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28、信じたい

28、信じたい



あの頃は、こんな風になるなんて思ってもみなかった。普通に学校へ行って、友達と遊んで、受験勉強して、家に帰れば当然兄弟がいた。


普通過ぎるくらい、普通の毎日だったのに…………


今は何もかもが失われてしまった。


だけど、何が嫌って…………学校に行けない事や、友達と遊べない事じゃない。


ここで、この世界で、無知で無力な自分に気づかされる事。知識も経験もレベルもステータスも何もかもが足りない。自分に力が足りないと実感する事。


だから、危険だとわかっていても何もできない自分が情けない。


地下牢の入口を出ると、目の前にひっそりと男が現れた。


そこにいたのは………………


「冒険者様にお話したい事があります。この様な所では何ですから、上へ参りましよう」


アクアの王子、サファイア。


魚人が気を付けろと言ったのは、おそらくこの人だ。


その綺麗な顔立ちに青い瞳が、石の隙間から差し込んだ光で光っていた。何だか……その薄ら笑いが胡散臭い。


それでも私はここで戦う事も出来ず、言われるまま王子の後について行った。この人の能力が推し量れない。腐っても王子。弱い訳が無い。


闇雲に戦って、軽々しく死ぬ訳にはいかない。


案内された場所は、テーブルや椅子、ソファーやベッドのある、ただっ広い部屋だった。話って何だろう?


天井のシャンデリアが日の光に揺れて綺麗だった。


「広っ…………」


そう言った瞬間、腹を蹴られた。


その衝撃で体が後ろに飛ばされ、後ろにあったドアに背中を打ち付けた。


「痛っ!!」


あり得ないぐらい痛い……!!


気を付けろって言われてたのに…………警戒してたのに…………今ので多分HP2割くらい持ってかれた気がする。


相手が冒険者じゃなければ、こうゆう事はあり得る。今までこんな事は無かったから、すっかり忘れてた。


「『透明な水』はどこだ?」

「それ……奪われたけど……?」

「奪われたそれはどこだ?」


はぁ?奪われたのに知るわけないじゃん。


こいつ…………私が奪われた事だけは知っている。なのに、何故『透明な水』の在処を訊くんだろう?


「さっき、持ってる魚人を見つけたって智樹が言ってたけど?」

「それは本当か?あいつ…………」


手下に持ち逃げされた感じ?バカじゃん。そんな事を考えながら立ち上がると、腕を捕まれベッドに押し倒された。そして、やがてその手が私の首に絡み付いた。


う、嘘…………!!これ、マジなの!?


その手の力が緩まる事は無かった。


苦しい…………!!誰か!!誰か助けて!!


「人の婚約者に何してんねん!」


そう声が聞こえた瞬間、目の前の王子が消えた。少し咳き込むと、今度は目の前に青い魚人の姿が見えた。


「ギャーーーーー!!出たーーーー!!」

「ちゃうちゃう!そっちサファイア。コラコラ!サファイア!やめぇ!そいつ魚人にトラウマあんねん!」


え………………?えぇええええ!?


気がつくと、人間の姿のサファイア王子が床に転がっていた。その側に、プルスの王子と目から涙を流した青い魚人がいた。え?何泣いてんの?


「そいつサファイアちゃうで?ホンマお前は見た目で判断するやっちゃな~人間のイケメンやったら誰でも信じるんかいな?」

「そ、そうじゃないもん!」


一応、警戒はしてたけど、どうしたらいいかわからなかっただけ。木刀出して良かった?良かったの?


「お前、なんで莉奈を狙ったん?」


サファイア王子に成りすましていた男は立ち上がっると苦し紛れに言った。


「どうせ殺されるなら誰に殺されても同じだろう?」


殺される…………?!


「お前はYUKの『透明な水』で死ぬはずだったのだから」

「それ…………どうゆう事…………?」


死ぬはずだった……?私が?誰に?


「自分の目で確かめてくればいい。今頃あの愚か者が何も知らず『透明な水』を使う頃だろう」

「『透明な水』を使う?使うとどうなるの?」


どうなるの?!ねぇ!?


その答えを聞いたら、いてもたってもいられなくなった。


早く…………早く智樹の所へ行かなきゃ……!!


「悪いサファイア。今回は助けた代わりに修理費の方は堪忍してな~!」


そう言うと、プルスの王子はドラゴンの姿になった。そして、私をその大きな手で掴むと、窓を……窓周辺をぶっ壊して外に飛び出した。


その勢いで、窓ガラスの破片が顔に当たって耳と頬が切れて少し血が出た。


「やっても~た!顔に傷つけてもうた~!」

「うっせ!さっさと急げ!!智樹が危ないんだから!!」


どうか…………どうか間に合って!!


こんな思いは二度としたくないと思ってたのに……

プールスで、次は絶対無いと心に誓ったのに……


「あ~そういえば、回復魔法……一応、できてたで?」

「見てたの?じゃあ、ラルは?」

「見てみ?ピンピンしとるわ!」


は…………?それって……


ラル=プルスの王子


え?えぇええええ!?


「こっちはそっちの察しが悪うて引いとるわ」

「え?いや、だって…………」


えぇええええ!!


そんなやり取りをして、深海の入口が見えてきた。


エレベーターのボタンを押そうとした瞬間、ドカン!!と爆発音が聞こえた。


嘘………………智樹は深海にいるって…………


振り返ると、南側の球体で黒い煙があがっていた。


嘘…………!!嫌な予感がする…………あの爆発音、あの黒い煙…………人々の叫び声…………


嘘でしょ!?


まさか…………そんな事って…………


南側住居エリア入口に私達が近づこうとすると、警官のような魚人に止められた。


「南側居住区で爆発を確認しました。これ以上は進めません」

「智樹が!!弟がいるかもしれないんです!!お願いします!!」


それでも、通してはもらえなかった。


「球体の中はかなりの温度です!これ以上進むのは危険です!」


いつの間にか人間の姿に戻っていたラルが私を引き止めた。


「さっき智樹にはメッセージを送った。返信がある。大丈夫だ!智樹はきっと生きてる。ここを離れよう!」

「嫌だ!!智樹の所に行く!!」

「バカか!!お前、この混沌とした人混みの中で殺されたいんか?」


殺される…………?


「今回の事でわかったやろ?お前はYUKに命狙われとるんや!」


お兄ちゃんに、殺される…………!?


「そんな訳無い!!お兄ちゃんは誰もボコったりしないんだもん!!いつも優しくて、私達をいつも守ってくれた!」

「そうかもしれん!だからってこの世界でも同じだと思うなや?」

「どうして…………!?」


プルスの王子はそのエメラルドの瞳で真っ直ぐ私を見て言った。


「人は変わる。それが人間や。現実世界では優しかったかもしれん。それも、あいつにとって邪魔な存在になれば、妹だろうが何だろうが、そんなもんいくらでも覆るわ」

「そんな事無い!!そんなの…………信じない!!絶対に信じない!!」

「莉奈!!」


私は警官の間をすり抜けて、煙の方へ走った。


「おい!待て!!危険や言うたやろ!?」


そんな事…………信じられないよ……。お兄ちゃんの存在だけが…………私の心の支えだった。


その支えを無くして、どうやって生きて行けばいいの?何を信じて行けばいいの?


青ばかりで何も見えない、この碧の世界で…………


「莉奈!!」


そう、名前を呼ばれた瞬間、気がついた時には目の前に崩れ落ちた瓦礫が迫って来た。


まずい!!死ぬ!!


そう、思って思わず目を閉じた。すると…………


………………あれ?痛く無い…………。


目を開けると、目の前にドラゴンが…………ラルが私に覆い被さって、守ってくていれた。


「お前のせいでめっちゃ痛いんやけど?」

「助けて欲しいなんて頼んで無い!」

「お前、ホンマ可愛げ無いな……」


ごめん…………。


ラルの血まみれの体を見て、やっと冷静になった。


「ほら、回復魔法やってみ?」

「素直に回復してって言いなよ」


私は頭に思い浮かべた。ラルの元気な姿を。智樹と楽しそうにじゃれ合う姿だ。智樹………………


「空の青さ知るは魂の光…………海の碧さ知るは深き闇の灯…………」


思わず、呪文を唱える声が震えた。


「地の蒼さ知るは……万象の……癒し……その力を持って…………癒し……たまえ……」


涙で、ラルの姿がぼやけた。


大丈夫。智樹は深海にいるはず。あそこにいなかった。そう信じよう。そう信じたい。


でも、私があのオーブを取られさえしなければ…………ここにいる人々は死なずに済んだかもしれない。


サファイア王子に成りすましていた男が言っていた。


『あの『透明な水』を使えば…………すぐに気化し、少しの空気の振動で爆発する。あの『透明な水』は『purusaqua』の研究の副産物だ。あの少量で半径2㎞は消せる』


お兄ちゃんは、そこまでして私を消したかったの?その理由は?



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