3、疑似ドラゴン
3疑似ドラゴン
敵?敵なの?あれが?
何となく、敵が現れた。
丸っこいドラゴンのようなモンスターだった。どうやら、これが最弱のモンスターらしい。
「か、可愛い~!」
「本当だ~!可愛い~!」
こんなに可愛いキャラクターを木の棒で?殴打?
……………………できない!!
私にこの愛らしいモンスターは殴れない!!
「無理だよ!これ虐待じゃん!!」
私がモンスターを前に戸惑っていると、ラルがキレた。
「いいからさっさと討伐しろって!話が進まねぇだろうが!」
「あ!逃げられた!」
最弱のモンスターに逃げられてしまった。
「まずは、最弱のモンスターからスタートして、次にDランク、Cランクと、どんどん倒して経験値ためて、国の王様に認められるって所まで行かないと人探し云々とかの話じゃないから」
「あ、そうなの?」
まずは一般的な冒険者の土俵に立たないと、他の冒険者を探せないらしい。
そんなに事を話をしていると、また最弱モンスターが出て来た。
「出たー!!ドラゴンモドキ!!」
「なんか今度は少し雰囲気違うよ?!」
最弱のモンスターは『ドラゴンモドキ』という、ドラゴンを模した爬虫類型モンスターらしい。もはや爬虫類の影も無いけど…………
「今度は鳥っぽい!」
「それは『ドラゴンカモ』です」
「え?ドラゴンじゃないの?」
次に出て来たのは『ドラゴンカモ』ドラゴンを模したカモのモンスターだとラルが説明した。
「ちょっとこれ、ドラゴンなの?カモなの?」
「どっちでもないが正解です!ジャングル地方で発見された『ドラゴンカモネ』という花から名前がついたと言われています」
『ドラゴンカモネ』という、ドラゴンを模した花の………………
ってマジでいい加減にしろ。
どうやらこのクソゲーは、どうしてもドラゴンを出さないつもりらしい。もしかして出せない何か事情があるの?何なの?大人の事情?
「ちなみに『ドラゴンカモネ』は草『ドラゴンカモ』は鳥、もう一種類『ドラゴンノヨウ』魚のモンスターです」
すると、珍しいモンスターが出て来た。やっぱりドラゴンに見えるけど…………
「あ!あれ何?!」
「あ、あれは…………!!」
え?何?ラル、どうした?急に劇画タッチな顔して。
「未確認の疑似ドラゴンです!」
また、ドラゴンを模した…………って言うんだろうなぁ。
「きっと、獣タイプの疑似ドラゴンですね」
ラルは、持っていた本でそのモンスターを調べた。何それ?ポケモ○図鑑?
「ありました!ドラゴンを模した獣『ドラゴンミタイ』でした。新種なら名前がつけられたんですけどね~」
「僕『ドラゴンジャネーヨ』がいいな~」
「え~『ドラゴンジャナイヨ』がいいよ~!」
ラルは智樹に、ある程度の弱いモンスターなら倒せる呪文を教えてくれた。その頼れる呪文は『め!』犬のしつけじゃないんだから……現実世界だったらラッ◯&スターは客のほとんどを殲滅できる。
私の木の棒で殴打と、呪文で何とか経験値とアイテムを得られるようになってきた。
そんな時、ラルがこんな事を訊いて来た。
「因みに、女性モードと男性モードとストーリーが選べますがどうしますか?」
「それって何が違うの?男性モードだとエログロ?あのさ、うち一応小学生連れてるんだけど?」
「いえ、大した違いはありません。お城で出会うサイドストーリーが王子様かお姫様ってだけの話です」
王子様!?マジか!!
「それなら、絶対に女性モード!!」
「何でだよ!」
「何でって、弟のお前に選ぶ権利は無い!!」
ゲームの中の王子様って言ったら絶対イケメンだよね~!せっかく来たんだから一度は拝んで見ないと!
「いや、そこはねーちゃんなんだから弟に譲るとかじゃないの?」
「だって考えても見て?イケメンを見たらねーちゃんのやる気全然違うよ?バンバンモンスターやっつけまくっちゃうよ?」
こうゆう時は自分の意見が絶対に通らないと、智樹も半ば諦めている。
「まったく、莉奈は元気だな~」
「それ、現金だなって言いたいんだな?一瞬セクハラかと思ったわ」
「では、そこそこ経験値もたまったので、いよいよ街に行きましょう!!」
わ~い!!
「その前に、国の情報をお勉強しておきましょう」
「え~!めんどさ~!skip無いの?説明はタルいからとばして!」
「このアバズレ、ちゃんと聞け!」
ラルはその可愛らしい風貌で結構な辛口だ。
「この世界は3つの国に別れていて、海のエリア碧のアクア、陸のエリア蒼のプルス、空のエリア青のプールス。3つの国がその均衡を保つ事で平和を保っていたのですが…………」
「まさか魔王が~!とか言わないよね?」
「そのまさかです!今正に、我々の世界の平和が脅かされようとしているのです!」
語り手にふさわしい句調で説明どうもありがとう。
「でも、私達には関係ない。私達は世界を救いに来たんじゃない。兄を見つけられればそれでいい」
もうそろそろ街に着く頃で、そこそこのモンスターも少なくなってきた。
「貴方様のお姉様はアバズレなのに、剣の腕だけはピカイチですね」
「アバズレって何?」
「アバラがズレちゃってる人です」
智樹に変な事を教えるな!
「そこら辺で拾った枝一本でよくもまぁここまで……」
「ねーちゃんああ見えて剣道3段だからね。昔は大会も何度か入賞してるし」
「ほ~!元々剣の使い手だったのですね~!これで立派な剣なんか持たせれば、すぐにでも高ランクの騎士になれますよ」
最弱モンスターは少し当てるだけで消えた。ラルが言うには、気の力も関係しているらしい。私が選んだ碧の騎士は、蒼のモンスターにはよく効くんだって。
ラルの説明によると、この世界はまるでじゃんけんのようだった。
私の選んだ碧の騎士は蒼に強く、青に弱い。逆に智樹が選んだ蒼の魔法使いは、青に強く、碧に弱い。
行動を共にする兄弟が別の属性を選んだのは正解だったと言っていた。
そんな事どうでもいいんだけど…………現実世界が心配だった。あれから3日。3日もここにいる。別にお腹も空かないし所詮ゲームの中だし、現実世界と時間は違うだろうとは思うけど…………
「あのさ、ラル、途中でセーブとか無いの?私達、定期的に現実世界に戻りたいんだけど…………」
「セーブ?記録の事ですか?それなら家で一度僕がやりましたよ。もう一度するとなると……ここまで来たら街に行った方が近いですね」
こまめに記録をする事は大切だと感心された。でも、ちゃんと無事に帰れると決まった訳じゃない。その不安を抱えながら街に進んだ。
とうとう、街の入り口まで到達した。
街は市場のようになっていて、すごく賑わっていた。
「見て!あの人頭にヒレがあるよ?」
「魚人族ですからね。指を指してはいけませんよ。彼らは気難しいですからね」
街は、見たことの無い物や人であふれていた。まるでゲームの世界だった。いや、ゲームの世界か。
「あの果物何?」
「プールスの果物ですよ。雲の果実です」
「雲の果実?何それ~!」
まだ見ぬ世界にわくわくしつつ、ラルにセーブを頼んだ。
「本当にここで冒険をやめるんですか?」
「また戻って来るよ。それまで待っててね、ラル」
「はい!この地でトモキを心待ちにしています!」
私は?
「アバズレ、早くトモキを連れて来いや!」
あからさまに私への態度と違うんだよね、この小動物。まぁ別にいいけど。
「それではお元気で!」
ラルがそう言うと、私達は宙に浮いて空高く上がった。空からまた、碧の世界が見えた。
すると、次第に体が透け始めた。
これでちゃんと帰れるのかな?まぶしい!!
思わず強い光に目を閉じると…………
気がつくと兄の部屋だった。
「莉奈~!智樹~!夕飯よ~!」
すぐにお母さんの呼ぶ声が聞こえてきた。
「良かった~!戻れた~!」
時計を見ると、ちょうど三時間ほど経っていた。1日が一時間って所か。それがわかって安心した。
「もっといたかったのに。ラルの事連れて帰りたかった」
「ゲームの中でまた会えるでしょ。ほら、離れてる方がうまくいく関係もあるし」
そんな事を話しながら、兄の部屋から出た。
「夕飯食べてお風呂入ったらさ、またやろうよ!」
「え~!今日はもういいじゃん。なんか疲れちゃった~」
「やっぱり莉奈は棒降ってるから?」
それにしても、相変わらず兄の姿は部屋に無い。
戻ろうと思えば戻る事ができる。今回はそれがわかった。それを戻らないのは、兄はきっと…………
兄自身の意思で戻らない。