スマレースト大陸編 中世と現代の齟齬 人権問題
この辺の言及が今まで無さ過ぎましたね。
前回のテンプレ貴族から、もう少し踏み込んで行きます。
基本的人権とは、人間が人間として生きる事が出来る自由を持つ権利を言う。
18世紀後半から憲法に明記され始め、20世紀からは参政権や生存権も基本的人権に含まれた。
もし、この概念を弾圧が当たり前な絶対君主制の時代に唱えればどうなるか?
自身の権力基盤を揺るがす重大な脅威として、フランス革命と同様に徹底的に排除しようとするのは想像に難くない。
だが、どちらにしても磐石な権力基盤とは、民衆からの支持が必要不可欠となる。
だからこそ、ローマ皇帝はパンとサーカスを市民へ提供し、歴代中華王朝は遊牧民の侵入と民衆の反乱によって興亡を繰り返した。
とは言え、前近代国家の民衆に対する意識は、余程飛び抜けた良識が無ければ極めて限定的である。
何処かの村が襲撃を受けて皆殺しにされたとしても、首脳部からすれば報告書一枚で済む程度の些事でしか無い。
しかし、これが暁帝国であったらどうなるか?
全国レベルで連日報道され、国民が怒り狂うのは間違い無い。
それだけでは留まらず、国が動く重大事となる。
この様な事態が、他国の手によって発生すればどうなるか?
最悪、軍事行動に至るのは確実であり、その上で相手国首脳部の首を丸ごとすげ替える所まで行くだろう。
互いにあまりにもかけ離れている人権意識
大陸同盟側で、この事実に気付いている者は極僅かであった。
・・・ ・・・ ・・・
ビンルギー公国 ブランスルー
「こうなってしまいましたか・・・」
「方々より釈放を求める声が上がっておりますが、如何なさいますか?」
暁帝国大使館とアクーラより齋された報告を聞き、公王イリスと集まった大臣は頭を抱える。
それは、メイハレンでの顛末に端を発する。
市内で開店準備中の暁帝国より進出した店舗へ押し掛けたアルフレッド辺境伯の身内と部下が、現地駐在の暁帝国警察によって拘束され、アルフレッド本人もアクーラの判断で軟禁状態にあるとの事である。
この顛末は瞬く間に国中を駆け巡り、大きな衝撃を与えた。
「これ程早くに人司協定が利用されるなんて・・・」
半分治外法権を認めているに等しく、ひとたび事が起これば内政干渉に等しい効力を持つ人司協定。
その発効には、巨大な反発が憑き纏った。
暁帝国の実態を知る者でさえ、表立って抗議の一つは飛ばした協定である。
その他多数が反発しない道理は無い。
流石にこうなる事は暁帝国政府も理解している為、時間を掛けてのゆっくりとした根回しを行う事で、少しずつ定着させようと考えていた。
しかし、そう考えていた矢先に今回の事件である。
ただ存在するのと、実際に効力を発揮するのとでは与える印象はまるで異なる。
それも、正真正銘の貴族が第一の犠牲者とあっては、与える衝撃も倍増どころでは済まない。
この顛末に対する反応は複数に分かれた。
自身の立場を守りたい貴族や癒着している商人は、悪しき前例を作らない為にアルフレッド一行の釈放を要求。
暁帝国の実態を把握している指導部とその下にいる官僚その他は、あくまでも協定遵守を主張(ただし、これを機に協定の改正も併せて主張)。
アルフレッドの被害を受けた商人や旅人は、暁帝国による拘束を支持。
詳細をよく知らない一般人は、厳格に動いて貴族の横暴を阻止した警察を称賛。
単純な数で言えば、反対派は少数である。
しかし、実際に意見を反映出来る影響力を持つ者に限定すると、拮抗状態となってしまう。
「今回は此方に非がありますから、協定通りにするしかありません。」
「ですが、それでは不穏な動きをする者達が・・・」
「その情報も暁帝国へ提供します。上手く行けば、国内の寄生虫を一掃出来るでしょう。」
大胆な発言に場が騒がしくなる。
「そもそも、この協定の目的はそこにあると思いますよ?彼の国は、治安を事の外気に掛けている様ですからね。」
そう言うイリスの目は、いつの間にか鋭くなっていた。
・・・ ・・・ ・・・
とある屋敷にて、
そこには、華やかな服装をした者達が一同に会して密談をしていた。
「先程、正式な決定が下されたらしい。」
「して、どの様に?」
「協定通りにするとの事だ。」
「何たる事だ!栄えある公国貴族をないがしろにするとは・・・!」
かつて、公王派として強硬派と対峙していた者達。
その内情は、主に三つに分けられる。
国益の観点から自国の存亡に繋がると判断し、彼我の実情をよく把握して動く者
保身の観点から身の危険を感じ、開戦は望ましくないと日和る者
自らの利益の観点から悪影響を嫌悪し、認められないと抗議する者
「聞いた話では、他の三国でも同様の事態が起きているとか。」
各国共に、ほぼ同時期に事情は違えど貴族階級にある者によって何らかの問題が起こされ、いずれも暁帝国警察によって拘束されている。
「うぬぅ・・・他国の貴族などどうでも良いと今まで思っていたが、貴族そのものを軽く見られている現状を考えると、他人事と捨て置けんな。」
「全く、国を動かし発展させる立場と伝統を持つ貴族を排して何をしようと言うのか!?」
「全くその通りですな!どうせ何も出来なくなるクセに!」
実際、国の運営は知識階級でもある貴族しか出来る者がいない。
その下にいる官僚は平民出身の例も散見されるものの、上に立って一大方針を決定出来る者など何処にもいない。
サイズ共和国にしても、その実情は古代ヨーロッパと同様に限られた知識階級による共和制であり、近代的な共和制とは異なる。
「何が機会均等だ!?無知で愚かな平民の口出しを許せば、どれ程の混乱を引き起こすか想像もつかん!」
暁帝国との国交によって進められている諸改革の中には、これまで貴族階級が独占していた様々な権限や設備の解放も含まれている。
一例を挙げれば、教育の機会 起業の機会 参政の機会 等がこれに当たる。
これこそ、後に基本的人権を定着させる為の布石であり、質の高い労働力の形成を狙ってのものである。
しかし、これは相対的に貴族の権力を弱体化させる事にもなる。
一応、旧来からの権力の大半には特に手を入れていないものの、周囲も同じだけの権利を持てば影響力は嫌でも落ちる。
それも、諸々の根回しや化かし合いも知らず、あっという間に本音を晒け出すタダの一般人が同等の権利を持つ。
「何故、此処まで我々が軽く見られねばならんのだ!?」
「憎たらしい事この上無い・・・!」
彼等は、大いに焦っていた。
彼等は三つの派閥の内、自己保身を気にする者達である。
表向き彼等は「性急過ぎる改革を実行しても、実態が追い付かずに衰退を招くだけだ」と主張している。
アルフレッドの一件にしても、同様の論理で「徒に混乱を招く行為」として解放を要求している。
正論ではあるものの、その根底にあるのはただひたすらに恐怖であった。
自身の足場が今正に揺れ動いている。
ただでさえ保身を第一に考える彼等からすれば、現状の変化は受け入れられるものでは無かった。
そして次に来たのは、この変革の元凶である暁帝国に対する怒りと嫉妬であった。
暁帝国が持ち込もうとしている変化は、国としては良い面が多いものの、現状を良しとしている者からすれば「余計な事を・・・!」と、恨み節が漏れ出るモノであった。
更に腹立たしい事に、その余計な事をした上で大いに発展していると言う現実が存在する。
「古くからの歴史を積み重ねて来た貴族が、あの様な新参者の制度に劣るなど間違っている!」
「そうだ!」
「その通りです。」
「異議無し!」
「全くその通り」
声高な主張に賛同の声が集まる。
これまで世界に認知されていなかった暁帝国は新参者であり、その新参者が持ち込んだ思想や制度も実績の無い思い付きに過ぎない。
彼等は、その主張に精神的な安定を見出だした。
「しかしどうしますか?現実問題として、彼奴等が秀でた実力を持つ事は事実です。このままでは、いずれは我々の方が排除されてしまうでしょう。」
別の一人が現実的な意見を出すと、途端に威勢の良い言葉は鳴りを潜めた。
「心配はいらん」
視線がその声に集中する。
「ならば、その秀でた実力を此方の物にしてしまえば良いのだ。」
声の主は、奥の豪華な椅子に座った恰幅の良い老人であった。
「その様な方法があるのでしょうか?」
「勿論だとも。私に付いてくれば、君達にもその恩恵を分け与える事も出来よう。」
その言葉に、全員が目の色を変える。
「おお!流石ですな、ゲイル侯爵」
「我等一同、協力を惜しみませんぞ!」
「是非とも協力させて下され!」
一気に場が加熱し、ゲイル侯爵が音頭を取る。
「皆の気持ち、確かに受け取った。この場で宣言しよう、この国の栄光は再び我等に帰する事を!」
歓声と拍手が、部屋を明るく照らした。
・・・ ・・・ ・・・
暁帝国
暁帝国には、二つの情報機関が存在する。
一つが、主に国内の防諜を担当する<内部情報局>
もう一つが、主に国外での諜報を担当する<対外情報局>
この二つは情報省の指揮下に置かれ、双方の情報を一元管理してそれぞれに役立てている。
この内、内部情報局には他国の諜報員の排除や接触を任務とする部署の他、外国勢力の関わる犯罪を主とした警察との協力を前提とした部署等がある。
そして対外情報局では、他国へ潜入しての諜報活動は勿論の事、友好国の要人暗殺や敵対国の人物の拉致と言った破壊工作に類する表沙汰に出来ない任務もこなす。
ただし諜報員は戦闘員では無い為、戦闘の頻発する地域の潜入や少数での本格的な軍事行動が要求される場合は、軍の特殊作戦連隊が担当している。
そして大元である情報省では、両局の情報を纏めると共に国民の動向把握を行っている。
具体的には、発信器の機能を持つIDを全国民へ配布し、不自然な動向を自動的に検出するシステムを運用している。
加えて、あらゆる乗り物にも同種のシステムの搭載が義務付けられており、自動車 鉄道 船舶 航空機 あらゆる交通網が国土交通省との連携の元、常時モニターされている。
更に、保安省による治安情報も回されており、これ等は主に内部情報局の活動に役立てられている。
だが今回の騒動は、外務省から齋された情報が発端となった。
情報省
「さて、始めましょうか。」
会議室にて声を上げたのは、事務次官の 近藤 昇 である。
「外務省から連絡が入りました。何でもビンルギー公国から警告があったそうで、不穏分子が動きそうとか。」
近藤の言葉に対する反応は皆無であった。
情報を扱う機関として、その程度の事は最初から予想出来ており、裏付けも事前に取れているのである。
その上で、幹部の一人が発言する。
「これまでの報告を纏めますと、大陸同盟全てで同様の動きがある模様です。」
「やれやれ、これは由々しき問題ですねぇ。邦人の安全が再度損なわれる事の無い様に、活動圏内の監視を徹底させましょう。」
現在、スマレースト大陸へ渡っている邦人は全てが政府の認可を受けて活動している者であり、その活動範囲も制限されている状態にある。
現代の感覚で気軽に行くには危険度が高過ぎるとの判断によるものであり、少なくとも沿岸の整備が完了するまではこのままとなる。
「それと、国内へいらしている方々の様子はどうでしょう?」
「今の所は怪しい動きはありませんが、迷ってあらぬ方向へ向かってしまう事がよくあります。」
国外渡航に厳しい制限を設けているのと同様に、国内への流入にも厳しい制限を設けている。
ただし、各国の視察は受け入れている状態にある。
首脳部を初め、各商会 技術者 軍人 ギルド関係者等々、あらゆる分野の専門家を受け入れている。
そこで懸念されているのが、端的に言えば迷子である。
中世を基準にすると、現代の都市は巨大で複雑を極めている上に、人口密度も高過ぎる。
いくらガイドが頑張っても、はぐれる者が一人や二人は出てしまっているのである。
それだけなら良いのだが、そこからどんなトラブルが発生するか分からない。
中世基準の価値観で人傷沙汰でも起こされては、外交問題に発展する。
「うーん、護衛から武器を取り上げる訳にも行きませんしねぇ・・・」
視察団の基本的な形式は、首脳部を除くと一般的な観光と大差無い。
これは、可能な限りありのままの様子を見たいと言う要望によるものである。
当然、万全な体制と比較すれば安全に不安が残る事となり、警護は実施してはいるものの、それとは別に独自に護衛を引き連れて安全確保を行おうとする者が後を絶たない。
服装こそ改めて貰っているが、市井に交わる事もある以上は断るのも難しい。
尚、視察の人員はそれなりに広い範囲から募っているのだが、未知の国と言う事もあって志願者はあまりおらず、逆に経験者が何度も志願する状況となっている。
「事前に参加者の身辺調査をするしか無いでしょうね。不穏分子は上陸前に阻止しましょう。」
「では、その旨を対外情報局に伝達します。」
職員の一人が退室する。
「そう言えば、そろそろ次の観光客が来ますねぇ。」
「ええ、既に佐世保市内の案内が始まっている筈です。」
統合情報管理センター
多数のモニターが並び、管制官が出入りする雛壇状の広大な空間。
これこそが、国民と交通の動向把握の中枢である。
24時間体制で動くこの監視網からは、誰も逃れられない。
此処まで徹底した監視体制を築く理由としては、やはり圧倒的な技術格差が挙げられる。
国を発展させようと思えば優れた技術が必要となり、それは持っている所から奪うのが手っ取り早い。
技術の奪い合いは、現代でも当たり前に存在している。
増して、こうも隔絶した差を見せ付けられては、狙わない理由など無い。
そうしていつも通りに時間が過ぎる中、システムが異常を察知した。
「ん?」
「どうした?」
操作員の一人が気付いて声を上げ、隣の操作員が顔を向ける。
「いや、不自然な動きが検出されたって出てな。」
「不自然?何処だ?」
見ると、地図上に多数表示されている緑色の光点の一つが、黄色いシンボルでマークされていた。
その場所は、佐世保港に置かれている倉庫であった。
「それで、これは誰なんだ?」
操作すると、シンボルの詳細な情報が表示される。
「郊外にある工場勤務のオッサンか。」
顔写真もあり、かなり厳つい表情をしている。
「何でこんなトコに?」
「彼女とアレやコレやとか?」
「お前・・・他に誰の反応無いぞ。妄想彼女か?」
「何をしてる」
背後から、いつの間にか近付いていた上司が問い詰める。
「これを見て下さい。」
画面を確認すると、顔色が変わる。
「馬鹿者、何をモタモタしてる!?さっさとこの情報を回せ!」
この情報は内部情報局へと回され、実動部隊が動く事となった。
佐世保港
「これで宜しいので?」
「・・・うむ、技術者で間違い無さそうだ。」
薄暗い空間で、目元以外を隠した怪しい人物と、文官風の服装をした男が向かい合う。
「んむーー・・・むーーー!」
二人の足下には、作業服姿の男が拘束された状態で転がっている。
「しっかし、国交を結んだばかりでこんな事をして大丈夫でしょうか?」
丁寧な言葉遣いに慣れていないのが分かる口調で、怪しい風体の人物が問う。
「そんな心配など必要無い。いくら技術者とは言え、たかが平民だ。平民の一人や二人いなくなった所で一々国が動いていたら、まともな国家運営など出来んよ。」
文官風の男は、鼻で笑って進言を一蹴する。
「だが我が方からすれば、此奴等の知識は宝の山だ。油断している隙にモノにして一気に形勢を変えてやるのだ。我々の為に、せいぜい役立てて貰おうでは無いか。」
そう言いつつ顔を近付ける。
「安心せよ、その知識と技術を大人しく渡せば殺しはせん。用済みになっても、売り飛ばすだけで勘弁してやろうでは無いか。」
片や恐怖でひきつった表情を、片や下卑た笑みを浮かべ、この先起こるであろう変化を想像する。
「フゥ・・・」
もう一人は、全力で関わり合いを避けようと顔を逸らす。
「!」
直後、何かの気配を察知して身構える。
バンッ
『全員、その場を動くな!』
乱暴に正面の扉が開き、眩い光が射し込む。
『お前達は既に包囲されている!無駄な抵抗はやめて投降せよ!』
「バ・・・バかな!どうやって此処を・・・!?」
変わらず身構え続け、動揺で後退り、希望に目を光らせ
三者三様の反応を示し、この闖入を迎える。
「・・・・・・こりゃ無理だな」
身構えていた男は、持っているナイフを捨てると両手を挙げて歩を進めようとする。
「あ、こら、何をしている!?私の護衛も任務の内だと言っただろう!」
文官風の男が怒鳴ると、足を止めて口を開く。
「作戦は失敗したんですよ。こんな包囲網、単独でだって突破は難しいですぜ。」
言外に、足手まといを守ってる余裕は無いと言っているが、追い詰められている状況でそこまで頭が回らない。
「それを何とかするのがお前の仕事だ!高い金を払って雇ったのだぞ!無理でも何でもやれぇー!」
喚き立てるも、それが通用する事は無かった。
説得は無駄と悟ったか、何も言わずに歩を進めた。
「待て!待てと言っているだろう!」
『そこでうつ伏せになれ 手は上に 抵抗はするな』
必死の命令も虚しく、投降は受け入れられた。
『そこのお前もだ 直ちに投降せよ!』
「グヌゥゥゥゥゥ・・・!」
怒りで歪んだ表情を見せるも、それだけで何ら行動に移さない。
遂に痺れを切らして接近して来る集団。
逆光によってよく見えなかったその姿は、この国の警察であった。
軽装歩兵並みの防具を身に纏い、大盾を持つ者もいる。
そして彼等の背後には、装甲車が軒を連ねる。
警察の切り札とも言える、機動隊である。
「何故こんな真似を!?高々平民一人の為に、他国の要人を捕らえようなどォォォォ!」
腕を振り上げながら自身の立場を強調するも、そのまま取り押さえられた。
「離せぇぇぇーーーー!官憲風情が、この私を捕らえるなどォォォォォ!」
こうして、暁帝国初の拉致未遂事件は終結した。
外務省
「それでは、佐世保で発生した拉致未遂事件の詳細報告を行います。」
今回の一件は、事が事だけに外務省へも詳細が回されていた。
結果、吉田を筆頭に幹部全員による意思統一の場が設けられた。
「まずは実行犯についてですが、ビンルギー公国からの視察団の一人である伯爵位の男によるものである事が判明しています。彼は、本国の裏ギルドから工作員を雇い、技術者か知識人を拉致、奴隷化を目論んでいた事が後の調査で判明しました。先に投降した方が雇われで、事の詳細は何も知らされていない様です。」
内容を聞いている全員のボルテージが上がる。
「次に動機ですが、我が国の先端技術の習得を目指していたとの事です。」
「先端技術?ある程度の技術供与はするのにか?」
「それが気に入らない一派がいる様です。我が国が優位な立場にいるこの状況をひっくり返したいのでしょう。」
「普通に国際問題になるだけだと言うのに・・・」
浅はかとしか言いようの無い行為。
呆れるしか無いが、次の報告で冷や水を浴びせられた。
「尚、取り押さえてから今まで、平民の為に貴族を蔑ろにするのは許されないと言う趣旨の発言を繰り返しているそうです。」
ただの国民であろうと、害意を持って接触すれば重大な主権侵害行為となる。
現代国家にとっては。
「どうやら、未だに認識が甘かった様だな。」
吉田が口を開く。
「戦乱続きで倫理観の機能しない地域は当然だが、安定した地域も良識の類は当てにならない。この事を肝に命じ、今後の問題に当たって欲しい。差し当たっては、ビンルギー公国への対応だ。」
「大臣、もう一つ問題があります。」
動き出そうとする中、一人が口を挟む。
「何だ?」
「各国で人員の引き抜きを意図した動きが始まっているそうです。」
「引き抜き?それはどう言う・・・」
それは、各種開発の為に派遣されたスタッフを呼び出し、貴族が私的に雇い入れようと勧誘、或いは国から爵位の贈呈を受けると言った話であった。
「いつからだ?」
「先月辺りから確認を」
「馬鹿野郎!さっさと言え、このノロマが!」
吉田の雷が落ちた。
「大問題だ!現場レベルじゃぁこの問題は跳ね退けられん!大使館にこの件の対応も指示しろ!」
「は、はい!」
幹部達は、大急ぎで走り去った。
「このままだと、人質が大量に取られる・・・!」
1パートで終らせる筈だったのに、思ったより長くなってしまいました。
本編は一時止めて、次話を優先します。