5、空中牢
5、空中牢
少し風船がしぼんだら、風船のまま牢屋みたいな所に入れられたけど、眠くて眠くて仕方がなかった。
「なんや!小娘かいな!」
か、関西弁!?
「あんな仰々しい空中牢使こうてたから、怪物か思ったのに、なんや、がっかりしたわ」
目を覚ますと、風船の外にはこの世の物とも言えないほどの美少年が立っていた。それはちょっと言い過ぎだな。多分そこそこイケメソ。
小麦色の肌に、金の髪、エメラルドの瞳、これぞ王子様!!きっと、これが蒼の王子様だ。
「王子様、それ以上近づくと危のうございます」
「こんな小娘相手に俺がやられる訳ないやろ?」
でも、何故に関西弁?
「あなた、どうして関西弁なの?」
なんだかそれが少し、異世界感を阻害しているような……。
「あ~!そうゆう設定や!昔、実際2年ぐらい大阪おったしな~!」
またもや異世界感ぶち壊し!!このクソゲーそうゆう所あるよね?
どうやらこの世界の人達は、あの魚人のように、ごく希に現実世界に来る事もあるみたい。
異世界と言うより、もはや外国みたいな感覚になってきた。
「王子様、国王陛下がお呼びです。蒼の冒険者が訪ねて来たようです」
「お~!どれほどの猛者か見物やな~!」
「僭越ながら申し上げます。冒険者はどうやら子供のようです。」
智樹!!
「ちょっと!それ私の弟!!出してよ!ここから出して!!」
うわ…………動くと体の力抜ける……。
「何で?え、何で?」
「何でて、そら、おたく碧の騎士やろ?空中牢は、碧の力を弱めるように造られとる。下手に動かん方がええで~」
「早く……ここから出ないと……」
私がもがけばもがくほど、風船は少しづつ大きくなっていった。
「小娘のくせに、気だけはそこそこやな。空中牢をあそこまで膨らませた奴見た事ないわ」
「なんかムカつくその関西弁…………」
なんだか、関西弁にイラついた。いや、関西弁は悪く無い。ただ、こいつの態度にムカついた。
「ちょっと!あんた王子でしょ!?私これでも女子なんだけど!?女子に優しくって教わってないの?それでも王子!?」
「なんや、お前可愛げ無いな~!俺子供の時大阪いたけど、そんな事聞かんかったで~?」
日本じゃ無理か~!!いや、そんな訳無いし!日本にいたなら、日本流の優しさがあるでしょ?!
「お前、頭お花畑やな~。現実世界の連中はお花畑ばっかりや!やれ、ステータスだのスキルだのチートだの!こっちは命かかってん。冒険者と違って、1つしかない命やねん。」
「え?そうなの?この世界の人はみんな生き返れるのかと思ってた」
「なんでやねん!」
で、出た!なんでやねん!!
「俺達にとってはこっちが現実世界や。一度死んだらそれでおしまいや」
そっか…………確かに、異世界の人にとっては現実世界が異世界なんだ。
「ここからお前を出すなんぞ、アホな事する奴がおるかいな!俺、王子やぞ?そこいらの愚か者の平民と一緒にすんなや」
「はぁ?何勘違いしてんの?!いい?今から言う事ちゃんと聞いておきなさいよ?あんただってその愚か者の1人じゃない!王家に生まれて無かったら、あんただってただの人!」
王子相手にここまで言うのが正解かはわからないけど…………止まらなかった。
「あんたが他より優れているのは育ちだけ。誰かを理解しようとする優しさも、誰かを守る強さも無い、ただの無能な人間だって事!」
「なんや!そこまで言う事無いやろ?可愛い顔して、ごっつうキツイ事言うやん!そない言うから兄貴に逃げられるんや!」
兄に…………逃げられる?
何でそれ知ってるの?
「この牢を持って来たんは、お前らの兄やろ?思い出したわ!妹と弟が来るからすぐプールス帰る~言うてたわ」
逃げられた…………?私から……逃げてる?
「え?どないしたん?」
急に、涙が溢れた。
あの夜を思い出した。あれが、兄だったら良かったのに…………おかえりって笑顔で言えたら良かったのに…………
私、一体何をしてるんだろう?
「おい、お前、泣いとるんか?おーい」
「うっせ!黙れ関西弁!!」
次から次へと涙が溢れて、止まらなかった。
すると、風船がどんどんしぼんでいった。みるみるうちに小さくなった風船は、姿勢を前屈みにならないとといられないほど小さくなってきた。
「もうええわ。ここから出してやり」
男四人かがりで風船の穴を広げ、私は外に引き出された。
それでも、私は泣き続けた。
「うわぁあああああん!!」
泣いて泣いて、ずっと泣いていた。
「なんや、可哀想を通り越してうっとおしいな」
「うるさいな!誰のせいだと思ってんの!?この女泣かせの変態王子!!」
「なんやそれ!ここはフツー、システム上甘い出会いやないんか?それなのに、なんやこれ!最悪やん!これは、さすがの俺でも惚れられんで~?」
私が悪い?全部こっちのせい!?腹立つ~!!腹が立って、余計涙が出た。
「最低!!あんた、いいのは顔だけじゃん!」
「お前に言われたないわ!天使か思ったのに、台無しや!!」
こっちだって、せっかくの女性モードサイドストーリーが台無し!!できるならやり直したい!!
後でラルにやり直したいと相談したら、特にキャラが変わったり、セリフが変わったりはしないらしい。
くっそぉ~!この王子なんかムカつく……。
まぁ、魚人よりマシだと思う事にした。一応、人の姿してるし。王子とその家来に連れられて、明らかに高貴な人がいそうな部屋にやって来た。
そこには、智樹の後ろ姿があった。
「智樹~!!」
「莉奈!?」
私達は抱き合って喜んだ。
「どうやら、姉弟というのは本当のようだな」
部屋の中央には、大きな椅子に座ったおじさんがいた。格好で何となくそれが王様だとわかった。
これが…………蒼の王?
王子と同じ肌と髪の色、瞳の色は王子より少し色が薄いようだった。
「しかし、碧の力で我が国の獣人を脅かした罪は重い 」
「ええやん!親父、離してやったらええがな!」
「こら、エメラルド!その関西弁はここでは出すなと言ったであろう?」
蒼の王子は「かまへんかまへん」と言って全く王の言う事を聞こうとしない。
「その代わり、こいつ婚約者って事にせぇへん?」
その場の何人もの声がハモった。
「婚約者!?」
「王子様、それはいけません!婚姻する者は蒼の者からと決まっております」
「なんや、大騒ぎする事ちゃうわ!名前だけ。そうゆう噂さえあれば十分や」
なんだ。名前だけか。それで自由になるなら安いもんなのかな?
「蒼のプルスは碧のアクアに弱い。碧の騎士が味方になったと知ればみんな安心やろ?」
「え?じゃあ、私、プルスの用心棒って事?そんなの無理だよ~!」
「いや、名前だけ言うたやん。ろくに剣も持たんヘボ騎士に誰も期待しとらんわ」
確かに……私の武器はまだそこら辺の棒だった。
「じゃ、もういいよね!サヨナラ~!」
「待て待て!そう急ぐでない!」
「え?」
帰ろうとしたら、王様に止められた。
「これを忘れているぞ」
王様は勲章のような物を取り出した。
「これは、蒼の冒険者の称号だ。これで、冒険者として優遇されるであろう。智樹、その小さな体でこのプルスのために大きな働きを期待しているぞ」
「大いにプルスに貢献してや~!」
「え、これがあるとプルスの社畜になるの?」
智樹はまだ小学生なのに!
私は勲章をつけに来た家来から智樹を隠した。
「そんな構える事ないやろ。もらっとき!それ、何かと便利やで?」
「大丈夫だよ、莉奈心配しすぎなんだよ!僕、勇者になるよ!」
「でも…………」
智樹が私を避けて前に出ると、家来が智樹に勲章をつけた。
「では、蒼の王の名の基に、トモキを冒険者として認める」
「ありがとうございます!俺、頑張ります!」
「アカン…………姉とのギャップにやられそうや…………」
え…………何故みんなじーんと来てるの?すると、智樹は綺麗なお姉さん達にちやほやされていた。
「ねーちゃんが良く言ってただろ?利用できるものはちゃんと利用しないとって」
「智樹、いつの間にそんなにしっかり者に!?」
「トモキはお前よりしっかり者や!何より礼儀正しい!お前はさっさとアクアに冒険者の称号もらって来いや」
うわっ!なんか私だけ雑!!
「そんな事より、兄がプールスにいるかも!」
「いや、碧の冒険者の称号が先やろ?」
「そんなのどうでもいい!私達は兄を探しに来たんだから!世界を救いに来たんじゃない」
こうして、智樹を連れて城を後にした。
「あれ?ラルは?」
「さぁ?城に入ったらいなくなっちゃったんだ」
「困ったな~!プールスってどうやって行けばいいんだろう?」
私はその時、ラルの正体も、兄との関係も知らなかった。
「悠希か?お前の妹に会ったで~?とんだ怪物やな。空中牢が破裂寸前やったわ。せっかくモンスター用に発注したのに、ブヨブヨでよう使えん。お前が弁償しいや?」
「わかった。代わりを手配する。迷惑かけたな」
「碧のアクアへ行け言うたけど、あの感じは多分そっち行くわ。まぁ、お前探しに来とったから、一度会ってやったらどないや?」
「………………まだ会うつもりはない」
兄とラルのそんなやり取りがあった事は、私が知る事は無かった。