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23、アクア

23、アクア



潜水艇はキラキラ光る鱗の模様のついた可愛らしい水陸両用魚型潜水艇だった。上部が開くようになっていて、水に潜る前はオープンカーのように風を受けて走った。


私達は砂浜に着き、いよいよ海底に潜ろうという時、魚の疑似ドラゴン『ドラゴンノヨウ』に遭遇した。疑似ドラゴンたちはたちまち襲いかかって来た。


うわっ!!


『ドラゴンノヨウ』は水掻きの先に鋭い爪のようなものがあり、その引っ掻き攻撃に思わず木刀で受けた。すると、かすっただけで木刀が欠けた。


「あ~!せっかくレイさんが作ってくれたのに!」

「それで戦う方が無理だって言っただろーが!」


蒼の力が高まったこの木刀は、碧の攻撃に弱い。


「でも、それ以外武器持ってないし」

「だから、ちゃんと買い物に…………」


すると、アルパウスのアメちゃんが重厚な桐箱を差し出して来た。


「あの、お姉様、もしよろしければこれをお使いください」


え?何?ドスが入ってるの?そう思えるほどの箱だった。


「アメちゃん助かる~!」

「我が家の家宝でございます」

「え?家宝?家宝って使っちゃっていいの?」


アメジスト嬢が差し出してきた箱を開けてみると………………これ………………


出刃包丁…………!?


いや、これ、魚切るやつだよね?これで魚の疑似ドラゴンと戦ったら図がオカシイよね?


「この刃物は、かの名工、刀匠ナントカノナンタラの作品だそうです」

「ナントカのナンタラって、それ無名なんじゃ……」

「見て下さいこの模様。ダマスカス包丁と言ってとてもデザイン性の高い包丁です。切れ味も抜群、是非手に取って使ってみてください!」


え?なにこれ?実演販売?


そのアルパカの可愛らしい笑顔に押され、外箱を置いて片手で持ってみたものの………………


どうみても私……魚屋……


いや、むしろただの犯罪者じゃん!アンタを殺してアタシも死んでやるー!ってよくあるアレだよ!


「それじゃ莉奈、何だか山姥みたいだね~!」


え?そっち!?ってコラ!


「これは…………やっぱりちょっと…………」


私が箱に入れ直そうとすると、ラルに止められた。


「無いよりはあった方がマシです!さっさとそれを振り回して敵をやっつけちゃって下さい!」

「そ、そっか…………」


なんか…………複雑な気分だけど…………出刃包丁で敵を真っ二つに切ると、一瞬で消えた。


「何この包丁~!切れ味最高!!何なら『ドラゴンノヨウ』で刺身とか作れそう!これ、欲しい!絶対買う!!」


思わず実演販売のサクラかのような反応をしてしまった。


そんなやりとりをしていると、いつの間にか敵が倒されていた。


何と言うか…………


人間以外みんな、ツエエエエな!!特にペンギン!!プールスの姫だけあって『悪意の意志表示』という技がアクアのモンスターに効きまくっていた。


敵を倒しつつ、何とかそのまま潜水艇を進めた。浅瀬に来ると、またもや疑似ドラゴンに遭遇した。陸地を離れたら多くなって来た気がする。


ウヨウヨ湧いて出る魚に、ペンギンが氷のように冷たい目をして言った。


「食えないこの魚どもめ………………」


魚はペンギンの好物だけど、疑似ドラゴンなので『ドラゴンノヨウ』は一般的に食料として食したりはしないらしい。


クリスタル姫は『悪意の意志表示』を使った。


「死ね!!」


瞬殺!!全員瞬殺!!極稀に喜ぶ変態な疑似ドラゴンもいたけど、大抵のアクアのモンスターはこれで速やかに逝けた。


効き目はクリスタル姫の技よりは劣るけど、モリカワさんの『超音波』や、アメジスト嬢の『前足で蹴る』もなかなかの強さだった。


おかげでラルは潜水艇の操縦に専念できて、智樹はもっぱら回復担当だった。一匹一匹に声をかけ、餌を与え、動物達のケアをしていた。私としてはその方が安心だった。ゲームの世界と言えど、ここでは死んではいけない。


そんなこんなで潜水艇で海の中に潜り、海中都市アクアを目指した。


プルスの自宅を出て2時間、海に潜って1時間、やっと着いたアクアは海の中にドームのようなものがあり、その周りに何本もの筒状に道のような物が続いている。その先には小さな球体がついていた。


「海底都市は本来冒険者と他の国の来訪者の為に作られた最も古い都市だと言われています。今でも多くの冒険者が拠点としています。が、碧の属性を選ぶ冒険者は一番少ないとされています。」

「どうして?」

「海の中で有効な攻撃は陸地ではイマイチのようで……逆もしかりですが、冒険者が他の国へ行くのに不利、スタートするには少々厄介な場所とされています」


確かに…………海の中で面とか胴とか通用しなさそう。じゃあ、碧の騎士って絶対誰も選ばないやつじゃん。テキトーに選んだからそこまで考えた事無かった。多分自然な流れでは、本来智樹の称号もらった後すぐここに来るはずだった。


「今では泳げない魚人も多くいるようで、地上と同じ暮らしをする事ができます」


ラルの説明が一通り終わる頃、1つの球体の下の部分に潜水艇をつけると、球体の下にある穴の部分が開き、潜水艇が吸い込まれて行った。


球体の中に入ると球体の中の水が抜けて、私達は潜水艇から降りた。


アクアに降り立つ前に、クリスタル姫がアクアを見て感慨深いと言っていた。


「どうして?」

「元々私達一族は海で暮らしていました。しかし、私達は魚ではなく鳥の部類に別けられました。それから海に居場所を無くした私達は、新しくできた土地に移り住んだのです」

「それがプールス?」


クリスタル姫は黙って頷いた。そんな話をしながら船を降りると…………


「莉奈!ローブ忘れてる!」


智樹がローブを持って後から降りて来た。


「そうだった!サンキュー智樹!」


私は智樹からローブを受け取り羽織ると、その景色に釘付けになった。思わず思うままに船着き場から街へ進む道を歩いた。


不思議な空間だった。あちこちがガラスのような透明の素材でできていて、まるで街全体が水族館みたいだった。


「待ってよ莉奈!一人でどんどん行かないでよ!」


智樹にそう言われて振り返ると、目の前の人とぶつかってしまった。


「うわっ!あ、ごめんなさい!!」


思わずフードを取って、ぶつかって倒れた人に手を差しのべると……………………


そこにいたのは、真っ青な色した魚人だった。


ひぃいいいいいいい!!いきなり魚人!!しかも、かなり魚寄り!!


私の手の上に重なった手は、水掻きのついた手だった。思わず呆然とした。何故か、立ち上がった魚人もこちらをじっと見ていた。


すると、突然モリカワさんがいい声でエルヴィスのonlyyouを歌い始めた。


「やめてよモリカワさん!そんなんじゃないから!」


これが、普通の人間(イケメン)だったらどんなに良かったか…………女性用イベントなのに、魚がリアルなのが本当に悔やまれる。


「どうしたの?莉奈?」


智樹とラルがその様子を見て駆け寄って来た。


まじまじと見たくもなかったけど、魚人の方を見るとその魚人は何故か泣いていた。その丸々とした目から液体を出していた。ヤバい……泣き顔にゾッとする。


何故!?あ、これ、私のせいかな?私がぶつかったせいかな?ここはやり過ごそう。


「すみませんでした」


そう言って私がフードを被ろうとすると、その手を捕まれた。


ギャーー!!捕まれた!!


「貴女が碧の冒険者の方ですね?」

「え………………」


怖い!!怖い怖い怖い怖い!!


私が恐怖に震え出すとラルがすぐに飛んで来て、魚人の腕を蹴り、私の頭にフードを被せた。


「だから、注意しろってあれほど言っただろうが!!逃げるぞ!!」


ラルは私に逃げるように強く言うから、思わず私は

走り出した。しばらく走って気がついた。あれ?みんなは?気がつくとラルとまではぐれてしまった。


智樹大丈夫かな?ラル、どこ行っちゃったんだろう?





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