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21、帰れない!?

21、帰れない!?



弱いものぶってなんか無い。


だって、本当は強くなんか無い。それとも何?いっその事、兄の事を見下せば良かったの?


私は…………結局どうすれば良かった?


私は兄に甘えていた。それがいけない事だったの?


兄は高校受験のために剣道を辞めた。ずっとそう思っていた。私ばかり持て囃されるから、試合に勝てないのを私のせいにしてやめた?


そんなの私のせいじゃない!!弱いものぶって他人のせいにしてるのはそっち!


マジで腹が立つ!!


ずっと黙って、私の肩に乗っていたモリカワさんに説教された。

「事情はわからないが、ここでこんな事をしている場合ではないだろう?」

「わかってるよ…………」


こんな事、現実世界でやれって話だけど…………


智樹がクローゼットの前に来たのがわかった。


「莉奈…………さっきは言い過ぎた。ごめん」

「あっち行け!」


実際こっちの世界に来ても、クローゼットに入るとは思わなかった。どの世界にいてもこのクセは治らないのかもしれない。


いっそのこと、クローゼットごと転生すればいいのかな?それともクローゼットの無い世界?


それじゃ…………どこにも逃げ場が無くて困る。


コンコン!と智樹にクローゼットをノックされた。この期に及んでまだノックしてくるか?ふざけんな?


「うるさい!あっち行け!早く現実世界帰れ!」


すると、意外な人の声が聞こえて来た。


「なんや、相変わらずイヤな奴やな~」


この関西弁…………アイツだ!!余計にここから出たく無くなった。


「悪うござぁ~まさぁね。あんたがそこにいなきゃ、今より少しいい人になれるんだけど?」

「俺のせいかいな!」


今は誰がその前に立ったとしても出られそうに無い。


「あ~せっかくYUKの噂聞いたんやけどな~聞きとぉないんやろな~」

「何!?兄の情報があるの!?」


私は思わず、勢い良くクローゼットの扉を開けた。


ゴン!と音を立ててプルスの王子に当たった。


「痛っ!!」

「あ、ごめん!」


王子はおでこを押さえながら、呆気に取られていた。


「なんや……開ければ普通に開いたんかいな!」

「だからって勝手に開けようとすんなよ?」


そもそもクローゼットの内側に鍵なんかあるわけ無い…………それいいかも。今度自分で鍵つけようかな?


「なんでやねん!そんなんかまへんやろ?1分前に開けても1時間後に開けても同じ事や!」

「そうゆう問題じゃないの!!普通にデリカシーが無いな!」


こいつ本当に王子?そもそも女子の部屋に勝手に入って来るとか何なの?


「婚約者の顔見に来てやったのに、可愛げ無いな~」

「は?名前だけな?」

「お前気を付けた方がええで?この世界じゃ名前だけでも契約の効力あんねんで?」


え………………?


「勝手に婚約破棄なんしようもんなら損害賠償もんな?」

「えぇえええええ!!」

「まぁ、安心せぇ、用済みになったらさっさと捨てたるわ」


それはそれで悔しい気もするけど…………でも、どうせこの世界にも長居はしない。


「じゃあもし私が、現実世界に帰って二度と戻らなかったら?」

「ずっと婚約者のままや。まぁ、俺は幸い王子やから他にごっつう美人な嫁も取れるかもしれん。一般人が冒険者に真剣になったらそら地獄やな」

「そんなの…………別の人と結婚すればいいじゃん」


自分で言ってて、そんなに簡単に済む問題じゃない事ぐらいわかってる。私はそんな真剣な二人を引き離そうとした悪魔だ。


そんな事を言ったら、私だっていつまでも兄の事追っかけてないで彼氏作れって話だし。そもそも異世界にいたらできないし!!そもそもここ純粋な人間ほとんどいないし!


よし、帰って彼氏作ろう!兄なんかよりカッコ良くて、優しくて、デリカシーがあって、私より剣道の強いイケメン!!探そう!!


「智樹、帰ろう!」

「えー!もう?」

「なんや、逃げるように帰るやん。YUKもう探さへんの?」


もう、探さない。ちゃんと諦めて、兄の代わりを見つければいい。


あれ~?ラル~?さっきからラルの姿が見当たらない。


私達は家中をラルの姿を探した。


すると、何やらラルが焦って寝室へやって来た。


「システムが反応しません!意識解除ができないようです」

「解除できないとどうなるの?」

「帰れません」


帰れないぃ!?どうして!?


「機器の故障か、電源が落とされたかのどちらかの可能性があります」

「故障……電源……」


一度落としてるから故障も考えられる。たまたまお母さんが見つけて電源を落とす事だってありえる。


どっちにしろ、こっちの世界からは何もできない。


「どうしよう………………」


私達はリビングに移動すると、アルパウスの入れたお茶を飲みながら途方に暮れた。


「プルスの薬草で淹れたハーブティーです」

「ありがとう…………」


アルパウスがどうやってお茶を入れたのかはその時はどうでも良かった。


最悪だ。すぐ帰るつもりでいたから、こんな事態になるとは思ってもみなかった。


意外にも智樹が冷静に提案した。


「僕達以外に現実世界を行き来している人を探せばいいんじゃない?」

「どうやって?」

「僕は初めて冒険者の称号をもらった時に来た挨拶のメッセージ、莉奈は闘技場でメッセージが来た人に全員に訊いてみればいいんじゃない?」


そうか…………手当たり次第探すのもありか…………


「でも、もし見つかったとして、どうやって家に入って電源を入れるの?」


どうやって家に勝手に入って…………


待って?あの魚人はどうやって入ったの?そもそも、電源が抜かれたのって…………もしかして、機器を回収された?その可能性が高く無い?


「モリカワさん、機器を集めてる人達って私達の家って知ってるよね?どうやって入ったかは今はこの際どうでも良くて…………その人達と連絡って取れたりする?」

「………………この世界に入ってしまえば、外との連絡はつかない」

「じゃあ、あの家にいた魚人を探そう!」


皆は首を傾げた。


「あの魚人?」


私は皆にあの夜、私達の家に魚人が兄に成り済ましていた事を説明した。


あいつは言っていた。『ヘビーユーザーにはよくある事なんだよ』と。それは、成り済ましを必要とするユーザーと、それを請け負う生業の人達がいるという事。


あの魚人が他のユーザーの成り済ましをしていれば、私達の機器の確認もしてもらえるかも!!


「アクアへ行こう!あの魚人はアクアにいるって言ってた!アクアへ行って、魚人を見つけよう!」

「でもさ、莉奈、魚人の区別ってつくの?」

「え………………」


智樹に痛い所をつかれた。私に魚人の区別はつかない。すると、モリカワさんが言った。


「莉奈、お前は魚人の区別もつかないのか?やはり人間というのは知能が低いものだな」

「モリカワさんわかるの?」

「もちろんだ」


これで決まった。私達は、魚人を見つける為にアクアへ向かう事になった。


私と智樹とラル、何故かアルパウスがついて来る事になった。それにモリカワさん、あれ?誰か忘れているような…………と思っていたら、家のドアが勢い良く開いた。


「恋人がいても、やっぱりトモキの事諦めきれない!!」


出た!ペンギンのお姫様!!


「智樹のその黄色、私もずっと好きだと思っていたぞ?」

「モリカワさんまで!!」

「僕もかわいいと思ってたんだ~モリカワさん」


智樹は私の肩に乗ったモリカワさんの首の羽を優しく撫でた。すると、アルパウスとペンギンが焼きもちを焼いていた。


「もう!智樹は誰にでもかわいいって言うんだから!」

「確かに焼ける!でもトモキの動物たらしな所もその魅力よね~」


何だろう?智樹…………これ、ハーレムじゃね?いや違う!これはハーレムとは言わない!もはや図が……図が……


ムツゴ◯ウさん!!


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