1、ゲームの中へ
初めてファンタジーを書きます。敢えて苦手な事をやってみようとの試みです。苦手な事、異世界、ファンタジー。読むのは好きだけど書くのは……と思っていたのですが、何事も食わず嫌いはいけない。きっと何かが見えて来るはず!初めてなのでなるべくゆる~い感じでやってみようと思います。駄文かとは思いますが、どうか暖かい目でよろしくお願いいたします。
0 碧の続く世界
そこは一面、目の前に碧色が広がっていた。
空の青と海の碧、草の蒼。
見渡す限り碧が続く、その美しい世界は…………
『purus aqua』という、ゲームの世界。
水が溢れているのに、透明な水が存在しないとされる世界観の、アクションRPGゲーム。
純度の高い水『透明な水』は不思議な力を持つとされ、その力を手に入れる為に、時にはプレイヤー同士で協力し合いクエストをクリアしていく。
これ以上は説明を読むのがダルくてやめた。
ここに、兄がいる。私達の兄が、この世界に。
この、
『碧の続く世界』
1 ゲームの世界へ
ある日、私は自分の部屋でベッドに寝転び、携帯ゲームに勤しんでいた。すると突然、弟の智樹がドアを蹴り飛ばしてやって来た。
「ねーちゃん!」
「ノックぐらいしろバカ智樹!!」
すると、智樹が目の前に立って真顔で言った。
「ねーちゃん!今すぐ異世界行くぞ!!」
「…………お、お~!そうか。じゃ、頑張れ!」
最近の小学生はイキッてるな~!まぁ、勝手にして。
さ、こっちは押しキャラのボイスを堪能しながら、とっておきのお菓子でも食べようかな~♪
女子はやっぱりシャレオツなマカロン♪
んな訳あるか~い!やっぱり一番は、ジャガリポ明太チーズ味。これに限る。
「ねーちゃん、こんな気持ち悪りぃゲームやってる場合じゃないって!!」
「気持ち悪ぃ?あぁ?もう一度言ってみな?」
私は弟の胸ぐらを掴んで弟の頭におでこをグリグリ押し付けた。これは、決して虐めている訳ではない。小さい頃からのお仕置き方法だ。
「それどころじゃないんだよ!!兄ちゃんが!!」
「兄?は?いつも自分の部屋でしょ?あいつが部屋を出る事なんてないんだから」
兄は2年前から自分の部屋に引きこもって、家族とも顔を合わせようとしない。この2年に兄の姿を見たのは数えるほどしかない。
「部屋にいないんだ!」
「はぁ?え?嘘、マジ?あいつ外に出たの?」
私が智樹の胸ぐらを離すと、智樹は兄の部屋を指さして言った。
「違うよ!消えたんだよ!」
「どこに?」
「ゲームの中!」
ゲームの中ぁ!?
「僕、こっそりドアの隙間から見たんだ。兄ちゃんがゲームを起動させると、兄ちゃんが薄くなって消えて、テレビの画面に映ったんだ!」
「はぁ?あんたそれ、幻覚。絶対ただの思い込み。智樹ももうそんな年かぁ……」
「そんな年ってどんな年だよ!?」
人面あんパンから人面機関車を経て、妖怪やら戦隊物やらも無事卒業した弟が、ようやく異世界デビューか。年の離れた姉としては感慨深いものがある。
「本当だよ!オープニングムービーに兄ちゃんそっくりのキャラが出てたんだ!」
ばっかみたい。そんな訳ないじゃん!いくら私でも、そんな非現実的な事信じる訳ないよ!
「多分、兄ちゃんはあのゲームの中にいる!!探しに行こう!!」
兄なんかどうでもいい。私がわざわざ探しに行く理由がない。
「あのさ、どうして?どうして私達が行かなきゃいけないの?あいつは好きで引きこもってるんだよ?」
智樹は真っ赤な顔をして怒った。
「キョーダイだからだろ!?キョーダイはもっと昔みたいに遊んだり、おやつ食べたりするもんだろ!?」
昔は一緒に遊んで、一緒に寝て、おもちゃ取り合って、おやつ取り合って、風呂やトイレは戦場で、ご飯はみんなで揃って食べて、カオスで、それなりに仲良くしていた。
2年前までは…………
智樹が可哀想に思えて、とにかく、兄の所在と部屋の確認だけして帰って来る事にした。
そうすれば智樹も納得して諦めるだろう。
そう思って、兄の部屋にこっそりと忍び込んだ。
この家は祖父母から受け継いだ古い家で、あちこちボロボロだった。兄の部屋のドアは立て付けが悪く、閉めても完全にぴったりとは閉まらなかった。
立て付けの悪いドアを少しづつ開けると、隙間から見えるはずの背中が見えなかった。いつものあの背中…………
「ほら、兄ちゃんいないでしょ?」
確かに、いつもいるはずの場所にいない。
「どっか出かけたんじゃない?」
「出かけたならお母さんが大騒ぎするはずだよ」
「いや、いくらでもバレずに出かけられるでしょ」
智樹が小学生に上がった年に母も働きに出ていた。だから、夜までいつもいない。
智樹と私は、勝手に部屋に入って兄の部屋を物色しはじめた。意外と整頓されていて、物を動かしたらバレそうだ。
2年前……もっと前からほとんど変わって無い。
変わったのは、このゲーム機。真ん中のテーブルの上に置かれた、異質な箱。何のゲーム機だろう?見たこともない形。
「これ、やってみよっか?」
「ええっ!勝手に!?」
「兄がいないんだからいーじゃん!」
辺りにコードつきのコントローラーが転がっていた。これ、ここにくっつけたりするのかな?コントローラーのコードを差すと、ゲームが起動した。
すると、テレビ画面にこんな文面が出て来た。
『コントローラーの確認ができました。プレイヤーを増やしますか?』
「えーと『yes』を選んで…………」
「莉奈ばっかりずるい!!」
そう言って智樹もコントローラーのコードを差して、同じようにやり始めた。
4年くらいま前では、兄ともこんな風に兄妹でゲームをして遊んでいた。今では少し懐かしい……。
「見た目も選べるんだ~!あ、めちゃくちゃ巨乳にしてやろ~♪」
「莉奈はペチャパイだもんな~!」
「あ?何だって?智樹のは、優しいお姉ちゃんが特別に選んであげるね~!!」
そう言って智樹のコントローラーを奪って、適当に選んで決定を押した。
「やめろ!返せよ!」
「チビの智樹はゲームでもチビ~♪」
智樹のコントローラーで、なるべく小さなキャラを選択して決定を押した。
すると、ゲームのプロローグが始まった。
「あー!!勝手に選んで勝手に進んだ!!莉奈!コノヤロウ!!」
「お姉ちゃんはヤロウじゃないも~ん!ざんね~ん!」
「ぐぬぬぬぬぬ…………」
智樹が悔しそうに涙を堪えていた。すぐ泣くんだから。これだからお子様は。
「やり直せよ!!」
「無理~!途中で兄が帰って来たらボコられるよ?」
「ボコらない!!兄ちゃんは莉奈と違っていつも優しいんだ!絶対俺の事ボコったりしない」
ばっかじゃない?
知ってるよ。あいつは、私にだってボコったりなんかしないんだから。あいつは、誰もボコったりなんかしない。
そんなの…………私が一番良く知ってるんだから。
『それでは、最終決定を押してください』
「最終決定?yesを押せば始まるのかな?」
私は『yes』を押した。
すると、みるみるうちに体が透けた。
「え?何これ?」
「これだよ!こんな風に透けて消えたんだ」
完全に透けると、まぶしい光に思わず目を閉じた。
恐る恐る目を開けて見ると、見渡す限りの青と碧と蒼。
「智樹、見て!私達浮いてる!」
智樹と二人で空に浮いていた。まるでVRのゲームみたい!!いや、きっと最新のゲーム機なんだ。きっとそう。そうゆう事にしておこう。
「ここ、前に兄ちゃんのゲームで見た景色だよ!やっぱりここ、ゲームの中なんだ!!」
智樹は何だか嬉しそうだった。
それにしても、青ばかりの世界。
「な~んか青ばっかり。もしかしたら、ア◯"ターみたいな世界なんじゃない?」
「人間や動物も青かどうかはまだわからないよ」
私達は空から景色を見渡しながら、ゆっくりと陸地に降下して行った。
空の青と、海の碧、草の蒼。
空は澄み渡るスカイブルー。
海は深い緑がかったマリンブルー。
陸は草花の生い茂るエメラルドブルー。
全ての青が広がり、どこまでもどこまでも続いていた。
見渡す限り
碧の世界だった。