8、闘技場
8、闘技場
薄れゆく意識の中で…………こんな記憶を思い出した。
それは、確か中学2年くらいの夏休み。智樹はお母さんと子供夏休みフェスタに出かけていて、友達とは誰とも都合が付かず、家で暇を持て余していた。
私は兄の部屋に遊びに行った。兄はゲームばかりして、全く構ってはくれなかった。
「ね~!ゲームばっかりしてないで遊ぼうよ~!」
「無理。今いい所なんだ」
「無理とか無理!今すぐやめてよ!」
「無理とか無理!とか…………無理!今始めたばっかり」
今始めたばっかりなんて嘘ばっかり!ずっとゲームしてるじゃん!
こうなったら邪魔してやる!!
兄は脇腹が弱い。まずはくすぐりだ!
「やめろ!やめろって!!死ぬ!!回復できん!死ぬ!!」
「あはははははは!!」
悠希の焦った反応ったら!面白い事この上無いっ!
「マジで止めろよな!!」
「や~だよ~!」
今度は後ろから抱きついた。
「あっ!今はダメだって!マジで止めろ!」
「あはははははは!!」
むしろ、この遊びの方が面白いかも!
その後、耳たぶを噛んだ。
「……ちょ、莉奈っ!!」
焦った兄は思わずこっちを振り向くと、ゲームのキャラが死んでいた。
「莉奈~!!」
やっべっ!怒った!?
お兄ちゃんは私を追いかけた。そして、ベッドの上に逃げた私は兄に抱えられて倒された。
「きゃーはははははは!!」
そして布団で体をきつく巻かれて、身動きが取れなくなった。兄は私目の前、凄く近くに自分の顔を寄せて言った。
「ここでおとなしくしてろ」
顔が…………近っ…………。ドキドキした。ドキドキ…………?どうして?
私、おかしいのかな?
おかしい。多分おかしい。
「アピールポイントを入力してください」
『兄を探しています。ユーザー名tomoki312に連絡ください』
こんな事をするのは、おかしい事だ。わかってる。こんな、自分の身の危険を犯してまで、兄を探そうとするなんて…………
スタジアムの外で、おじさんとエントリーを済ませた。中に向かう途中の階段を、私は先に下りながら、おじさんを見上げて訊いた。
「ねぇ、おじさんはどうして現実世界に帰らないの?」
「帰らないんじゃないよ。帰れないんだよ」
「帰れない?どうして?」
おじさんは少し迷って言った。
「現実世界との媒体が無くなったんだ」
「バイタリティー?」
「あー、要はゲーム機が無くなったんだ」
ゲーム機が無くなった?思わず先に進む足を止めて振り返った。
「じゃあ、私と一緒に戻ろうよ!」
「それはできないんだ」
「え?コントローラーって定員1人?まさかの1人乗り?」
コントローラー1人につき1人とか何?このゲームケチくさくない?私がプリプリ怒っていたら、おじさんは困った顔をしていた。
「そうじゃないよ。現実世界に肉体がもう無いんだ」
「…………」
思わず絶句した。
現実世界に……肉体が無い?
私は思い出した。
あの、人の気配の無い部屋を。
私は考えた。
あの部屋に兄以外の魚人がいた訳は……?
私の顔を見て、おじさんが言った。
「どうしたんだい?やっぱり止めるかい?」
私は首を横に振った。
「兄がもしこの試合を見ていれば、私が探しているって事がわかるかもしれない!」
そう期待して、闘技場の入り口へ進んだ。
入り口からは明るい闘技場の中が見え、今正にすぐそこの距離で、戦いが行われていた。
闘技場に入る前に、やっぱり私だけは係の人に止められた。係の制服を着た美人のお姉さんは私を見て笑顔で言った。
「聖霊は試合が始まった後に召喚してください」
「え?聖霊?」
「はい、規則ですので」
それを聞いたおじさんは少し驚いた。そして、係のお姉さんに聞こえるように、わざと大きな声で私に言った気がした。
「聖霊レナ、後でもう一度召喚するからここで待っているように」
おじさんはこちらに目配せした後、私をその場に残して先へ進んだ。
やっぱり本人じゃなきゃダメだった。なんとかおじさんの後に入ろうと試みたけど、係のお姉さんが笑顔でその行く手を阻み、結局私は入れてもらえなかった。
おじさん大丈夫かな?ヤバいと思ったらすぐに降参って言えるかな?
おじさんを待つ間、何だか落ち着かなくて、壁に書かれたルールをざっと読んでみた。
うん、字、全然読めない。
私達の後ろで待機していた人には、犬が一匹付き添っていた。
ワンちゃん可愛い~!
「あの、ペットって連れて行けるんですか?」
「え?は?ペット?君、闘技場は初めてなの?聖霊やお供は一匹まで連れる事が可能なんだよ」
聖霊やお供?あ、そういえばさっき係のお姉さん私の事聖霊って言ってた。それに、おじさんの一言……
あれ?私、聖霊として中に入れるって事!?
何それ?そんなのアリなの?
多分、それでおじさんは、目配せしたんだと思うけど…………そんなんで上手く行くのかな?
いよいよ、スタートの鐘が鳴り、戦いがスタートした。
「あ、あの!召喚されました!行っていいですか?」
「え?あ、はぁ…………」
係のお姉さんの顔は、まるで珍しい物を見るような目で私を見ていた。
「ここからの方が近いし…………あは、あははははは………………」
ここは笑って誤魔化すしかない!!
「じゃ!!」
「あ!ちょっと!」
私はお姉さんの大きく開いた腕の下をくぐり抜けて、闘技場の中に入った。
盾で防御の体勢でいるおじさんを見つけると、すぐに近寄った。
「危ない!!早く後ろに逃げるんだ!!」
すると、後ろを向くと、対峙していた相手を見て驚いた。
その相手は、野獣。プルスの街でトラブったあの野獣にそっくりだった。あの野獣と違うのは、角の代わりに羽があることだ。あっちはライオンかバッファローかわからない感じだったけど、こっちはライオンと鳥のミックス?背中には翼、足には蹄ではなく鷲のような鋭い爪が合った。
こうゆうの因縁の対決とかって言うの?それっぽ?それっぽくない?
でも、私の目的は悪まで顔出し。モニターには大きく私の顔が映されていた。それで十分だ。もう十分。
「おじさん、もう降参しよう!」
それを聞いたおじさんは頷いて「降参します」そう言おうとした瞬間、強い風に飛ばされた。
おじさんと私はその強い風をもろに受けて、闘技場の壁に打ち付けられた。
体の打ち付けられるにぶい音が頭に響いた。
「痛っ~!」
肩が壁に当たってめちゃくちゃ痛かった。
その後も、おじさんが「降参」の一言を言おうとすると、強い風に当てられた。風を避けようと、壁から少し前に動こうものなら、即強風が来る。
その強風に何度も何度も壁に打ち付けられる。
体が………………痛い………………
それは、対戦相手の鳥人の起こすつむじ風だった。
これは、意図的にいたぶりつけている。わざと、降参を言わせようとしない。それは明らかにわかった。
どうしよう?どうにかしなきゃ!!このままじゃ二人とも殺される!!
『生命蘇生ができないからだよ』
おじさんのその言葉を思い出した。このままじゃ、私のせいでおじさんが死ぬ。
おじさんが………………死ぬ?
そんなの絶対に嫌だ!!
壁の前で風に耐えながらそう思った。
どうにかしなきゃ!!