スマレースト大陸編 中世と現代の齟齬 人権問題2
描きたい場面が後から湧いて来て選定に困ります
ビンルギー公国
スマレースト各国で発生している現地貴族とのイザコザに加え、佐世保で発生した拉致未遂事件は暁帝国全体を震撼させた。
直ちに会談の場が設けられ、公国側は外務大臣を大使館へ派遣した。
「・・・・・・」
大使館への移動の途上、馬車に揺られながら貧乏くじを引かされた外務大臣 レノン は、此処に至るまでの経緯を纏めた資料を何度も見直していた。
「やはり不可解だ・・・何故、こうも大袈裟な反応を示すのだ?」
大臣と言う立場上、詳細な情報を得られるレノンは対暁帝国に於いて協調的な態度を示している(人司協定には反発しているが)。
今回は、暁帝国側の強い要請によって大臣クラス自らのお出ましとなったが、それなりに暁帝国の内情を把握している彼としても疑問と不満を抱かざるを得なかった。
アルフレッドの凶行と拉致未遂事件
どちらも公国側に非がある事は間違い無いし、一国の代表にあるまじき蛮行である事に疑いの余地は無い。
だが、そこまで騒ぐ程の事なのか?
アルフレッドの行いは、これから上手く付き合って行こうとする両国の意志と関係に水を差した。
拉致未遂は、使節と言う立場を悪用したこの上無く悪い手本であった。
しかし、だからと言って不躾に大臣を呼び出す程の事態とは到底思えなかった。
これが、政府関係者や大規模事業団体の代表を相手にしての不祥事であれば話が変わるが、そこまで深刻な訳でも無い。
公王の元で出した命令を無視された事実は大問題だが、それは国内問題に過ぎない。
官僚を派遣して謝罪し、いくらかのモノを渡せば済む話でしか無いと言うのが、レノンどころか公国の認識である。
「どう思う?」
レノンは、傍らにいる相談役として傍へ置いている セバス へ問い掛ける。
「仰る通り、不可解としか評せませぬな。確かに、此度の件は不信感を持たれても仕方ありませぬが、同盟関係を揺るがす程とはなり得ませぬ。せいぜい、事を起こした者共に多少の罰を与える程度と考えます。」
そう言った上で、罰の具体的な内容は少額の賠償金か短期間の謹慎処分、口頭注意を挙げる。
「使節関係は国の品格が問われますので、何らかの規定を設ける必要もあるやも知れませぬ。」
「規定に関しては追々協議するとして、やはりその程度が妥当だろうな・・・」
腑に落ちない感覚をひきずったまま、馬車は進む。
暁帝国大使館
「ようこそおいで下さいました。」
大使館へ到着すると、職員の出迎えを受けた。
周囲には黒服の護衛が複数控えており、体格の良さから威圧感を感じざるを得ない。
そのせいか、引き連れて来た護衛も若干の緊張を伴っている。
(それにしても、何があった?)
レノンは、大使館内の慌ただしい空気を敏感に感じ取る。
「それでは、御案内致します。」
職員の案内に従って入ると、出迎えの準備が出来ているとはとても言えない現状が広がっていた。
焦った表情で部屋を頻繁に出入りする職員が目に入り、廊下も移動を繰り返す職員が後を絶たない。
流石に、レノン一行と鉢合わせれば道を譲るものの、いくら急な来訪と言えど酷過ぎるとしか言えない状態であった。
引き連れている護衛も、不満を隠し切れずにいた。
「決して激昂してはなりませんぞ。」
セバスは、レノンへ素早く耳打ちする。
見ると、セバスもかなり不満げな表情をしている。
「此方です。」
そのまま移動を続けて最上階の一室へ通されると、そこには担当者と思しき二人が座っていた。
扉の開く音に反応して立ち上がり、思わず警戒を解いてしまいそうな笑顔で出迎える。
「レノン大臣ですね?ようこそようこそ。本件を担当します、副大使の伊藤文博です。此方は秘書になります。」
伊藤の自己紹介を聞き、レノンの方眉が吊り上がる。
「聞き間違いですかな?今、副大使と仰ったか?」
「いえいえ、ご心配されずとも聞き間違いなどしていませんよ。」
マイペースな姿勢を崩さない伊藤の態度に青筋を立てる。
「現在、大使は本国との連絡と職員の取り纏めに忙殺されております。申し訳ありませんが、伊藤と私で対応致します。」
秘書が割って入り、多少ボルテージが下がる。
「大使館全体がやけに騒がしいのもそれが原因で?」
「その通りです。そして、この場でのお話にも関わって来るでしょう。」
言葉の意味を察すると共に、不満が蓄積する。
暗に「こんな待遇になったのはお前達のせいだ」と言われたも同然であった。
「早速、詳しい説明をしましょうか。どうぞお座り下さい。」
伊藤に促され、腰を下ろす。
「それでは、大使自らが大臣すらも放置して優先せねばならない重大事とは何なのか、この場での話に関わって来るとはどう言う事なのか、納得の行く御説明をお願い致したい。」
セバスが真っ先に口を開く。
(凄く怒ってるなー・・・これから爆発するかもってんだからホントやだ。)
伊藤が内心で愚痴っている中、秘書が説明する。
「大使は現在、本国との連絡と情報収集で手一杯となっております。」
(たかが連絡業務と情報収集で手一杯だと?舐めおって・・・!)
不満が更に蓄積し、目付きが鋭くなる。
「その情報収集とは?」
「在留邦人の現状と、現地貴族等との何らかのトラブルの有無の調査です。無論、職員の多くもこの業務に忙殺されています。」
「すると、本国との連絡と言うのは、その件での・・・」
「その通りです。報告業務と同時に、政府としての対応も此方に伝えられています。」
暁帝国政府がこの件に高い関心と危機感を持っている事が明言され、一同の顔色が急速に悪くなる。
「して、その対応とは?」
まず表明されたのは、本件に対する遺憾の意であった。
その上で、同様の手を使いかねない国内勢力の継続的な監視、可能であれば掃討を要請した。
「そして万が一にも、在留邦人に犠牲者が出る様な事が決して無いよう強く要求します。」
「・・・」
レノンは、沈黙したまま脳内で相手の意向を反芻する。
セバスは、要求が通った場合の展開を予想する。
「副大使、これはあまりに無茶が過ぎる。」
沈黙を破り、レノンは不満を隠さず告げる。
「ええ。当然、貴国に要求される負担の大きさは理解していますよ。そちらからの要請があればですが、各種機関から人員を派遣して助力する用意があります。」
「そう言う意味では無い!」
レノンは声を荒げ、伊藤を睨み付ける。
「何が同盟だ!?これでは我が国は属国では無いか!最初からそのつもりであれば、会談の時に言えば良かったのだ!平民の一人や二人の為に、作法を弁えていなかったとは言え貴族を排そうなど」
「ほい来たそこだよ」
大声で捲し立てるレノンの耳に、大して大きくもない伊藤の声が鮮明に届いた。
「君達は大きな勘違いをしてる。」
「ほう、我々は常識的な事しか言ってはいない筈ですがな?」
言い募ろうとするレノンを抑えつつ、セバスが代弁する。
「その常識が違うよ。」
「国が違えば常識も多少は異なりはするもの。外交に携わる者として、その程度は弁えておる。」
「多少どころか、根本的に違うよ。国民全員に身分なんて無いし、今回やらかした事は誰が相手であっても絶対やっちゃいけない凶悪犯罪って扱いになるね。」
唖然とするしか無かった。
これまでに、暁帝国の身分制度に関する詳しい言及がされた事は一度も無い。
四国揃って、勝手に誰が貴族、誰が平民と勘違いしていたのである。
国政とは貴族が動かし、平民はそれに従うもの。
この常識が先入観となり、暁帝国に対する余計なフィルターとなっていた。
平民へ教育の機会を与えると言う話にしても、国を近代化させる為に必要な限りある人的資源の有効利用以上の認識を持たなかった。
「そ、そんな有り様で・・・どうやって国を存続させられるのだ!?愚かな平民に国政をさせて、国が亡ばぬ筈が無い!」
「そんな事言っても事実だしねぇ。だから、身分を傘に着た命令なんかは受け入れられないかな。あ、ついでに言うと、奴隷もいないから。こっちだと重罪だよ。」
事此処に至り、漸く暁帝国の異質さを理解した。
レノンは、スマレースト大陸で初めてその異質さに実感を持って接する事となった。
・・・ ・・・ ・・・
サイズ共和国
スマレースト大陸に於いて、唯一共和制を採用しているサイズ共和国。
峻険な山岳地帯を国土としたこの国は、その環境の厳しさによって国民の団結力が高い。
国家としての成立こそ周辺国に遅れを取ったものの、持ち前の人的な質の高さと地の利を生かし、生存競争を勝ち抜いて来た。
そして、この厳しい環境故の団結力の高さが、特定の王を頂かない共和制を発展させた。
だが同時に、その厳しい環境故に優秀で強力な指導者を必要とする場面が多く、それが共和制でありながら特権的な貴族階級の創出を許した。
そして時が下ると、貴族階級による元老院の様な独占的な政治が当たり前となり、その価値観も世界のトレンドと大した差は無くなった。
ただし、建国以来の精神は依然として息づいており、国そのものを疎かにする無能は少ない。
とは言え、貴族同士の生々しい主導権争いや平民に対する横柄な態度、そして他国との諸々のやり取りはいくらでも存在する。
そうして最近現れた新たな相手が、暁帝国であった。
バルノ
サイズ共和国の首都となっているこの街は、周囲を山脈に囲まれた盆地となっている。
防衛上都合が良い事から政治的中枢に選ばれ、首都として整備された。
そして、スマレースト大陸のほぼ中央に位置する事から、もう一つの政治的中枢としての価値も見出だされた。
そうして建設されているのが、スマレースト大陸同盟本部である。
暁帝国によって建設が進んでいるサイズ共和国初の高層ビルとなる予定であり、完成図が公開されている事から期待は大きい。
スマレースト大陸同盟の中枢としての機能だけで無く、バルノの新たな顔としても機能しそうと思われている為、観光資源としても利用しようと国を挙げて宣伝に努めている。
一方、もう一つの街の顔では、ひと波乱起ころうとしていた。
共和国議事堂
ローマの元老院に似た円形の広間に、国を動かす立場にある議員が集合している。
とは言え、その割には空席が目立つ。
それぞれの議員は基本的に多忙である為、満席になる事は滅多に無い。
余程の緊急案件を除けば、年始の挨拶(と言うより儀式)がせいぜいである。
その多忙な合間を縫ってどうにか出席した彼等だが、どうにも落ち着きが無い。
政治家とは思えないソワソワとした態度が目につく者が多く、議事堂の空気も異様な興奮に包まれている。
「さて、何の用で呼び出したんだか」
黒を基調とした礼服に身を包み、議事堂を見上げつつ呟くのは、大陸同盟本部建設の責任者を請け負っている 斎藤 徹 である。
彼は、前日に来訪した使者からその話を聞いた。
曰く「急で申し訳無いが、どうしても来て欲しい」との事である。
建設作業で問題が起きたか、視察の申し入れか、共和国側の技術者への指導の嘆願か
彼が予想出来たのはこんなところであった。
案内に従って議事堂へと入ると、議員が一同に会する場である議場へと通された。
斎藤の入室と共に待機していた議員達は起立し、歓迎の眼差しを向ける。
「よくぞ参られた、楽にされよ。」
議場の最奥に佇んでいる議長が、斎藤へ向けて穏やかに言う。
中央に急遽設置されたとしか思えない椅子があり、そこへ座るよう手で促す。
斎藤が座ると、それに合わせて周囲の議員も着席する。
議員達の服装はまちまちだが明るい色合いをしている点では統一されており、現代的な黒い礼服を着た斎藤はその点でもより一層浮いていた。
「それでは、始めようか」
そんな事は気にする素振りも見せず、議長は話を進める。
「改めてよくぞ参られた、斎藤殿。」
「はぁ」
用件を知らされずに来た斎藤としては、まさかこれ程大掛かりな場に呼び出されるとは思いもよらず、困惑から生返事しか出来ない。
「あの、そろそろ自分を此処へ呼んだ理由をお聞かせ願えないでしょうか?」
「ん?そんな筈は無いのだが・・・」
場がざわつく。
「どう言う事ですか?」
「失礼だが、何と言われたのかお聞かせ願えるだろうか?」
斎藤の質問に被せる様に議長が問う。
「え?ええと・・・重要な話があるのでどうしても来て欲しいと言われただけですが。」
ざわつきが大きくなる。
「これはいかん、すぐに詳しい経緯を調べなければ!」
「重要案件で連絡に齟齬が出るとは・・・!」
「いかんな。同じ事を二度と繰り返さんよう周知徹底させねばな。
「静粛に!」
周囲で勝手に話し合いを始めた議員を見て、議長が声を張り上げる。
「客人の前で見苦しい姿を見せるな!斎藤殿、失礼した。」
「い、いえ。それで、そろそろ教えて貰えますか?」
「そうだな。順番が多少前後したが、大した問題では無かろう。例の物を!」
議長の声に応じ、議場の外から執事らしき人物が入って来る。
同時に、議員の一人が斎藤の前へと出る。
執事は頭を下げたまま両手で板状の物を持ち、議員の横へと着く。
その板の上には、小さな勲章の様な物が乗っていた。
「貴殿の来場を承諾の意思と受け止めるつもりであったのだが、ロート議員に説明して戴こう。」
斎藤の前へ出た議員ロートは、大袈裟に片手を横へ広げて言う。
「斎藤徹殿、貴殿へ男爵位を授与する!」
「・・・・・・は?」
唐突な爵位授与宣言に、思考停止する。
(いやいやいやいや何言っちゃってんのこの人は!?)
すぐに我に返ったが、大混乱であった。
「斎藤殿、どうされた?」
議長の声で現実に戻るも、状況が芳しくない事にも気付く。
(コイツ等、わざと何も知らせなかったな!)
場の空気が、授与承諾を当然の事としていた。
「何故、突然爵位授与を行う気になったのか説明して貰えませんか?」
場違いとも言える質問に、多少の苛立ちが見え隠れする。
「ふむ?貴殿を含む勇士の活躍を認めての事だ。子爵と言う案もあったが、我が国に対する貢献を考えるとそれでは不足するとの判断でな。出来る事なら貴殿の部下全員に爵位を授けたい所なのだが、流石にそれは無理があったのだ。あまりに乱発しては、方々からの批判も大きくなってしまうのでな。」
議長が代表して答え、何人かの議員が頷く。
「さぁ、受け取られよ。」
頃合いを見計らい、ロートが促す。
そう言われ、挙動不審になる斎藤。
「落ち着かれよ。貴族たる者、堂々とした立ち振舞いを心掛けねばならん。」
「貴族じゃありません!」
場の空気が固まる。
(あ)
明確な拒否と取られてもおかしくない発言であった事に、遅ればせながら気付く。
(ど・・・どどどどどうしよう!?)
「そ、そうか。貴族の意思は解った。時間を取らせて申し訳無かったな。引き続き、本部の建設に従事してくれ。」
多少の動揺を含みつつも、議長は努めて冷静に言う。
(い、良いんだよな・・・?)
何も無い事に不気味さを感じつつも、斎藤は退場する。
その際、多数の議員が背後から睨み付けていた。
「まぁ、これで口実も出来た。」
似た様な展開は各地で発生した。
国を挙げての爵位授与の他、一部の貴族は私的に雇い入れて先進技術の習得を企もうとした。
大半は冷静に対応したお陰で大事には至らなかったが、一部では監禁事件に発展する事例も存在した。
早まった貴族への対応は簡単であったが、問題はそれ以外であった。
私的な雇い入れはともかく、国そのものが出て来る事例は現場だけでは対応し難く、受け入れてしまう者もいた。
一方、拒否された場合も面子を潰されたとして抗議に発展し、関係を拗らせかねない要因として外務省が頭を悩ませる事となる。
ただし、これに吉田が断固たる姿勢で臨む事を厳命した為、各国による邦人の囲い込みは認めない立場を明確にした。
・・・ ・・・ ・・・
ビンルギー公国 ルージュ
暁帝国との会談の場となったルージュは、重要な軍事拠点であるが為に民間人が立ち入れない場所が多い。
「今回も中々に良い仕事だな。」
その中の一つであるとある一室。
広々としたスペースに粗末な服装で拘束された一団がいた。
「いえいえ、貴方様が手を回して下さっているお陰ですよ。」
その一団を眺めつつ語らう二人組。
「フン、下らん世辞はよせ。」
「これは失礼しました。それでは、どいつかお気に召しましたか?」
片方は細身で薄汚い印象があり、もう片方は恰幅の良い上流階級を思わせる見た目をしている。
「そうだな・・・コイツとソイツと、ソイツにしよう。」
「畏まりました。準備致しますんで少々お待ちを。」
みすぼらしい一団の中から三人が連れ出される。
「出来ればもっと大掛かりに商売したい所なんですが、此処の所構成員が減っていましてね。」
「チッ!暁帝国め、余計な真似を・・・!」
「噂の新興国ですね?新参者にしてやられるとは腹立たしい。」
二人は、揃って顔を歪める。
「同感だな。だがいずれは排除してやるさ。お前は、それまで排除されんよう注意しろ。事が上手く行ってもそれでは意味が無いのだからな、ドルフ。」
「それは勿論お任せ下さい、ゲイル様。」
ブランスルー 暁帝国大使館
レノンの来訪から暫く経ち、今度は公国側から重要案件が持ち込まれた。
その間、複数の貴族から面子を潰されたとの抗議がきていたが一顧だにしていなかった所、これまでとは明らかに異なる様子でセバスがやって来たのである。
「極秘の訪問との事ですが、どうされましたか?」
公式の訪で無い以上は大使との面会は難しいとの事で、今回も伊藤が対応に出た。
「まずは、度重なる無礼の数々をお詫び申し上げます。」
「その無礼とは、具体的に何を指しているのでしょうか?」
一切の動揺を見せず、秘書が問う。
「此処数日、分を弁えぬ愚か者が押し寄せていると耳にしております。」
「ああ、爵位授与を断った話ですか。貴方が出向かれたと言う事は、レノン大臣の言と受け取っても宜しいのでしょうか?」
「その通りです。」
「説明、してくれるよね?」
以前の態度からして、流石の伊藤もいぶかしまざるを得ない。
「実は、あなた方の元へ押し寄せていた者共にはある共通点があるのです。」
それは、アルフレッドの一件で釈放を要求し、拉致未遂事件の実行犯と深い関係を持っていると言う話であった。
「と言う事は、組織的な動きだと?」
「そうとしか考えられません。抗議すべしとの声は多数上がっておりますが、イリス陛下とレノン様が抑えておられるので、衝動的に動いたとは考えにくいのです。」
「とすると、現状に不満の大きいグループが動き出したと?」
「恐らくは。」
それを聞き、伊藤は少し嬉しそうな顔をする。
厄介な話ではあるが、個別に対応するよりも楽に終わらせられる可能性がある。
「しかし、公王の命を無視していると取られてもおかしくありませんが、そちらで拘束出来ないのでしょうか?」
「それこそ、極秘で訪問した理由となります。」
二人は、嫌な予感に駆られる。
「此度の派閥なのですが、ルージュを本拠地とするゲイル侯爵の派閥なのです。公国有数の派閥であるのみならず、強行策が取り辛いルージュに居座っている関係上、そう簡単に事が起こせないのです。」
「つまり、協力して欲しいと。」
「その通りです。」
微妙な顔になった二人だが、セバスは畳み掛ける。
「断片的ですが、ゲイル侯爵は違法な手段を多数行っているとの情報を得ております。このままでは・・・」
邦人に危害が及ぶかも知れない。
(体よく使われるだけだけど、無視は出来ないねぇ)
腹立たしくも、拉致未遂事件から日が経っておらず無視出来ない話であった。
「まずは、その情報を見せてくれる?話はそれからだよ。」
・・・ ・・・ ・・・
ジンマニー王国
「全く以て腹立たしい!一体どれだけ軽く見れば気が済むのだ!」
「だがどうしろと?軽率に動けば途端に息の根が止まるぞ。」
「クッ・・・暫くは静観するしか無いか。」
「忌々しいが、機を待つのだ。」
・・・ ・・・ ・・・
ハーレンス王国
「このまま暁帝国に付いて行っても良いものだろうか?」
「何を言っている?現に、上手く行っているでは無いか。」
「国にとってはその通りだ。だが、我々は今まで通りやって行けるのか?」
「それは・・・」
「結局はそう言う事だ。古き物を捨て、新しく作り替えるつもりなのだ。」
「どうすれば・・・我々はどうすべきなのだ?」
「今後どう動くのか、よく考えろ。」
巨大な変革は、様々な衝突を引き起こす。
新たな体制に乗り遅れ、没落して惨めな最期を遂げる者もいる。
そうした抵抗にどの様に向き合い、或いは排除するのか?
特に、国家体制を根底から揺るがしかねない人権問題は、修羅の道である。
話は続きますが、人権問題はこれで終わりです。
次は軍事問題になります。