31、現実より最悪
31、現実より最悪
旅をするうちに、少しづつレベルが上がって出て来る敵が強くなってきた。可愛らしい疑似ドラゴンが、少し不細工に成長して『ホボドラゴン』になった。確かに多少ビジュアルがドラゴンに寄った気もするけど…………もう少し敵のデザインどうにかならなかったかな?少しクオリティ下がったような……。
まぁ、それはさておき、何が驚いたって…………アクアの王子サファイア。
「サファイア!次後ろ!」
ラルがそう言うと、サファイア王子は振り返ると、後ろの敵を刀のような武器で真っ二つに切った。その太刀さばきはまるで暴れん坊将軍。
腐っても王子。めちゃくちゃツェエエエエエ!!
プルスでは有利な属性とはいえ、私でも苦戦する中級レベルのモンスターを次々と倒してゆく!!
「凄いよさっちゃん!」
私がハイタッチしようと手を出すと、オドオドと手を伸ばして来る。かなり時間がかかって水掻きのついた手が出て来た。
多分、ハイタッチをやりたい気持ちはあるんだろうけど………………手が出て来て来るまでのこの待ち時間が辛い……。
やっとハイタッチをすると、私の手が触れた瞬間、鼻血を出して倒れた。
「もうやめてやれ!こいつ死ぬわ!」
「コミュニケーションじゃん!コミュニケーション大事じゃん!」
私は武器を出して、残りのモンスターを始末した。
困った事に、さっちゃんが気絶している間は移動できないし、敵が出たら私一人で戦わなきゃいけない。
こいつ………………強いのに……何気に足手まとい?
それに、さっちゃんが気絶している間しか、私は強い方の武器を出せない。
それは、私が初めて武器を出した時の事…………
「………………!!」
サファイア王子が私の武器を見て驚愕していた。そのうちガクガク震え始めて、結果やっぱり失神した。
「どうしたの?さっちゃん?」
「お前、その武器はアカンやろ」
「え?これ?」
私が持っていたのは………………出刃包丁。
「だってこれしか持って無いんだもん!」
「アクアで武器買わんかったんかい!」
「見には行ったんだけどね…………刃物はちょっと…………」
正直、何を選んでいいかわからなかった。どれもピンと来なかった。
「出刃包丁振り回してる奴が何言うとんねん!」
「いや、それはそうなんだけど…………」
とりあえず、出刃包丁があるからいいか!と思って、防具を優先して買った。
「服は新しいの買ったの!どう?可愛い?」
「可愛いとか可愛いくないとかやあらへんがな!それ、属性はあってても騎士には向かんで?」
くっそぉ~!初めて露出が少ない服着たのに…………
いや、確かにもっと攻撃力の上がる服や、防御力の上がる鎧とかもあったよ?あったけどさ…………服はほぼ水着なのに、鎧をつけるとか納得いかない!
「お前何で騎士選んだん?」
「一人だけ馬に乗ってたから!」
馬に乗れるのかな~?って思ったら、移動はほぼ歩きだった。
「本当は馬も装備できるんやけどな~」
「マジ?」
「馬、乗ってみるか?」
嘘!乗りたいーーーー!!
「でも、私馬の乗り方なんて知らないよ?」
「そっちの騎士が乗れるわ」
そっち?
さっちゃんが気絶から目を覚ました。
「こいつの気絶のせいで、だいぶタイムロスしとるからな。馬で時間稼ぎしてもらうで?」
こうして私達はプルスの東、農地の広がる町を目指した。
山々に囲まれるプルスの風景は何だか日本を連想した。その青々とした自然の風景が綺麗だった。
「このまま…………ずっとここにいようかな…………」
その、楽園のように見えた風景を見て、思わずそう言っていた。
「アホか!何諦めとんねん!」
「諦めた訳じゃないよ。ここも綺麗だから、ずっといてもいいかな?って思っただけ」
すると、さっちゃんがガクガク震えながら何かを差し出して来た。
「それ、受け取ったらあかんぞ?」
「え?どうして?」
「それ、婚礼の首飾りや」
えぇええええええ!!何!?トラップ!?ガクガク震えてるクセして、やる事えげつないな!この青魚!
よく見ると、綺麗な青い宝石のついたネックレスだった。
「ご、ごめん。青色は好きじゃないから…………」
すると、青魚はまた目から汁を出していた。
「普通もっとうまい断り方があるやろ?魚はあかん!とか、水掻きがキモイとか。青が好きじゃないは全面否定やろ?」
「いや、魚はあかん!だって十分全面否定だから。しかも水掻きキモイとか、思ってても本人目の前にして言わないし…………あ………………」
「……………………」
さっちゃんはネックレスを投げ捨ててどこかへ行ってしまった。
「あ!どこ行くの!?」
「あ~あ。あれはいじけてしばらく戻って来んな」
「ネックレス放り出して…………」
私がネックレスを拾うと、ネックレスから青い光が溢れて出た。
「何これ?」
「属性が合うと物が反応するとか聞いた事があるわ。せっかくやから、それつけてみ?」
「いやでもこれ…………」
婚礼の首飾り勝手に装備するとかどうなの?
「しゃ~ないな、サービスタイムや」
すると、ラルはプルスの王子の姿になってネックレスをつけてくれた。
「でもさ……これ、他人のネックレスだし、後ろからで姿見えないし。全然サービスじゃないんだけど?」
むしろ、複雑な気持ちになる。
「当たり前や。プルスの婚約者の立場でアクアの婚礼の首飾りをつけた。これでお前は罪人や」
「は?これ、つけたのラル…………」
「これで、お前は死者の神殿で異世界へ追放や…………」
異世界へ追放…………
何だか、ラルが少し寂しそうな顔をした気がした。
「さてと、あの家で馬を譲ってもらえるか聞いて来るわ」
ラルはそのままの姿で馬を調達しに行った。
しばらくすると、青魚が戻って来て、私がネックレスをつけている事に驚いた。そして、涙を流してやっぱり倒れた。
もう…………めんどくさいなぁ…………
ラルを待つ時間、暇だったから青魚の隣に座って、青魚に書いてもらった『あいうえお』の表を見て、リボンに書かれている文字を読んでみる事にした。
なんて書いてあるのかな~?
一番始めは『う』つぎは『ら』つぎは……これ濁点かな?『ぎ』?つぎは『り』……うらぎり?裏切りって事?
『も』、『の』、裏切り者?『は』
裏切り者は?
最後の文字だけはなんて読むのかわからなかった。草の絡み合ったデザインの記号だった。どこかで見た事があるような…………?
すると、青魚が起きた。
「さっちゃん、これ、なんて読むの?」
「これは…………」
私がリボンを見せると、さっちゃんはその文字を読んで驚いていた。
「馬譲ってもらえたで~!」
ラルの声が聞こえた瞬間、そのリボンを隠した。そして、そのリボンを手で覆い隠しながら私に返してきた。
「これは、信じてはいけない。いずれわかる事だ」
信じてはいけない?裏切り者の事を?このリボンに 書かれている事?どっち?
私が迷いながらリボンをしまっていると、すぐに馬に乗せられた。
「え?ちょ、ちょっと待ってよ!心の準備が…………」
「これ以上グズグズしてられんわ!」
「ちょ、ちょっと待ってぇええええええ~!」
馬はすぐに動き出し、風を切って走り出した。
「うわぁああああ!怖いぃいいいいい!」
「騒ぐな!うるさいわ!」
一番後ろに手綱を持ってさっちゃんが乗り、その前に私がさっちゃんに包まれるように乗り、私はラルを抱き抱えて乗った。
不安定で落ちそうだし、ラルを抱えててどこも掴めないし、どんどんスピードが上がってくし…………
「怖いぃいいいいい!!」
これに乗って戦うとか無理!騎士は無理!!無理!無理!無理~!色々無理~!!
馬は真っ白だし、後ろに乗ってるのは王子だし、端から見て、理想的なシチュエーションなのに!!
馬は鼻息荒いし、王子は魚だし、その王子いつ気絶するかもしれない不安で怖いし……この状況で気絶してくれるなよ青魚~!持ってるウサギは怖くても手離せないし………………ここ、異世界なのに!!
異世界なのに、現実世界より最悪!!




