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10、再び

10、再び



ずっと妹だと思っていた人が、急に他人だったと知らされた。その事に、兄は何を思ったんだろう?


思う事は人それぞれかもしれないけど…………


なんとなく、兄とはもう一緒にはいられない。何故かそう思った。


妹に好意を持たれるとか、人によっては気持ちが悪いと思う。だって、兄はその時、困惑したような顔をして自分の部屋へ戻って行った。私もショックで兄に何も言えなかった。


それ以来、この家の中では一度も顔を合わせていない。


あれから3日間、ゲームの世界から帰って3日間ずっと、智樹にまた行こうと誘われ続けていた。さすがにもうグッタリだった。


「行こうよ!莉奈!行こう!」

「もう!智樹しつこい!」


智樹は私が勉強していると、何度も私の部屋へ来ては私を誘い続けた。


「ほら、塾の先生もよく言うじゃん?異世界にいつ行く?今でしょ?」

「古っ!!」


智樹は一度いなくなると、今度はサングラスをかけて、肩にマフラーをかけてシガレットを口に咥えてきた。


「そろそろ仕事の話をしようか?」


マフィアか!どこでそんなもん覚えた!?


「うるさい!勉強の邪魔!!」


すると、サングラスを取ってシガレットを食べ、マフラーだけが残った。智樹は顎をしゃくらせて言った。


「元気ですか~!!元気があれば何でもできる!!」

「残りde猪木!!」


マフラー応用可能とは!我が弟ながら芸達者だな!いや、だからどこでそんなもん覚えた?!


「莉奈が行かないなら僕1人で行く」

「ちょっと待ちなよ!バカじゃないの?誰が行ったって無駄だよ。兄は帰るつもりが無いんだから!」

「どうして?」


どうしてと訊かれて、答えられなかった。どうしてか?


「それは…………多分…………私のせい…………」

「この前、砂かけたから?」


智樹に本当の事は言えなかった。


「そう…………かも…………」

「じゃ、謝りに行こう!」

「はぁ?」


すると、智樹は自分の部屋からお菓子の大量に入ったビニール袋を持って来た。


「どうしたの?このお菓子」

「じーちゃんが買ってくれた!!」

「じーちゃん甘やかしすぎ!!」


智樹は嬉しそうに袋からお菓子を出し始めた。


「兄ちゃんの所に持って行くって言ったら、かごいっぱいに買ってくれた」


じーちゃん……。じーちゃんもじーちゃんなりに孫の事が心配なんだ……。


「莉奈が悪いと思ってるなら、謝りに行けばいいじゃん!」

「謝る…………?」


智樹は自分の小さなリュックにお菓子を詰め始めた。


「でも…………謝っても、許してもらえ無い可能性の方が高かったら?」

「許してもらえるまで謝ればいいじゃん!」

「それでも許してもらえなかったら?」


智樹はプッキーの箱を眺めて少し考えて言った。


「じゃあ…………諦める?」


少し、後悔した。智樹に簡単に諦めるなんて言わせた。私はいつも智樹に簡単に諦めるなよって言うのに、私が諦めるって言わせてる。それって何だか矛盾してる。


兄弟を諦める?諦められる?


「ねぇ、このお菓子の半分、私にくれない?くれるなら、もう一度だけ一緒に行ってもいいけど?」


智樹のお菓子で思い出した。そういえば、まだおじさんに報酬を支払って無い。


「半分?」


智樹は黙って考えたけど、すぐに答えが出た。


「いいよ!!これ全部あげたっていい!!莉奈、太ってもいいから行こう!!」

「私がやけ食いするわけじゃないから」

「でも、これ以上太ると動け無くなるんじゃない?用心棒として役立たなかったら連れて行かないよ?」


よ、用心棒!?ちょっと待て?私、智樹のボディーガード?ボディーガードのために連れて行かれてんの?


でもまぁ、よくよく考えてみると、確かに間違いではないか……。


「貸して。私のリュックの方が沢山入る」

「林間学校で借りた登山用のやつ?」

「そう。智樹がもう少し大きくなったらあげる」


私は大きな旅行用リュックを用意した。


智樹のレベルが上がって、1人で冒険できるようになるまで。それまでは、私が智樹を守るしかない。


智樹が大きくなって、自力で兄を捕まえて降伏させるまで…………姉の私が、あのバカ兄を追おう。


私達は1週間ぶりに『purusaqua』の世界にやって来た。


見渡す限りの、碧と蒼と青。


この風景を見ても、以前のようなワクワク感は無かった。それより、全然気が進まなかった。


プールスの天空都市では、ラルが心待ちにして待っていた。ラルは智樹が見えると、嬉しそうに飛び上がっていた。


「おかえりなさい!智樹!」


あれ?プールスでセーブってしたっけ?


「記録の方はこの前、勝手に記録させていただきました」

「凄い!ラルは偉いね~!」

「やだな~今時オートセーブくらいありますよ~!トモキ、そんなに褒めないでくださいよ~!そんなに言うなら頭とか撫でても構わないんですよ?」


それはもはや、撫でろという要求だ……。


私は結局うまみ棒は買えなかったけど、代わりに智樹のお菓子を持って来た。


会えるかわからないけど、プールスのおじさんと出会った場所に行ってみた。おじさんがそのタイミングでそこにいるとは限らない。だけど、それしか手がかりが無かった。


こんな事ならユーザー名をちゃんと教えてもらえば良かった。ユーザー名がわかれば、智樹を経由してメッセージが送れる。


結局、半日待ってもあのおじさんには会えなかった。


「莉奈、もう諦めようよ。教科書と単語帳なんて買い直してもらえばいいじゃん」


智樹には、教科書と単語帳を探しに来たと言い訳した。多分、あのトートバッグは闘技場に忘れて来た。


「そうだけど……一応探してみたら、意外と見つかるかと思って」

「それより、あっちで鳥人間コンテストやってるよ?見に行こうよ!」


鳥人間コンテスト?それ、空飛ぶコンテストだよね?あんな狭いイベントスペースでやれる?


広場には小さなステージが作られ、その周りに人が集まっていた。


「今、プールスは鳥人間コンテストイベント中なんです。なんと!イベント中は期間限定で鳥のコスチュームが買えます!」

「お~!」


智樹が感嘆の声をあげたけど、鳥のコスチュームいる!?いらないよね?


「それってさ、コスチュームあったら鳥人間コンテスト出られる?」

「智樹はコンテストに出たいの?!」

「だって、プールスで目立てば、この前みたいに兄ちゃんが見てるかもしれないだろ?」


智樹は子供でおバカのくせして、闘技場で私のやろうとしていた事に気がついたらしい。


智樹は、諦めず説得するつもりなんだ……。それに、何だか勇気が湧いて来た。


「よし、じゃあ、鳥コス買いに行こう!!」

「お~!!」


智樹がラルと買って来たマップで、防具屋の位置を調べた。商店が立ち並ぶエリアで、バーやカフェもあり、鳥人達でとても賑わっていた。


防具屋に入ると、壁やラックに所狭しと衣装がかかっている。私と智樹がお店の中をあちこち見ていると、ラルが店員にお願いしていた。


「鳥人間コンテストイベント用コスチュームを見せてもらえますか?」

「はいよ。人間用だね?」


店員さんは顎に髭を生やしたイケおじだった。イケおじの店員さんは、くたびれたシャツを腕まくりしながら私達を店の一角に案内してくれた。


「ここら辺にあるのが、人間用のイベントコスチュームだよ。君達、珍しく若い人間だけど、もしかして冒険者?」

「そうですけど…………あ、私は違います」

「そうなんだ。最近は冒険者から市民になる人が増えていて、新しい冒険者は珍しいからね」


そうなんだ…………じゃあ、おじさんの事も知ってるかな?


「あの、元冒険者の白髪のおじさん知ってますか?」

「うーん、白髪って言うと結構な年だよね?その年になるとあんまりうちには来ないかなぁ……」

「そうなんですね……ありがとうございます」


私が店員さんと話をしている間、智樹とラルは衣装を選んでいた。


「ねーちゃん、これステータス高そう!」


智樹が持って来た衣装は………………


やっぱり露出度がやたらと高かった。


「なんでこうなるの!?」

「なんでこうなるんだよ!」


結局、女性用コスチュームの中で一番露出度の高い服は、一番ステータスが高かった。


チキショー!もはや製作者の悪意を感じる。


そして、智樹の衣装もヒヨコ一種類しか無かった。


私と智樹はブーブー文句を言いながらイベント会場の広場に向かった。




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