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32、取り戻した日常

32、取り戻した日常



神聖な神殿なんだからさ…………なんだから…………


神官の人、どうにかならない?


「アラ~帰れなくなっちゃったの~?」


神官がオネエって…………どうなの?正に「どんだけ~!」と言わんばかりのオネエだった。正直、Ikkoより汚いしほぼオジサン。


サファイア王子とラルとは神殿の入り口で別れを告げて、私だけ地下へ続く道を一人で歩いた。


途中に人魚の銅像と、ドラゴンの銅像、天使の銅像があった。その銅像の下にはロゴマークみたいな記号がついていた。


これ………………私はドラゴンの足元についたマークを思い出した。リボンにあったマークだ。ドラゴン……?ラル?


ラルというより…………プルス?


じゃあ…………あの文の意味はおそらくこうだ。


『裏切り者はプルス』


裏切り者はプルスって…………どうゆう事なんだろう?ラルが裏切り者?


そんな事を考えていたら、神官のオネエに顔を掴まれて言った。


「アナタ、最近お手入れサボってるわね~?お肌ガサガサよ~?」

「この世界でお手入れとか肌荒れとか概念が無いですから」


状態異常の森で一度『湿疹』の状態異常になったけど、薬草で治った。


「この世界の美容法はね『変化の水』を使うのよ~?」

「あの、美容法の話じゃなくて…………」

「あ、現実世界へ行きたいのね~久しぶりのお客様だから舞い上がっちゃって、どんだけ~!」


うわっ!どんだけ~!出たよ!どんだけ!ガッツリねじ込んで来たよ!


「いい?今から説明するわね~?」


オネエの神官は説明を始めながら、何故か洗面器やら薄い青の色のついた水やらを用意し始めた。


「一度冒険者の称号を手に入れた冒険者は、機器が無くても一度だけ現実世界へ戻る事ができるの。あ、はいこれ、つけてね」


何故かヘアバンドを渡された。


「もし機器が使えなくなっていたら、次回からはサイトでアカウントを取って来なさいよ~?」

「アカウント?」

「そのアカウントがあれば、機器が無くても、パソコンからログインできるようになったの~!凄いわよね~!これで機器が消滅してもこちらの世界と行き来ができるワケ!」


そうだったんだ…………結局、そうゆう意味でもアクアで冒険者の称号が必要だったんだ。


「さ、これ泡立てて」

「え?」


何故か洗顔料を渡された。


「何?あんた女子のクセに洗顔のやり方も知らないの?あ、ちなみにこれ、男は髭剃りね?」

「あの、これに何か意味があるんですか?」


すると、オネエは突然ブチギレた。


「あるわよ!あるからやれっつってんだろ?」


ひぃいいいい!地声出すの止めて!マジ止めて!こうなったらただのオジサンだから!


私は言われた通り、洗顔料を泡立てて自分の顔につけた。すると、泡が全身を包み込んだ。


「いいでしょ?手の込んだ演出でしょ?」

「演出!?演出でこうなってんの?」


これ、過剰演出じゃないでしょうか?


すると、強い風が吹いて泡が全部吹き飛ぶと、私は現実世界の姿になっていた。


「これが真実のアナタの姿なのね~!思ったより若いわね~あ、はいこれ、仮アカウント。これで本登録してね~!今後ともご贔屓に~!」


なんだろう…………何だかサポートに問い合わせた気分になった。


「あの…………1つ聞いていいですか?このゲームの利益って何なんですか?」


運営して行くには利益を産む必要がある。このゲームは課金する所や広告といった場所もない。一般的に流通もしていない。じゃあ、何を元に運営してるんだろう?


「や~ね~!そんな事聞いて来た人初めてだわ~!そんなの当たり前じゃない。遺産よ」

「遺産………………?」


遺産が…………当たり前?


「あ、ちゃんと遺産相続をこのゲームに正式に申し込みます。にチェックを入れなさいよ?まぁ、あんたはまだ学生だから関係無いわね」


それは…………『自殺ゲーム』に相応しい答えだった。


それでも、逆に借金がある人がほとんどで、全然儲からないと神官は言っていた。一般的には、マイナスでなければ、あちこち整理すれば何かしら残ると言っていた。


確かに、ゲームの世界に移住するなら現実世界の財産は必要無い。死後の世界にお金は持っていけないからだ。


そんな事…………聞かなきゃ良かった。


現実世界が急に現実になって…………何だか嫌な気持ちになった。


「それじゃ、行ってらっしゃ~い!」


神官のオネエが品よく手を振ると、私の体が透け始めた。そして、目映い光に包まれて目を閉じた。


光が収まると、目を開けた。


一番に目に飛び込んで来たのは…………そこは…………


見慣れた天井だった。気がつくと自分の部屋のベッドに寝ていた。今何時だろう?


起き上がると、体がだるかった。寝過ぎかな?


重い体を引きずって、1階へ行くといい匂いがしてきた。


「おはよう莉奈。よく寝てたわね~智樹と二人で夕飯も食べ無いでずっと寝てるから心配になったのよ?」


そういえば…………智樹…………


「智樹は?」

「智樹ならトイレにいたけど?」

「トイレ……?」


トイレって事は…………目が醒めてるって事?


「どうしたの?莉奈?お腹空いたでしょ?顔洗ってらっしゃい」

「………………うん」


私は洗面所へ行くついでにトイレのドアをノックしてみた。


「急かすなよ!全く莉奈にはテレパシーが無いんだから」

「それ、デリカシーな?」


智樹との、いつもの会話だった。


なんだ…………全部夢だったんだ。


それから、いつものように朝ご飯を食べて、いつものように受験勉強を始めた。


あれから、何日か普通に毎日を過ごした。何もかも今までと変わらない毎日だった。けど………………


それは、真夜中の事だった。トイレに起きると、また、兄の部屋から光が漏れていた。青い光だった。


その光に引き寄せられるように、ドアの隙間から青の部屋を覗いてみた。すると、中にはセキセイインコがゲーム機の上にいた。


「モリカワさん!?」

「………………」


モリカワさんは黙って私の方を見ていた。


「どうしたの?」

「何故…………入れ物を渡してしまったのか」

「は?入れ物?」


すると、後ろに気配がした。誰?


振り返ると、そこには智樹がいた。なんだ、智樹か…………


「莉奈、兄ちゃんの居場所、母さんに聞いた?」

「え?お兄ちゃんの居場所?」


兄はゲームの世界にいる。今はいないのかもしれない。アカウントがあれば専用機器がなければどこでも入る事ができる。だから、本当の所はどちらかはわからない。


「僕、母さんに聞いたんだ。兄ちゃんはどこへ行ったの?って………………」

「お母さん、なんて答えたの?」

「わからないって」


母は私達に心配をかけないように、行方不明の兄を引きこもりだと偽り、なるべく普段通りに過ごすようにしていてくれたらしい。


特に私は受験生だ。兄を探して受験に身が入らないようでは大学合格は厳しい。正直今でも厳しいんだけど…………


異世界にいても、現実世界にいても、現状が厳しいのはどこも同じだった。


すると突然、智樹が私に笑顔で言った。


「莉奈が無事で良かった」

「何言ってるの?こっちこそ心配したんだからね?」


私は智樹の胸ぐらを掴んでその頭に頭をつけて言った。智樹はそれに驚いていた。


どうしたんだろう?いつものやつなのに。


「バカ智樹!」


智樹は困惑していた。


その後私は智樹を質問責めにした。


「爆発の時、どこにいたの?」

「深海だよ」

「深海のどこ?あの後ずっと探したんだよ?」


智樹は困った顔をして始終曖昧な答えをしていた。


「どうして連絡してくれなかったの?」

「連絡する暇が無くて……」

「アメちゃんは?クリス姫は?モリカワさん……」


そういえば、モリカワさん…………


あれ?モリカワさんが消えていた。



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