫おうとした連中ばかりだからな。」
「何を考えてその様な事を・・・」
これにはロートも呆れ果てる。
「だが、いつまでもこのままと言う訳にも行くまい。暁帝国の堪忍袋がいつまで持つかは判らん。君には済まないが、いざとなれば頭を下げて貰う事になるだろう。」
「自分が頭を下げて収まるのでしたら、それが最善でしょう。」
多少渋い顔をするが、躊躇い無く受け入れる。
自ら非を認める事に思う所はあるが、保身や面子の為に自国を追い詰める判断をする様な馬鹿では無い。
あくまでも国の為になるかどうかを基準にする様は、この国の大多数の議員の行動原理である。
要件が終わって議長が帰り、ロートは斎藤の元へ戻る。
「いやぁ、長引いてしまい申し訳無い。」
「いえ、構いません。」
(また始まるのか・・・)
穏やかな表情とは裏腹に、斎藤の内心はかなり酷いものであった。
「時に斎藤殿、貴殿は職場の様子が気になりはしていないか?」
「え?ええ、随分と開けているので現場がどうなっているかはかなり気になっています。」
「ふむ・・・確かに、あまりにも長く留め過ぎてしまったな。少々はしゃぎ過ぎてしまった様だ。これ以上引き留めるのも悪かろう。」
(急にどうしたんだ?)
態度が今までと180度変わった事に困惑を隠せないが、何とか言葉を返す。
「ええ、これ以上現場を放置する訳には行きませんし、そろそろお暇させて貰います。」
「ああ、少し待たれよ。手ぶらと言うのもなんだ、手土産を用意させよう。」
「いえいえ、そんな申し訳無い」
「現場の者達に対する感謝の品だ。遠慮せずに受け取って欲しい。」
「そう言う事でしたら、ありがたく頂戴します。」
そうして手土産を大量に受け取った斎藤は、そのあまりの多さに馬車を手配して貰う事となり、戻った後は手土産の消化に困る事となった。
そして予想通り、この一件は暁帝国の把握する所となっており、外交官によって抗議を受ける事態となった。
ただし、組織的な行動であると言う事までは把握しておらず、実行犯であるロートの謝罪を受けて解決とし、再発防止を要求して本件は完全に終結する事となった。
・・・ ・・・ ・・・
暁帝国 佐世保
スマレースト各国に於いて立て続けに邦人を危険に晒した面々を拘束した暁帝国だが、此処で問題が生じた。
人司協定に従えば、拘束した容疑者は当事国にて裁かれる。
しかし、今回に限って言えば複数国を跨いでの同時多発的な拘束であり、同時に全員が似たり寄ったりの罪状での拘束である為、作業の効率化と大陸同盟に対する意思統一の場としての側面を持たせる為、特例として暁帝国への連行が決定された。
そして、当事国の法律家が一堂に会して参加し、多数のオブザーバーも来訪する事となった。
大多数が初来訪と言う事もあり、かなりの緊張感が漂う中での旅立ちとなっていた
そして用意された客船に揺られ、降り立った佐世保の町並みは、誰の想像も大きく超えるものであった。
「何ともこれは・・・」
「私は、夢でも見ているのか?」
「僕は、神の国にいる」
一部危険なトリップをしている者もいるが、大陸同盟との絶望的な差を肌で感じ、昨今の急激な変革の理由を理解するのであった。
「皆様、ようこそおいで下さいました」
彼等に話し掛けたのは、外務省の職員である。
それに対し、集団からカイゼル髭の男が前へ出る。
「出迎え感謝する。私は、スマレースト大陸同盟にて結成された視察団の代表を拝命した カール と申す。あなた方が案内役で間違い無いか?」
「間違いありません。短い間ですが、どうぞよろしくお願い致します。」
(フム、実に好印象だ。他者を圧倒する強国でありながら、末端に至るまで礼儀を尽くす。教育と統制が見事に行き届いている証拠だな)
丁寧な挨拶から暁帝国内の実情を理解し、安心して職務に集中出来ると判断する。
「それでは早速ですが、本日の宿泊施設へ御案内致します。そこで我が国で守って戴くルールを御説明致します。」
「確かに、見慣れない物がそこかしこに溢れている・・・これ等を含む法とはどの様なものか、実に興味深い。」
「法律の専門家を招集しておりますので、気になる事があれば遠慮無くお聞き下さい。」
カールを筆頭とする法律家達は、案内に従い用意されたホテルへと向かい、諸々のルールを説明された後は様々な質問を飛ばし続けた。
それより少し前、
「離せ、離さんか貴様等!」
「本性を現しおって、無法者共めェ!」
「この儂を誰だと思っとるのじゃ!?」
大勢の警察の監視の下、海上保安庁の保有する護送船によって連行された貴族を中心とする面々が次々と佐世保の土を踏んだ。
この期に及んでも大半は未だに状況の深刻さを理解せず、自身の立場を笠に着て解放を要求していた。
「儂はアルフレッドじゃぞ!広大な領地を持ち、完璧な統治を行っておるこの儂を足蹴にするなど笑止千万!儂の優れた統治能力無くして公国に安寧は無いのだぞ!」
先頭を行くのはアルフレッド伯である。
人司協定に抵触した最初の人物であるだけに、ゲイル侯爵などを超える重要人物として警戒の度合いも高い。
両脇を抱えられながら警察庁保有の護送車へと乗せられ、一足先に留置所へと送り込まれる事となった。
「手を離せ!父上に何て事を!」
「どうしてこんな・・・ああ、どうしてこんな事に・・・」
そのすぐ後ろで同じく送り込まれようとしているのは、息子のジョー、妻のキャリーである。
「な・・・お前達まで!?これでは、我が伯爵家は・・・」
絶望を嚙み締める間も無く、護送車は出発した。
「ぬぅ・・・貴様等なんぞに、我が祖国を好きにされて堪るか!」
叫んだゴドムは、手近な警官へ体当たりを敢行する。
「コイツ・・・大人しくしろ!」
「抑えろ!おい、手伝え!」
感情に任せた悪足搔きは、速攻で失敗に終わった。
「恥の上塗りとはこの事だな。恥どころか、罪も上乗せされるんだがな。」
大多数は、無謀な抵抗をしようとはしなかった。
尤も、口だけの抵抗は一向に止まる気配は無かったが。
大阪
暁帝国の裁判制度は、以下の通りである。
地方 高等 最高裁判所からなる三審制を軸とし、それとは別に軽犯罪に対処する簡易裁判所を設置している。
また、確定した判決(又は控訴、上告が棄却された場合)に疑問が残る場合に備え、判決の妥当性を審査する機関が設置されている。
それとは別に、クーデターやテロ行為、或いは戦争犯罪や他国の要人が関わる類の、国家規模の問題が発生した場合に利用される裁判所が、<特別司法裁判所>である。
今回の騒動は正に他国の要人が関わる類の話である為、大阪に唯一設置されている特別司法裁判所を利用する事となっている。
ブロロロロロロロロロ
多数の警備が待ち構える中、一台目の護送車が到着した。
誘導に従い、複数あるゲートの一つを通過して敷地内へ入る。
「着いたぞ、降りろ!」
駐車スペースで停まり、降ろされたのはアルフレッドの一行である。
これまでの道程で暁帝国の実態を散々見せ付けられた事もあり、既に威張り散らすだけの意欲は完全に失せていた。
指示に従い大人しく護送車から降り、顔を上げる。
「何なのだ此処は?」
先進的ながらも無機質な建造物ばかりを目にして来た為、目的地である建造物の異質さに疑問を呈する。
巨大は巨大なのだが、それまでの高層建築物と異なり、高さで言えば明らかに低い。
また、何とも言えない厳かな雰囲気を感じる。
「此処は、裁判所だ。」
付き添いの一人が答える。
「裁判所?」
「簡単に言えば、法を犯した者がどの程度の罰則を受けるかを決める場所だ。」
「な・・・まさか、貴様等がこの儂を裁くと言うのか!?」
「正確に言えば、我が国の担当者と共に、当事国より派遣された者が裁く。」
人司協定自体は(メイハレンで説明を受けて)把握しているアルフレッドだが、それでも貴族を他国の人間が裁くと言うのは何処か信じ切れずにいた。
敗戦国でも無いにも関わらず、他国に要人が捕えられるどころか、あまつさえ裁かれるなど、前例の無い事態である。
それも、よりにもよって同盟国によってである。
「我が公国もそこまで落ちたか・・・!」
悲嘆に暮れ、怨嗟の声を上げ続けるアルフレッド。
だが、協定に基づく流れを止める事など出来はしない。
数日後、
派遣された面々が特別司法裁判所に集い、内部はいつに無く賑やかとなっていた。
まずは職員の案内に従い、各所を見学する。
「ほぉ、これは美しい。」
「いやはや、罪人を裁く場をこれ程までに美麗に仕立てる余裕があるとはな。」
メインである法廷に入ると、一行は嘆息する。
ミスが許されない場である為、判事は計12名に上る。
それらの席に合わせている事もあり、一般的な法廷と比較してかなり広い。
また、壁には風景画が描かれており、派手さは控えめながらもかなり美しい。
存分に堪能した後、今度は談話室へと移動する。
「以上で、施設案内を終了と致します。続きまして、裁判の進行に関する説明を致します。」
最も重要な説明であり、一行の目付きも変わる。
いくら国際問題を扱うとは言え、検事 弁護人 判事 が必要な事は変わらない。
むしろ、国際問題だからこそより厳密な審議が必要となる。
その為、検事と弁護人の脇には第四の席があり、それが審議官である。
これは、判決の妥当性を審査する<司法審議委員会>所属の委員である。
通常の裁判であれば、法廷には入らずに独自に審議を行うが、国際司法裁判所は別である。
裁判の進行に口出しはしないがリアルタイムで記録を取り続け、もし失言があればその場で口頭注意を行う事にもなる等、常に目を光らせる存在となっている。
それ以外では、一般的な裁判と特に変わる所は無い。
説明が終わり、質問タイムへ入る。
「一つ宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
「弁護人についてお聞きしたいのですが、此度についても全員に就くのでしょうか?」
「その通りです。」
多少ざわつく。
「それは何故でしょうか?有罪は覆しようも無く、重罪は確定。弁護の必要性を感じませんが?」
「裁判とは、吊るし上げの場ではありません。心情は理解致しますが、裁判を受ける被告人には例外無く弁護を受ける権利があります。これも、基本的人権の一つです。」
スマレースト大陸では、罪人は事実上あらゆる権利が剝奪される立場にある。
無論、各国にも法典があり、法典に従って刑を定める。
とは言え、殺人であれ窃盗であれ程度の差こそあるものの、結局は外道と言う見方をされるだけである。
「開催場所は我が国ですが、人司協定に従い各国の法によって裁かれます。ですが、我が国で開催される以上、裁判の進行に関しては我が国の制度に従って戴く形になります。」
相変わらず大きな隔たりのある両者の人権意識。
この場を通して少しでも埋まる事を願うのであった。
それから始まった裁判は、全員の判決が下るまでに半年の時間を要した。
様々な手順を踏んで進行して行く内容は、各国の法律家へ多大なカルチャーショックを与える事となった。
罪人に対して甘過ぎるとする認識は強いままだが、厳密な証拠を要求される姿勢は、権力者の証言のみでの立証を可能としていたそれまでの姿勢の杜撰さを浮き彫りにした。
同盟締結からの期間の短さ、双方の価値観の乖離、果ては精神状態にまで切り込んで弁護するその姿勢は、それまでの罪人と言われていた者達に対するあまりの無情さを自覚させた。
また、今回の被告に対する判決は、各国の法典に従い軒並み死刑となった。
しかし同時に、暁帝国の姿勢が現行の法に対する疑問を投げ掛ける事へと繋がっていた。
こうも安易に死罪とするのは本当に正しい事なのか?
罪を犯す者は、全員が根っからの悪と言えるのか?
現状の法典は、あまりにも隙だらけでは無いのか?
考えれば考える程、憂鬱になって行く気分を自覚せざるを得ない。
これまで自信を持って正しいと断言出来ていた事が、果たして本当に正しいか自信を持てない。
誰もが自問自答を繰り返し、誰もが故郷への帰還を恐れた。
それでも無情に時は過ぎ、彼等は帰途に就いたのであった。
・・・ ・・・ ・・・
ビンルギー公国 ブランスルー
この町の広場に、ある物が設置されていた。
木製のステージの様な場が用意され、その上には三つの穴が開いた板が置かれている。
周囲には、多数の野次馬と警備の騎士が集まっており、その時を待っている。
「道を開けろ!」
「怪我をしたくなければ早くどくんだ!」
やがて、複数の馬車がその広場へやって来る。
大半は、塗装も何も無い粗末な造りであり、窓には鉄格子が付いている。
「着いたぞ、さっさと降りろ!」
馬車と共にやって来た警備の騎士が、乗っている者達を引きずり出す。
「よ、よせ!やめろ、金ならいくらでも払う!やめてくれ!」
「死にたくない!やめてくれぇぇぇぇ!」
真っ先に出て来たのは、アルフレッドとゲイルである。
両手は手錠で拘束され、首輪を嵌められ、鎖が騎士の手まで伸びている。
他にも、同じく死刑判決を受けた者達が次々と引っ張り出され、ステージの上へ登らされる。
そして、設置されているギロチンへと固定される。
その作業中、新たに豪華な馬車が一台到着した。
出て来たのは、今回の進行役である。
「た、助けて下され!お願いだぁぁぁぁ!」
「死にたくない・・・死にたくないよおおおお・・・」
最早、取り繕う余裕すらも無く、涙と鼻水で顔を汚しながら命乞いの言葉を口にする。
「準備完了です」
ギロチンへの固定が終わり、騎士が報告する。
その報告を聞き、野次馬の方を向く。
「これより、罪人の処刑を実行する!」
高らかに宣言された公開処刑
これまでよりも大きな絶叫と命乞いが響き渡る。
「先の暁帝国にて実施された裁判に於いて、この者達の死刑判決が確定した。また、その判決は我が国の法典に基づいて行われた事を此処に明言する。この者達は、己の私利私欲の為に王命にすら背き、他国の民を害し、自国の民すらも害した。その結果、我が国は成立以来の危機に瀕したのである。この者達のは、我がビンルギー公国の歴史に愚者として刻まれるであろう。」
演説が終わり、次へ進む。
「配置に着け!」
その指示と共に、斬首官が斧を持って壇上へと上がる。
いよいよ死期が間近に迫り、絶叫は激しさを増す。
最早、何を言っているのかも聞き取れない程に泣き叫び、野次馬はその様子を見て嘲笑する。
進行役は、斬首官が配置に着いた事を確認すると、一人ずつ罪状を読み上げる。
この内容を聞き、何をしたかまで把握していなかった野次馬は、怒りで罵声を浴びせた。
やがて、全員の罪状を読み終え、背を向ける。
「やれ!」
その一言で、斬首官が一斉に振り上げる。
ドシュッ ザクザクッ ビシャッ
斧が振り下ろされ、広場は静寂に包まれた。
泣き叫んでいた罪人は、もう何の言葉も発しない。
これ以降、スマレースト大陸に於いて公開処刑が実施される事は無くなった。
裁判の内容を全て飛ばす暴挙
実は、その辺りは何も知らないんです