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そして私はここに居る。  作者: 蘭千尋
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また、あの日の様に

いつからこんなんになちゃったんだろう…。

ピーーっ!

試合終了のホイッスルが鳴る。

それと同時に全身の力が抜け、意識が朦朧とする。

これで全てが終わってしまった。

これまで努力してきた分が、このわずか24分の間で全て幕を閉じた。

おぼつかない足取りでコートの真ん中へと走る。

審判が試合結果を言い、挨拶をする。

相手チームに礼をして、ベンチに戻る。

結果は、42対44。敗北に終わった。

相手チームのベンチは歓喜に沸き、それを横目に私たちは荷物を片付ける。

周りの人達は「惜しかったね」や「よく頑張ったね」などの声をかけてくれるが、私はそうは思わない。この試合は勝てる試合だった。試合前最後の練習試合の時は完全に私たちのチームが勝っていた。なのにこの試合は負けた。

本当は、余裕なんてかいてられる程、余裕なんてなかった。でも、勝ったからという甘い考えで、どこか練習をサボっていたのではないか。もっと危機感を持って、取り組むべきではなかったのか。キャプテンである私が、そんな考えでは当然チームもそんな考え方になってしまうだろう。

…でも、そんな事、今更思ってももう遅かった。


あの時、どこから湧いて来るかも知らない余裕に甘えてた自分がムカつく。

あの時、その甘えに気付けなかった自分にムカつく。

しかしそんな自分よりも、そんなことを理由にしてこの結果(いま)から逃げようとしてる自分が一番嫌いだった。


こんな事を言いながらも、また逃げようとして居る自分がいる。

「この試合は、自分が不甲斐ないだけに負けてしまった。」

こういう「今」が怖かった。だから、頭でわかっていても人のせいにしたかった。

「この試合は、自分のプレーについてこれなかったチームメイトのせいだ。」

いつの間にか、そう思う様になっていた。自分がチームの中で一番うまかった。それは、みんなが公認してくれていた。しかし、それに甘えていた。その時、自分がどれ程自分勝手な事を言っているかわかって無かった。自分を守る事で頭が一杯だった。

周りがガヤガヤとうるさい中、副キャプテンにキレてしまった。

ほんと何やってんだよ、私。

もしも自分が上手いのなら、自分がみんなに合わせなくてはいけなかった。そんな簡単な事もわからなくなっていた。


それからだろうか、私が楽な方へ楽な方へと逃げる様になってしまったのは…。


わかっていた。こんな生き方してちゃ、意味ないんだって。きっと時が経ってからまたあの日の様に「あの時こうしてた方がよかったんじゃないか」って思うんだって。でも、もう変われなくなっていた。正確には、変わりたくなかった。もしも、本気でやっても結果が変わらなかったらどうしよう。そんな時には、自分の無力さを思い知ることになる。

それが怖くて、怖くて、仕方がなかった。

本当の自分には、周りの人が思うほど、いや、自分が期待してるほどの実力は無いんじゃ無いかって。

そんなことを、いつも心の何処かで思っていた。


時々、自分の意見を言いたくなった時にあの日のことを思い出す。

もしかしたら、ただ自分を守るために考えた自分勝手な意見なのかも知れない。

そう思うと、言葉が出なくなる。

また、あの日の自分に戻ってるんじゃ無いかって考える。

また、自分のために周りの人を傷つけるんじゃ無いかって。

昔の自分が怖くて、完全に自分の中から、あの日の自分を消し去りたかった。

考えれば考えるほど、どれが昔の自分なのかわからなくて、いつしか自分を消していた。

こうして、私の中から私が消えた。

どうして私なんか生きてるんだろうって思う。

でもここで逃げたら、きっとあの日の自分に戻る。

だから、もう逃げない。


そして私はここにいる。


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