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シムナナムナの通報式  作者: takine_kuon
2/7

二、

 空から見る雲は神々しいほどに美しかった。雲の頂きは組織だった畝となり、斜めに差す影がその高さを教えてくれる。見上げることしかできないはずの雲、眼下に広がっていても、その偉大さは何も変わることはない。


 ジェロは機上からぼんやりと景色を見ることで時間かせぎしていた。本当ならば今はレポートを読まなくてはいけない。それはリナが作ったもので、そのレポートが原因でジェロはホッタイトへ向かっている。ジェロはデスクワークよりは出張の方がずっと好きだったが、今回の場合は気が重かった。なんとなしにアクツとリナとの打ち合わせ風景をジェロは思い出す。

「今回の計画は各地域の主要な人物に事前に説明しておく必要があるな。」

「そうでしょうか。でも、転勤組も多いわけですし、単に一つの政策という扱いで受け入れられると思いますが?」

「各区域の統括と我々の連動がとれていなければ何も始められない。空港の新カテゴリーについては特にな。誰だって今いる空港は大きくしたいもんだ。このあたりは結局、区域統括に踏ん張ってもらわないといけない。」

「私もそう思うわ。次の全体会議は三か月後、それまでに具体計画を固めておく必要があるの。私たちの見落としもあるかもしれないし。」

「まあ、そうだね。」

 その時、アクツとリサの中には共通の筋書きがあることに、まだジェロは気づいていなかった。

「その役割はやっぱり君に頼むことにしよう。」

 アクツがジェロに向かってそう言うと、リサも頷いた。

「私も彼が適任だと思います。」

 ジェロはあまり深く考えずにそれを受ける。

「はい、分かりました。しばらく出張が多くなるってことですね。」

「ああ、特に統廃合の対象が多いのは西域だ。極端な話、このエリアだけでも構わない。」

 そんな流れで決まったことだ。その時は、閉鎖やランクダウンの決まっている空港ばかり回ることになるとは思っていなかった。

「ああ、それからキツジくんのところも対象になるが気をつけてくれよ。あいつは余計なことを方々に触れ回るのが好きだからな。新しい計画について、しっかり働いてもらわないといかん。」

 新しい計画、それこそがリナが完成させたレポートだ。その目論見は各部署の思惑と一致する部分が多く、好評だった。すぐに専門分野の人間によりそれぞれ肉付けされてスケジュールに乗った。ジェロが思い出していた打ち合わせ風景は、いよいよ実行させる段になった段階での作戦会議だった。


 網の目ネットワークからの脱却、そういえば聞こえが良いが、その内容はかいつまんで言えば分離政策だ。今まで大きく四種に分かれていた空港を二種にする。それによる統合がもたらす効率化が最大の目的となる。資源を大きい空港に集約させ、それ以外の空港は最寄りの大空港への移行のみに集約させるか、陸路や海路との連携など独自のルートをたどる。ジェロが気になるのは、今まででいう第一種空港以外の全部がその他の空港になってしまうということだ。第一種空港でも第四種空港でもないホッタイトはその再定義の対象空港に入っていた。


 個と個が果てしなく繋がりあう網の目のようなネットワークをハブ型ネットワークに変更する、大きく言えば、そういうことだが、その考えと個別空港の追及したい姿とは必ずしも一致はしていない。空港間の競争原理と別次元でランクづけをし直そうとしているのだから当然で、その分、反発も大きいことが予想される。


 どんな時だって変化は必要だとはジェロもよく分かっていた。ただ、苦しむ役が自分に回ってきた時、それが役割分担の結果だったとしても、笑って受け入れられる人はどれくらいいるんだろうか、ジェロの中にはそんな迷いがあった。

 『今後の拠点空港戦略について相談させてください』

 要注意人物だと言うキツジに、ジェロはメールで連絡を入れて、今日という日付だけ了承をもらってある。空港に着いたら電話をして改めてアポイントの時間をとりつければいい。ホッタイトの空港へ飛行機が降下を始めた段階でも、まだジェロの気持ちはまとまっていない。それにジェロにはまだ疑問があった。キツジという人物に、アクツは気を使いすぎるようにジェロは思っていたが、その理由が全く分かっていないことだ。それにあの不思議な男、ジェロとのやりとりについても心のどこかにひっかかっていた。



 ジェロは飛行機の到着ゲートを抜けるとあたりを見回した。世界中に散らばる空港は、それぞれ多少の雰囲気の差異はあるが、建物の構造はあまり変わらないものだ。同じような飛行機が同じようなルールに則って運航されているのだから、それは当たり前かもしれない。ただ、この空港では、着陸した飛行機から見えた様子が明らかに違っていた。赤味を帯びた黄色がかかっているように見えて、そのためだろうか街の輪郭がどうも違うに感じた。ジェロは、オーギュシティで生まれ育った、つまり都会育ちの男である。勉学や仕事の都合で数年間、他の街で過ごした時期もあるが、どの街も中規模以上で似たような文化圏の中だ。つまりは地方都市を本質的によく知らない。


 この空港は、現段階では第二種国際空港にカテゴリー化されているから西域外の言葉も通じるはずだ。ジェロは三種、四種の言語を理解はしていたが、まずは母国語で空港の窓口で聞いた。それは数で言えば最もメジャーな言葉だったからだ。

「空港管理施設に行きたいのですが、どこにいけば?」

「はい。どういったご用件でしょうか?」

 ややなまりはあるがぶしつけでない、教養のある言葉遣いだ。

「空港施設の方と約束をしておりまして、行き方を確認してから電話したいので。」

「入口は外に回らなくてはいけないですから、中からの方が早いですよ。誰かとお約束でしょうか。その人に来てもらえれば職員用の通路を使えます。連絡しましょうか?」

「いえ、いいんです。入口があるならそちらへ回りますよ。」

 ここは一般乗客用のロビーなので、施設関係者の受付とは厳格に機能が分かれているはず。ジェロはそう思っていたが、ちょっとこの地域は感覚が違うようだ。

「あなたが望んでいるのはどなたです?」

「キツジさんという方ですが。」

「ああ、キツジさんなら、もうすぐそこの出入り口から来て空港の中を一回りしますよ。そして奥の喫茶店でコーヒーを飲むんです。時間は毎日同じ、あと十分くらいです。喫茶店で朝食でも食べていたら会えますよ。」

「はい?」

「あなたはそうした方がいいと思うわ。」

 なぜだかその女性は確信を持った目で言う。ジェロはなんだか従わなくてはいけない気持ちになった。

「はあ。まあ食事はとりあえず取りますけどね。その後に外から回ってみることにしますよ。」

 施設管理の受付場所を教えてくれるかと思ったら、その女性は静かに笑うだけだった。しかたがないので、ジェロは礼を言って、窓口を離れる。それからジェロは少し考えて、やはり食事を取ることにした。飛行機の中で整理しきれなかった頭の中をすっきりさせるために、もうすこし時間かせぎを続けることにしたのだ。


 空港内のフロアを上って、レストランに入る。適当にメニューを決めた。それからしばらくジェロは考えごとに耽る。ホッタイト、この前まで発音さえ怪しかった空港だが、少なくとも今は、ここにキツジという統括者とシムナナムナという変人がいることをジェロは知っている、奇妙なものだとあの日のことを思い返した。


 どうも最近、自分がうまくいっていない。それはあの夜以来で、つまりはシムナナムナという男のせいだということを、ジェロは分かっていた。どんな人間も環境の影響を受ける。その環境と馴染むことで、それは存在していられるのだ。もし、環境の中で自分と異なるものを拒み続けていたらどうなるか、ジェロはそれが分かっていたから、真面目に考えることを避けてきたのだ。思い通りにやろうとすると、きっと自分が粉々になってしまう、それは確信に近い推定だ。ジェロは自分がどんな人間かよく分かっているつもりだった。途中で誤魔化すことがひどく苦手で、だからこそ環境と折り合いをつけるには自分が真正面から向き合わないことも時に必要だと思っている。


 あの男、シムナナムナはそのままの自分が映っているように錯覚することがあった。しかも、しっかりと力強く現実に存在していることが、ジェロには不思議でならないのだ。壊れやすくて、あやふやなもの、なのに、それが一人の中に根付いていて、考え、行動するとしたら、もし自分がそのままの自分であるのなら、最後に何を見るというのだろう。

「あなたですか? 私を探しているという人は。」

 気づくと目の前に白髪の男がいた。

「私を探している・・?」

「私に会いたがっている人が来たと教えてくれたんです。この空港のクチコミは強固ですからね。」

 先ほどの受付から連絡がいったということなのだろうか。その男の言うクチコミの意味が、ジェロにはすぐに理解できなかった。ゆっくりと微笑む白髪の男の声は穏やかで、ジェロの耳に静かに響く。

「では、質問を変えましょう。あなたはジェロさんですか。シムナナムナがあなたのことを褒めていました。」

 男はジェロの向かいの席に座った。給仕は当たり前のように水を置く。この男がキツジなのだろうか。その可能性が高いのだが、居るはずのオフィスでない所で、やるはずの手続きのない所で会ったこの人物を、どこまで信用して良いか分からなかった。キツジは地域統括の一人なので集合会議などでは顔は見ているはずだったが、ジェロには目の前の人物が誰なのかの確証はない。

「すいません、失礼ですが。」

「キツジ、シュウイチです。この空港の施設管理部門のとりまとめをしております。」

「そうですか。それは失礼しました。突然だったのでちょっと混乱しまして。」

 とりあえず信じたとしても、後できちんとした確認が必要だろう。ジェロはそう判断した。

「来期の当域の空港運営計画についてすこし話がしたくて。」

「わざわざ遠い所まで来て変なことを言う人だ。空港の計画は空路計画があって始めて行えるものでしょう。」

「もちろんそれはその通りなのですが。」

「空路計画を変えようとしているのですか。」

「じつはそうなんですが、今ここで込み入った話をして良いものでしょうか?」

「いいのではないですか。空港の話を空港の中ですることに、なんの不思議もありません。」

「それはそうかもしれないですが。やはり改めて事務所の方に伺います。何時ごろだと都合が良いでしょうか。」

「そうですか。では、そうですね。あなたがもうすぐくる暖かい卵とパンのセットを食べて、その時はケチャップをつけすぎない方がいい。そして、腹ごなしに空港の二階と一階を一周する。そうするとシムナナムナに会うでしょうから、そこで彼に二時間はつかまる。いいかげんうんざりした頃にこう言うんです。十一時半からキツジさんと約束があると、それでようやくあなたは解放される。まあいいストーリーですよ。」

 ジェロが卵とパンのセットを注文したことは確かだが、それを彼は給仕から聞いたのだろうか、ジェロはキツジが言っていたクチコミの話に思い当った。

「十一時半からですね。分かりました。」

「あなたはシムナナムナに会いたいか分からないですが、シムナナムナはあなたにとても会いたがっていますよ。」

「彼はどこにいるんでしょう。」

「この店を出た右にある階段を一階に降りて、右にずっと行ったあたりですな。でもまず空港の中を一通り見てから最後にした方がいい。そうでないとシムナナムナの空港案内が始まってしまう。こんな狭い空港を案内するのに二時間近くかかるんですよ。やめておいた方が賢明でしょう。私との話の方は三十分もかからないだろうから、そうしたら三人で昼を食べてコーヒーでも飲みましょう。あなたは帰りのチケットはもう予約してますか。」

「はい。ちょうど良い季節便があったので今日の夕方にはここを出ます。明日のうちに会社に戻らなくてはいけないので。」

「SS324便ですか。」

「いえ、確か322便です。」

「それはキャンセルして取り直すことになるでしょうね。」

 わけが分からない男だった。当たりは柔らかいのに真意がまるで掴めない。シムナナムナのような分かりやすい変人とは違うタイプだが、理解が難しいことには変わりはない。この男がキツジだとすれば、アクツが苦手にするのはなんとなく分かる。自分が見透かされているような気になるのは、それほど居心地の良いものではない。

「では。一旦、これで失礼します。まだ他に何か所か、世間話をしに行く所があるものですから。それから最後にここでゆっくりとコーヒーを味わうのが私の日課なんです。」

 そう言い残すとキツジと名乗った男は立ち上がった。水の入ったコップを持つと席を離れて、厨房に何か声をかけながらコップをカウンターに置く。

「お待たせしました。」

 キツジと入れ替わりにジェロのテーブルに料理が届けられた。まるで計ったかのようなタイミングだ。出てきたセットはパンも卵も上質、それに添えてある野菜も新鮮でジェロは満足した。ただ、ケチャップの味がジェロの知っている味とずいぶんと違っていて、舌に馴染まない。確かにつけ過ぎない方が良かった。



 空港から外に出た途端、ジェロはもわっとした熱気に包まれた。砂の匂いというのを初めて意識する。風が重たく感じるのは、そこに砂が混じっているからだろう。ジェロは目を細めながら建物の壁を伝って、なんとか施設の扉へたどり着いた。そこが事務所への出入り口のはずだ。扉を閉めて身にまとってしまった砂を振り払うと、ジェロは改めて小さな窓ごしに受付に声をかけた。キツジを呼び出してもらおうとすると、応対に現れた女性は電話もとらずに言葉を返す。

「約束通り十一時半に来てもらえればいいですってよ。」

 彼女の言葉に訛りはなく語学は堪能のようだ。到着ロビーの受付よりも発音が滑らかだった。しかし、だからと言ってキツジの細かな予定を把握しているとは、にわかには信じがたかった。

「なんでご存じなんですか。キツジさんと私の予定を。」

「キツジさんとは、さっきまでここでお話ししてましたもの。午前中に一回りして新鮮な話を仕入れるのがキツジさんの習慣なの。」

 どうやらあの男がキツジに間違いはないようだ。だとすれば受付でアポの時間を取ったのと同じだ。あとは約束の時間までの過ごし方を考えればいいだけだ。

「分かりました。では十一時三十分に伺いますとキツジさんにお伝え下さい。私は、本日面会をお願いしていた世界交通機関のジェロです。」

 そう言ってジェロは自分の名刺を差し出した。

「はい、分かりました。そのように伝えておきます。」

「では。」

 再び外へ出ると、埃っぽい外の空気を息苦しく感じながらジェロは空港のロビーに戻った。短い時間で空港の外へ出ても移動ばかりに時間を取られることを考えると、確かに空港の中で時間をつぶすのが無難だろう。ジェロはなぜだか自分に言い訳するようにキツジと名乗った男の示した案をたどることにした。



 見送り用デッキがあるフロアは、外へ出なくてもガラス越しに辺りを見回せる。その日は砂の乱舞で、とても景色など確認できない状況であったが、窓辺には眺望の説明図があった。晴れた日の写真が引き伸ばされて張ってある。付近の街は大きくはない。街並みの先には砂漠との緩衝地帯として緑地があるらしい。そして、その先に映し出されている砂丘は美しかった。この街では砂漠化はそれほど進行していないようだ。


 続いて下のフロアに行くが、チケット窓口や手荷物検査場、出発口、あとは小さな土産店があるくらいで、ジェロの興味をひくような所はない。さらに階下へ行くと、そこはもう一階だ。到着ロビーの一番奥にある店、地元の民族工芸品のようなものを売っている店にシムナナムナはいた。

「中のもの見ていってよ。」

 気軽に話しかけられたその声には聞き覚えがある。

「ここに置いてあるのは、みなこのあたりの一流品ですよ。」

 シムナナムナ満面の笑みだ。品々に囲まれたレジ台の向こうにいる男は、この風景によく似合う。ジェロは軽く会釈すると、シムナナムナの表情の動きが止まった。

「あ。あなたはお会いしたことありますね。」

「ええ、先日、オーギュシティで。」

「やっぱり。ジェロさんですね。キツジさんから今週ひょっとしたら来るかもしれないと聞いていました。それが今日だったのですね。またお会いできて嬉しいです。」

 シムナナムナは身を乗り出してレジ台から手をのばしてきた。その握手にジェロが応えると、シムナナムナはぱっと手を放して、今度はレジの奥からジェロのところまで出てきた。

「なにはともあれ、この店の紹介をさせて下さい。」

「これがあなたの店なのですか。」

「はい、ボクはこの店の接客や商品陳列、レジの全てを任されています。」

「そうですか。」

 シムナナムナは航空運航の部署から異動になったのだろうか、とジェロは訝しがる。だいたいこうした店の運営は外部委託されているはずだ。シムナナムナのいる店の風景にジェロは疑問を感じていた。一方、笑顔のシムナナムナは矢継ぎ早に言葉を投げてくる。

「この街は砂漠に囲まれていて、いくつか畑作地帯が散らばっています。見晴らし台には行きましたか?」

「はい。」

「今朝はあそこに行ってもなんの役にも立ちませんが、嵐がなければ、そこから一面のナツメヤシが見えます。写真があったでしょう。」

「ええ、それは見ましたよ。」

「あれはボクが撮ったんです。」

 シムナナムナは誇らしげにそう言うと、さらに説明を続ける。

「ナツメヤシの先には果てなく続く砂漠。このオアシス地帯は本当に砂漠の中の奇跡のような世界ですから。南東の方向にナツメヤシ群が一番太くて立派です。この街では南東の方向が育ちがいいんです。気づきましたか?」

 そう言われればそんな気もする程度で、ジェロには方向ごとに成長度合い異なっているなど気づくはずはなかった。しかし、シムナナムナの中では、それは当たり前のことのようだ。

「いや、そこまで十分に観察しきれずで・・」

「そうですか。この空港を気に入ってもらえましたか?」

「ええ、まあ。」

「この店の品物も、見晴らし台からの景色同様、きっといい思い出になりますよ。どれからご説明しましょうか。」

「いやいや、今日は仕事で来ていて、キツジさんとの約束まで時間があるのでちょっと寄っただけなんですよ。それから私は特に土産物を買う気はないんです。」

「なくてもいいんです。あなたに時間があるならボクは説明したいんです。ちょっと座りませんか。」

 奥から椅子が出てくる。

「この土地名産のお茶がありますが、いかがですか。ごちそうしますよ。」

 ジェロがその答えを出す暇もないくらい、素早くカップが出てきた。ジェロにとってはいよいよ店から脱出不能な状態になる。それから本格的な世間話が始まった。この店を運営する上で困っていること、農民の苦労話などである。シムナナムナの話はよどみなく続き、まるで話が終わる様子がなかった。

 ジェロは、シムナナムナの話をなんとか押しとどめようと作戦を考え始めた。まずは自分の方で何か違う話題を持ち出して、一時的にシムナナムナを聞き役に回ってもらう。そして、そのまま立ち去ることを告げるのだ。ジェロはそんなことを考えながら、あたりを見回すと、店に予測を書いた紙が貼ってあるのを見つける。空港の予測と店長予測の両方のようだ。

「シムナナムナさん、あの張り紙は毎日やりかえているのですか?」

 シムナナムナの言葉の切れ目に、ジェロは質問をうまく差し込んだ。その時、シムナナムナは 数年前の大寒波の思い出を語っていた所だ。

「え・・、はいそうです。ボクは予測を始めましたことをお話ししましたっけ?」

「はい、それは前にもおっしゃっていましたね。予測を出すのは厳密にはいけないことですよ。あ、そうだ。思い出しました。私の予定なのですが、」

 しかし、ジェロの言葉の途中で、再びシムナナムナは自分のペースでしゃべり出していた。

「ボクの友達がリスナという街にいます。リスナはここよりも西にある街です。このあたり一帯は西風の地域ですから、リスナの天気が一日遅れで現れることがあるんです。だからリスナの昨日の天気を書いておくだけでも半分くらいは当たるんですよ。じつはボクは先週からネットでも情報の公開を始めました。この店の名前にちなんでササジー通信というものです。」

「ササジー?」

「はい、この店の名前、ササジーとは、このあたりで夕方に穏やかに吹く涼しい風のこと、安心のサインです。なぜこの風が吹くか。ボクも天気予報をするに当たって調べてみましたが、」

 気がつけばシムナナムナの気象予測を学ぶ経験談になっていた。結局はジェロはその店から離れることが出来ずに、しばらく時間が経った。シムナナムナの話は長い、まして自分の店に居れば、それこそ彼の独壇場になる。ジェロは誰か他の客が来てくれないかと思ったが、全くその気配はなかった。



 どれだけ時間が経ったろうか、世間話に続いて始まった商品の紹介やあるいはシムナナムナの感想が出尽くして、ようやくシムナナムナの話に間が出来る。

「それで結局どうされます。何かこの街の記念を買うような、心変わりはないですか?」

 やっとシムナナムナがジェロの返事を待つ態勢を作った。

「あ、いえ残念ながら。」

「そうですか。全然構わないんです。まだお時間あるなら、ゆっくりくつろいで下さい。」

「はあ。」

 商品が売れなくてもシムナナムナはあまり残念でなさそうだった。むしろ、しゃべり続けていたことによる高揚感があるようにジェロには見えた。

「いやあ。今日は良かった。だいたい今の流れがボクが理想としているものです。途中で逃げられたりするもので、なかなか最後までいかないのですよ。」

「はあ。」

「最近は私の天気予報の話の最後のところで、オーギュシティまで行ってジェロさんに会ってお願いした話をするんです。そこまで話せるのはひと月に数人ですが。」

 ジェロはそこで当たり前に浮かんだ疑問を口にする。

「あの、シムナナムナさん、失礼ですが、あなたが思う通りにできても品物が売れなければしょうがないのでは。人によっては声をかけられない方がじっくり品物を選んで買う気になるかもしれませんし。」

「そうなんでしょうね。でもこれは性分なので。落ち着かないんです。」

 店の説明を一通り終えたタイミング、そこでシムナナムナがようやく思い出したように別の話を切り出した。

「ところで、ジェロさん、せっかくなので教えて下さい。ボクはホッタイト空港独自で天気予報を出すべきだと考えています。あなたがたのお考えは変わりはないでしょうか?」

 シムナナムナに出張の理由を言う必要はないはずだ。第一考えていた説明はどうにも言い訳めいている。だが苦しまぎれのことを言えば、それは何倍にもなってその後に降りかかってくるのをジェロはよく知っていた。

「残念ながら予測についてはよりセンター発を強める方向で今進んでいます。それどころか、これからキツジさんともその話をするのですが、空港の統廃合や縮小がこれから増えそうなんです。」

「統廃合?ですか。」

「はい。」

 この空港が規模縮小の候補だと言うことまでは、今は言うのをジェロはやめておく。

「そうですか。ボクがまた行って、誰かに説明した方がいいなら言って下さい。」

 シムナナムナは空港再編の意味がよく分かっていないのだと、ジェロは理解した。

「ジェロさん、せっかくだからボクの家に泊まっていって下さいよ。」

「いえ、とんでもない。私は今日夕方の便で戻らなくてはいけないんです。SS322便で。」

「そうですか。ではお昼くらい一緒に食べられそうですね。」

「あ、いやもうこんな時間だ。じつはこれからキツジさんと会う約束をしてまして。」

「キツジさんはいい人ですね。ボクがジェロさんと出会えたのもキツジさんのおかげです。」

「キツジさんはなぜか十一時三十分くらいがちょうどいいと言っていました。私が空港を一回りして、それからシムナナムナさんと会うだろうからって。変に時間の見積もりがうまい人ですね。」

「キツジさんの悪いくせです。いろんなことを予測してそれを相手に言う。そうすると相手はそのように動かなくてはいけない気になる。それを見て楽しんでいるんです。」

「いい人ではないんですか?」

「いえ、いい人なんですけど、人をからかうのが好きなんでしょうね。だから困るんです。ボクはそういう人の対処法を知っていますよ。前にキツジさんはボクに、今日はコーヒーを飲みすぎないようにしないとね、と言いました。その日、到着便のキャンセルが出たので客が少ないだろう。お客さんがいない時は、ボクはここのお茶でなくコーヒーを飲む。それを言ったんですね。その時、ボクはこう言ったんです。キツジさんがそう予測するなら、ボクはこれから家に帰って昼寝をすることにします。そうすると店番はキツジさんがすることになりますってね。実際にそうしたら店番してましたよ。それでこりたみたいですね。」

 痛快そうに笑ってシムナナムナは言うが、ジェロにはどこが面白いのかまるで理解できなかった。

「では、キツジさんと約束の時間なので失礼します。」

「送っていきますよ。」

 逃げるように店を出たジェロに簡単に追いついたシムナナムナは、当たり前のようにジェロの横に並んで歩き出した。



 ジェロとシムナナムナがやってきたのは空港施設の三階で、そこにはキツジを名乗ったあの白髪の男がいた。会議ブースの手前までついてきたシムナナムナに、キツジは声をかける。

「やあ、シムナナムナ。今日はジェロさんに空港の案内をしそこねたかい。」

「あなたはいつも余計な入れ智恵をボクの知り合いにする。」

 シムナナムナとキツジはそう言って笑い合った。

「このジェロさんとの話は半時もかからないですから、三人ですこし遠出してお昼でも食べましょうか。」

「それはいいですね。キツジさんの車でムカガッタの店にいきましょう。」

「店に戻りますか?」

「そうですね。その前に車止めに顔を出してみます。風が収まってきたので誰か来てるかもしれない。」

「そうですか。」

「では。」

 それから小さな事務室で、ジェロはキツジと二人きりになった。朝、喫茶店で会った男に間違いはない。しかし、まだジェロの胸のうちには、これは大きな詐欺なのではないか、この男はキツジではないのではないか、という疑念は消えてはいなかった。

「改めまして私は世界交通機関のジェロです。現在、このエリアのカテゴリーについて議論が進んでおりまして、その件も担当しております。」

 ようやくジェロはキツジを相手に自己紹介をすることが出来た。

「空路以外の輸送手段も含めての未来像を練り直す時期にきているのではないか、ということが私が話したいことなのですが。」

「じつはあの後、アクツに電話したんですよ。いいからお前の口からちゃんと説明してみろってね。そうしたらそのプランが本気なのかどうか俺には分かるからなって。」

「は? それでは・・」

「それから明後日の会議は出なくて良いそうですよ。そう伝えておきましたから。」

 その瞬間、ジェロは自分の立ち位置が分からなくなった。

「ちょっと失礼します。確かめさせて下さい。」

 状況が飲み込めないジェロは、素早く時差を計算すると、アクツのいるオフィスに電話をした。慌てているジェロの様子をキツジはただ楽しそうに眺めている。最初に電話に出たのはリナだった。

「今は忙しいから出たくないって。それから明後日の会議は延期になったから、今夜はキツジさんのお話をじっくり聞いて帰ってこいいうのが命令よ。アクツさん、伝言の内容はこれでいいかしら。・・・、言いそうよ。」

 電話を切ったあと、ジェロは思わずつぶやく。

「私は何をしにきたんだ・・」

「まあ、要件は済んだことになりますし、いいんじゃないですか。」

「おっしゃることの意味が分かりません。」

「私は中央の今回の戦略を理解した。それについて特に反対をしようとかそういうことはない。まあ、世の中の流れとして当然ありえる道筋ですから。」

「・・はい。」

「しかし、この変化について私はいくつか考えて備えておかなくてはいけない。それだけのことです。アクツは私に義理がありますからね。だから、わざわざあなたを派遣して教えてくれたのでしょう。あの男は自ら連絡を寄越すことはない。あいつの戦術はね、こんな風に回りくどいんですよ。昔から。」

「・・・。」

「それよりこの空港はどうですか。」

「どうと言われましても。」

「小さな空港でしょう。ただ、ここには世界のあらゆるものが詰まっている、地域に根ざした生活、世界都市とのネットワーク、自然と都会、環境破壊。世界について考えるにとても適した所です。」

「世界を考える、ですか。」

 ジェロはオフィスにある膨大な世界中の資料を思い浮かべる。文献、蓄積されたデータ、情報量だけで考えれば世界を見渡せるのはあの場所であるはずだ。いぶかしがるジェロの意識に気づいたのか、キツジは言葉を足す。

「全体像を見るのにまんまんなかにいたら返って見えない場合もあるんですよ。その点、この空港はいい。中央と地方と両方を見回せるから共通することが分かる。そして両方で起こっている問題点が関係していることもね。」

「・・・あなたも、シムナナムナさんも、よく世界のことを口にしますね。」

「ええ、彼とは気が合いますから。そろそろシムナナムナを呼んで、まずはランチにしましょう。ジェロさんはこの街が初めてだ。だから、とびきりの場所を紹介しないとね。」

「はい、でも・・」

「迷うことがあるならランチを食べながら伺いますよ。仕事のことと昼ごはんのことを、一緒に悩むのはよくありませんからね。」

「悩みというか、自分がここに来る意味がなんだったのか、結局、分からないだけなんです。」

「来たことだけでとても意味があることですよ。とにかくムカガッタの店に行きましょう。店長の髭以外にはなんの個性もない店ですが、味は保証しますよ。」

 それからキツジとジェロは、シムナナムナと合流して屋内の駐車場へ向かった。



 この空港の駐車場は出入り口へ続く進入路が妙に曲がっている。それは砂の侵入を防ぐためだそうだ。スロープにすでに砂がうっすら積もっているのは、朝の砂嵐のせいだろう。


 道路に出ると空の様子は変わっていて、すでに砂嵐は収まっていた。穏やかな風の下、雲一つない深い青色の空が見える。車は通りに出ると加速した。窓を開けてみると、風に違和感がある。重い。まだ空気に砂漠からの砂が含まれているのだろうか。

「朝、外に出た時には目も開けられないくらいだったんですが、今はさほどではないですね。」

「今の時期は風がひどいのは朝だけですよ。このあたりじゃ風が一番、季節に敏感なんです。」

「そんなもんですか。」

  三人のドライブは三十分ほど、砂漠帯を一回横切ると目的の店に着いた。キツジとシムナナムナは迷わずに奥のテーブル席へ向かう。店の者へ何か言葉を投げかけ、その答えが返ってくる。たが、ジェロはその意味を理解することは出来なかった。

「いらっしゃい。今日はずいぶんと上品な連れですね、と彼は言っています。こんなしがない店の店員でも人の品くらいは理解するらしいです。」

 シムナナムナが通訳をする。シムナナムナにしたら、人の分まで話すので嬉しいようだ。三人が席に着くと、店の奥から別の男が現れてメニューを見せた。シムナナムナと言葉を交わした男は立派な髭をたくわえていて、どうやら、ここの店長らしい。

「このランチにしましょう。あたりの名物がちゃんと入っている。」

 シムナナムナはメニュー表の写真を指差して言う。髭の男は、シムナナムナのその言葉に頷き、現地の言葉を返すとキッチンへ消えた。


 そのテーブルで主役はシムナナムナだった。街の名産品の紹介から始まって、その後、延々とホッタイトの自慢話が続く。アクツは笑ってそれを聞いて、たまに合いの手を入れている。ジェロは正直その状況に馴染めないまま、だんだんと飽きてきた。ジェロは時おり窓の外を眺めたりして適度に気を紛らせながら、シムナナムナの話についていく。

「ホッタイトが素晴らしいのはよく分かったよ。あなたの生まれ故郷より惚れ込んでいるようですな。」

 ジェロはつい半ば呆れた口調になる。しかし、シムナナムナは言葉の中の毒気に気づかない。

「いえ、ボクの生まれ故郷もなかなかに素晴らしい。なんといっても海に囲まれていますからね。海の幸が良いんです。ここは砂や岩ばかりですから。海と空の組み合わせ、これはここにはないんです。」

「空はこの街にだってあるじゃないですか。」

 ジェロはさっき見た青空を思い出す。青の濃さが印象的だった。

「この空も素晴らしいが、残念ながらボクの空じゃありません。サラスタミズナの空はもっと活き活きとしていますから。あの空はやっぱり素敵ですよ。」

「サラスタミズナの空はそんなに素敵なんですか。」

「ええ。なんといっても朝がいい。港街の朝をあなたたちはご存じですか?」

 ホッタイトのお国自慢の後は生まれ故郷の思い出話、ジェロは正直へきへきしていた。自分のまわりのものは全て素晴らしいと思う、結局シムナナムナはそういう人間なのだろう。自分が感じたものは全て良いものになるのだ。この男は理論武装された理想主義者なのかもしれない、とジェロは気づく。

 ジェロは感情より理論で動くタイプだったが、意思が弱いため他人の意思に流されがちだ。一方、この男の場合は厄介なほどに情熱家で、常に理想に向かおうとするタイプに見える。そのわりに非常に理論的な所があったりするので始末が悪い。ジェロの場合は、どんな情熱も最後は形にできなければ意味はないと思っていたし、それがいかに困難であるかを、さらに人生はそれほど長くないことも知っていた。しかし、シムナナムナの場合はどうも認識する順番が違うらしい。


 ジェロの相槌が減ったのに気づいたのか、ふいに、それでシムナナムナが話題を変えた。

「今日は素晴らしい。ジェロさんがここに来たということは予測を出す用意が進んだのでしょうか。ボクはトレーニングを急がないと。」

「シムナナムナさん、それは先ほどもお話ししましたが、そううまくは行っていないんですよ。」

「でも、あなたがここへ来たということは多少なりとも進歩です。ボクは今はそれを喜びたいと思っているんです。」

 シムナナムナには自分の真意が先ほどの会話では全く伝わっていないことに、やっとジェロは気づく。

「いや、それが残念ながらそうもいかないんです。」

 ジェロが言葉に窮すると、キツジがその先をひきとった。

「大きい組織ですからね。まだまだ難しいそうです。だからね、シムナナムナ、もうすこしトレーニングを続けて気長に待つしかなさそうですよ。」

「・・・そうですか。」

 その時のシムナナムナの表情はあの時、ビルを走り去る直前と同じものだった。ジェロは言葉が見つからなかったが、キツジはさらにやさしく言葉を付け足した。

「真面目にやっていればそれでいいんです。そういうことは誰かがきっと見てますから。」

 気まずい話から逃げるようにジェロが別の質問をする。

「ところでさっきからよく分からないのですが、シムナナムナさんは何をしているんですか。」

「ええ。毎日、あの店に居て、お客さんが来れば店の中や空港を案内する。たまには誰かが商品を買ってくれる。それがボクの毎日です。もっともお客さんが来ないことが多いので、店の中で天気予報の勉強をしている時間の方がずっと長いかもしれませんが。」

「彼の店は独創的な所があって、あれでもファンがいるんですよ。」

「テナント経営までキツジさんの管轄なんですか?」

「キツジさんは管轄なんて、まるでしたことはないでしょう。」

 ジェロの質問には、キツジでなく、シムナナムナが答えた。

「でも、指示命令系統というか報告事項もあるでしょうから。」

 ジェロがもう一度、疑問を口にすると、キツジもシムナナムナも同じ反応をする。

「ジェロさん、別にシムナナムナは私の部下ではないのですから。」

「キツジさんを上司にも部下にも持ったことはありません。そんなことあるわけないじゃないですか。」

 二人にとって当たり前の答えが、ジェロはすぐには理解できなかった。キツジはジェロが疑問に思うことに理解を示したのか、声を出さずに笑顔を作って情報を追加する。

「まあ、人事採用の時などにアドバイスするくらいですよ。」

「シムナナムナさんは失礼ですが、それでは空港施設の職員ではない。」

「そうですよ。雇われ店主です。」

 シムナナムナの声にはなんの気負いもわだかまりもないように、ジェロに響いた。

「なぜ、あなたがそんなに空港やまわりの市民のことを考えているのですか。」

「不思議なことはないですよ。」

 いや、それはジェロにとっては十分に不思議なことだった。

「キツジさんにお伺いしてもよいですか?」

「ええ、どうぞ。」

「先日、シムナナムナさんがオーギュシティに来た時は、本当にシムナナムナさんと一緒に訪問する予定だったんですか?」

 キツジは微笑んで首を横に振った。横に振るのは肯定だという意味がこの地域にはあるのではないか、ジェロはそんな風に疑ってしまう。

「私は彼の願いが叶うようにささやかな手伝いをしただけですよ。彼がこの空港と関係を持つようになったのは私の願いでもあったですからね。彼がこの空港に最初に来た時に飛行機をとても楽しそうに眺めていた。だから私が紹介したんです。今、下の店で人を募集しているぞって。」

「はあ。」

「それはきみが一番輝けることだとね。」

 そう言ってキツジがシムナナムナを見た。シムナナムナも嬉しそうに笑っている。

「そうです。だからキツジさんはいい人ですね。最初に会った時から未来を占うのが好きな人でした。」

「だからシムナナムナのことは心配していない。むしろ今はあなたの方が気になります。」

「私、ですか?」

「はい、バックボーンと言いますか、あなたが生きていく指針のようなものが見えない。それがないのにシムナナムナのように優しそうな人だから、ちょっと危ないと思いますよ。」

「はぁ・・」

「そうです。ボクもそう思います。」

 シムナナムナはなぜか笑ったままだ。この二人の掛け合いは、どうもジェロにはうまく読めない。

「そうですか。よく分からないな。だいたい生きる指針なんて、単純ではないでしょう?」

 ジェロが言うと間髪を入れずキツジが言葉を続けた。

「この人、シムナナムナの場合はですね。この星を、地球を愛することです。」

「ええと、また世界の話ですか。」

「はい、全世界という概念と別にそれぞれの地域が存在する。それが必要だと私は思っていますよ。地域性、どこかの地域が全世界という概念になることなんてない。地球人としての面を二重に持っているかなんです。」

「キツジさんはそうやってたまに話をわざと難しくする。結局自分のまわりのことと全く別の世界は全て繋がっているべきだと思うだけです。」

「きみの音楽だって一緒だろう。住んでいる所のトラディショナルなやつです。あえて言うと私はそういうものと、全世界でのマルチヒットな曲と、両方ないと成り立たないと思うんです。あ、ジェロさんはシムナナムナの演奏をまだ聞いたことはないですね。シムナナムナは民族音楽が好きなのです」

「そうです。音楽はとても重要です。裕福でないと地球人になれないんでしょうか。そんなことはないとボクは思っていますよ。でも、心の豊かさが必要です。これがないと何も始まらない。」

「まあ、彼の太鼓はなかなかのもんです。この街の民族楽器もよく叩くが、どちらもなかなか風情があってよい。」

「ぜひ聞かせてあげたいです。」

 ジェロが口をはさむタイミングがなかなかない。それはいつもの彼らのじゃれ合いなのだろうとジェロは察した。

「エネルギーは有限なので、みんなが同じ暮らしは出来ないかもしれないんですよ。シムナナムナさん、そこにはどうしたってビジネスが存在する。だからローカルな人たちは変わろうとしないのではなく、変われないのです。」

 それは不思議なランチタイムだった。自分の住む街とは時計の質が違っているのかもしれないとジェロは思った。結局はキツジとシムナナムナの会話を聞いているうちに、気づけば三時間近くその店にいたことになる。二人の話はジェロの感性ではすぐに理解できない部分が多く、自分の上司であるアクツとキツジの関係を聞き出すことも忘れていた。



「フライトの変更は今頃してくれているはずです。私が頼んでおきましたから。」

 帰りの車でキツジがそう言った。

「だからちょっと時間がある、せっかくなので近くの遺跡めぐりでもしましょう。この街の数少ない観光資源です。」

「え、でも・・」

「まあ、この街に来た以上はしかたないですよ。」

「そうです。それでは、ボクが案内させて頂きましょう。」

 シムナナムナは嬉しそうにガイド役を買って出る。

「でも、お店はいいんですか?」

「はい、この時間は飛行機の発着がないですから。それに午後からの店開きが遅れても、さほど問題はないんです。」

「そういうものですか・・」

「そうだ、ジェロさん。今夜はボクの家に泊まりませんか。」

「そうですね。それがいいでしょう。」

 それにはジェロでなく、なぜかキツジが答えた。ジェロがろくに意見も伝えられないうちに、車は街外れに向かい、遺跡めぐりが開始されることになった。

「私はね、大学時代は考古学が専攻だったんです。この業界ではあまり要らない経歴ですがね。シムナナムナに初めて話した時には、この街の遺跡についてで大いに盛り上がりました。しかし、シムナナムナのガイドは見事ですよ。一級品です。」

 キツジがそう言うと、ジェロはすこし声を張ってしゃべりだした。

「最初に向かっているのは、この街最古の遺跡。古代の石壁だけが残っているものです。これから古い世代の遺跡からだんだんと紹介していきます。この街には立派な遺跡が三つもありますから。」

 シムナナムナの説明はさらに続きそうだったが、一旦、キツジが話題を引き取る。

「見よう見まねだけだそうです。気象学もそうですが、この街の歴史を学校で学んだこともない。なのになかなか堂に入っています。この人の場合は基本的に凝り性ですからね。」

「はい、この街に来た当初、よく遺跡に来ていました。空港の店を二人でやっていましたから、週に何日か休まなくていけないんです。ボクは今のように休みがない方が良かったんですけどね。最近では店を休みにしたのはジェロさんの所に行った四日だけですからね。」

 それを自慢そうに言って、さらにシムナナムナは言葉を続ける。

「休みの日はすることがないので、ここに来てたんです。昼間に多くの人がいて、誰かと話ができますから。だからガイドさんの説明をよく聞いて、よく質問もしましたよ。」

「ジェロさんは学生時代は何をされていたんですか?」

 話題がまたジェロのところへ戻ってきた。その頃にはさすがに二人のペースに慣れてきたので、多少は話しやすくなっていた。

「私ですか。私は応用数学を専攻していました。まあ数学というよりコンピュータプログラミングが主でしたね。」

「物流や国際協力というわけでもないんですね。」

「はい、世界交通機関に入ったのは本当にたまたまです。プログラミングでも生活は出来そうだったんですが、すこしでも大きい組織でと思って就職先を探していたら、今のところに落ち着きまして。まあ、自分の責任を自分が全て持つ生活に踏ん切りがつかずにいたので、そんな探し方になっていました。」

「ほほう。やはりあなたは余裕を大事にする方のようだ。だけど、余裕が大きすぎると、自分の進みたい方向が分からなくなりがちです。実際、今のあなたはそんなところだと私は思っているんですよ、ジェロさん。まあ、私の洞察力はまだまだ足らない時が多いんですけどね。」

 キツジの言う言葉の意味が分からず、ジェロはすこしの間、きょとんとした表情になる。ジェロは確かに切羽詰まるのは好きでないが、そう言われるまで余裕のある生き方だとは思ったことがなかった。

「ジェロさん、これから向かう遺跡はなんと今から千年以上も前のものです。その時代、この砂漠地帯はまだ草木が多かったんです。その証拠が地層にあるんです。まずは・・」

 キツジとジェロの会話に関係なく、シムナナムナが遺跡紹介を始めた。そして、それが二時間ほどの遺跡めぐりツアーが始まりでもあった。



 空港に戻った時間はちょうど発着が重なるタイミングだった。朝とは違った活気があって、それから一、二時間ほどはシムナナムナは、店で客になんとか自分の話を聞かせようと通路を歩く利用客へ熱心に声をかけていた。帰りの便がすでに変更されてしまったジェロは何もすることがなく、店の中でぼんやりと過ごしているだけだった。その日、客を捕まえられなかったシムナナムナは、いつもより早く店じまいをする。


 その夜、ジェロはシムナナムナの家に泊まることになった。シムナナムナの家は空港から歩いて三十分ほどの所で、二人は徒歩で向かう。両側にナツメヤシが植えられていた道からは、低い雲の底がうねのように見えた。日がかげって黒く映る雲はジェロには不気味に見えたが、シムナナムナは違うようだった。

「いいですね。雲が出ている。この街で雲を見かけると私はなんだか嬉しくなります。」

 シムナナムナはジェロの方を振り返って言う。あたりはすでにシムナナムナの表情がようやく読み取れるくらいの薄暗さになっていた。シムナナムナは前方に手をのばして、また話しかけてくる。

「この木立ち、美しいと思いませんか。いろいろ言いましたが、じつはボクがホッタイトの街で一番気に入っているのが、この通勤路にある木立ちなんです。」

「木立ちですか?」

 ジェロはその木の茂みを見る。それほど高くなく、わずかな夕暮れがそれを照らしてた。

「この木立ちを見せたかった。とても美しい木立ち。夕暮れか夜のはじめだとシルエットが一層よろしい。」

「ははあ、なるほど。」

 そう言われれば確かに見事な気はするが、この街で一番と言われてもジェロはそれほどの感激は味わえなかった。ただ、薄暗さに映える木立ちのシルエットは、風情があると思えなくもない。

「ボクの家はそれほど大きくないし、何もない。だからこの木立ちをお見せできれば、もうそれで十分です。」

「そんな、私の方が泊めてもらうのですから。」

「大丈夫です。ボクの家には寝具は余分にあります。食料だって温めればすぐにおいしくなるものがいっぱいありますから。この食事は世界共通です。だいたいボクはインスタント食品は人を幸せにしていると思うんです。おいしければおいしいほど笑顔が増える。」

 先ほどまでの調子でシムナナムナは再びしゃべり続けるのかと思ったが、その後、シムナナムナはなぜかやや間を置いて、言葉を落とした。

「温かい食事にこだわることは、母親や自分を大事にしてくれる人を台所にしばりつけてることなのかもしれません。それからの開放でもあるわけです。それになにより、ボクのように家族を失くしてしまった人間の支えですから。」

 その時には薄暗さがいよいよ増してきたようにジェロには感じた。もはやジェロはシムナナムナの表情をうまく読み取れなかった。

「・・失礼ですが、シムナナムナさん。」

「ボクの家族の話をしてもいいですか。ボクの妻と息子は事故でもう居ません。それがあったからボクは生まれた島を離れたくなって西域に来たんです。ここが西域で二番目の街です。いい街に出会えて良かった。」

 それからしばらく二人は無言で歩いた。ナツメヤシの畑は途切れ、荒地が増えてくる。そのさらに先、オアシス帯の外れに見えた建物がシムナナムナの家だった。



 家に入って明かりをつけると、シムナナムナに笑顔が戻っていた。

「ここがボクの家です。とても気に入ったので借りて、そして今も気に入っています。だって、全て今のボクにぴったりですから。ちょっと狭いのを我慢してもらいますが、今日のように客人を泊めることだって出来るんです。」

 荷物を置いたシムナナムナは、何かを棚から取り上げると、それを掲げた。動物の皮を張った箱のようなものだ。ジェロは昼間の会話を思い出して、それが太鼓だと分かった。部屋を眺めると、他にも太鼓らしきものがいくつか置いてある。それはジェロがよく知っている形状のものもあるし、おそらく太鼓であろうと、かろうじて想像できるくらいのものもあった。

「なにはともあれ、まずは聞いて下さい。これがボクの源流の音楽です。南の生まれた島では季節に一度祭りがあるんです。それで腕を磨きました。」

 夜中に楽器などとジェロが思ったが、この家の近くには道と荒地しかなかったのを思い出す。五分ほど歩かないと家がないので隣人への気遣いは無用だった。すぐにシムナナムナは演奏を始めた。たぶんシムナナムナは店番の時と同様に、この家に誰か来たら必ずやることを決めてあるのだとジェロは理解した。

 シムナナムナの演奏は太鼓と歌声で構成されている。シムナナムナの故郷の島唄、その後にホッタイトに根ざしている歌が続いた。ジェロもすこし歌って、太鼓を叩いてみる。しかし、ジェロはさほど楽器を使ったことはないので、二人の演奏は長くは続かなかった。それからジェロとシムナナムナの二人は、本格的に酒を酌み交わし始める。

「いやあ、あなたの故郷の太鼓と、このあたりのものとでは、ずいぶん音が違うものですね。だいたいが太鼓の形からして違う。」

「はい、こっちはマジロウという動物の皮で出来ています。マジロウは穴を掘るやつですが、昔は大量にこのあたりにいたんです。ボクの故郷のドラム、こちらはスティール製でして、港で余って放置されたドラム缶をのばして作ったものです。」

「なるほど。自分の身近なものが楽器の材料になっているんですね。」

「そうです。だからずいぶんと違うでしょう。私が異国の太鼓を叩くのはあくまで遊びです。多少でもそこに暮らしていないと本当にそこの楽器は叩けない。私が今のところ自信があるのは故郷のサラスタミズナ、それにここホッタイトの太鼓だけですよ。」

「ふうん、」

「そうそう、あと、これは東方にある太鼓、この音は特別です。壺型でね。あぶくのような音がします。」

 シムナナムナの太鼓コレクション自慢はそこから熱を帯びてひとしきり続いた。世界中の太鼓の種類にシムナナムナは詳しかった。

「音楽の話と世界の話がどう繋がっているか、やっぱり僕にはよく分からないな。」

 シムナナムナの太鼓コレクションを眺めながらジェロは言う。

「地方独自のもの、世界共通のもの、その両方持っていることが重要です。」

 シムナナムナが楽しそうに語るのを見るのをいいかげん慣れている自分がいるのに、ジェロは気づいていた。

「自分の世界を、世界の全てにできるほど、人間は無限ではありません。当たり前じゃないですか。さっきの音楽、あれはボクの生まれ故郷のもので、ボクの音楽です。でも、世界にもっとたくさん音楽がある。その全てに感動できるが全てを演奏はできない。せいぜい真似事です。だからボクがさっき演奏した方の音楽は本物でないかもしれません。」

 さっき演奏したというのは、たぶん最後に演奏した西域の古典的な楽曲のことだろうとジェロは推理した。音楽の解釈さえ、ひどくこの男らしいとジェロは感じたが、それと同時に、シムナナムナの考えの中で、馴染めない部分が自分の中でひどく明確になってきてもいる。

「何も考えずに演奏することは出来ないんでしょうか? それに深く物事をつきつめないで生きていくことだって悪いことじゃない。なぜそうはしないんだろう? 例えば音楽を楽しむだけでいいじゃないか。結局、あなたはいろいろ考え過ぎているような気がするな。」

 その部屋の雰囲気のせいなのか、ジェロの口調は自然とくだけたものになっていく。

「そうかもしれません。でも、考えずにはいられないんですよ。音楽は最も楽しいこと、では最も深い悲しみってなんでしょうか? 家族を失った頃によく考えました。生きる基本はなんだって。昔は狩りをして植物や動物を育てていた。それからずいぶんと暮らしは変わってきた。生きるか死ぬかに関わっていた時は、獲物がいないことや作物が育たないことが一番の悲しみだった。それから次に家族の平和、友情なんかを失うこと、あるいは支配という恐怖が現れたんだと思います。」

 シムナナムナは一気にまくしたてるように言うと、長く静かに息を吐いた。

「君の思考は、常に、ずいぶんとムコウミズだ。」

「・・ムコウミズってなんですか?」

「あ、私の地元で使われる言葉だった。あまり気にしないで下さい。」

「とにかく、誰かを失うこと、自分が大事にしてきたことがダメになること、場合によっては裏切られること、友情が支配に優先されること、そんな順番だったと思うんです。当時、ボクは自分の悲しみを分析して一生懸命納得しようとしてました。結局、誰かのシは頭で分かってからは本当に自分に行き渡るわけで、そして心が埋まるまでは続くんですよ。」

 シムナナムナはやや呂律を怪しくなっていた。ジェロも自分が久しぶりに飲み過ぎていることに気づいた時分だ。

「ジェロさん、一番てなんだと思いますか?」

「一番か。正直言ってあまり深く考えたことはないですね。」

 ジェロの暮らす街では、生きていくのは競争のようなものだ。しかし、ジェロはそれに違和感を持つことがあって、一番ではないが自分にとって居心地のいい場所を確保する、そのために生きてきたような気がする。それは進学の時も就職の時も、ずっとそうだった。ジェロの沈黙を待って、シムナナムナは言葉を続ける。

「一番大きい、一番とがっている。一番似ている。みんな基準があります。でも、実際は自分が基準なんだと思います。だからボクは、ジェロさんやキツジさんみたいな人たちが好きなんです。だって、大事にしていることと、自分が社会に役に立っていることが、世の中の一番とまるで違っていますからね。」

「そんなものなのかな。少なくとも私にはシムナナムナさんのやっていることの方が分からない。空港のため、この街の人のため、それを考えるのは私のような所に勤めている人間が率先しなくてはいけないのに。だってそうでしょう。この街の天気予報を考えて、はるばる自費で遠く離れた街まで行くなど信じられないし、意味が分からない。正直言って、行動の理由がまだよく分からない。」

「おかげでジェロさんと友達になれたんです。それに良い本にも巡り合えた。ボクはね、だいたい幸運に恵まれるんですよ。」

 シムナナムナは誇らしげにすこし胸を張った。その言葉を心の底から信じているのだろう。

「一番を探す必要はないんです。それよりも自分のことを第一に考えることです。自分が本当にやりたいこと。誰かのためでなく自分のためにやりたいこと、誰かと比べると自分にプラスなことばかりが気になる。でもね、自分のためにやりたいこと、自分が心安らかになるために、幸せになるために、笑って死ねるために、やり残しがないように、何を今しておきたいのか、それを考えるとね、不思議とお金や保身のことなんか浮かんでこない、自分が何が出来たか、どれだけ多くの人に感謝されたか、そんなことしか出てこないでしょ。」

「そんなに考え抜く人は他にほとんどいないと思う。それに、悲しいことだけどさ、大事なことってなんなのか、あの街にいると分からなくなることがある。」

「ボクはこの広く果てしない世界の一員でありたいと思っています。今までも多くの国や文化、それに人々に助けられてきたから。どこか特定の集団の味方なんかできないんだ。だから果てしない世界の一員と思って生きていくことがボクにとっての灯台なんです。」

「灯台?」

「そう。誰だって目的地をみつけるには灯台が必要です。ジェロさんもたぶん自分の灯台を見つける必要があります。」

「・・・」

「キツジさんともよくこういう話をします。食事の時も言っていましたよね。あの時、キツジさんが言いたかったこと、それは灯台が見つかってないという意味だったと思いますよ。灯台には温かみがあります。ボクの生まれた灯台はメンテナンスを行う作業員が常駐していて、船乗りたちから信頼されていました。あれは立派な仕事ですよ。」

「まあ、指針が灯台ということか。」

「例えばですよ。どこかの都市が火山なんかが起きてそこで生きていけなくなる。昔なら侵略とかもそうですね。そうすると、人が移動します。すでにある別社会で暮らさなくてはいけなくなる。一つの文化が移動して別の文化と混ざり合うということです。それを繰り返していくから世界は一つになるんです。どこか別の文化圏の人が漂流したり避難したりでポツリと別の文化圏に現れるのは素晴らしい奇跡なのです。新しい知識や技能がもたらされることが多いし、文化発達のきっかけになると歴史は教えてくれました。一つの同じ社会の中で、たまたま別の場所で違う考えが生まれることはあります。それは、異文化とは全く別のものですよね。ぞれぞれのローカルから繋がっている世界のローカルへ移行していくのです。」

 シムナナムナはしゃべり続けていたが、目の光がぼんやりとしてきたようにも見えた。酔いがさらに回ってきたようだ。

「よく分からないが、シムナナムナ。君はとても世界のことを考えていて、そして、とてもローカルな人だとは分かったよ。」

「はい、家族を失ったボクはもう、この星にいる誰でもかれでも家族だと思いでもしないと、やっていられないんです。それを考えると、家族みんなでやるべきことを、きちんとしなくてはいけないと思いました。それと自分の街や近所の人と考えることは、ちゃんと区別して、かつバランスをとらなくてはいけません。」

「なるほどね。」

 それからもシムナナムナは何かしゃべり続けていたが、やがて横になり、言葉は次第に意味不明なつぶやきに変わっていった。酒を飲み過ぎたのだろう。

「・・8002、9002。20度、12度・・シテイ・・フメイ・・」

 シムナナムナの寝言、そのつぶやきは、気象情報を各機関でやりとりするために国際機関にて決められた通報式だった。ジェロはかろうじて、その意味を理解したが、ジェロもすでにしたたか酔っていたので、少しの時間差でやはり眠りに落ちた。


 そして、その夜で、ジェロはシムナナムナに完全に心を許すようになっていた。

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