26、冒険者
26、冒険者
私が落ち込んでいると、ラルが仕切り直して言った。
「そんな事より、早く城へ行きましょう!さっさと碧の冒険者の称号を取得して、魚人を見つけましょう!」
あー!そんなものもあったっけ!
今度はちゃんと、二手に別れる事になった。
私と城へ行き、称号を取得するグループと、智樹とモリカワさんと魚人を探すグループ。
結局別れたのは…………私とそれ以外。何?このグループの作り方……これ、完全に私ただのハブじゃん!いじめ?これいじめなの?
どうやら動物達は、誰も智樹からは離れたく無いらしく、揉めていた。結局はアルパウスかペンギンのどちらかが諦めて智樹から離れなければいけないんだけど……
「私は智樹の彼女なの。私が智樹と行くのが当然でしょ?」
「いいえ。トモキは蒼の魔法使い。この碧のアクアでは不利。トモキを守れるのはプールスの私が一番でしょ?」
アルパウスのアメちゃんは鼻息を荒くし、ペンギンのクリス姫はペチペチと地団駄を踏んでいた。そのバトルは、人間ごときが立ち入ってはいけない、野生の戦いの雰囲気だった。
「あ、うん、じゃあ、いいよ。私1人でパパっと城に行って来るから!じゃ、また連絡して!」
時間が無い。早く冒険者の称号をもらって、ギルドに行って魚人や現実世界への糸口、できるなら兄の情報も集めなきゃ。
「待ってください!1人では行かせられません!」
すると、後からラルがついて来た。
「いいの?智樹から離れて」
「あの中で一番弱いのは……多分僕ですから」
「ラル…………」
ドラゴンの姿になれば、そこそこじゃないの?あ、狭くてなれない時もあるか…………
何だか一匹だけ私について来たラルが可哀想になった。
「可哀想だと思うなら頭撫でてくれてもいいんですよ?」
「そうゆう所が可愛く無いんだよね~」
私はラルを抱き抱えると頭や背中を撫でながら、アクアの城へ向かった。
アクアの城というのは、プルスの要塞のような城や、プールスの美しい結晶の城のような城じゃなかった。まるで、洞窟。鍾乳洞と言うべき?その城は鍾乳石の集まりでできていた。
「これ、どこに向かえばいいの?」
「城のマップは手に入りませんからねぇ……」
入口がどこかさえわからない。城の前で途方に暮れていると、2匹のカクレクマノミがやって来た。ニモじゃん!どうやって飛んでるんだろう?この魚達…………
「城に何かご用ですか?」
「あの、冒険者の称号を…………」
「あ~!イマサラさんですね?」
イマサラさん?知らぬうちに私、アクアでそうあだ名をつけられていたらしい。
「じゃあ、私達について来てください!」
「城の中ではぐれないでくださいね!鍾乳洞ではあちこちで崩落や落石があってリアルに危ないですから!ウフフフフ!」
「あ…………はい…………」
テンションが明るいけど、この城、意外とヤバいんじゃ…………
予想通り、洞窟の中は石を登ったり滑ったり、ガチでサバイバルだった。途中で底の見えない石と石の隙間をまたいだり、水の中を潜ったり。これ、冒険者の称号もらう前に下手すれば死人が出るんじゃない?ここで死んだら笑えないんだけど…………
「ねぇ…………ここ、本当に正規ルートなの?」
「え?私達はただ、ついて来てって言っただけよ?」
「え………………」
やられた!!私はなんてバカなんだろう…………深海で騙されたばかりなのに!!
小さな小魚だと思って油断した。
「イチモ、何だか私飽きてきちゃった!」
「そうね、サンモ。城の案内もこの辺でいいかしら?じゃあ、私達はこれで!」
そう言って、私達を残してクマノミ達は石の隙間に入って行った。その隙間は、当然私達が入れる大きさじゃなかった。
どうしよう…………
そう言えば、ラルは?はぐれた?
「ここに……いる……」
気がつくと、石の上でぐったりとしているラルがいた。
「どうしたの?」
「大丈夫…………」
抱き抱えると、何だかさっきよりも少し暖かい気がした。
「ラル…………熱?」
私はラルを抱えて、呆然とした。
鍾乳洞で遭難、ガイドのラルはほとんど意識が無い。
これはヤバい…………詰んでる!!
とにかく覚えている限り、元の道に戻ってみるしかない。私はローブを脱ぐとラルをローブで巻いて、さらに自分の背中に背負ってくくりつけた。これなら何とか両手が空く。両手が空けば何とか進める。
「誰か~!誰かいませんか~?」
自分の声が、静かな鍾乳洞に響き渡った。暗い場所は通って来なかったはずだから、ひたすら明るい場所を選んで覚えている限り戻った。
ラルの息が荒い。きっと熱が辛いんだ。こんな事なら回復魔法ちゃんと習っとくんだった…………
「冒険者の方ですか?」
突然そう声が聞こえたと思えば、暗い穴の中から1人の男の人が現れた。
「そう……ですけど……」
私は警戒した。
めちゃくちゃイケメンだけど、めちゃくちゃ王子っぽいけど、ここで警戒せずにはいられなかった。
「ここは城の外ですよ?僕が城の中へ案内しましょう」
「あなたは…………だ、誰?ですか?」
「何故そんな事を訊くんですか?聞いて意味がありますか?」
ここで名前を名乗られても私が知るはずが無い。だけど、敵か味方か全く判断ができない。
「イタズラ好きのクマノミの子に迷わされてしまいましたか?」
「……………………」
「大丈夫ですよ。私について来れば必ず冒険者の称号は得られます」
何故?優しそうなのに、イケメンなのに…………
胡散臭ぃいいいいい!!
タイミング?タイミングの問題?ここで出て来られたら誰だって警戒するっしょ?しない?普通するよね?
すると、クマノミ達が男の前にやって来て周りを漂い始めた。
「サファイア様、冒険者を案内しました」
「お客様をあまり迷わせてはいけないよ」
「は~い!」
「いい子だね」
王子スマーイル!!クマノミに微笑みかけるその姿は正に王子様だった。
警戒しながらも、私はこの人について行くしかなかった。だって、ここから出る方法が他に無い。
案内されるまま、ついて行くと…………
反対側に普通に入口らしき大きな階段があった。
「なんだ…………こっちに普通にあるじゃん」
やっぱりこうゆう時に、今までは意外とラルが役立ってくれていたのかもしれない。そのラルが今は使い物にならない。でも、できればどこかで休ませてあげたい。
「こちらです」
階段を登ると、何個もの石のアーチをくぐり、大きな扉の前に着いた。その扉を開けると、天井がぽっかり開いた空間が見えて来た。そこには、色とりどりの魚が泳いでいた。その魚達が揺れる度にキラキラと光り、天井に水の揺れる模様が映し出されていた。不思議…………どうなってるんだろう?
でも…………
「綺麗…………」
思わずそう言っていた。それを聞いた王子様スマイルは嬉しそうに微笑んでいた。
「冒険者様が望むなら、ずっといていただいてもいいんですよ?」
「えっと…………私まだ冒険者じゃないです」
「………………」
私の一言に王子様スマイルは黙ってしまった。
その先に進むと、真っ白な大きなホタテ貝の貝殻の中に、世にも美しい人魚姫が座っていた。人魚姫はその長い銀の髪を入念にブラッシングしていた。
「女王様、冒険者をお連れしました」
「あぁ、イマサラ?」
スゲー美人なのにスゲー態度が悪いな。そして、冒険者の称号を投げつけて来た。私はそれを何とかキャッチした。
「欲しいのはそれ?さっさと持ってって~」
お~い、それは無いっしょ?冒険者の称号が瓶ビールの蓋みたいな扱い受けてるんだけど?一応、これでいいのかな?さっさと帰ろう。
すると、王子スマイルが申し訳なさそうに目の前にやって来た。
「あの、姉が申し訳ありません……」
「あ、女王様ってお姉さんなんだ…………」
「女王様は今お忙しいようなので、私がご相手させていただきます。申し遅れましたが、私はここ、アクアの王子、サファイアと申します」
サファイア王子は深々とお辞儀をした。
「姉の変わりに協力いたします。出来る事があれば何でもおっしゃってください」
「あの、じゃあ、お願いです…………」
私はラルを下ろしてお願いした。
「どうかベッドを貸してください」
「えぇ?!」
え?何赤くなってんの?何勘違いしてんの?気持ち悪っ!!




