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11、鳥コン

11、鳥コン



鳥人間コンテスト。現実世界では、人力飛行機競技。このゲームでは、いかに鳥になりきれるか…………


「ねぇ、やっぱりやめない?」


私が弱気になっていると、ラルが自分の衣装の羽を整えながら言った。


「何怖じけづいてんの?その慎重さが闘技場の時にあれば、あんな事にならなかったのに!命懸けよりよっぽど楽だよね?」

「大丈夫だよ!ねーちゃんモノマネ上手いだろ?」


モノマネの種類によるって!私がいつもやってるのは武田鉄矢!これ、動物!!


この世界の鳥人間コンテストは…………いかに羞恥心を捨て、鳥になりきれるか競うコンテスト。コンテストの看板にこう書いてあった。


『飛ばねぇ鳥はただの食材だ!!』


食材でいいから!何かを失うなら食材になるよ!


衣装の準備ができると、受付でエントリーを済ませ、ステージの後ろに1列に並んだ。端から順番に番号を呼ばれ、前に出て鳥の物真似をする。


いよいよ、次は私の前の人の番だった。その前の人も前の人も、みんなやり過ぎぐらいやってる……。


何その流れ?何その無茶ぶり…………


司会のお姉さんが次の番号を読みあげた。


「エントリーナンバー4番、それでは鳥真似をどうぞ!!」

「コケェ~!コケェ~!コケェーーーー!」


ちょっと何それ!?ガチ過ぎるでしょ!!ハードル上げないでよ!!


4番のお兄さんは、大きな赤いトサカを振り乱してニワトリの真似をしていた。この人マジだ、大真面目だ。


「ありがとうございました~!ニワトリ型疑似ドラゴン、ニワトリナノカな真似でしたね。いや~素晴らしい鳴き声でした」


どうしよう…………次、私の番…………


「続きまして………… 」


何とも言えないプレッシャー!!何これ、試合より緊張する!


「ねーちゃん次だよ?」

「わかってる!」

「エントリーナンバー5番、どうぞ!」


私は前に出ると、大きな声で言った。


「ドラゴンカモネの姉弟は、兄を探しています!YUKの事を探しています!」


YUKは兄のユーザー名だった。冒険者の称号が無くても、一度パーティーを組むと履歴が残り、メッセージのやり取りができるらしい。当然私の送ったメッセージは完全無視だった。


すると、客がざわついた。


「YUK?あのYUKなの?」

「あれ、YUKの妹?」


あれ?兄って意外と有名人?


「出て来たら真っ先に風で吹き飛ばしてやる」


え?悪い方で?


「えーと、それは鳥真似じゃ無いですよね?ここは楽しく鳥真似をする所ですよ?」


司会のお姉さんは、若干キレ気味で私に注意した。


「す、すみません…………」


すると、私の前に少し強い風が吹いた。衣装についていた偽物の羽が大きく開いた。


偽物の羽がバサバサと音を立ててなびくと、ふわっと自分の体が浮いた。


え?浮いた?


浮いたと思えば、そのまま客の上空まで浮かび上がり、そのままゆっくりと移動しはじめた。


え?何?どこ行くの?どうなっちゃうの?


「こらー!街中は飛行禁止だー!!」


下の方から警察のような制服を着た鳥人が追いかけて来た。


その声を聞くと同時に、移動するスピードが急に上がった。


こ、怖いぃいいいい~!!


鳥人の警官から逃げるように飛び、そのまま人の少ない船着き場まで来た。すると、ゆっくりと下がり、地面に降りれた。


ほぼ、絶叫マシンじゃん!!しかも命綱無し!!


「待てーーー!!」


それでもまだ、警官が追って来る。私はとっさに荷物の積み上がったエリアに逃げ込んだ。大きなコンテナや、木箱の積み上がった場所。大きな袋の重なる所で声が聞こえた。


「こっち!」


大きな袋と袋の間から手が出て来た。その手は、私の腕を掴むと、そのまま袋の間に引き込んだ。柔らかい袋の間をしばらく進むと、開けた場所についた。


その手を掴んだ人は…………もしかして………………


その人は…………


元冒険者のおじさんだった。


「おじさん!」

「君、まだお兄さんを探しているんだね」

「生きてて良かった!!ごめんなさい!!私、あのまま現実世界に帰っちゃって…………おじさんの事忘れてて…………本当にごめんなさい!!」


私はおじさんに頭を下げた。


「いやいや、自分も自分の力を過信していたよ。さすがにCランクぐらいは倒せるだろうと甘くみていたよ」

「あの、うまみ棒は買えなかったけど…………」


そう言って鞄からお菓子を出そうとしたら…………鞄は着替えた後、宿に置いて来たんだった!


「宿にね、沢山お菓子あるの!うまみ棒の代わりに…………」


おじさんに、突然抱きしめられた。


え?えぇええええええ!!!?


驚いたせいか、何だかドキドキした。


「うまみ棒の代わりはこれでいい。じゃあ、元気で」


え?これが報酬?死にそうになったのに、これでいいの?


しばらく包容した後、私をおじさんは私を離すと、去って行こうとした。


「待って!」

「何だい?こっちが広場に戻る道だよ?」


おじさんは左の道を指さして言った。


「そうじゃなくて、おじさん、名前!名前教えて!」

「は?名前?セクハラだって怒られるかと思ったよ」


おじさんは少し考えて少し口を動かした。


「………………」

「え?何?聞こえない!」


おじさんとの距離が少し離れていて、よく聞こえなかった。私が近づいて行くと、おじさんが慌てて言った。


「トムだよ!トム!じゃあ!」


トムさん?


そう言って、トムさんは右の道へ去って行った。


私は、やっぱりお菓子を届けようと、右の道を進んでトムさんを追いかけた。


進んでも進んでも、トムさんの姿は無い。おかしい。だって、両側には大きなコンテナがあって、どこも入る所はない。残す所は上。空に飛び上がった?


行き着いた先は、空の港。


そこは、見渡す限りの青空が広がっていた。


トムさんは何者だったんだろう?


本当は、兄だったんじゃないかと思ってしまう。そんな都合のいい事を考える自分が嫌だ……。


そんな事があるわけがない。おじさんのセクハラだと思おう。ちゃんと現実を受け止めよう。


そう思って、そろそろ広場に戻ろうと思ったら、遠くの空で火柱が見えた。


火柱?あれ?雲って雷とかじゃなかったけ?


ま、いっか。そんな事関係無いか。ファンタジーだし、何でもアリか。


広場に戻ると、何やら騒がしかった。


智樹とラル、見つかるかな?私が広場で智樹を探していると、さっき追いかけられた鳥人の警官にバッタリ会ってしまった。やべっ!!


その鳥人の警官は人々を誘導している所で、私に気がつかなかった。このまま気がつかないといいな~顔を覚えてないかな?覚えて無いといいな~


「お前はさっきの!!」


バレた!!さすがに覚えてた。しかし、鳥人の警官は逃げ出そうとした私を引き止めて言った。


「そっちは危ない!!君、旅行者?旅行者なら今すぐ宿に戻りなさい」

「どうして?」

「港に魔王軍のモンスターか出たんだ」


魔王軍?モンスター?ああ!いつかにラルが言ってたっけ!世界が脅かされている~とかなんとか。


「こっちは港が近い。ここは安全の保証ができない。向こうの宿街は冒険者や兵士が守ってくれるから宿街へ逃げるんだ。あ、くれぐれも逃げる時は飛ぶなよ?わかったか?」

「はーい」

「ほら、そっちも急いで家の中に逃げるんだ!急げ!!」


良かった!何だかよくわからないけど、捕まらなくて良かった。私は人ごみの中を進み、宿に戻る事にした。


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