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18、影響

18、影響



私は改めてゲームをセットした。


「良かった~!僕、プルスに彼女残して来ちゃったからそれが心残りで……」


か、彼女ぉ!?いつの間に!?


1度でいいから言ってみたいよ、その台詞。


嘘でも1度言ってみようかな?


「私も、彼氏残して来ちゃったし……」

「それは無い!」

「なんでよ!!」


私にロマンスの可能性は無い!?どうして言い切るの!?現実世界でモテないんだから、少しくらい希望を持たせてくれてもよくない!?


まぁ、それでもいい。それでも、会いたい人がいる。それだけでいい。


「セーブデータちゃんと残ってるかな~?」


智樹はソフトをセットすると、コントローラーを挿した。すると、いつもの様に体が透けた。


「そういえば、莉奈その顔の傷どうした?」

「あーこれ?インコにやられた」

「インコ!?」


それは、昨日の夜の事。


入る◀️

入らない


入る!!


私は思わずドアを開けてしまった。ドアの向こうには、バーカウンターと、小さなソファー席、狭いお店だった。


「えぇ!?マジ!?」


すぐに目に入ったのは、サイの獣人と黒い帽子の男だった。


まずい……武器ぐらい用意してから入るんだった?


すると、後ろから首に蛇のような物が巻き付いてきた。その蛇には吸盤が…………吸盤!?


気持ち悪っ…………!!


少しづつ後ろを振り向こうとすると、少しづつ首を締められた。苦し紛れに見たその姿は頭がタコの男だった。


「やめろオクト!!こいつ莉奈だ!YUKの妹だ!離せ!」


そう、黒い帽子の男が言うと、すぐに首に巻き付いていた触手がほどけ、私の首から無くなった。


き、気持ち悪かった~!もうたこ焼きも見たくないレベルで気持ちが悪い!!


「YUKの妹だろうと人間に見られたからには生かしておけん」

「一般人にはそう見えてないんだって。この子はプールスに行ってるから見えるだけで」

「冒険者か…………」


そう言ってタコは私の手足と口にガムテープを貼るとソファーに蹴り飛ばした。


「おい、そんな扱いしていいのか?YUKに知れたら怖いぞ?この前の魚人なんか自国に戻されて……」


この人達…………お兄ちゃんの仲間なの?


「ん~!」


私は手足をバタつかせて、ガムテープをとろうとした。


すると、吸盤のついた触手が私の顔に張り付いた。


「騒ぐんじゃない!その鼻をこれで塞がれたいか?」


それ以上、恐怖で動けなかった。


しばらく、タコとサイと黒い帽子の男、その三人がカウンターで酒を飲むのをソファーで黙って見ていた。カウンターには、バーには似つかわしくない可愛いらしい小鳥の置物がこっちを見ていた。


「累計10万人だぞ?東京都の人口約1割!そんな人数がこのゲームに入って、そのうち今も3万人のユーザーがいる。その3万人は切り捨てかよ?」

「政府にとってはたった3万人だ。異世界を国として認める方が難しいんだろ」

「なんでだよ!」


3万人の人がまだゲームの中にいる!?3万人って

どれぐらい?全然想像つかないんだけど?


「俺達みたいな得体の知れない存在を認めたく無いんだろ?」

「せめて本当に『purusaqua』が存在すればなぁ…………多少、交渉も進むんだろうけどなぁ……」

「YUKはまだ見つけられないのか?」


ゲームの中では存在されていないと言われている『purusaqua』…………それは、政府を動かす程の力のある物なの?


「少量の似たようなものは見つかったらしいが、それが本物の『purusaqua』かどうかは確証が無いらしい」

「早くしないとユーザーは減る一方だぞ?あっちの世界はこっちより老化する速度が早い」

「ぼやいているだけでは何もならんだろう?我々の仕事は機器の確保だ。確保が遅れれば、全て政府に回収され隠滅される」


それは…………あの機器は、表に出してはいけないものだった。何も知らなかった。知らなくて私は、修理に出そうとあちこちに見せ歩いていた。だから奪われたんだ…………。


でも、あの機器さえあれば…………何か……何か行動しなきゃ……!!


私はガムテープで固められた手で、一番近くに座っていた黒い帽子の男の肩を叩いた。


「ん?何だ?」


私は跳び跳ねたり、首を振ったり「んー!」と言って訴えた。


「どうした?」

「何か伝えようとしてるぞ?」


サイがそう言うと、黒い帽子の男は私の口のガムテープを剥がした。痛っ!もっと丁寧に剥がして欲しい。


「トイレ!でもこれじゃ行けない!」

「じゃあ、これ取って…………」

「待て」


タコがまた私の目の前にやって来た。


「このまま行け」


そう言って触手で抱えられ、トイレの便座に座らされた。タコは私の目の前に立ったままだった。


私、パンツはいたままなんだけど…………チラッとタコの方を見ると、それが伝わったのか1度立たされるとパンツを下ろされた。


生まれて初めてタコにパンツ下ろされた……。いや、これ人類初じゃない?


複雑な気持ちと気持ち悪い触感が、精神的にかなりのダメージがあった。多分、今後タコ焼きを見たら思い出しそうなくらいトラウマだと思う。


「あの、トイレットペーパー…………」

「そんなものいらんだろ」

「必要です」


タコはその触手でトイレットペーパーと格闘していた。もしかして…………こいつトイレットペーパー苦手?


「あの、この手を取ってもらえば自分でやります」

「そうか…………では仕方がない」


私がそう言うと、タコは渋々手のガムテープを外した。私はトイレットペーパーを使って始末し終えると、トイレを流した。タコが後ろを向いた瞬間、私はとっさにトイレットペーパーをタコの頭にぐるぐる巻き始めた。


「おい、お前…………うわっ!止めろ!くっつく!」


その声を聞いた他の二人がトイレのドアを開けた。


「オクト!大丈夫か!?」

「お前オクトに何しやがった!?」

「何したって…………トイレットペーパー巻いただけ…………」


二人はタコからトイレットペーパーを剥がすのに必死だった。それを見て、私は両足飛びで逃げようとした。


でも、一本の触手が私の腕に絡みついたままだった。その腕がやたらと引かれる。


や、ヤバイ………………ヤバイかもこれ………………


そう思って覚悟していると「馬鹿者!」とカン高い声が聞こえて来た。


「モリカワさん!」

「モリカワさん?」


守川さんとは………………鮮やかな黄色い頭に、目の覚めるような緑の体。セキセイインコだった。


インコ!?


「今日初めて会った人間に弱点を見抜かれるなど、何と言う有り様だ !」


このインコ、カウンターの!?全然動かないからてっきり置物かと……。


「お前達飲み過ぎだぞ!飲んでばかりいないで仕事をしろ!!」

「はいぃっ!」


そう言ってサイと黒い帽子の男は出かける支度をしていた。


「SNSの噂について調査に行って来ます」

「俺は他の獣人と情報交換だ。悪いがオクト、それは自分で取ってくれ」

「そんな…………」


タコはボロボロトイレットペーパーを頭にくっつけながら、私の腕にガムテープを巻き、おまけに口にもまた貼り付けた。


その後、タコは私を置いて店を出て行ってしまった。


嘘……最悪だ………………。


これじゃどうやっても出られない…………


すると、インコが私の肩に乗って来た。


「お前、どうして『purusaqua』に入った?どうゆう物かその存在を知っているのか?」


私は首を横に振った。


インコは私の方をじっと見ると、頬をつついた。


痛っ!!


「動くな!口元が狂うだろうが」


え?もしかして…………口のガムテープ取ろうとしてくれてる?


インコは何度も何度もトライしたけど…………その度にクチバシでつつかれて痛い!なんか、有り難迷惑!!そんなんで取れる訳ないじゃん!!


「取れるわけがないと思っているのか?インコは高知能なのだぞ?」


と言ってつつき続けた。だから痛いって!!顔が傷だらけになるから!!


あーもう!!私は両手にぐるぐる巻きのガムテープの塊を頬に何度も擦り付けて、 何とか剥がした。肌が荒れたらどうしてくれるの?


「高知能はわかったから!これ以上つつかないで!」


私は口で両手のガムテープを取ろうとしたけど、取れる気がしなかった。でも、手足を拘束されてても、何とか動けそうだった。


私は何とか立ち上がると、カウンターに置かれた水玉の紙袋を両腕に引っかけた。


「何故、まだあっちの世界へ行こうとする?その影響を知っているのか?」

「影響?」

「肉体と脳への影響だ」


インコは飛び上がると、カウンターの上にとまった。


「本来人間の1日は24時間。そこに1日2日の情報量が入ると脳の疲労が蓄積され、やがて肉体にまで影響が出るようになる」

「それって…………死ぬって事…………?」


トムさんが以前こう言っていた。


『現実世界にもう肉体がない』


それは、こうゆう事なの?


「人々はこの『purusaqua』を何と呼ぶか知っているか?」


『purusaqua』その名も…………


『自殺ゲーム』


その魂だけが12種類のキャラクターの中に入り、現実世界に肉体だけ取り残される。次第に脳の疲労の影響でその身を滅ぼす。


肉体も力尽き、さらにその魂すらも戦いに敗れると………………


その存在は完全に消える。


嘘……そんなに恐ろしい物だなんて知らなかった。




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