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15、クリスタル

15、クリスタル



叱られる時は必ず「お前はお姉ちゃんなんだから当たり前だろう」と言われた。


母と血が繋がっていないと知った時から、叱られるのが怖くなった。幸い叱られる事も少なくなった。多分、母も叱るのが怖くなったからだと思う。


全部我慢すればいい。全部飲み込めば、これ以上家族は壊れない。


お兄ちゃんがいなくなっても、普段通りを装った。普段通りって何?


だから私は、智樹を諦めた。何となく諦めたら、気持ちの整理がついた。きっと兄の事も諦めたら、側にいない事が何とも無くなる。


本当は内心、智樹が見つかって…………


「これで怒られずに済む」そうも思った。



あの後、トムさんはあれやこれやアイテムを試して、何とか私の足を復元してくれた。そればかりか、危険だからと言って私とラルを宿まで送ってくれた。


宿のロビーでは、レイさんとキサラさんが智樹と一緒に待っていてくれた。


キサラさんが智樹の冒険者の称号を取り上げて遊んでいた。


「返せ!僕のだ!これがないと莉奈が困るんだ!」

「ねーちゃん困らせるために勝手に部屋出といて何言ってんの~?」

「困らせるためじゃない!守るためだ!僕がそれを持てば、莉奈は持たなくていいし、そうすれば莉奈は変に気負わなくてもいい」


キサラさんは思わず取り上げていた手を下げて智樹の言い訳を聞いていた。


「莉奈はバカなんだよ…………ねーちゃんだからって何でもできる訳じゃ無いって事を知らないんだよ」


その事に、やっと智樹が気がついたんじゃないの?


レイさんがこっちに気がついて手を振ると、智樹とキサラさんもこっちに気がついた。


「トモキ~!」


ラルが真っ先に智樹に飛び付いた。


「ラル!無事だったんだね!良かった!」

「トモキも無事で何よりです!!」


智樹は私の目の前に来て言った。


「二人が僕を置いて出かけたから探しに行ってたんだよ!そしたら、捜索されてた。」

「莉奈ちゃん、普通まずメッセージ送るよね?」

「智樹はローマ字打てないから…………」


打つ事はできなくても、文字は読む事ができる。気が動転していて全然気がつかなかった。


私は慌てて頭を下げた。


「ごめんなさい!」

「まぁ、私達も居酒屋で脅かしちゃったからね~」

「皆さん、ご迷惑をおかけしました」


智樹は私の方を見て、少し照れた様子で言った。


「今度からは置いて行くなよ!?」


私は両手で智樹の勢い良く胸ぐらを掴んだ。


「な、何だよ!」


そして、自分の頭を智樹の頭にぐりぐりと押し付けた。いつものお仕置きだ。


「誰がバカだ?バカ智樹!」


智樹を離すと何だか安心して、涙が出て来た。


それを見た智樹が心配そうな顔になった。


「莉奈……?どこか痛いのか?」

「うんん。大丈夫だよ!目にゴミが入っただけ」


すると、智樹は私の足に手を置いて言った。


「守るから。兄ちゃんの代わりに、莉奈の事、ちゃんと守るから!兄ちゃんとの約束なんだ」


お兄ちゃんとの約束…………?


智樹は兄が引きこもる……失踪する直前に約束したらしい。『莉奈は必ず智樹を守ってくれる。だから、智樹も莉奈を守ってくれ』そう、言っていたらしい。


あの日、兄と勘違いしてクローゼットを開けた日、


そこに智樹がいた時から…………


私はこの小さな弟に、守っているつもりで守られていたらしい。


そんな私達の様子を見ていたラルが私に耳打ちした。


「そんな事より、トムにお礼しないのか?だいぶ高価なアイテム使ってたぞ~?」

「え?本当に!?あ!そうだ!!お菓子!!」


私が急いで部屋に行き、ありったけのお菓子を持ち1階に降りた。すると、そこにはもうトムさんの姿は無かった。


「あれ?トムさんは?」

「引き留めたけど帰った。また家に遊びに来いってさ!」


トムさん…………


「あいつ何物?あれは絶対Cランクじゃない。中にはSSランクのアイテムあった」

「そうなんだ…………」


トムさんがお兄ちゃんかどうか、訊くのを忘れていた。訊いて、答えてくれるかどうかはわからないけど…………


「それより、ねーちゃん、この子飼っていい?」


突然目の前に出されたのは…………智樹の半分くらいの大きさのペンギンだった。ペンギン!?ペンギンって拾うもんなの?それ異世界あるある?


「私を飼おうなんて、何て身の程知らずなの!?」

「喋った!!」


か、可愛い~!!


「ダメダメ!うちにはラルがいるでしょ?」

「ペットじゃねーし!ガイドだし!」

「キサラさん、ペット可の他の宿って知ってますか?」


同じ部屋も落ち着かないし、一匹増えるなら宿を変えようと思って、キサラさんに相談した。


「何?私とホテル行っちゃう?」

「一緒に行ってくれるんですか?ありがとうございます~」

「その成りじゃ冗談通じないって」


キサラさんはその相談に悩んでいた。


「時間が時間だし、人数も多いしなぁ……」


すると、ペンギンが提案し始めた。


「それならうちに来ればいいわ!うちなら安全だし」


智樹はペンギンの頭を優しく撫でた。


「そうだよね、ママのいる所が安心だよね。よしよし」

「ちょっと!それ、やめてもらえる?」


そんな事言って、めちゃくちゃ気持ち良さそうな顔してるじゃないの……何なの?智樹は動物を惹き付ける何かがあるの?


「もしかして…………これが特殊スキルってやつ?」

「蒼の気の力かな?」


レイさんがペンギンと智樹の頭を撫でながら言った。


「あ…………そういえば、レイさんも蒼の……」

「最近、智樹の気の力が強くなっています。だからプールスでは1人で行動しても敵に遭遇しなかったのかもしれませんね」


ラルがペンギンに便乗して智樹に頭を撫でられていた。いや、それ、撫でられながら言う台詞?


「お言葉に甘えてさ、その子の家に泊めてもらいなよ。安全は確実だから」


キサラさんにそう提案されたから、キサラさんを信じてこのペンギンについて行く事にした。


キサラさんとレイさんに深くお礼を言って、二人にお菓子を手渡した。


「うわ!プッキー懐かしい!」

「レイ、見て!こっち、きのこの里!やった~!私きのこ派~!」


現実世界のお菓子はやっぱり懐かしくて喜ばれるみたい。トムさんにも喜んでもらいたいな。


ペンギンについて行くと、街の中心部まで来た。あれ?ペンギンってもっと岸壁とか…………


着いた先は………………それはそれは立派な…………クリスタルでできた………………城!!!!


「城ぉおおお!?」


予想外過ぎて絶叫した。


どうやら、このペンギンはプールスのお姫様だったらしい。そもそもメスだったんだ……。


そのまま王座の間に案内されると、大きな体のペンギンが王様に座っていた。ペンギンが王様!?キングペンギン!?皇帝ペンギン!?


「クリス!」

「お父様!!」


そう言って子ペンギンは親ペンギンの元に、ペチペチ足を鳴らし駆け寄った。もはや、ネイチャー番組じゃん!!


「娘が夜道を迷っていた所を助けていただき、ありがとうございました」


ペンギンの王とお姫様が深々と頭を下げると、智樹の頭がガクンと下に下がった。この状況で寝てる!!智樹、お前大物だな!


「智樹、智樹!起きて!ここ、城だよ!」

「いいのです。もう夜も遅い。今晩はここでゆっくりお休みください」


そう王様が言うと、家来のペンギンが部屋に案内してくれた。


「クリスタル姫様を保護していただき、本当に助かりました。姫様にはほとほと手を焼いております」


クリスタルって名前なんだ。お姫様はおてんばさんなのね~プリンセスあるあるだよね。


それにしても、惚れ惚れするぐらい綺麗な結晶の城だなぁ…………


「綺麗でしょう?ここは冒険者が、雪の女王の城をイメージして作った物です」


それ、アナ雪……?こんなの作れる人もいるんだ。冒険者は戦うだけじゃないのかも。作ったり、教えたり、戦う意外にもやれる事があるのかもしれない。


「ここを自由にお使いください。何かありましたら左奥の、部屋におりますのでお呼びください」

「ありがとうございます」


私が深々と頭を下げていると、智樹はグースカ寝ていて、ラルもベッドでゴロゴロしていた。


「確かにここなら確実に安全ですね」


そりゃ一番安全でしょうね!ペンギンの巣って聞いててっきり岩間かと思ってたのに!こんな…………素敵な部屋…………


こんな素敵な部屋で、ラルと最低な話をした。


「智樹が寝ている間に、あなたにお話があります」


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