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一話

昔から「花鳥風月」とはよく言ったものだ。


私はこの言葉だけはっきりと覚えている。かつて好きだった人が言っていた。花、鳥、風、月。この中で月が一番好きだと。私はそうなのと言った。

彼は「君は月そのものだ。その天の月を盗んだ俺は大罪人だろうな」とも。

私は元はとある時代の帝ーーその方の妃になっていた。当時、「藤壺の女御」と呼ばれていたが。私としては帝を好きになれずにいた。なのに、父や兄からは早く皇子をとせっつかれる。嫌になっていた。

そんな時に好きだった人ーー帝の弟君の公達と出会った。名を薫の君と言う。

薫の君はかの源氏の物語の中に出てくる公達と同じ名だ。が、彼は光の君と同じように明るく陽気で光り輝くばかりの美貌と性格を持っていた。私は一目で彼だと思う。帝ではなく本気で好きになれる人が薫の君だったーー。


「……起きて。もう朝よ」


母の声で目を覚ました。また、昔の夢を見ていた。あれはいわゆる前世の記憶だ。


「ふあい」


あくびをしながら母に返事をする。ぐっと伸びをして起き上がった。母は私は起きるのを確認すると部屋を出ていく。ベッドから降りてカレンダーをチェックする。


「……ふう。もう、四月も終わりか」


ため息をついた。薫の君の夢はもう小さい頃からよく見ている。慣れたものだが。それでも胸が締め付けられて切なくなる。彼にはもう逢えない。だって私は不義密通の罪を犯して薫の君を死なせたのだから。もう、彼はこの世の人ではなくて。そう思うと泣きそうになった。じわりと涙が浮かぶ。


「薫の君……」


ぽつりと名を呼んだ。薫の君、あなたは今どこにいるの。私はあなたに逢えなくて寂しい。もう一度逢いたい。そして笑って名を呼んでほしいの。私の名を。そう、月華(つきか)と……。

けど、今の私はもう一つの名を持つ。藤野風子(ふじのふうこ)という。現代の二十一世紀の日本で現代人としてのだが。私は藤原月華の生まれ変わりだ。それは自覚している。薫の君こと源薫は今から千年以上も前の昔に生きていた。だから、生きて逢えるはずもない。それでも彼だけが恋しい。未だに諦められずにいた。


仕方なく私は部屋を出て洗面所に向かう。歯磨きをして顔を洗って。一通りすませるとタオルで水気を拭く。そうした上で再び二階に上がった。父と母、姉との四人暮らしだが。父は知り合いと一緒に出かけていないし姉も休日出勤で同じくいない。母と私二人だけだ。それを考えながらクローゼットを開けて着替え用の服を出す。パジャマを脱いでそれに着替えたのだった。

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