7、天空のプールス
7、天空のプールス
天空の城ラピュ◯。あ、違った。天空の城『プールス』
その全貌は謎に包まれていて、その内部では極秘で科学実験がされているとか、されてないとか…………
それどっちよ?
とにかく、ラルの説明は小難しくて嫌になっちゃう!
とりあえず、文明の水準と警戒心の高さはアクアを越えるらしい。文明の水準はわかるけど、警戒心の高さて!
まぁ、比較的新しい国で、昔の恐怖心が消えないのだろうとラルは言っていた。
私達は人の気配が無くなると、貨物から出た。そして、乗組員の目を盗んで飛行船の外に出た。
「思ったよりスムーズに抜け出せたね~」
「まぁ、密入国してまで来るような所ではないですからね~」
それ、どうゆう意味?
意外にもあっけなくプールスに来る事ができた。
城と言うには、中は近代的で、白を基調としたまるでオシャレなオフィスビルのようだった。
「すげー!ここ、空の上なんだよね?水流れてるよ?」
智樹は噴水の水を見て驚いていた。その水は青い色のついた水だった。色水を噴水に使うなんてオシャレ~!
三人……二人と一匹は、まるで観光客のように見て回った。私は何だか胸がムカムカしていた。船酔いかな?
「何だか気持ち悪い」
蒼の魔法使いの智樹は、青の力に強い。だから何の問題もなく過ごしている。でも、私は青の力に弱い…………何だか体が疲れる。
「それは気のせいですね」
「気のせいか、じゃ気にしなくていいか」
「いや、そうじゃなくて、あなたの気が強いせいだって事ですよ!普通の人ならそこまで影響は受けません」
「そうなの?」
どうやら私は他人より碧の気の力が強いらしく、ここではその気が悪影響を及ぼしているらしい。
「ごく稀にいるんですよ。そのエリアから出られない気の強い人というのが…………まぁ、ごく稀ですが」
なんだか、それって強情だって言われてる?遠回しにディスられてる気がするけど…………でも、それに怒る元気もなかった。それぐらいここは体力的にキツい。
私はベンチを見つけると、ぐったりと座った。
「ねぇ、疲れちゃった~!どこかでタピオカミルクティー売ってる所な~い?」
「オシャレだからってここ、ファッションビルとかじゃねぇからな?」
買い物に疲れたOLのような台詞を吐いてみたものの、本気でどこかで休みたい。
「確かに何だか喉乾いたね~」
そりゃ、うまみ棒に口の中の水分持ってかれるだろうからね。
「トモキ、雲の実のジュースが名物だよ~!あと、雷々パイ!パチパチして美味しいんだ!こっちこっち~!」
ラルは嬉しそうに智樹を誘った。
「ダメダメ!おやつ食べ過ぎるとまた夕飯食べられなくなるよ?」
「もうそんなに子供じゃないよ!莉奈はここで待ってて!」
「え?私行かなくて大丈夫?じゃ、勝手に行って来な~!迷子になるなよ~?あと、前!よく見て!」
そう言って智樹とラルは嬉しそうに店へ向かった。
「トモキ!早く早く~!」
「あはははは!ラルのやつあんなにはしゃいでる!待ってよ~!」
めっちゃ楽しそうだなお前ら……。
「もし?そこのお嬢さん」
「はぃ?」
おじさん?おじいさん?どちらかというとおじさん?
智樹とラルが行った後、白髪混じりの、おじさんに話かけられた。
「これに見覚えはないかな?」
おじさんがポケットから出したのは…………智樹の食べたお菓子の袋だった。
「え?いえ……あの……その……」
明らかに挙動不審になってしまった。いつもはそんな事は無いのに、きっとここが、この場所がそうさせる。
おじさんの手の中の袋は、丸い頭のキャラクターがくしゃくしゃになって笑っていた。
それは、異世界には異質な絵柄だった。
「乗車賃未払いだね?警察に行こうか?」
「え、な…………」
私の困った顔を見て、おじさんが思わず笑った。
「冗談だよ。やっぱり君の物かな?」
「いえ、弟が…………」
もしかして、カマかけられただけ?
「懐かしいお菓子の袋だと思って、持ち主を探していたんだ」
「え?おじさん冒険者さん?」
「いや?今はただの住人だよ」
今は?
「元、冒険者だよ」
元、冒険者?
「その碧の気の強さからして、君も冒険者だろう?」
「いえ、まだ冒険者の称号はもらってなくて……」
「もらってない?一番最初に獲得しなければクエストも受けられないし、ユーザー同士の交流もできないはずだ。君は迷子なのかな?ここはアクアではなく、プールスだよ?」
私は周りを見回した。智樹とラルはまだかな?
「いや、待てよ?ある程度のランクにならなければプールスは来られなかったような?」
おじさんは異世界暮らしが長いようで、色々冒険者について詳しかった。じゃあ、兄の事も知ってるかも!そう思って訊いてみた。
「私、ここに人を探しに来たんです。中村 悠希って知ってる?」
「いや…………誰も本名は知らないと思うよ。普通は ユーザー名だから」
「ユーザー名はわからないんだけど、ここにいるって事はわかったの!」
確かに、姿は兄 のままとは限らないし、ユーザー名も知らなければ、それが兄だと言う確証はどこにもない。
じゃあ、ここに来ても見つからないって事…………?
「どおしよぉ~!!おじさんどおしよう!!」
私は見知らぬおじさんに泣きついた。すると、おじさんはアドバイスをくれた。
「これは、君がアクアに行って武器や防具を揃えて、ある程度のランクになったらの話だがね、ここには闘技場があるんだよ」
「闘技場?!」
「そこでエントリーすると、不特定多数の人にメッセージが出せる。本来はそこにアピールポイントを書くんだけどね。賭けてもらうために」
つまりは、闘技場を掲示板代わりに使うって事らしい。もし兄が見ていたら、せめて探してるって事だけでも伝わるかも!!
「おじさんお願い!!今すぐ闘技場に出たいの!!何か方法無いかな!?」
「今すぐ!?」
冒険者はCランクから闘技場に出場可能で、称号すらもらっていない私はそもそもランクすらなく…………
こんな事ならもらって来れば良かったかな?あったとしても、智樹は確かEランクという有り様。私達は誰も闘技場に出場できない。
「おじさん、元冒険者だよね?ランクいくつ?」
「え?Sランクだけども…………今はもうCランクぐらいじゃないかな?いや、でも今はもう冒険者じゃないから出場しないよ」
「どうして?」
私の疑問に、おじさんは真面目な顔をして答えた。
「生命蘇生ができないからだよ」
生き返れない?ってこと?
どうやら冒険者を止めてこの世界に移住すると、生命蘇生が受けられなくなるらしい。
「じゃあ……じゃあさ、おじさんがエントリーして私が出る事は?できる?」
おじさんは凄く困った顔をしていた。
「そんな事、やった事が無いから何とも言えないよ」
「お願い!!やってみてくれない?もし、戦う事になっても、即降参とかあるでしょ?無いの?」
確かに、おじさんにとってハイリスクなお願いだった。降参する前に命を奪われる可能性も0じゃない。
「じゃあ、報酬……全財産出す!!あと、教科書……はちょっと困る。単語帳……はいらないか。あとは…………智樹のうまみ棒!!足りなければもっと持って来る!!」
「それ……本当かい?」
「え?マジ?」
おじさんとは、うまみ棒30本で交渉成立した。今度来るときドンキで買って来よう。
こうして闘技場で、おじさんがエントリーして、私が出るという賭けに出た。
「武器と防具をつけたのは何年ぶりだろう?」
おじさんは家で埃を被っていた武器と防具を持って来た。私が棒を出すと、おじさんは呆然とした。
「え?まさか君、それが武器じゃないだろうね?」
「え?そうですけど?」
「え?今までその棒で戦って来たのかい?」
おじさんに私の棒を貸して欲しいと言われ、持っていた棒を渡した。おじさんはその棒をまじまじと見て言った。
「これは、プルスの者が用意した物かい?」
「プルス?それって蒼の魔法使い?」
そういえば、確かこれは智樹が拾って来た棒だった。
「この棒はプルスの気をまとっているね。この蒼の気を高められれば少しは使えるかもしれないよ」
だからその、蒼の気ってどうすりゃいいのよ?私にはそこら辺の所がさっぱりわからなかった。